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お前らとの関係を断ち切る方法を考える。五日目。
下手なホラーより恐ろしいもの
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「ぅ゛……」
眠ってる最中、なんだか息苦しくなり寝返りを打とうとして体が動かないことに気付いた。
目を開けば、腰にがっしりと回された腕を見てこの寝苦しさの原因を理解した。
宋都のやつ、俺のことを抱き枕かなにかと思ってんじゃないのか。
べったりとくっついてくる宋都の腕をそっと離し、なんとか抜け出す。そのままよろよろとベッドを降り、俺はスマホを探した。
サイドボードの上、宋都のスマホと一緒に置かれてるのを見つけて俺は慌ててそれを回収する。
取り敢えず時間だけを確認すれば、あれから然程時間は経っていないことに気付いた。
――深夜一時。
皆が寝静まった夜。スマホの明かりで宋都を起こすのもあれだったので、俺はそのままそろりと宋都の部屋を出た。
そして、廊下を歩きながら端末を操作する。
サダから届いていたメッセージに返信していると、すぐに既読がついた。それから間もなくして、『まだ起きてるのか?』というメッセージが届いた。
『ちょっと寝て今起きた』
『一人か?』
サダからのメッセージに釣られて辺りに目を向けた。薄暗い廊下の中、相変わらず燕斗の部屋には明かりも着いていない。
『一人、皆寝てる。サダは?』とサダに返した。
『俺も。寝れなかった。』
『サダ、何してた?』
『美甘のこと考えてた。返信こなかったから気になって。』
『ごめん。こっちは全然大丈夫!』
……まあ、全然大丈夫ではないが。
想像していたベクトルとは違う問題ではあるので、“大丈夫”で間違いではないだろう。
それから即レスだったサダの返信が止まって少し気になった。
その間に俺はリビングで水を飲む。サダとのメッセージのやり取りに夢中になっていたが、仮眠を取る前に感じていた頭痛も収まっていた。
サダのお陰かな、なんて思いながらもちらちらとスマホを確認してると、ぽこんとサダからメッセージが届く。
『今通話できるか?』
たった一言。たった八文字。だというのにここまで俺をドキドキさせるのだから不思議だ。
俺は何故か呼吸を止め、リビングを確認した。……けど、流石に電話してるときの声を慈光家の人たちに聞かれるのはばつが悪い。
俺は『ちょっと待って』とだけ送り返し、こっそりとリビングからベランダへと移動する。
サンダルへと履き替え、そのままベランダに置かれた椅子に腰をかける。それから俺は自分からサダに通話をかけた。
待機していたのは数秒のことなのに何故だか長い時間のように感じた。すぐに待機音は途切れ、『はい』とサダの声が聞こえてきた。
普段教室で聞くときとは違う、少しだけ眠そうなサダの声に心臓がぎゅっとする。
「さ、サダ……もしもし?」
『ああ、大丈夫だった?』
「大丈夫、今外に出たから」
『外?』
「ベランダ……あんま大きい声出せないけど、サダと話したかったから」
『寒いだろ、無理しなくていいからな』
「ううん、大丈夫。俺、体温高い方だから……へっくし!」
『おい、美甘……』
「だ、大丈夫……っ! 今のは……むずむずしただけだし……っ!」
せっかく付き合って初めての通話だ。こんなくしゃみ一つで終わらせたくない。
そんな気持ちで端末を握り締めれば、『分かったよ』と呆れたようなサダの笑い声が返ってくる。
『けど、ちゃんと暖かくしてくれよ。……上着取りに行くんなら、ちゃんと待つから』
もしかして、どこからか俺の姿でも見てるんじゃないか。
一応部屋を出るとき薄い上着だけ引っ掛けたが、足りなかったようだ。切られたくないという気持ちが端末の向こうにいるサダにまで伝わったことは恥ずかしかったが、同時に受け入れてくれるサダにじんわりと胸の奥が熱くなる。
「わ、わかった……もう一枚上着取ってくる」
『通話繋げとくか?』
「うん、……すぐ戻るから」
『転けるなよ、美甘』
「そこまで俺、鈍臭くないぞ」
『そうか?』と笑うサダに釣られて頬が緩んだ。そして俺はサダに断りを入れ、一旦近くのテーブルに端末を置いたまま上着を取りに宋都の部屋へと戻るのだ。
なんだかこうやってると悪いことをしてるみたいでドキドキするな。なんて思いながら宋都の部屋へと戻った。
宋都が眠ってるのを確認し、床の上に落ちていた俺の上着を取ってそのまま部屋を出ようとしたときだった。
いきなり部屋の明かりがつき、ぎょっとする。
「どこへ行くんだぁ? こんな時間に」
