どうしょういむ

田原摩耶

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性悪双子と飴と鞭。四日目。

きらい※

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『美甘、なんで美甘はうちの子じゃないんだ?』
『なんでって、なんで?』
『美甘が俺の弟だったらよかったのにって話だよ』

 ふわふわとした意識の中、俺の目の前にはいつの日かの俺と燕斗がいた。
 小学校に上がったばかりの頃だろうか、真っ赤に染まった帰り道を二人で並んで帰っていた。宋都は確か、あのときは新しいクラスで出来た友達とサッカーするからと先に帰されてたのだ。
 あのときは俺も燕斗も、俺たち以外の人間と遊ぶのは好きではなかったから。
 だからよく二人で帰ることは多かった。

『なんで燕斗がお兄ちゃんなの? 俺と同じ年だよ』
『それを言ったら宋都もそうだよ。けど、あいつも美甘も弟って感じだし』
『俺、燕斗の弟なの?』
『違うけど、そうだったらよかったのにって話』
『どうして?』
『どうしてって、俺の弟だったらいちいち家に帰らなくても済むだろ。お泊りしなくてもずっと一緒だし……』
『家族じゃなくても、燕斗と一緒にいれるよ』

 そう燕斗の方を振り返れば、燕斗は『嘘だ』と呟いた。俯いて、拗ねた子供のような舌ったらずな口調できっぱりと断言するのだ。
 当時の俺は、このとき何故燕斗がこんなにも頑固なのかわからなかった。だから、負けじと『嘘じゃないよ』と声をあげる。
 思ったよりも大きな声が出て、俺も燕斗もびっくりした。

『う……っ、嘘じゃないよ、だってこの家の道ちゃんと覚えたよ。お母さんいなくても、一人でも遊びに来れるよ』
『大人になったらバラバラになるんだよ』
『どうして?』
『大人になったら、会社に行ったり引っ越したり結婚したりって色々あるんだよ』
『あ、え、……そうなの?』
『美甘、やっぱりなにも知らないんだね』

 燕斗が早熟すぎるだけなのだ。俺だって、宋都だって知らないはずだ。
 だって大人になった俺たちは想像も付かなかった。ましてや、燕斗が結婚して会社に行ってるのなんて考えたくもなかった。
 急激に不安になって頭を振り、悪い考えを払う。

『で、でもっ、なったとしても、俺はちゃんと遊びに来れるよっ!』
『……本当に?』
『うんっ! ほらね、燕斗、俺地図も描けるよ! えとね……ちょっと待っててね』

 歩道の脇に座り込み、抱えていたランドセルを地面の上に置く。その中から新しく買ってもらったばかりのぴかぴかのノートとお気に入りの筆箱を取り出し、地図を大きく描き出そうとすれば背後から覗き込んできた燕斗は『あのさ……そういう話じゃないんだけどね』と何か言いたげな顔をしていた。

『……?』
『まあ、いいや。……それと美甘、その地図、そこの道逆だよ』
『あ、あれ……へへ、やっぱり燕斗はすごいね。よく気付いたね』
『……別に、俺じゃなくても気付けるよ』
『ううん、俺は気付かなかった!』
『それは美甘だからだよ。……けど、ありがと』

 それから、少しだけ燕斗が笑ったのを見て先程の不安はどこかへといってしまった。燕斗がちゃんと笑ってるのを久しぶりに見た気がする。
 小学校に上がってから燕斗はますます大人びて行くからたまに知らない人みたいに見えてたけど、やっぱり燕斗は燕斗なのだ。

『元気出た?』
『俺は最初から元気だよ』
『嘘だ、元気なかったよ!』
『あるよ』

『嘘だぁ』とノートを抱えたままランドセルを背負い直す。すると、いきなり燕斗に腕を掴まれてびっくりした。

『美甘』
『ん? ……っわ、わ……っ!』

 強い力で引っ張られ、よろ、と大きくよろめいた体を燕斗に抱き締められる。『なにするんだよ』と燕斗を見上げようとしたが、頭の上に顎を乗せられてしまえば顔を上げることはできなかった。
 そして、そのままぎゅうっと俺を抱き締めたまま燕斗は『やっぱり、美甘は俺の弟にしない』と呟く。

『じゃあ、俺がお兄ちゃん?』
『違うよ。そんなわけないじゃん。美甘は――』

 ――俺は?

