どうしょういむ

田原摩耶

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性悪双子と飴と鞭。四日目。

おしまいな二人※

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 ――もう少しこのままでいたい。

 そういう燕斗に対して、確かに「どうぞ」と言ったもののだ。


「……美甘」

 何故、こんなことになってるのだ。
 抱き締められたまま、唇を舐められ、「おいっ」と堪らず声が裏返ってしまう。
「なに?」と聞き返してくる燕斗の声は何故かイラッとしてるし。なんでだよ、おかしいだろ。

「え、燕斗、これ以上は……っ」
「……別に、仲良ししてるだけだろ。なにが問題なんだ?」

 コートの裾の下、裾を捲し上げるようにすっぽりと隠れていた下半身を晒す燕斗にぎょっとする。「待て、待て待て」と慌てて燕斗から逃げようとするが、よりによって場所は壁際、あっという間に追い詰められるのだ。
 伸びてきた手に足の付け根の部分をつうっとなぞられ、ひくりと喉が震える。

「え、えんと……」
「問題はないよな、美甘」
「あ、ある……っ、ひッ!」

 言いかけた矢先、指先でスラックスの奥に縮こまっていた性器を跳ねられた。その刺激に堪らず跳ね上がれば、そのまま逃げる俺の腰を追いかけるように燕斗は指を伸ばしてくるのだ。
 この前のように痛い目に遭わされるのではないかと凍りつく俺だったが、燕斗は思いの外優しい手付きで股間を柔らかく撫でるのだ。
 逆に、今の俺にとってそれは最悪でもあった。

「……っ、ゃ、やめろ、こんなところで……」
「美甘、裾持ってろ」
「え、燕斗……」
「聞こえなかったか? 自分で手に持って持ち上げるんだよ」

 できることならば聞こえないフリをしていたかったくらいだ。けれど、こんな至近距離で聞こえないフリなどできるわけがない。
「早くしろ」とでも言いたげに少しだけ股間を包みこむ燕斗の指先に圧が加わるのを感じ、恐怖に震え上がった俺は言われるがままコートの裾を持ち上げるのだ。せっかく暖かくなっていたのに、下半身にひんやりとした外気が纏わりついてきては二重の意味で震えることになる。

「こ、これで……いいのか」
「ああ、そのままだ」
「……っ、ん、ぅ……」

 ここで何をするつもりなのだ。
 ファスナーに伸びた燕斗の指が、そのままスラックスの前開きを開いていく。こんなところで脱がせるつもりなのか、と凍りつく俺を無視し、萎えきった俺の性器を取り出した燕斗は「可哀想に」と微笑むのだ。

「も、もう、いいだろ……っ、これ以上は誰かに見つかったりでもしたら……」
「終わるかもね、俺も美甘も」
「だ、だったら――」
「なあ、美甘」

 萎えきった性器の根本に絡みつく燕斗の指。そのままぎゅっと締め付けられるそこに、心臓が跳ね上がる。

「俺はお前となら終わってもいいよ」

 青ざめる俺を見下ろしたまま、鼻先同士が擦れ合いそうな程近付いた燕斗の方を見ることはできなかった。
 いつもの軽口なのだろうが、恐ろしいことに冗談に聞こえなかった。

 何故、何故、さっきまでいい感じだったのになんでこんなことになってるのだ。

「え、んと、手……い、痛い……っ」
「俺も捨てるって言えば、お前も全部捨てられるのか? ……友達も、家族も、全部」
「なに、何言ってんの、お前……おかしいよ、そんな話誰もしてないだろ……っ」
「してる。俺がしてる。話を逸らすな美甘」
「っ、ぁ、ん、う……ッ!」

 ちんこ握られてようが、そのまま擦られようが、目の前の燕斗が何言ってるのか分からなくてエロい気分にもならなかった。それでも、ゆっくりと扱き出す燕斗の手は止まらない。
 燕斗の指を舐めさせられ、人の唾液を絡めるようにゆるゆると性器を扱く燕斗。困惑は抜けきれないが、濡れた指でぬちゅぬちゅとちんぽ扱かれれば反応してしまうのが男の性というらしい。
 コートの下からぴょんと間抜けに頭を出した己の下半身が情けなさ過ぎて涙が出てしまいそうだった。