そして、ドアノブを掴もうとしていた俺の背後。ねっとりと絡みつくような低い声に全身が凍りついた。
「さ、宋都……なんで、起き……」
「お前がガサゴソうるせえから起きたんだよ。それより、出かけんのか? コンビニ?」
……幸か不幸か、サダとの通話のことはバレていないが、ここで宋都に絡まれるのは最悪以外の何者でもない。
背後、くぁ、と大きな欠伸をする宋都を見上げたまま背筋に冷たい汗が滲む。
――ここは、なんとしてでも穏便に済ませ、そしてすぐにサダの元へ帰らなければならない。
「さ、宋都……」
「コンビニ行くんなら俺も行こうかな。……喉乾いたんだよなぁ?」
「そ、それなら俺が飲み物取ってきてやるからっ! ね、寝とけよ、な?」
「美甘がぁ? どういうつもりだよ」
しまった、こいつを大人しくさせたいだけなのに逆に怪しまれてしまっている。
サダを待たせて、別に行くつもりもないコンビニまで付き合わさせられるのはなんとしてでも避けたい。
「べ、別に……起こして悪かったっていう詫びってか……」
「ふーん、けど冷蔵庫今なんもねえだろ」
「じゃ、じゃあ、自販機まで俺行ってくるし!」
「お前一人じゃ危ねえだろ、俺も行く」
「いやっ、お、俺は今静かに夜空を見たいんだよなっ! 一人でも大丈夫だっ!」
「……………………」
どんどん向けられる宋都の目が冷たくなっていることに気付き、背筋に冷たい汗が流れた。
う、うう、くそ、俺がもっとクールでポーカーフェイスな男だったらこの場をスマートに切り抜けられたというのに……。
「美甘さぁ」
「は、はい……」
「お前、なんか隠してね?」
「……………………」
だらだら滝のような汗が流れていく。隠し通せるとは思っていなかったが、今回ばかりは俺が悪かった。そう認めるしかない。
「か、隠してない」
「なんだよその間は」
「ほ、本当だっ、俺だって一人になりたいときもあるんだよ……っ!」
言ってから、ハッとする。
これではまるでなんとしてでも宋都についてきてほしくないと言っているも同然だ。まあそれは事実なのだが。
けれど、と恐る恐る顔を上げた時、宋都は「へえ」と恐ろしい悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「お前が一人に、なあ? 一人になるのは嫌だって俺らの後ろ追いかけてきてたようなお前が」
「う、さ、宋都……」
「で、こんな夜中に誰に会いに行くつもりなんだ?」
ニアピンもいいところだ。ベッドから起き上がり、こちらへと躙り寄ってくる宋都に俺はあっという間に壁と宋都に挟まれることとなった。
「べ、別にそんなんじゃねえって……」
「あー、ってことは電話か? その上着、外に行くんだろ」
「ち、ちが……ぅ」
「じゃあどこに行くんだよ」
「ど、どこだって良いだろ……っ! 俺にもプライバシーってものがあるんだよ……っ!」
「はあ? ねえだろ」
即答である。
それどころか、俺が着ようとしてきた上着まで宋都に剥ぎ取られてしまい、思わず震えた。
「か、返せって……っ!」
「正直に話してくれたら返してやるよ」
「な……っ」
なんでそんなことするんだよ、とは思わない。こいつはこういうやつなのだ。生まれながらに人を苦しめることに喜ぶクソガキのままデカくなった男を前に、俺はただ青褪めた。
最悪、この際上着は別になくてもいい。サダと話せるなら寒さなんて耐えられる。けども、一番厄介なのは『こうなった宋都』に絡まれることだった。
「しょ、正直って言ったって……っ」
「『サダ』だろ?」
言ってるだろ、と言いかけた矢先。初っ端から確信を突いてくる宋都に心臓が飛び出しそうになる。
凍り付く俺を見下ろしたまま、宋都はにやりと笑った。
「美甘お前、本当分かりやすすぎ。ちょっとは隠せよ」
「な、ぁ」
「それで? サダ君に今から会いにでも行くのか? こそこそ着込んで」
「ち、ちが、お、おれは……」
「違わねえだろ、嘘吐いたら罰ゲームだぞ」
“罰ゲーム”という言葉に身が竦む。これはもう条件反射のようだ。
ここまでバレてしまってる上、下手に誤魔化したら宋都に何されるかも分からない。八方塞がりとはまさにこのことだろう。
俺に助かる道などなかった。俺がポーカーフェイスではないあまりに。
「っ、わかった……わかったから、ば、罰ゲームは……やめろよ……」
説明するから、という俺の声はもうカッスカスになっていたことだろう。楽しそうに笑ったまま、宋都は俺の頭に上着を被せてくるのだ。遮られる視界の中、人を包みながら宋都は「最初からそう言えばいいんだよ」と笑う。
無茶言うな。
宋都の性格は分かってる。
機嫌が良いときはまだ燕斗よりも融通が効く男だということも。