 と、そこで色褪せた夢はぱちりと音を立てて強制的に終わらせられる。薄暗い部屋の中、目の前に燕斗の顔があるのが分かって少しだけ驚いた。
 燕斗に抱き締められて眠っていたせいだろう、なんだか酷く懐かしい夢を見たようだ。
 というかいつの間にかに向き合うように眠ってしまってるのだ。
 思いながら、俺は燕斗を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。

 時計を確認すれば、深夜もいいところだ。
 変な時間に眠ってしまったせいで、こんな時間に頭が冴えるなんて。

 ……お風呂、入りたいな。
 腹はそれほど減ってはいないが、喉が乾いた。そろそろと俺は燕斗の部屋を出る。

 それにしても、あの時あいつはなんと言ったんだっけか。
 遥か昔の記憶ではあるが、確かにあんなやり取りをしたことは覚えていた。けれど、夢のその先はあやふやだ。

 ……にしても、燕斗の言う通りだ。
 あのときはずっとこのまま三人で一緒に大人になるもんだと思ってた。といっても、あの頃はまだ妙な関係になる前の話だ。
 こんなにあっさりとこいつらと離れ離れになるなんて、当時の俺が見たらどう思うのだろうか。けれど安心しろ、お前にはこいつら以外の友達ができるから。
 そう幼き日の自分を励ましつつ、俺はそろそろと廊下を渡る。宋都の部屋から明かりは漏れていない。

 もう寝てるのか?だとしたらチャンスだ。
 あいつと顔合わせたくなかったので、今のうちにこっそりと風呂に入って水でも貰おう。

 静まり返ったリビングを抜け、そのまま風呂場へと向かった。
 風呂を沸かし、その間リビングで水を飲もうとしたときだ。玄関口の扉が開く音が聞こえてきた。まさか、とグラスを手にしたまま冷蔵庫の前で固まったときだ、リビングの扉が開く。

「あー? んだよ、美甘。起きてたのか?」
「さ、宋都……っ」
「おかえりなさいだろ? は、なんだ? 明日学校あんだろ? 夜更ししてたら駄目じゃねえかよ」

「な!」とずかずかとこちらへと大股で近付いてきた宋都に尻を叩かれ、「ひぎっ」と堪らず飛び上がりそうになる。こいつはいちいち乱暴すぎるのだ。俺をなんだと思ってるのだ。ジンジンと痛み諸々で痺れる尻を庇いながら、「やめろって」と宋都から逃げようとすれば、「なんだよ、つまんねえな」とあいつはにやにやと笑いながらこちらへと顔を近付けてくる。
 
「うぇ……っ、酒臭……っ!」
「ああ? 美甘のくせに生意気だな、オラ口開け」
「えっ、ゃ、やめ……っ、んんッ!」

 人が嫌がるのも構わず、顎を掴んできた宋都はそのまま舐るように唇に舌を這わせ、そのまま俺に舌をしゃぶらせてくるのだ。
 それだけでも最悪っていうのに、流し込まれる唾液と吐息が酒気を帯びててこちらまで頭がクラクラしてくるようだった。
 逃げようとした舌を絡み取り、ぐちゃぐちゃに口内の粘膜を荒らされる。息苦しくて、込み上げてくる吐き気に耐えられず何度も燕斗の胸を叩くが燕斗は人の手首を捉えたままわざと長いキスをするのだ。

「は……っん、む……っ、ぅ……っ」

 立っているのもやっとで、腰から力が抜けそうになったところで宋都にそのまま腰を抱かれる。「どうだ、美味かったか?」と下品な笑みを浮かべ、俺の唇を舐める宋都に返事の代わりに顔を逸した。

「……っ、ゃ、めろ……美味しいわけないだろ……っ」
「はは、これくらいで真っ赤になってんの可愛いな。今度飲ませるか」
「っ、いらない、いい……っ」

 こうなったときの宋都のことは俺は好きではない。普段の宋都もすげー強引で無茶苦茶でやなやつではあるのだけど、酒を飲んだ宋都のことはそれ以上だ。
 女の匂いも隠そうともせず、持て余した熱を発散させる気満々のこいつの相手なんてしたいと思わなかった。普段のこいつもそうだと言われればそれまでだが。