「……っ、ぁ、あ、……っ、だ、だめだ、えんと……っ」
「俺は……――俺は捨てられる」
「な、何言って……ッ、ひ、ぅ……ッ!」

 最初は寒くて勃起どころではないと思っていたのに、そのまま燕斗の影に隠された状態で性器を扱き続けられればあっという間に全身の体温が三度くらい上がった気がした。
 呼吸が浅くなるにつれて息が苦しくなり、はっはっと犬のように呼吸繰り返す俺の顔を見詰めたまま燕斗はキスをするのだ。ちゅぷ、と柔らかく重ねるだけのキス。それは次第に執拗に重ねられ、隙間を埋めるみたいに何度も何度も角度を変えて繰り返される。
 苦しいからやめろと押し退けようとしても構わずに燕斗は俺の唇をこじ開けて舌を滑り込ませてくるのだ。

「っ、ふ、ぅ……ッ、んんう……ッ!」
「は、……っ、……」

 まずい、まずい。
 酸素が薄くなり、鈍り始めた頭の中。まるで舌と性器の神経が繋がったみたいな感覚だった。舌先を重ね合わされ、もっとと強請るように口の中に溜まった唾液をごと燕斗に啜られる。
 薄暗い路地裏に響く濡れた音にただ顔が熱くなった。

 射精が近付くに連れ、ドクドクと鼓動の間隔は短くなっていく。下腹部に力が入り、裾を掴んだまま俺は燕斗からの愛撫を受け入れることしかできなかった。
 舌を絡め取られ、そのまま舌の先っぽを甘く吸い上げられながらも根本から亀頭の部分まで絞り取るような絶妙な手コキに、下腹部の辺りがきゅうっと締まった。
一方的にこんなことされて、反応だってしたくないのに。

「……っ、ぁ、え、えんと……っ、えんと……ッ! っ、ぅ……ッ!」

 慌てて唇を噛んで堪えようとするが、とうとう声を我慢することはできなかった。
 ドクドクと玉に溜まっていた熱は亀頭へと勢いよく昇っていき、そのままどぷりと燕斗の手の中で射精する。量は多くはないが、それでも燕斗の手を汚すそれに青ざめる俺。そんな俺に、燕斗は「結構出たじゃないか」と子供を褒めるような口調で続けるのだ。
 余韻の残ったまま萎れる性器。その亀頭を軽く掴まれたまま、もう片方の手で亀頭部分を覆う形で優しく刺激する。
 先端部に掠める程度の摩擦でも、イッたばかりよ性器にとってはあまりにも刺激が強すぎた。
 頭の中ごと掻き回されるような快感に「ひぅ゛っ」と短く悲鳴が漏れる。そんな俺の顔を凝視したまま、燕斗は「偉い偉い」と精液を塗り込むように亀頭全体を優しくマッサージするのだ。

「っ、ま゛、ッ、……ッ! ぇ゛、んと、だめ、ぁ゛……っ、こ、声、出ちゃ……ッ! それ、やめ……ッ」
「昔から美甘はこうやって先っぽ弄られるの好きだったよな。そのせいで感度高くなりすぎてイクときに漏らしグセついたけど、ここでは我慢しろよ」
「っ、ぁ、う゛ッ、……ッ! ひ、」
「ほら、……また大きくなってきた。やっぱりお前興奮してるんだろ、この状況に」
「ち、が……っ、ぅ゛ッ、や、燕斗、……ッ!」
「違わないだろ」

 ずちゅ、と音を立てて尿道口を柔らかく潰すように亀頭を揉まれた瞬間、あっという間にガチガチに勃起したそこからとめどなく先走りが溢れ出した。

「っ、ぁ、うぅ゛……っ」
「腰を引くな、美甘。足を開くんだよ」
「ぇ、燕斗……っ」

 早く、さっさとこんなことくれ飽きてくれ。
 泣きたい気持ちになりながらも、とうとう燕斗に逆らえなかった俺は言われるがまま足を開くことしかできなかった。

 燕斗に言われるがまま足を開けば、伸びてきた指に肛門を撫でられ震えた。

「は……っ、ふ……ぅ……ッ!」
「力を抜くんだよ、美甘」
「……ぅ……」

 そんなことを言われて、『はいわかりました』と理解できるように俺はできていない。無茶を言うなと思いながらも、ここで下手に時間使って他の人間に下半身露出してるところを見られる危険性が高くなるくらいなら燕斗に従うのが賢いとわかっていた。
 ふうふうと息を吐き、必死に燕斗の指を受け入れるイメージをするが、括約筋をぐっとこじ開けられそのまま中へとねじ込まれる指を意識すればするほど下半身に力が入ってしまう。