「……だから、その、夜だし……通話してると起こしちゃうかもって思ったんだよ」
「サダと?」
「さ、サダって呼ぶな……っ! …………そーだよ」
「別に、お前だって通話くらいするだろ」おまけに俺はお邪魔してる身だし。そうゴニョゴニョ付け足していけば、ベッドに腰を下ろした宋都は「ふーん」とニヤニヤと笑っていた。
おかしなことは言っていない。……言っていないはずだ。
「ま、そういうことにしといてやるよ」
「な、なんだよ……」
「別に? 今までのお前だったら、わざわざそんなこそこそしなかったよなって思ってさ」
ぎく、と緊張しそうになるのを咳払いで誤魔化した。
「お……俺だってもう高校生なんだし、お前らの他にも友達だって出来るんだよ」
「友達なぁ? けど、なるほどな」
「なんだよ、なるほどって」
「それ、燕斗は嫌がんだろうなって思ってな」
「……今は燕斗のことは関係ねえだろ。っていうか、もういいか? あいつのこと待たせてるから……」
ずっとサダとの通話もミュートにしたままだ。壁にかかった時計を確認しようとすれば、「はいはい」とそのまま宋都はベッドに寝そべる。
「じゃ、さっさと彼氏と話してこいよ」
「か、彼氏……っ?!」
「あ? ちげえの?」
「ちがっ、ちが、ちがうし……っ! と、友達だって言ってるだろ……っ!」
「あーはいはい分かった。分かったから、さっさと行ってやれ」
しっしと手を振る宋都。
違うと言ってるのに信じる気など毛頭ないようだ。あっさりと身を引いた宋都にほっとする反面、後でアイツにちゃんと説明しなければと頭が痛くなった。
万が一、宋都が燕斗に余計なこと言ったときのことを考えたらぞっとしない。
釈然としないまま、それでも寝起きだから大人しくしてくれた宋都にほっとしながらも、上を羽織った俺は慌ててベランダへと向かう。
通話は繋がったままだった。十分くらい待たせてしまった。慌ててミュートを解除し、「ごめん、遅くなった」と慌てて謝罪する。
『……何かあったのか?』
そりゃ、サダも心配するだろう。端末越しに聞こえてくる声が一段とトーンが落ちていることに気付いた。
「いや、丁度宋都が起きてきてさ……ちょっと話してた」
『慈光弟か。なんか言われたのか?』
「まあ……ちょっとな」
『なんて?』
そう続けて聞いてくるサダの声からなんだか深刻なものを感じずには居られない。
多分、悪い方へと勘違いされてるのだと俺でも分かった。なので、慌てて「いや、大したことじゃないんだ。全然っ」と付け足した。
「コンビニでも行くのかって聞かれてさ、それだけ。……別に、サダが心配するようなことはないから。……大丈夫だ」
『……そうか』
「それより、今何してたんだ?」
『待ってたよ、美甘が戻ってくるの』
「う……ご、ごめんな……?」
『…………いや、美甘が大丈夫なら良かった』
俺だったら十分も待たされたら通話切ってるだろうに、サダって本当いいやつだ。もっと文句の一つや二つ言ってくれたっていいのに。
なんて思いながら、俺はまたサダと他愛のない話をする。
さっきまではあんなにヒリつくような緊張感があったというのに、宋都に話したからだろうか。今度は肩の力を抜いてサダと話すことができた。
それから、『そろそろ遅いし、また学校でな』と言うサダにおやすみを告げ、通話を終えた。
本当は朝まで通話していたかったが、そんな我儘言ったらサダを付き合わせてしまいそうだったので我慢した。
……俺もそろそろ寝るか。
宋都のやつ、また寝てるかな。なんて思いながら、ガーデンチェアから立ち上がってリビングへと戻ろうとしたときだ。
リビングへと続く窓の前に人影を見つけて血の気が引いた。薄暗いリビングの中、ぼうっと立ったままじっとこちらを見つめる燕斗の姿を。
それを見た瞬間、俺は持っていた携帯端末を落としそうになった。
「え、燕斗……」
窓ガラス越し、こちらを見ていた燕斗と確かに目が合った。
いつから、と考えるが声も出ない。その場から動けなくなる俺を一瞥した燕斗はそのままふい、と視線を外す。そして、真っ暗なリビングの奥へと燕斗は消えていった。
流石の俺でも、すぐ燕斗の後を追ってリビングへと戻る勇気はなかった。
暫くそのままベランダで過ごし、俺はタイミングを見計らって慈光家へと戻った。
静まり返った廊下を歩き、二階の双子の部屋の前まで戻ってきた。
燕斗のやつが部屋の前で待ち伏せしているのではないかと身構えていたが、杞憂で終わった。
さっきのは夢でも幻でもないはずだ。
……まさか、サダとの会話を聞かれてたのではないだろうか。
燕斗の部屋の前。あいつに事情を説明すべきか迷いかけて、やめた。