「そんなこと言うなよ、美甘。……なんだぁ? 今朝デート行けなかったから拗ねてんのか?」
「んなわけ、ないだろ……っ、ぉ」

 言いかけた矢先、腰を撫でていた手にそのままスウェット腰に尻を揉まれ、びくりと体が震える。手にしていたグラスを落とさないようにテーブルに避難させ、目の前の宋都から逃げようとしたときだった。
「待てよ」と伸びてきた宋都の大きな手に胸を掴まれ、息を呑む。シャツの上からピンポイントで乳首を撫でられ、腰が震えた。

「っ、ゃ、おい、どこ触って……ッ、ん……ッ」
「相変わらず真っ平らだな。……そのくせ感度だけは一人前なんだもんなぁ、美甘は」
「っ、ぁ、や、やめろ……っ、ん、ぅ……ッ」
「俺がいねえ間、燕斗のやつとは上手くやってたか?」

 すりすりと指の間に挟まれ、服の上から集中的に刺激される。それだけであっという間に血液が胸と下半身へと集まっていくのだ。
 酔っぱらいのくせに、こういうところだけは的確に弱いところを狙ってくる宋都がただ憎たらしい。
 甘く勃起させられたそこを、今度はカリカリと爪先で引っかかれると「ん、ぅ」と鼻から息が抜けていく。

「……っ、ゃ、やめろ、こんなところで……っ」
「もじもじしながら何言ってんだよ。それに、燕斗と便所でもヤッてただろうが。あれよかましだっての」
「そんなの……っ、んっ、ぅ、ぁ、んく……っ!」
「ほら、バレたかねえんなら声頑張って抑えろよ」

 執拗に両胸を揉まれ、そのままピンポイントで弄られ続ければ立ってることも困難だった。宋都に脇の下を掴まれ、それが支えとなってる状態で辛うじて立ってる中、それでも尚緩むどころか先程よりも乱暴な手付きで腫れ上がったそこを絞るように引き逃されれば喉の奥から悲鳴にも似た声が漏れそうになる。

「っふ、ぅ……っ、ひ、ッ、ぐ……ッ」
「ぁ~……お前のその声、チンポに響くわ」
「っ、ぅ゛、ん゛ん……っ」

 変なこと言うのやめろ、と言いたかったのに、背中に腰を押し付けて来る宋都が恐ろしすぎて堪らず息を飲む。
 固くなったそれを押し付けるように腰を動かされ、必死に逃げようとするが、背後から抱き竦めてくる宋都の腕の中に収められれば逃げることもできない。ずり、と脱げかけのスウェット越しに勃起しかけてるそこを擦りつけられ、「ひぅ」と声が漏れる。

「っ、ん、ゃ、やめろ……っ、宋都……」

 こんなことするつもりなかったし、そんな気分でもない。さっさと風呂に入ってまたベッドで寝たかったのに、そんな意思を無視して強制的に性感を呼び起こされるのはただただ嫌悪感しかなかった。
 そしてどうにかして逃げ出そうとしたときだった、風呂の追い焚き完了のアナウンスがリビングに流れるのだ。
 場違いなほど明るい音声に「ああ、丁度いいな」と宋都は笑う。
 丁度いいってなんだ、と顔をあげた時、そのまま宋都に肩を抱かれた。

「な、に……」
「たまには一緒に風呂入るか、美甘」
「は?! ゃ、いやに決まって……」
「うるせえな、冷める前にさっさと行こうぜ」
「な、ゃ、は、離し……っうむ゛!」

