どうしょういむ

田原摩耶

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同床異夢

僕らのコミュニケーション※

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 かつてこんなに苦しい、虚しいだけの行為はあっただろうか。確かにこいつらに弄ばれてきた時間は俺にとって決して気持ちの良いものではななかったが、それでもまだコミュニケーションの一環ではあった。その事に気づいたのは今になってからだった。
 無言で体を押さえつけられ、一方的に肛門を犯される。それは暴力行為の延長線だ。

「ひ、ぅ、ぐ……っ」

 若手芸人たちの軽快なトークに混ざって腰を打ち付ける音が響く。その度に漏れる己の呻き声と、中へと出された体液が粘膜に絡みつくような音が。
 気持ちよくなんてない、痛くて苦しいだけなのに。

「ふ、ぅ――」

 射精が近くなるのつれ、より性急になる燕斗の動きに耐えきれなかった。
 弓なりの体はガクガクと大きく震える。そして、逃げようとする体をしっかりと抱きしめられ、奥の奥まで亀頭で殴られた瞬間、文字通り世界がひっくり返った。

「お゛……っ!」

 ごりゅ、と嫌な音が自分の体から発さられる。思わず視線を下げたときだった、本来そういう作りになっていない場所をぐぷ、とこじ開けられたと思いきや、そのままゆっくりと抽挿を再開させる燕斗。狭くなったそこを亀頭が更に押し上げ、こじ開けていく。ゆっくりと着実に、深く息を吐く燕斗の動きとともにみちみちと裂けていく感覚から逃れることはできなかった。
 気持ちよさそうな顔はしないくせに、性器は衰える気配はない。そのままゆっくりとぐぽぐぽと音を立てるようにカリを引っ掛け、ストロークさせていく。その感覚が堪らず、俺は声が漏れそうになるのを唇を噛んで耐えた。

「っふ、ぅ、……っん゛~~っ!」
「……っは、……っ、く、ぅ……っ」

 内臓ごと引っ張られていく。意識ごともってかれる。カーペットに爪を立て、逃れようとする俺の腕を掴んだまま燕斗は再び一気に奥まで挿入させた。
 瞬間、目の前で色が弾けた。色とりどりの光で塗り潰され、開いた喉の奥から動物じみた声が漏れる。
 裂傷と痛みで鈍っていたはずの神経に感覚が戻る。違う、これは麻痺を超える以上の刺激を与えられているのだとすぐに理解した。そして、燕斗もそれを理解している。
 先程よりも明らかに、最奥を意識して腰を動かしていた。

「っ、ぅ゛、ん゛ふ、ぅ゛……っ、ひ、ぐ……っ!」
「は、……っ、く……っ」

 さっさと終われ。何度頭の中で繰り返したかも分からない。その言葉すらも天井を亀頭で愛撫されれば、全て塗り潰されていく。
 やがて燕斗の呼吸の間隔が短くなっていく。呼吸だけではない、鼓動も。時限爆弾のようなその音を浴びながら、俺は腹の中、びっちりと収まったその性器が大きく跳ね上がるのを感じた。

「っ、ぁ、あ……っ」

 ドクドクと溢れ、広がり、染み渡っていく。まるで熱した鉄でも流されているかのような程の熱だった。水辺でもないのに溺れそうになりながらも、俺はそれを受け止めることしかできなかった。
 断続的な長い射精。それを終わる前に、俺は一瞬意識を飛ばしていた。それも短い間だ。

「ぁ……え……っ?」

 気付けば再び中で出入りしている燕斗のモノに犯されていることに気付いた。気絶した体を抱き抱えたまま、すでに精液を飲み込んだそこに性器をねじ込んでピストン運動をする燕斗。その一突きに、俺はクソみてえな現実へと引き戻された。

「ぁっ、や、なにし、ぅ、ひ……っ! く、ぬい、って、ぇ……っ」
「……っ、……」
「う、ひ、ぐ……っ!」

 その都度ぐちゃぐちゃと先程よりも大きくなった水音とともに、泡立つほどの激しいピストンに耐えきれず俺は燕斗の腕の中でなされるがままとなっていた。

「燕斗、そろそろ休憩させてやれよ。いくら美甘でも死ぬぞ」

 そんな中、ソファーの背もたれから乗り上げた栄都がこちらを眺めながら野次を飛ばしてくる。その声に、確かに一瞬燕斗はぴくりと反応した。

「……駄目だ」
「ハマってんなぁ、そんなに気持ちいいのかよ」
「全然」
「ひっでぇ。じゃ、それ終わったら俺と交代させろよ。さっきからそいつのエロい声聞いてたせいでパブロフってんだよ、こっちは」

「それに、お前も水くらい飲めよな」とグラスに注いだジュースを口にする栄都。それを一瞥した栄都は、何も返さずに再び腰を動かした。

 それから何度も何度も執拗に腕を引っ張られ、口を開かされ、腿を掴まれて、内側から奥の奥まで形ごと作り変えられていく。まるで自分のものだと言わんばかりに好き勝手踏み躙り、燕斗は射精した。あれほど熱かった精液が粘膜に馴染んでいくような感覚が嫌だった。
 ずるりと俺から性器を引き抜いた燕斗は、やはり気持ちよさそうな顔も満ち足りた顔もしていなかった。
 それでも、開放されただけでもありがたい。

「……シャワー借りる」

 そう言い残し、そのまま燕斗はリビングを出ていった。中に残った精液が股を濡らし、余韻で痙攣した下半身を閉じることもできない内に栄都がこちらへと歩み寄ってきた。

「良かっただろ、初めての相手が俺で」
「……っ、う、るさい」
「は、声ガラガラじゃねえかよ」

「ほれ、水分補給」と水が入ったグラスを渡される。それを受け取ろうとして、自分が縛られていたことに気付いた。そして栄都は「ああ」と片眉を持ち上げる。そして俺の腕の拘束を解く。

「……っ、おい、いいのかよ、外して……」
「んだよ、縛られたままのがよかった?」
「そんなわけ、ないだろ」

 栄都は息を吐き、それから俺の手首を取る。くっきりと跡が残ったそこに指を這わせ、「力加減が下手なんだよな、こういうとき」と笑った。

「栄都……っ」
「サダが心配か?」
「……当たり前だろ……っ」
「心配すんなよ、ただ気絶してるだけだっての。それよか、お前は自分の心配でもした方がいいな」
「……っ、栄都……お前も、あいつと同じなのか?」

 お前も、俺のことが嫌いだったのか?
 なんて、今聞く場合ではないと分かってた。それなのに、気付いたら口から漏れていたその言葉に、栄都は乾いた笑いを洩らす。

「同じだったら、とっくにお前のこと無視して混ざってるっての」
「……っ、……」
「何ビビってんだよ。……やってることは今までと変わんねえだろ。……今のあいつには余裕なかったけど、一発出しゃ少しは落ち着くだろ」
「……勝手だ」
「それはお互い様だろ」

 俺は何も言い返せなかった。お前らのよりかはずっとましだ。そう口の中で吐き捨てることが精一杯だった。
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