そもそも、勝手にしろと言ったのはあいつだ。今回だってもし燕斗に聞かれていたからとして、あいつには何も言われていない。
なら、関係ないはずだ。はずなのに、なにを俺は躊躇っているのだ。
「……」
暫く燕斗の部屋の前で立ち往生していた俺だったが、ええいと半ばヤケクソに宋都の部屋へと戻った。
宋都の部屋には明かりがついていた。ベッドの上、寝そべってスマホ弄っていた宋都は俺の姿を見るなり「なんだ、もう戻ってきたのかよ」と含んだような嫌な笑みを浮かべた。
「もう遅いからな。……それより、お前まだ起きてたのかよ」
「美甘が帰ってくんの待っとこうかと思ってな」
「え……」
「なんてな。誰かさんのせいで目え覚めたんだわ、ちょっと付き合えよ」
「付き合うって……」
「コンビニまで。アイス食いたくなったんだよ」
……アイスかよ。つか、こんな寒い時期にアイスかよ。
てっきりまた横暴働くつもりじゃないかと身構えていただけに、宋都の言葉に安堵した。
そんな俺を見て、のそりと起き上がった宋都は「あ?なに想像してんだ?」とこちらを見て笑う。
「し、してない……っ! してないし……っ!」
「はいはい、じゃあ行くぞ」
「なんで俺も……」
「菓子くらいなら買ってやるよ」
「……っ! ……ついていくだけだからな」
別に菓子に釣られたわけではない。断じて違う。なんか神経昂っているし、このままベッドに入ってもすぐ眠れる気がしなかっただけだ。
そう誰に言うわけでもなく言い訳を並べつつ、「はいはい」と笑う宋都になんだかもやもやしつつ俺は宋都の準備が終わるのを待つ。
それから近くのコンビニまで歩いて行き、約束通り宋都からチョコ買ってもらって帰る道の途中。
「……なあ、宋都」
「なんだよ」
「え、燕斗……いつ帰ってきたんだ?」
「知らねえよ。つか帰ってきてたのか」
「うん、さっきベランダにいたとき……あいつ、リビングの方からこっち見てたんだ」
クソ寒い中、棒付きアイスを齧りながら宋都はこちらへと視線を向けてきた。
「は、なんだそりゃ。あいつからまたネチネチ怒られたのか?」
「いや……何も言ってこなかった。けど、」
「けど?」
「別に大したことじゃねえけど……あいつと目が合った気がするってだけ」
「それでビビってんのか」
冬特有の澄んだ夜空の下、宋都の小馬鹿にしたような笑顔がよく見えた。
つい条件反射で「びびってないし」と言い返しそうになったが、脳裏に蘇る燕斗の顔を思い出してはまた背筋が冷たくなる。
「び……びびってな……くはない、かも……」
「こえーもんなあ、燕斗は」
笑われるかと思ったが、意外なことに宋都は同調してきた。まあ、あいつの怖さは俺よりもずっと近くにいた宋都のがよく知ってるのかもしれない。
「アイツ、本気で腹立ってるときほどなんも言ってこねえしな」
「……っ! や、やめろよ、そういうこと言うの」
「お前だって知ってんだろ。俺もガン無視されてるし」
「宋都のは自業自得だろ……」
「あ? なんか言ったか?」
睨んでくる宋都に「い、言ってない」と慌てて誤魔化したが、勘付かれたらしい。慈光家に辿り着くまでに宋都に肩を組まれ、押し潰されそうになりながらもなんとか家まで辿り着く。
そのまま宋都の部屋へと戻り、宋都から買ってもらったお菓子を食べようとしたら宋都に横取りされそうになるのを死守しつつ夜は更けていった。
それから時計を見ればなかなかの時間になってた。
明日朝起きれるだろうか、念の為スマホのアラームをセットしながらも俺はベッドに潜る。
その横、どかりと腰を掛けてきた宋都は人の背中に乗ってくるのだ。
「おい、宋都……重い……っ」
「お前の筋力が足りてねえんだろ」
「何言ってんだよ、眠いんなら寝ろよ」
「ああ」
ようやく退いたと思いきや、今度はそのまま人の体を抱きかかえてくる宋都。抱き枕のようにシーツの中へと引きずり込まれ、「おい」と思わず腰に回された宋都の腕を掴むが……離れない。
「美甘、あったけぇ」
「……そりゃ良かったな」
「来週もうちに泊まれよ」
さらっと恐ろしいことを言い出す宋都に、思わず「は?」と声が裏返ってしまう。
「い、いい……つか、迷惑かけてるし……」
「んなこと言って、さっさと俺らから離れたいだけだろ。お前」
分かっててカマ掛けやがった、こいつ。
どう反応しろというのか、この言葉に。
無言で寝たフリしてやり過ごそうとすれば、宋都は笑って俺の髪をグシャグシャにする。それからそのまま「おやすみ」と呟くのだ。
別に、お前がいつでもこう機嫌よくて、変なことをしたり痛いこともしないんだったら悪くはない提案ではあった。……なんて、少しでも考えてしまった自分に恐ろしくなる。
やっぱ、宋都の言う通り俺ってちょろいのか?