 宋都に口を塞がれ、そのまま羽交い締めにされ状態で風呂場まで強制的に連れて行かれることとなる。
 逃げる暇もなかった。本当に最悪である。



 ――慈光家・脱衣所。

「っ、ん、は……っ、ゃ、やめろ、宋都……ぉ……っ!」
「いいから脱げよ。ほら、手ぇあげろ」
「む、んぐ……っ」

 着ていた寝間着を強引に脱がされ、上半身裸になってしまった俺は慌てて体を隠そうと胸を押さえた。そんな俺を見て、宋都は「女子かよ」と一笑する。

「っ、な、なにするんだよ、こんなの……っ」
「どーせ風呂入るつもりだったんだろ? だから、俺も入って……よっと」

 言いながら、目の前で自分も脱ぎ出す宋都にぎょっとし、「い、いきなり脱ぐなよ!」とつい声が裏返ってしまった。

「ああ? 腐るほど見てきただろ、俺の裸」
「それとこれとは違うっていうか、近付いてくんなって……!」

 別に初見でもないけど、明るい場所でまじまじと眺めることもないだけに余計嫌だった。というか、同い年なのに俺と比べ物にならないくらい出来上がってる宋都の体を見てると、より一層自分の惨めさが増すのだ。
 必死に目を逸らす俺に、わざと回り込んでくる宋都から逃げようとしたが、即捕まった。そのまま下に履いていたスウェットのゴムのところを掴まれ、ずるっと下着ごと剥かれてしまえばそのまま転びそうになる。
 が、間一髪で宋都に抱えられた。

「っ、ゃ、おいっ、なに……っ」
「ぴーぴーうるせえな、美甘は。昔は自分から風呂入ってきてたくせに」
「あの頃はまだ俺も小さかったから……っていうか、やめろ、パンツ引っ張るなって……っ!」
「なに騒いでんだよ。どうせ勿体ぶるような体してねえだろ」

 それはそうだけど!俺だって自尊心や男としての尊厳があるんだよ!

 そう反論しようとしたところで、ぷる、と頭を擡げた性器が飛び出してしまう。
 ――最悪だ。
 下着の中、先走りで濡れていたそこを見た宋都は「なに勃起してんだ?」と笑いながら飛び出した性器を指で弾く。

「ぁっ、う……ッ!」
「とか言って、お前も期待してたんだろ」
「し、してない……っ、これは……ふ、不可抗力で……っ、んん……っ!」
「はいはい、不可抗力な。えっちが大好きな美甘は気持ちいいことに逆らえねえもんなあ」
「っち、が……っ」
「違わねえならなんで萎えねえんだよ」
「ぁ、や、やめろ……っ、ん、さ、さわるな……っ!」

 性器を握り締める宋都の手にそのままゆるく性器を扱かれれば、宋都の手に合わせて腰がカクカクと動いてしまう。やめろ、と声をあげるが、それは喉の奥からの漏れてくる吐息にかき消されそうになるのだ。

「は……っ、よく見とけよ美甘。お前、自分がどんな面してんのか分かってねえだろ」
「っ、ぅ、や」
「や、じゃねえよ。……ほら、だらしねえ顔。どこが嫌がってるやつの顔だよ」
「ぁ、う……っ、ひ、……ッ」

 洗面台の前、宋都に捕まえられたまま鏡の前で性器を扱かれる。ただでさえ鏡なんて見たくもないのに、宋都に顎を掴まれて強引に真正面を向かされれば顔を反らすこともできなかった。
 乱れた髪の下、自分でも見たことのない顔をした己を目の当たりにして首から上に熱が集まってくるのが分かった。

「っ、ぁ……っ、ん、く……ッ!」

 大きな宋都の手の中、情けなく勃起した自分のものからとろりと先走りが垂れる。射精が近くなり、堪らず背後の宋都に持たれかかればそのまま宋都は追い打ちをかけてくるのだ。

「はーッ、ぁ、……っ、ん、ッ、で、る……っ、宋都……ッぁ、……っ!」

 止まるどころか更に激しくなる手コキを耐えることなどできなかった。
 ぶるぶると背筋が震え、そして頭の中が真っ白になった。どくんと宋都の手の中で跳ねた性器からは少量の精子が飛び散った。

