どうしょういむ

田原摩耶

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同床異夢

最低最悪な告白※

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 こいつが裏口の存在を知ってるのは不思議ではない。何度もここから出入りしたし、それに、俺が家の鍵を忘れたときのために隠しの鍵もあることもこいつは知ってる。だから燕斗が裏口から入ってきても不思議ではないが、問題は燕斗がここにいることだった。

「……ど、うして、ここに」
「分からないのか? 美甘」
「だって、お前、風邪は……体は……」

 まだ本調子じゃないんじゃないのか、と呟く俺を見て、燕斗は笑った。苦しそうでもあり、呆れたようなものを見るような目でもあり、縋るようなそんな目で。 

「……お前って、本当に残酷なやつだよ」

 人が心配してやってるのになんて言い草だ。そう言いかけた矢先だった。燕斗は着ていた上着を脱ぎ、そしてそれを俺に投げかけた。

「っ、わ、ぷ……っ!」

 ただでさえ視界の悪い中、目の前を遮られてしまえば何も見えなくなる。
 何をするんだよ、と慌てて顔を覆うそれを引き剥がそうとしたときだ。どこからともなく伸びてきた手にそれを阻害された。

「もご……っ」
「なあ、美甘。俺は別にお前とお話しに来たわけじゃない」

 わかるか?と、頭の上から落ちてくる声に気を取られてる隙に押し倒される。うまく受け身が取れず背中を強打したが、痛みよりも視界が利かない不安の方が大きかった。
 燕斗、と名前を呼ぼうとしても顔面を塞がれれば口も塞がれてしまうわけで。手首を掴まれ、そのまま頭の上で固定される。

「俺のこと、心配してくれたよな。美甘」
「……っ、え、んと」
「ああ、……お陰様で最悪の気分だ。――美甘、お前のお陰でな」

 燕斗は優しい面して性格は悪い。子供っぽくなく、大人びていて悪く言えばマセガキ。けれど、どんな大人たちよりも俺のそばに居てくれたし、俺のことを優先してくれた。
 そりゃもう、鬱陶しいくらい。なのに。

「震えてるのか、美甘」
「……っ」
「大声を出して君完にでも助けを求めればいい。あいつなら来てくれるんじゃないか? ……喜んで」

 なあ燕斗、まるで犯罪者みたいなセリフじゃないか。
 確かにお前のやることなすことはなにかしらの犯罪に数ミリは引っかかってるのではないかと思っていたけど、そんな自嘲じみた燕斗の態度は初めてだった。
 ようやく自分のしてきた行いについて悔い改めたのかと思ったがそうではなさそうだ。手首に食い込む指が痛い。

「これから何をされるかくらい、想像付いてるんじゃないか。美甘」

 落ちてくる声は普段と違って聞こえるのは何故だろうか。いつも偉そうだけれど、それでもまだ優しかった。けど、今はどうだ。
 伸びてきた片方の手に腿を掴まれる。長い指が腿から付け根までぐっと食い込み、撫で上げた。

「ぅ、ん……っ!」
「美甘、今からお前をレイプする」

「それで、おしまいにしよう」ご丁寧に宣言される言葉に息を飲む。
 この一瞬だけは、燕斗が何を考えてるのか分からなかった。別に、言っちゃ悪いが痛いことをされなければまだいいと思ってる。ああ、悲しいことにそう思わざる得ない状況にあった。
 だから、こんな面倒な関係が続くくらいならさっさと好きにすりゃいいと思ってる。思っていた。けれども。

 ――お前はそれでいいのか、燕斗。
 人の顔も見ずに、こんな真っ暗闇でやるくらいなら俺じゃなくてもいいんじゃないか。
 寧ろそんなことを考えた。

「っ、ふ、……ぅ……」

 余計なことを考えるなと言わんばかりに性器を握り込まれ、腰が跳ねる。久し振りの燕斗の手だ。けれど、普段よりも荒々しい触れ方に体が緊張する。いつものねちっこくしつこい触り方とは違う、性急な動きで性器を刺激され、喉の奥から声が漏れた。