「ふ、ぅ゛……ッ、くひ……ッ」
「……ふ、」
「にゃ、な、なに、笑って……っ」
「一生懸命になってるなと思って。……そんなに外は嫌だった?」
「っ、い、いやに、きまって……っ、ぇ゛……ッ!」

 人に話題掛けておいて、人が喋ってる間に更に指を追加してくる燕斗に堪らずしがみつけば、燕斗はくすくすと笑った。
 いつもの性格の悪い笑い方とは違う、なんだか変な笑い方だった。

「そうか。……俺は結構、嫌いじゃないかも」
「それは、お前が……っ」
「俺が? ……なに?」
「ふ……っ、ぁ、ッ、待っ、う、動かないで……っ!」

 変態だからだろ、と続けるよりも先に、燕斗の細く長い指でねっとりと内壁を丸く撫でられるだけで背筋がぴんと伸び、微弱な電流が流されるようだった。
 声だって出したくもないのに、わざと柔らかく押し上げるように前立腺を叩かれるとその振動の度に喉の奥から声が溢れ出しそうになる。

「っ、えんと、……っ、ぉ……ッ」
「美甘は見られたくないんだっけ? ……ほら、だったら頑張って声抑えないと」
「……ッ! ん、……っふ……ッ」

 こいつ、と思うよりも先に、そのままたっぷりと濡れた舌で耳朶を舐められ、ぶるりと背筋が震える。執拗に一点を刺激するように責め立ててくる指に耐えきれず、下半身が震えた。
 唇が白くなるほど噛んで、必死に快感を逃そうと試みるものの上手くいかない。

「……ッ、ぅ、んん……ッ!」

 登ってくる熱に抗うことなどできるわけがなかった。耐えきれず、背筋をぴんと伸ばしたまま俺は燕斗に上体を押し付れば燕斗は目を細めるのだ。そして、そのまま俺の体を抱き締めた。

 びくびく、と痙攣が収まらない体を燕斗に抱き締められるがまま唇を塞がれる。さっきまで寒かったはずなのに、今では熱くて堪らない。呼吸が浅くなり、動けなくなる俺を抱きかかえたまま燕斗は指を引き抜いた。

「……っ、ん、ぅ……っ」

 やっと終わったのだろうか、と安堵した矢先のことだった。そのまま柔らかくなった肛門を親指と人差し指で左右に割り開かれ、流れ込んでくるひんやりとした外気にぎょっとした。
 それと、そのまま腿を掴んでくる燕斗に。

「っな、なに、燕斗……っ、も……おわった……」
「まだだよ、美甘」
「な、え」
「そのまま壁に手をついて」

 嫌な予感がした。下半身、当たる燕斗のブツが先程よりも大きくなっているのだ。血の気が引き、いやだと首を横に振るが「美甘」と耳元で、あの声で名前を呼ばれると逆らうことができなかった。

「ぇ、燕斗、……っ、なに……」
「……腰、持ち上げて」
「っ、ぁ……っ、ま、待って……うそ、待って……っ!」
「嘘じゃないよ、美甘。……全部本当」

 言われるがまま壁と向き合うような体勢になったものの、背後から聞こえてくるファスナーを下ろす音に更に息が詰まりそうになる。

「……っ、え、んと……っ」

 ぐに、と広げられたままの肛門に押し付けられる性器の感触に背筋が震えた。まさか挿れないよな、と血の気が引く。窪みの表面を撫でるように塗り込まれる先走りがぬちぬちと音を立て、嫌だった。

「っ、ふ、ぅ……っ」
「……っ、美甘」
「待ってっ、えんと、い、いれないって……」
「ああ、だから挿れてないだろ。……ただ触れてるだけだ」

 なにか問題でもあるのか?と言い返してきそうな気配すらある。柔らかく解されたお陰で、少しでも力を入れられればそのままずっぽりと飲み込んでしまいそうだった。
 だからこそ余計怖かった。

「っ、ぅ、ゃ……ッ! ひ、ぅ……ッ」

 尻の谷間に挟められた太い性器は、そのまま肛門を裏筋で擦る勢いで往復する。なにも気持ちよくなんてない、と己に言い聞かせ、時折悪戯に亀頭の凹凸が引っかけられる都度息を飲んだ。
 気持ちよくなんてないのに、おかしな気分になってくる。この奥の奥まで宋都に犯された感触を知ってしまったせいか、条件反射で下腹部がきゅっと反応するのだ。
 あんな痛いだけで気持ちよくなんてなかった行為なのに、ガツガツ性器で前立腺を潰されたときの意識が飛びそうなほどの快感が蘇る。