「……っ、ふ……っ、ぅ……っ」
「お前、人の手え汚しやがって」
「さ、んと……っ」
「まあいいや、湯冷める前に綺麗にしてやるよ。それ」

 感謝しろよ、とでも言いたげに笑う宋都。何が感謝だ、と心の中で毒づくが、最早俺は宋都から逃げ出す余力すら残っていなかった。


 宋都のやつと風呂に入るなんてことになったら、大体何が起こるなんて考えなくとも分かったはずだ。

「宋都……っ、ぃ、いい加減にしろって……っん、おい……っ」
「んだよ、人が綺麗にしてやるって言ってんのに」
「こ、んなの……っ、ちが……っ、ぁ、……っ、んん……っ」
「良いから足開けって」

 服を脱がされ、浴室へと押し込められたかと思えばこれだ。
 タイル張りの壁に手を付かされ、そのまま腰を突き出すような体勢で背後に立つ宋都に尻を揉みしだかれる。
 肛門の形が変わるほど尻を強く掴まれたと思えば、そのままぐに、と拡げられたそこにねじ込まれる指に息を飲んだ。

「っふ、ぅ゛」
「燕斗の野郎、人に散々我慢しろとか言ってたくせに、しっかり自分も遊んでんじゃねえかよ」
「……っ、ゃ、め……っ、んん……っ!」
「燕斗にはこっち挿れさせたか?」
「……っ、んなわけ、ないだろ」

 長い宋都の指が数本、肉襞を掻き分けて奥まで入ってくる。
 前立腺を柔らかく指の腹で押し上げられた瞬間、じんわりと腹の奥に熱が広がった。ただでさえ湯気立ち蒸した浴室内、額に汗が滲む。
 俺の言葉に、「へー」と背後の宋都が笑う気配がした。

「へえ、んじゃまだ俺だけ? サダとはヤッてねーのか?」
「っ、サダは、そんなんじゃ……っぁ、くひっ」

 よりによってこんなタイミングであいつの名前を出すなんて、こいつ。

 必死に声を抑えていたが、絶妙な力加減による愛撫に耐えきれず腰が震える。それを抑え込まれ、さらに追い打ちをかけられれば、犬のように浅い呼吸しか繰り返すことができなくなった。

「っ、ふ……っ、ぅ、ん゛ん……ッ!」
「勿体ねえな、もう処女じゃなくなったんだから使わせりゃいいのに」
「ふ、ッ、ぅ゛、ひ……ッ!」
「んじゃ、俺専用にすっかなぁ」
「っふ、ぁ……っ、ん、ぅ゛う゛……ッ!」

 さらっと背筋が凍るようなことを言う宋都。逃げようとすればするほど執拗に中を穿られ、どんどん腰が浮いていく。
 体内にねじ込まれた複数の宋都の指に弱いところを穿られ、押し上げられれば耐えることなどできなかった。

「ッん゛、ぅ゛――~~ッ!!」

 靄立つ頭の中。あっという間に中だけで呆気なくイカされれば、ガクガクと痙攣する中から宋都の指は引き抜かれる。
 呼吸を整える暇もなく、壁にすがりつくことで精一杯の俺の腰を捉えたまま「なあ、美甘」と背中に宋都がくっついてくるのを感じた。
 やつの高い体温に包み込まれる、そんな余韻に浸ってる場合ではなかった。
 べちん、と拡げられたままの肛門に宛がわれる性器。デジャヴュ。

「っ、ま、待って、さんと――ぉ゛」

 声の反響を心配する暇もなかった。
 嫌な予感がし、「まさかこいつ」と咄嗟に振り返ろうとした矢先、宋都は躊躇することなくそのまま腰を動かしてくるのだ。
 ず、と内壁ごと引っ張るように勢いよく奥まで突き立てられる宋都の性器。
 硬く、太い異物が腹の中に突き刺さるような衝撃に、頭が真っ白になった。

「――、ふ、ぅ゛……ッ!」

「っ……あー? なんか言ったか、美甘」

 ――挿入ってる。
 強引に肉壁を掻き分けるよう、ずぶ、と更に奥まで出入りする宋都の性器。
 必死に逃げようと爪先立ちになるが、そのまま宋都は俺を羽交い締めにするように腰を打ち付ける。瞬間、脳の奥で無数の光が弾けた。
 ――初めて宋都にゲーセンの便所で犯されたときと同じ、あの感覚だ。