不安になりながらも俺も寝返りを打ち、眠りにつくことにした。
眠ってる最中、なんだか息苦しくなり寝返りを打とうとして体が動かないことに気付いた。
目を開けば、腰にがっしりと回された腕を見てこの寝苦しさの原因を理解した。
宋都のやつ、俺のことを抱き枕かなにかと思ってんじゃないのか。
べったりとくっついてくる宋都の腕をそっと離し、なんとか抜け出す。そのままよろよろとベッドを降り、俺はスマホを探した。
サイドボードの上、宋都のスマホと一緒に置かれてるのを見つけて俺は慌ててそれを回収する。
取り敢えず時間だけを確認すれば、あれから然程時間は経っていないことに気付いた。
――深夜一時。
皆が寝静まった夜。スマホの明かりで宋都を起こすのもあれだったので、俺はそのままそろりと宋都の部屋を出た。
そして、廊下を歩きながら端末を操作する。
サダから届いていたメッセージに返信していると、すぐに既読がついた。それから間もなくして、『まだ起きてるのか?』というメッセージが届いた。
『ちょっと寝て今起きた』
『一人か?』
サダからのメッセージに釣られて辺りに目を向けた。薄暗い廊下の中、相変わらず燕斗の部屋には明かりも着いていない。
『一人、皆寝てる。サダは?』とサダに返した。
『俺も。寝れなかった。』
『サダ、何してた?』
『美甘のこと考えてた。返信こなかったから気になって。』
『ごめん。こっちは全然大丈夫!』
……まあ、全然大丈夫ではないが。
想像していたベクトルとは違う問題ではあるので、“大丈夫”で間違いではないだろう。
それから即レスだったサダの返信が止まって少し気になった。
その間に俺はリビングで水を飲む。サダとのメッセージのやり取りに夢中になっていたが、仮眠を取る前に感じていた頭痛も収まっていた。
サダのお陰かな、なんて思いながらもちらちらとスマホを確認してると、ぽこんとサダからメッセージが届く。
『今通話できるか?』
たった一言。たった八文字。だというのにここまで俺をドキドキさせるのだから不思議だ。
俺は何故か呼吸を止め、リビングを確認した。……けど、流石に電話してるときの声を慈光家の人たちに聞かれるのはばつが悪い。
俺は『ちょっと待って』とだけ送り返し、こっそりとリビングからベランダへと移動する。
サンダルへと履き替え、そのままベランダに置かれた椅子に腰をかける。それから俺は自分からサダに通話をかけた。
待機していたのは数秒のことなのに何故だか長い時間のように感じた。すぐに待機音は途切れ、『はい』とサダの声が聞こえてきた。
普段教室で聞くときとは違う、少しだけ眠そうなサダの声に心臓がぎゅっとする。
「さ、サダ……もしもし?」
『ああ、大丈夫だった?』
「大丈夫、今外に出たから」
『外?』
「ベランダ……あんま大きい声出せないけど、サダと話したかったから」
『寒いだろ、無理しなくていいからな』
「ううん、大丈夫。俺、体温高い方だから……へっくし!」
『おい、美甘……』
「だ、大丈夫……っ! 今のは……むずむずしただけだし……っ!」
せっかく付き合って初めての通話だ。こんなくしゃみ一つで終わらせたくない。
そんな気持ちで端末を握り締めれば、『分かったよ』と呆れたようなサダの笑い声が返ってくる。
『けど、ちゃんと暖かくしてくれよ。……上着取りに行くんなら、ちゃんと待つから』
もしかして、どこからか俺の姿でも見てるんじゃないか。
一応部屋を出るとき薄い上着だけ引っ掛けたが、足りなかったようだ。切られたくないという気持ちが端末の向こうにいるサダにまで伝わったことは恥ずかしかったが、同時に受け入れてくれるサダにじんわりと胸の奥が熱くなる。
「わ、わかった……もう一枚上着取ってくる」
『通話繋げとくか?』
「うん、……すぐ戻るから」
『転けるなよ、美甘』
「そこまで俺、鈍臭くないぞ」
『そうか?』と笑うサダに釣られて頬が緩んだ。そして俺はサダに断りを入れ、一旦近くのテーブルに端末を置いたまま上着を取りに宋都の部屋へと戻るのだ。
なんだかこうやってると悪いことをしてるみたいでドキドキするな。なんて思いながら宋都の部屋へと戻った。
宋都が眠ってるのを確認し、床の上に落ちていた俺の上着を取ってそのまま部屋を出ようとしたときだった。
いきなり部屋の明かりがつき、ぎょっとする。
「どこへ行くんだぁ? こんな時間に」
そして、ドアノブを掴もうとしていた俺の背後。ねっとりと絡みつくような低い声に全身が凍りついた。
「さ、宋都……なんで、起き……」
「お前がガサゴソうるせえから起きたんだよ。それより、出かけんのか? コンビニ?」