「……っ、ふ……ッ」

 ――最悪だ、と思った。
 〇と一の差は大きいと言うが、本当にそうだと思う。知ってしまったからこそ、恐怖以外のものまで抱くようになってる自分がただ恐ろしかった。そして、それを燕斗に悟られることはそれ以上にもっと。

 駄目だ、まずい。これは。なかなかに。

「美甘」と吐息混じり、耳元で囁く燕斗の声が下半身にまで響くようだ。ずりゅ、と音を立てて往復する肉の感触に呼吸が浅くなる。
 嫌なのに、嫌なのに、嫌でも思い出しては呼吸が浅くなる。
 
「っ、ん、っぅ、ふ……っ」
「腰、揺れてる。……っ、は、なんでここ、こんなにヒクついてんの?」
「ひ、っぅ、んん……っ!」

 伸びてきた手に肛門を広げられ、そのまま入ってくる指に中をぐに、と押し上げられた瞬間腰がぶるりと震えた。
 そんなことない、と言いたいのに、そのまま執拗に中を刺激されてしまえば言葉を発することもできなかった。

「っふー……っ、ぅ、んん……っ! ぅ、う……っ!」
「この間変なもの突っ込まれたせいで癖付いてんじゃないか? ……なあ」
「っ、ち、が……ぁ……っ?!」
「ふーん……っ、そ? 本当に?」

 疑うような言葉とともに、長く骨張った燕斗の指に睾丸の奥を刺激される。柔らかく押し上げられればじんわりと熱が広がり、意地とは関係なく下半身が大きく震えた。
 
「まっ、ぁ、や、やっ、えんと、ぉ゛……っ?!」
「……ほら、また締まった。ここ、ぐりぐりされるの気持ちいいだろ?」
「っ……ふ……っ、ぅ゛……~~ッ!」

 浮き上がる腰を捕まえられたまま、前立腺をコリコリマッサージされるだけで寒さも関係なくなるほど全身の感覚器官が馬鹿になっていくみたいだった。
 情けなく頭出して勃起したチンポの先っぽからは先走りが垂れていく。それを指に絡めた燕斗は更に俺のケツの穴の中に塗り込むのだ。最悪の循環だ。

「っひ、ッ、ぅ゛……ッ! ふ、ぅ゛、ぐ……ッ!」
「美甘、声、抑えないと。美甘の汚い喘ぎ声、町中に響いちゃうよ。それでもいいの?」
「っ、ん゛ッ、う゛」

 いいわけないのに、燕斗は責める手を止めるどころか更に責めてくる始末だ。止めたくても止めることも出来ない、必死に股を閉じて堪えようとするも足の間に差し込まれた燕斗の靴先に強引に足を開かされる。

「っ、ぃ゛、ぐ」
「イっていいよ、美甘。イッて。イけ、ほら、さっさとイけよ。美甘」
「っ、ぁ゛ッ、ぅ゛ッ、ぎゅ……ッ!!」

 強制的に解され、嫌というほど過敏になっていたそこを転がすように執拗に愛撫さてる。それに耐えきれるほど俺の心身は強靭ではなかった。
 目の前の薄汚れたコンクリートの壁に向かって、限界まで勃起していたそこからは勢いよく精液が噴き出す。声を上げることも、呼吸をすることもできなかった。
 街を汚してしまったという罪悪感を塗り替えるほどの強い射精感には同等の余韻もあった。ぶるりと震える下半身からは力が抜け、そのまま座り込みそうになったところを燕斗に背後から抱留められる。
 それと同時に、露出したままの下半身に押し付けられる燕斗の性器の熱に頭が、脳が煮え立つように震えた。

「……っ、は……ッんん……っ!」

 離れろ、燕斗。そう振り返って逃げようとしたが、燕斗は俺を解放してくれなかった。顎を掴まれ、そのまま唇を重ねられる。貪るように這わされる唇から逃れることはできなかった。

「っ、ふー……っ、ぅ、んん……ッ!」

 押し付けられた燕斗の性器が俺の尻の間で更に大きくなっていくのが分かる。
 ドクドクと脈打つその頭が柔らかく拡げられた肛門に宛行われた。また尻に挟むつもりなのか、と体を固くした矢先、そのままつぷりと中へと入ってくる亀頭に目を見開いた。