「――っ、ぁ゛、ッぎ、ふ」
「風呂場、声反響すっから気をつけろよ。上までガン漏れしてもしらねえぞ」
「っん゛ッ、ふー……ッ、ぅ゛、ん゛ん゛……ッ!」
「……っ、は、そーそー、頑張って声我慢しろよ」

 ずる、と性器が引き抜かれ内壁を摩擦される度に腰が震えた。小さく呼吸を乱した宋都はそのまま抽挿を繰り返す。
 こじ開けられ、強制的に宋都のものを受け入れるように形を変えられた中を何度も往復する性器。その亀頭に突き当りを押し上げられた瞬間、体が浮くような感覚を覚えた。
 潰された肺から呼吸が漏れる。

「っは、ぁ……っ! ん、ぅ゛……っ!」
「……っ、は、締め付けすぎだ、もっと力抜けって」

「それとも、このまま繋がってたいのか?」と耳元で囁かれ、無心で頭を振った。
 早く、早く終わってくれ。
 何度も頭の中で念じるも、たんたんとリズミカルに打ち付けられる腰に思考は掻き消される。

「~~……ッ、ん、ん゛ッ! っ、ぅ゛、くひ」
「は、……っ、大分ましになってきた……っ、ほら、こっち向け、美甘」
「っ、ん、む」

 壁と宋都に挟まれ、潰されそうになっているところ、宋都に顎を掴まれる。腕の中に閉じ込められたまま唇を塞がれた。

「っ、ふッ、ぅ、ん゛む゛」

 更に体が密着し、肌を打つ音が結合部から骨を伝って全身まで伝わっていく。お腹が苦しくて吐きそうなのに、吐き気とともに別のものまで込み上げてくる。

「っ、さ、んッ、と、……っぉ゛、んむ……っ、ふ、……ッ」
「っ、は……っ、美甘。逃げんなって、ほら。……っ、ここ、気持ちぃだろ」
「っ、ん、ぅ゛……っ?!」

 体を持ち上げられ、そのまま自重を加えて一気に腰を落とされた瞬間目の前が真っ白になる。
 ぱくぱくと口を開閉させたまま固まる俺の背中、旋毛に鼻先を埋めたまま宋都は息を吐く。背中越しにぶるりと震えが伝わり、そのまま宋都は先程よりも短い間隔でピストンを再開させた。

「……っ! っ、ん゛、ぅ……ッ!」
「美甘、お前んナカよすぎ……っ、やっぱお前こっちの才能のがあるよ、なあ……っ!」
「っ、きゅ、ふ、……っ! ぅ、ゃ、んむ……ッ!」
「はー……っ、美甘……っ」

 ケツの感覚は最早なかった。持ち上げられた下半身に杭打ちされるように性器を打ち込まれ、最早人としての形を保てることができるわけないのだ。
 茹で上がった頭の中、熱に溶かされた体をひたすら犯され、逃げることもできないまま俺はただこの時間が終わることを祈った。祈っていた、はずだ。最早自意識もない。
 ピストンに耐えきれず、だらしなく甘勃ちした性器が跳ねる。恥ずかしいという感覚もない。前立腺を性器が掠めるに連れ、苦痛が薄れ、それを上塗りしていくように快感が重ねられていくのだ。俺の意思など関係なく。

「っは、さ、宋都っ、……っ、も、や、だ、むり、っむり、も……っ!」
「奇遇だな、美甘。……っ、俺も」

 限界かも、と宋都に跡が残りそうなほど強く腿を掴まれる。子供のように抱きかかえられたまま深々と性器の上へと落とされ、息を飲んだ瞬間。熱の溜まった亀頭から最早色のついていない体液が吹き出した。
 そして、その締め付けに小さく息を吐いた宋都。腹の中にずっぽりと収まったその性器がびくんと反応したと思った次の瞬間。

「ふ、ぅ゛……――ッ!」

 咄嗟に口を塞いだが、間に合わなかった。腹の中、どくどくと脈打つ性器から噴き出す大量の精液に腹の中は圧迫されていく。
 そして性器を引き抜かれた瞬間、どぷ、と勢いよく精液が噴き出る。