……幸か不幸か、サダとの通話のことはバレていないが、ここで宋都に絡まれるのは最悪以外の何者でもない。
背後、くぁ、と大きな欠伸をする宋都を見上げたまま背筋に冷たい汗が滲む。
――ここは、なんとしてでも穏便に済ませ、そしてすぐにサダの元へ帰らなければならない。
「さ、宋都……」
「コンビニ行くんなら俺も行こうかな。……喉乾いたんだよなぁ?」
「そ、それなら俺が飲み物取ってきてやるからっ! ね、寝とけよ、な?」
「美甘がぁ? どういうつもりだよ」
しまった、こいつを大人しくさせたいだけなのに逆に怪しまれてしまっている。
サダを待たせて、別に行くつもりもないコンビニまで付き合わさせられるのはなんとしてでも避けたい。
「べ、別に……起こして悪かったっていう詫びってか……」
「ふーん、けど冷蔵庫今なんもねえだろ」
「じゃ、じゃあ、自販機まで俺行ってくるし!」
「お前一人じゃ危ねえだろ、俺も行く」
「いやっ、お、俺は今静かに夜空を見たいんだよなっ! 一人でも大丈夫だっ!」
「……………………」
どんどん向けられる宋都の目が冷たくなっていることに気付き、背筋に冷たい汗が流れた。
う、うう、くそ、俺がもっとクールでポーカーフェイスな男だったらこの場をスマートに切り抜けられたというのに……。
「美甘さぁ」
「は、はい……」
「お前、なんか隠してね?」
「……………………」
だらだら滝のような汗が流れていく。隠し通せるとは思っていなかったが、今回ばかりは俺が悪かった。そう認めるしかない。
「か、隠してない」
「なんだよその間は」
「ほ、本当だっ、俺だって一人になりたいときもあるんだよ……っ!」
言ってから、ハッとする。
これではまるでなんとしてでも宋都についてきてほしくないと言っているも同然だ。まあそれは事実なのだが。
けれど、と恐る恐る顔を上げた時、宋都は「へえ」と恐ろしい悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「お前が一人に、なあ? 一人になるのは嫌だって俺らの後ろ追いかけてきてたようなお前が」
「う、さ、宋都……」
「で、こんな夜中に誰に会いに行くつもりなんだ?」
ニアピンもいいところだ。ベッドから起き上がり、こちらへと躙り寄ってくる宋都に俺はあっという間に壁と宋都に挟まれることとなった。
「べ、別にそんなんじゃねえって……」
「あー、ってことは電話か? その上着、外に行くんだろ」
「ち、ちが……ぅ」
「じゃあどこに行くんだよ」
「ど、どこだって良いだろ……っ! 俺にもプライバシーってものがあるんだよ……っ!」
「はあ? ねえだろ」
即答である。
それどころか、俺が着ようとしてきた上着まで宋都に剥ぎ取られてしまい、思わず震えた。
「か、返せって……っ!」
「正直に話してくれたら返してやるよ」
「な……っ」
なんでそんなことするんだよ、とは思わない。こいつはこういうやつなのだ。生まれながらに人を苦しめることに喜ぶクソガキのままデカくなった男を前に、俺はただ青褪めた。
最悪、この際上着は別になくてもいい。サダと話せるなら寒さなんて耐えられる。けども、一番厄介なのは『こうなった宋都』に絡まれることだった。
「しょ、正直って言ったって……っ」
「『サダ』だろ?」
言ってるだろ、と言いかけた矢先。初っ端から確信を突いてくる宋都に心臓が飛び出しそうになる。
凍り付く俺を見下ろしたまま、宋都はにやりと笑った。
「美甘お前、本当分かりやすすぎ。ちょっとは隠せよ」
「な、ぁ」
「それで? サダ君に今から会いにでも行くのか? こそこそ着込んで」
「ち、ちが、お、おれは……」
「違わねえだろ、嘘吐いたら罰ゲームだぞ」
“罰ゲーム”という言葉に身が竦む。これはもう条件反射のようだ。
ここまでバレてしまってる上、下手に誤魔化したら宋都に何されるかも分からない。八方塞がりとはまさにこのことだろう。
俺に助かる道などなかった。俺がポーカーフェイスではないあまりに。
「っ、わかった……わかったから、ば、罰ゲームは……やめろよ……」
説明するから、という俺の声はもうカッスカスになっていたことだろう。楽しそうに笑ったまま、宋都は俺の頭に上着を被せてくるのだ。遮られる視界の中、人を包みながら宋都は「最初からそう言えばいいんだよ」と笑う。
無茶言うな。
宋都の性格は分かってる。
機嫌が良いときはまだ燕斗よりも融通が効く男だということも。
「……だから、その、夜だし……通話してると起こしちゃうかもって思ったんだよ」
「サダと?」
「さ、サダって呼ぶな……っ! …………そーだよ」