「ふ、ぅ……っ」

 つい先程まで自慰をしていただけに、求めていた他人の手に再び反応しそうになってる自分に慄く。下着の中、硬くなり始めていた性器が擦れ、先走りとともにぐちゃぐちゃと音を立てていた。

「っ、ん、ぅ゛……っ」
「……君完にも触らせたのか?」
「ふ、ぅ……っ」

 ここ、と燕斗の指先で少し強めに揉まれた瞬間、言葉にしがたい感覚が走り、下半身がびくりと跳ね上がる。布越しに亀頭を揉まれ何度も首を横に振れば、燕斗は「ふうん」と興味なさそうに呟いた。そして、頭上で笑う。

「じゃあ、物足りなかっただろ。ここ」

 寝間着代わりのスウェットを掴まれ、そのままずるりと下着ごと引きずり降ろされた。重点的に責められ、先走りでどろどろになっていた性器にふうっと息を吹きかけられた瞬間、ケツの穴がきゅっと締まるのを感じた。

 違う、そんなことはない。と言いたいのに、もごもごと声を遮られた。口から漏れた吐息が頭の周りに溜まり、余計息苦しさと熱にのぼせ上がりそうになった。
 必死に足をバタつかせ、燕斗の手から逃れようとするが、股の間に挿し込まれた膝頭に思いっきり足を割り開かれてしまえば閉じることはできなかった。
 熱が溜まり始めていた性器の先っぽを指先でつうっと円を描くように撫でられ、声が漏れる。呼吸が浅くなればなるほど息苦しくなり、胸が苦しくなる。燕斗、と手首を捩ったとき、頭に被せられていた上着が外された。

「っ、ふ、は……っ」
「…………」

 真っ暗闇から薄暗いキッチンの天井が視界に入る。明かりすら点いていない、視界の頼りになるのは窓から差し込む月明かりだけのはずなのに、燕斗の顔がよく見えた。
 感情の読めない冷たい目で俺のことを見下ろしていた燕斗。それでも、その目に滲むのは怒りにも失望にもよく似ていた。

「え、んと――……ん、ぅ……っ!」

 唇を塞がれる。キスというよりも黙らせるための手段のような乱暴なものだった。
 サダのことも気になったが、今の俺には目の前の燕斗の相手をするのでいっぱいいっぱいだった。どうしてこいつがこんな真似をするのか、わざわざ俺に会いに来たのか。
 考えたところで理解することはできない。しかし。

「っふ、ぅ、や、……っ、め、ろぉ……っ、ん、え、んと……っ!」

 ぢゅぷ、と唾液で濡れた舌先で唇を割り開かれそうになり、必死に抵抗する。がり、と侵入しようとしてきたその舌先に噛みつけば、燕斗は舌打ちをし、舌を離す。

「……っ、美甘……」
「っ、なんだよ、いきなり……ぉ、お前、俺のこと嫌いになったんじゃないのかよ……っ!」
「…………」
「さっきまで無視してたくせに、なんだよ、嫌になったんならこれ以上俺たちに付き纏うなよ」
「……俺たち、ね」

 いきなり黙りこくったと思えば、そう顎を撫で何かを考え込む燕斗。その視線の先が宙を彷徨い、そして、玄関口の方へと向いた。

「俺がお前のことを嫌いになった? ……そうだな、俺はお前のそういうところ、大っ嫌いだ。虫唾が走る」
「……っ、ぇ……」
「都合のいい寄生先を見つけたら喜んで飛びつく。……昔からお前はそうだった。都合が悪くなれば簡単に諦め、逃げ、捨てる。そして、今度は俺たちも捨てるつもりなんだろ? ……新しい寄生先に乗り換えるために」

 そんなことない。そうただ一言言えば良いはずなのに、燕斗の口から出てきた言葉の数々に強い目眩を覚えた。
 ――お前、俺をそんな風に思っていたのかと。ずっと。
 胸の奥、燕斗の吐き捨てた言葉に塗り潰されていく。殴られたときよりもよっぽど苦しく、指先が冷たくなっていくのがわかった。
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