「……っ、お、んぉ゛……っ」
「ひっでえ顔、燕斗に見せてやりてえな」
「っ、ゃ゛え゛……っ」
「やんねえよ、……こうやってバレねえようにやんのも興奮するしな」

 俺を床の上に落とし、ようやく解放してくれたのかと思った矢先、今度は向き合うように体を抱き寄せられる。そのまま腿を掴まれ、強引に拡げられた下半身に押し付けられる宋都のブツにぎょっとした。

「っ、な、に……して……っ」
「まさか、一回で終わると思ってねーよな」
「っ、え、ゃ」
「おい、足持ってろ美甘」
「うっ、うそ、や、待っ――っ、……ッ!」

 股の間、再び柔らかく解れた肛門に挿入される性器に声を上げることすらもできなかった。正面から宋都にがっちりと抱きしめられたまま、俺はもう立つこともできず目の前の宋都にしがみつくのが精一杯だ。

 こんなことなら、意識を飛ばした方がまだましだ。

 逃げられないようにと抱き締められたまま先ほどとは違う角度で犯されてるうちに意識の境界線は曖昧になっていき、これが現実なのか悪夢なのかも分からなくなってくる。
 濡れた音と肌の打つ音、そして声にならない悲鳴が浴室内に響き渡る。

 それから宋都に何度イカされたのか、最早数えることもできなかった。途中からもう半分意識は飛んでる状態で抱かれ、夢現の中宋都に体を洗い流されている感覚はあった。
 そして、次に気付いたときは俺は宋都の部屋へと運ばれた後だった。


「ん、ぅ……」

 あれ、俺どうしたんだっけ。
 微睡む意識の中、ぱちりと目を開けば目の前には見慣れた天井。
 それから、 

「……やっと起きた」
「っ、さんと……」

 ベッドのふちに腰を掛けた宋都は目を覚ます俺を見て笑った。いつもの意地悪い悪い方ではない。少しだけ懐かしい笑顔で。
 まだぼんやりと熱に浮かされた頭のまま宋都を見詰めてると、不意にやつは手にしていたミネラルウォーターのボトルをこちらへと渡してきた。

「ほらよ、水。飲めるか?」
「……ぁ、うん……」

 それを受け取り、ひんやりと冷たいボトルを手にしたままキャップを開けようとするが、手に上手く力が入らない。
 もたつく俺の代わりに、宋都は「貸せよ」と再びボトルを取り上げる。そして、それをいとも簡単に開けた。

「口移しもした方が良いか?」
「い、いい……一人でも飲める」

 慌てて首を横に振れば、「そーかよ」と宋都はボトルをこちらへと返した。

「宋都……もう酔い醒めたのか?」
「そりゃな、目の前でお前が白目剥きゃ誰だって醒めるっての」

 宋都の言葉に、俺は風呂場でのあれこれのことを思い出した。ケツの違和感はそれのせいか。ってか、白目剥いてたのか、俺。

「今、何時……」
「まだ余裕で二度寝出来るぞ。あいつの部屋に戻るんだったら今だな」
「……ん、戻る」
「……」
「あ、そうだ、風呂の掃除……っ!」
「やった。つか、洗い流しただけだけど」
「か、換気もちゃんとしたか? もし燕斗にバレたら……」
「は。なに、そんなにあいつが怖えの?」
「そりゃそうだろ……っ」

 他人事のような宋都の反応に、思わず即ツッコミしてしまった。宋都はそのままベッドにごろんと寝転がったまま、「まーそうだよな」と伸びをする。
 そしてそのまま人の腰を抱いてくるのだ。俺のことを丁度良いクッションかなにかと思ってるのか、そのまま抱き寄せられ、巻き込まれてまたベッドに倒れ込む。

「お、おい……」
「美甘には燕斗のご機嫌取りっていう大義名分があるからなぁ?」
「……宋都、お前まだ燕斗と気まずいのかよ」
「別に気まずくはねえよ。あいつが勝手に臍曲げてるだけだっての。そういうときは放っておくに限る」
「お前な……」
「良いからさっさとあいつんところ帰れよ」