「別に、お前だって通話くらいするだろ」おまけに俺はお邪魔してる身だし。そうゴニョゴニョ付け足していけば、ベッドに腰を下ろした宋都は「ふーん」とニヤニヤと笑っていた。
おかしなことは言っていない。……言っていないはずだ。
「ま、そういうことにしといてやるよ」
「な、なんだよ……」
「別に? 今までのお前だったら、わざわざそんなこそこそしなかったよなって思ってさ」
ぎく、と緊張しそうになるのを咳払いで誤魔化した。
「お……俺だってもう高校生なんだし、お前らの他にも友達だって出来るんだよ」
「友達なぁ? けど、なるほどな」
「なんだよ、なるほどって」
「それ、燕斗は嫌がんだろうなって思ってな」
「……今は燕斗のことは関係ねえだろ。っていうか、もういいか? あいつのこと待たせてるから……」
ずっとサダとの通話もミュートにしたままだ。壁にかかった時計を確認しようとすれば、「はいはい」とそのまま宋都はベッドに寝そべる。
「じゃ、さっさと彼氏と話してこいよ」
「か、彼氏……っ?!」
「あ? ちげえの?」
「ちがっ、ちが、ちがうし……っ! と、友達だって言ってるだろ……っ!」
「あーはいはい分かった。分かったから、さっさと行ってやれ」
しっしと手を振る宋都。
違うと言ってるのに信じる気など毛頭ないようだ。あっさりと身を引いた宋都にほっとする反面、後でアイツにちゃんと説明しなければと頭が痛くなった。
万が一、宋都が燕斗に余計なこと言ったときのことを考えたらぞっとしない。
釈然としないまま、それでも寝起きだから大人しくしてくれた宋都にほっとしながらも、上を羽織った俺は慌ててベランダへと向かう。
通話は繋がったままだった。十分くらい待たせてしまった。慌ててミュートを解除し、「ごめん、遅くなった」と慌てて謝罪する。
『……何かあったのか?』
そりゃ、サダも心配するだろう。端末越しに聞こえてくる声が一段とトーンが落ちていることに気付いた。
「いや、丁度宋都が起きてきてさ……ちょっと話してた」
『慈光弟か。なんか言われたのか?』
「まあ……ちょっとな」
『なんて?』
そう続けて聞いてくるサダの声からなんだか深刻なものを感じずには居られない。
多分、悪い方へと勘違いされてるのだと俺でも分かった。なので、慌てて「いや、大したことじゃないんだ。全然っ」と付け足した。
「コンビニでも行くのかって聞かれてさ、それだけ。……別に、サダが心配するようなことはないから。……大丈夫だ」
『……そうか』
「それより、今何してたんだ?」
『待ってたよ、美甘が戻ってくるの』
「う……ご、ごめんな……?」
『…………いや、美甘が大丈夫なら良かった』
俺だったら十分も待たされたら通話切ってるだろうに、サダって本当いいやつだ。もっと文句の一つや二つ言ってくれたっていいのに。
なんて思いながら、俺はまたサダと他愛のない話をする。
さっきまではあんなにヒリつくような緊張感があったというのに、宋都に話したからだろうか。今度は肩の力を抜いてサダと話すことができた。
それから、『そろそろ遅いし、また学校でな』と言うサダにおやすみを告げ、通話を終えた。
本当は朝まで通話していたかったが、そんな我儘言ったらサダを付き合わせてしまいそうだったので我慢した。
……俺もそろそろ寝るか。
宋都のやつ、また寝てるかな。なんて思いながら、ガーデンチェアから立ち上がってリビングへと戻ろうとしたときだ。
リビングへと続く窓の前に人影を見つけて血の気が引いた。薄暗いリビングの中、ぼうっと立ったままじっとこちらを見つめる燕斗の姿を。
それを見た瞬間、俺は持っていた携帯端末を落としそうになった。
「え、燕斗……」
窓ガラス越し、こちらを見ていた燕斗と確かに目が合った。
いつから、と考えるが声も出ない。その場から動けなくなる俺を一瞥した燕斗はそのままふい、と視線を外す。そして、真っ暗なリビングの奥へと燕斗は消えていった。
流石の俺でも、すぐ燕斗の後を追ってリビングへと戻る勇気はなかった。
暫くそのままベランダで過ごし、俺はタイミングを見計らって慈光家へと戻った。
静まり返った廊下を歩き、二階の双子の部屋の前まで戻ってきた。
燕斗のやつが部屋の前で待ち伏せしているのではないかと身構えていたが、杞憂で終わった。
さっきのは夢でも幻でもないはずだ。
……まさか、サダとの会話を聞かれてたのではないだろうか。
燕斗の部屋の前。あいつに事情を説明すべきか迷いかけて、やめた。
そもそも、勝手にしろと言ったのはあいつだ。今回だってもし燕斗に聞かれていたからとして、あいつには何も言われていない。
なら、関係ないはずだ。はずなのに、なにを俺は躊躇っているのだ。
「……」
