どうしょういむ

田原摩耶

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同床異夢

正解と不正解

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 リビングの中、サダが宋都に連絡するのを落ち着かない気持ちのまま見守る。
 約束した手前、サダに任せなければならないというのもわかっていたが、それでも相手はあの宋都だ。どうかサダに失礼なことを言いませんようにという気持ちで祈りながら見守っていた。が。

「だから言ってるだろ。……これ以上美甘に付き纏ったら警察に言うからな」
「……っ、……!」
「は? …………」

 スピーカーから宋都の笑い声が聞こえてくるようだった。端末を手にしたサダの表情がみるみる内に変わっていくのを見て、ひやりと肝が冷えていく。

 サダを落ち着かせようとそっとサダの元へと寄ろうとすれば、こちらをちらりと見たサダはそのままリビングを出ていこうとする。
 つい着いていこうとするものの、サダに『待て』される。そして、そのままサダは廊下に出るのだった。

 バタンと閉まる扉の前。俺はなすすべなくその場に立ちすくむ。
 もしかして、もしかしなくても、俺には聞かせたくない内容だったのか。だとしたら余計心配だったが、廊下の方からなにやら口論する声が聞こえてきて俺はすごすごとソファーへと逃げ帰ってきた。
 気になる。聞きたい、サダの側へと行きたい。けど、サダに嫌がられるのは嫌だ。
 大人しくソファーの上で膝を抱え、俺はサダの通話が終わるのをじっと待つことにした。

 ――そして、数分後。

 廊下の方から声が聞こえなくなったと思えば、暫くしてリビングの扉が開いた。
 そして戻ってきたサダに慌てて駆け寄る。見てわかるくらいサダはぐったりしてた。

「大丈夫……だったか?」

 こんなことしか言えない自分が情けなくなる。けれど、サダはそんな俺を見て少しだけ緊張を和らげるのだ。

「大丈夫って言えば嘘になるな。けど、一応伝えたいことは伝えた」
「……何か言われた、よな。ごめん、任せっぱなしにして……」
「気にすんなよ。それに、言っただろ。……俺がしたくてやったことでもあるんだ」

 これくらいは分かりきってた、とサダ。なんとかサダを労りたいが、どうすればいいのかわからない。

「さ、サダ……ありがとう、色々。俺一人じゃ思いつかなかっただろうから、こんなこと……」
「まだなんもできてないよ。……これからが重要なんだし。…………」

 そう言いかけ、サダはじっとこちらを見下ろす。
 そうか、まだ終わりじゃないのだ。そんな単純な話だったらよかったのに、と思ってたときだ。サダにわしゃりと頭を撫でられる。
「サダ?」とあいつを見上げたとき、そのままサダに抱き締められ、飛び上がりそうになった。

「さ、サダ、どうした?!」
「……お前、よくあいつらと今まで仲良くできたな」

 今のそういう雰囲気のあれだったのか?!と狼狽えるのも束の間、ぎゅうと抱き締められたまま肩口に押し付けられる鼻先にハッとした。
 いや、やはりそういう雰囲気ではなかった。サダも疲弊してるのだ。そう理解した俺は、恐る恐るサダの頭を撫でる。サダにされるみたいに、そっとその後ろ髪を撫でつければ、指の下でサダがぴくりと反応するのが分かった。

「さ、サダ……悪い、変なこと言われたよな」
「お前が謝ることじゃない。それに、あいつらとは揉める覚悟くらいしてたから」
「……サダ、」

 俺のために頑張ってくれてるのだ、サダは。
 そう思うと堪らなくサダを神輿かなにかに乗せ祭りあげたい気持ちもあった。けれど、俺が負担になってるのは明確だ。にも関わらず、そんなサダが好きだという気持ちがどんどん大きくなっていく自分に一種の不謹慎さを覚えずにはいられない。

「とにかく、何かあったら美甘もすぐ言えよ」

 もぞ、と顔を上げたサダ。真剣な目で見つめられ、ただでさえ邪なことを考えていた俺はどぎまぎしながら「ああ、うん、わかった」と慌てて頷く。そして、間。

 お互いの呼吸や鼓動すらも聞こえてしまいそうなほどの距離、サダに抱き締められたまま見つめられる体勢から逃れられず、そのまま俺はサダを見つめ返した。
 ――これは、所謂キスの流れではないのか。
 ドクドクと心臓が大きく跳ね上がり、手汗が滲む。視線を右往左往させたあと、ちらりとサダを見上げた。こちらを見つめるサダの顔もほんのりと赤くなっていた。
「サダ」とその名前を呼んだとき。

「……っ、みかも……」

 やや掠れた声に名前を呼ばれ、俺は思わずきゅ、と目を瞑った。サダ、今なら心の準備できてるぞ!という気持ちで待っていたときだ、いきなりサダに俺の肩を掴まれたと思いきや、そのまま引き剥がされる。

 ――え?
 突然のことに驚き、思わず目を丸くさせれば、サダは赤くなったまま口元を抑えた。

「わ、悪い……こんなこと、してる場合じゃないよな。お前もゆっくり休んでこいよ。俺、ここにいるから」

『こんなこと』という何気ないサダの一言に心臓は見事貫かれた。こんなことを期待してしまった自分に対する恥にただ顔が熱くなっていく。
 そうだ、そもそも俺を休ませるためにサダは俺をあいつらから引き剥がしてくれたのだ。それなのに、俺は今何を考えてた?

「そ、そうだよな。……サダも、眠たくなったら俺の部屋来てくれていいからな」
「……ん、あ、ああ」

 変な意図はない、はずなのに。サダが言ってることは正しいし間違ってないはずなのに――なんで俺、こんなにショック受けているのだ。

 気まずさと気恥ずかしさから逃げるように、俺はサダのいるリビングを後にした。
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