 言いながら、人の腰を抱き寄せる宋都。言ってることとやってることがむちゃくちゃである。
 そもそもお前が勝手に連れてきたんだろ、なんで追い出そうとするんだよ。……別に、俺だって長居したかないし。
 
「……宋都がそうやってると、動けないんですけど」
「雑魚すぎんだろ。これくらい振り払えっての」
「ん、ぐぐ……っ! おい、わざと力入れてんだろ……っ!」
「……っふは」

 ……笑ってるし。
 酒がまだほんのり残ってるのか、やや上機嫌な宋都は「分かったよ」とニヤニヤ笑いながら俺から手を離した。そしてそのまま「じゃあな」と枕を手繰りよせ、俺の代わりに抱き締めるのだ。
 人に別れを言うときくらい顔を見せろ、と思ったが、元々こいつはこういうやつだ。

「……ん、じゃあな。……一応、運んでくれてありがと」

 お前のせいで意識飛ばすハメになったんだけどな、と心の中で付け加えつつ、後からネチネチ言われるのも厄介なので先手を打つことにした。枕から顔を離した宋都はこちらを見上げる。

「……美甘」
「なんだよ」
「なんでもねーよ、俺は寝るからさっさと行け」
「な……」

 なんなんだ、こいつは。
「言われなくても行くっての」と小声で言い返した俺は、宋都からの反撃が飛んでくる前にそそくさとやつの部屋を出た。

 ……本当になんなのだ、あいつは。

 心の中でぶつくさ文句を言いつつ、俺はそのままこっそりと燕斗の部屋まで戻ってきた。
 扉から明かりは漏れていない……ということは、まだ燕斗も眠っているはずだ。
 なるべく音を立てないように扉を開く。明かり一つついていない燕斗の部屋の中、今のうちにベッドに戻ろうとそそくさとベッドの布団をめくった時だった。

「随分と長い間あいつと居たんだな」

 薄暗い部屋の中、聞こえてきた声に心臓が口から飛び出しそうになった。
 ベッドの中、寝ていると思っていた燕斗が目を開いてこちらを見ていることに気付いた時冷や汗が全身から噴き出す。

「え、燕斗……」
「風呂、入ってたのか?」
「あ、ああ。お風呂……寝汗、掻いたから。後、喉! 喉、渇いたんだ……それで……」
「ふうん」

 まさか起きてたとは思っていなくて、一気に心臓がバクバクと鳴り出した。指先が冷たくなっていく。てか、やばい。燕斗の声がいつもより低い。

 ……まさか、バレてないよな。

「それで、……風呂場で気失ってたのを宋都に運んでもらったんだよ。……さっきまで意識飛んでたっぽい」

 七割本当のことのはずなのに、言えば言うほど嘘っぽく聞こえてしまうのは何故なのか。
 ぼそぼそと燕斗に告げれば、俺の言葉を信じたのか不明だが起き上がった燕斗は「そうか」とそのまま俺の髪に触れる。

「……ちゃんと乾かしてはあるみたいだな」
「燕斗……」
「最近多いな」
「な、何が?」
「……気絶。前はここまでなかっただろ」

 宋都とのことを疑われているのかとギクリとしたが、燕斗の言葉からして体調の方を心配されているのだと気付く。
 確かに、と言っても高校になって燕斗たちから離れてからは無理な運動しない限りは失神することにはならなかった。
 正確にいえばこの数日、慈光家に預けられてからだ。数年ぶりの心身の負荷が一気に押し寄せてるのもあるだろう。
 十年近く毎日のように二人に鍛えられていたあのときとはまた違う。

「飯、ちゃんと食べろよ」
「……食べてるだろ」
「美甘は偏食だから。……それと、運動も。授業以外の運動もちゃんとしろ」
「分かったよ」
「毎朝俺と走りに行くか? 美甘になら付き合うけど、俺」
「い゛っ、いい……流石にいきなりそれは無理……」

 冗談なのか本気なのか分からないが、燕斗はやや残念そうに「そうか」と肩を落とした。そしてそのままベッドへと俺を寝かせるのだ。
 ぽむぽむと布団越しに軽くお腹を叩かれる。俺のことを何歳児と思ってるんだと思ったが、気付かぬ内にすっかり眠りの底へと落とされることになった。
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