暫く燕斗の部屋の前で立ち往生していた俺だったが、ええいと半ばヤケクソに宋都の部屋へと戻った。
宋都の部屋には明かりがついていた。ベッドの上、寝そべってスマホ弄っていた宋都は俺の姿を見るなり「なんだ、もう戻ってきたのかよ」と含んだような嫌な笑みを浮かべた。
「もう遅いからな。……それより、お前まだ起きてたのかよ」
「美甘が帰ってくんの待っとこうかと思ってな」
「え……」
「なんてな。誰かさんのせいで目え覚めたんだわ、ちょっと付き合えよ」
「付き合うって……」
「コンビニまで。アイス食いたくなったんだよ」
……アイスかよ。つか、こんな寒い時期にアイスかよ。
てっきりまた横暴働くつもりじゃないかと身構えていただけに、宋都の言葉に安堵した。
そんな俺を見て、のそりと起き上がった宋都は「あ?なに想像してんだ?」とこちらを見て笑う。
「し、してない……っ! してないし……っ!」
「はいはい、じゃあ行くぞ」
「なんで俺も……」
「菓子くらいなら買ってやるよ」
「……っ! ……ついていくだけだからな」
別に菓子に釣られたわけではない。断じて違う。なんか神経昂っているし、このままベッドに入ってもすぐ眠れる気がしなかっただけだ。
そう誰に言うわけでもなく言い訳を並べつつ、「はいはい」と笑う宋都になんだかもやもやしつつ俺は宋都の準備が終わるのを待つ。
それから近くのコンビニまで歩いて行き、約束通り宋都からチョコ買ってもらって帰る道の途中。
「……なあ、宋都」
「なんだよ」
「え、燕斗……いつ帰ってきたんだ?」
「知らねえよ。つか帰ってきてたのか」
「うん、さっきベランダにいたとき……あいつ、リビングの方からこっち見てたんだ」
クソ寒い中、棒付きアイスを齧りながら宋都はこちらへと視線を向けてきた。
「は、なんだそりゃ。あいつからまたネチネチ怒られたのか?」
「いや……何も言ってこなかった。けど、」
「けど?」
「別に大したことじゃねえけど……あいつと目が合った気がするってだけ」
「それでビビってんのか」
冬特有の澄んだ夜空の下、宋都の小馬鹿にしたような笑顔がよく見えた。
つい条件反射で「びびってないし」と言い返しそうになったが、脳裏に蘇る燕斗の顔を思い出してはまた背筋が冷たくなる。
「び……びびってな……くはない、かも……」
「こえーもんなあ、燕斗は」
笑われるかと思ったが、意外なことに宋都は同調してきた。まあ、あいつの怖さは俺よりもずっと近くにいた宋都のがよく知ってるのかもしれない。
「アイツ、本気で腹立ってるときほどなんも言ってこねえしな」
「……っ! や、やめろよ、そういうこと言うの」
「お前だって知ってんだろ。俺もガン無視されてるし」
「宋都のは自業自得だろ……」
「あ? なんか言ったか?」
睨んでくる宋都に「い、言ってない」と慌てて誤魔化したが、勘付かれたらしい。慈光家に辿り着くまでに宋都に肩を組まれ、押し潰されそうになりながらもなんとか家まで辿り着く。
そのまま宋都の部屋へと戻り、宋都から買ってもらったお菓子を食べようとしたら宋都に横取りされそうになるのを死守しつつ夜は更けていった。
それから時計を見ればなかなかの時間になってた。
明日朝起きれるだろうか、念の為スマホのアラームをセットしながらも俺はベッドに潜る。
その横、どかりと腰を掛けてきた宋都は人の背中に乗ってくるのだ。
「おい、宋都……重い……っ」
「お前の筋力が足りてねえんだろ」
「何言ってんだよ、眠いんなら寝ろよ」
「ああ」
ようやく退いたと思いきや、今度はそのまま人の体を抱きかかえてくる宋都。抱き枕のようにシーツの中へと引きずり込まれ、「おい」と思わず腰に回された宋都の腕を掴むが……離れない。
「美甘、あったけぇ」
「……そりゃ良かったな」
「来週もうちに泊まれよ」
さらっと恐ろしいことを言い出す宋都に、思わず「は?」と声が裏返ってしまう。
「い、いい……つか、迷惑かけてるし……」
「んなこと言って、さっさと俺らから離れたいだけだろ。お前」
分かっててカマ掛けやがった、こいつ。
どう反応しろというのか、この言葉に。
無言で寝たフリしてやり過ごそうとすれば、宋都は笑って俺の髪をグシャグシャにする。それからそのまま「おやすみ」と呟くのだ。
別に、お前がいつでもこう機嫌よくて、変なことをしたり痛いこともしないんだったら悪くはない提案ではあった。……なんて、少しでも考えてしまった自分に恐ろしくなる。
やっぱ、宋都の言う通り俺ってちょろいのか?
不安になりながらも俺も寝返りを打ち、眠りにつくことにした。
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