「ぅ゛……ッ!」

 燕斗、と目の前の男を見上げ、俺はそのまま凍り付く。一目見て、燕斗が正気ではないと分かってしまった。
 逃げなければ、と本能的に察知した瞬間だった。

「っ、んうッ、ぅ、ん゛む……――ッ!」

 ず、と腹の中に沈んでくる熱の塊に背筋が震えた。
 指なんか比にならない太さと質量、そして焼けるような熱さに全身の血液が熱くなっていく。

「か、ッ、ふ、ぅ゛……ッ!」
「は……っ、美甘……ッ」
「っは、ぁ……っ! ゃ、だ、燕斗……っ、だ、駄目……ッ!」

 駄目だ。だって、お前がしないってずっと言ったんだろ。そう、必死に燕斗の腕を掴んだとき。燕斗の目の色が変わるのだ。
 ハッとした燕斗はそれを誤魔化すように俺にキスをし、そして、頭を埋め込みかけたそれが引き抜かれるのだ。

「……っ、ぇ」
「………………」
「っ、ど、ぉ゛……ッ、んう……ッ!」

 濡れ、口を開いたままの肛門から燕斗のものが離れたと思った矢先、そのまま尻の上に這わされる性器に息を飲む。

「……っ、本当、嫌になるな」

 苛ついたように吐き出されるその燕斗の声にビクリと緊張するのもつかの間、「そのままここで扱かせて」と囁かれ、背筋が震えた。
 ――まさか、本当にやめてくれるなんて思わなかった。
 安堵するとともに、自分の意思とは関係なく物足りなさを覚えてしまい一人手に疼く肛門の感覚が嫌だった。
 そして、それを燕斗に気付かれたのではないかと思うと、余計。

「わ、かった……」

 それならまだいい、と俺はそのまま燕斗に体を好き勝手使わせることを選んだ。
 結局そのまま燕斗を射精させ、その場は乗り切ることができた。
 けれど、燕斗と慈光家に帰る間もずっと体の火照りと挿入しかけた性器の感覚が残って仕方なかった。
 取り敢えず早く一人になりたかった。一人で抜いて、この下腹部に溜まった熱を吐き出したかったのだ。




 ――慈光家・燕斗の部屋。

「ま、待て、待って、燕斗……っ、ん、む……ッ!」

 慈光家に帰宅するなり、リビングのおばさんに声をかけもせずそのまま階段登って燕斗の部屋まで引っ張りこまれたと思いきや、これだ。ずっと無言だと思えば暖房を起動させるなりいきなり振り返った燕斗にキスをされ、あっという間にベッドまで連れて行かれる。
 まさかまだやるつもりなのか、と燕斗を押し退けようとしたが、思うように手に力が入らない。

「っ、ん、んん……っ、む、……っ、ふ……ッ」

 無言でしつこくキスされるほど恐ろしいことがあるだろうか。舌を吸われ、肩を撫でられ、喉の奥まで侵入してくる燕斗の舌に上顎を擽られればあっという間に先程までの熱がこみ上げてくるのだ。
 燕斗から着せられた上着を脱がされ、シャツの上から胸を撫でられる。心音を確かめるように柔らかく平らなそこを撫でられ、いたずらに寒さで尖り始めていた乳首を抓られれば、全身がびくんと震えた。

「っ、ん、……っ、んん……ッ!」
「……ここならお前も人目を気にせずに済むだろ、美甘」
「は、……っ、え、えんと……ッ」
「……外、やっぱり寒かったか? 冷たくなってるな」

 シャツのボタンを外され、そのままシャツの下に着ていたインナーの上から乳首を指先で捏ねられ、ぶるりと体が震えた。
 燕斗の舌や唇が先程よりも熱く感じるのはそのせいもあるだろう。唇を閉じるのを忘れ、開きっぱなしになっていた唇の端から垂れる唾液を燕斗は舐めとる。

「悪かった、美甘。お前に怖い思いをさせて。……俺も、やりすぎた」

 そして、眉根を下げるのだ。珍しく感情を顕にさせる燕斗に思わず身を捩り、燕斗を見上げた。

「ぇ、燕斗……」
「……美甘、震えてる?」
「っ、震えて、ない……っ」

 咄嗟に否定したせいか、声が裏返ってしまった。嘘だ。寒さと燕斗になにされるのかという恐怖で先程から指先の感覚はなくなりかけていた。
 そんな俺のバレバレの嘘に「相変わらず嘘が下手だね」と目を細めた燕斗は、そのまま俺の胸元に顔を寄せるのだ。インナー越し、何を考えたのかつんと尖った乳首にしゃぶりついてくる燕斗にぎょっとする。

「っ、ゃ、え、燕斗……っ」
「……可哀想に。こんなに縮こまってる」
「ん、ぅ……ッ!」

「俺のせいか」とぽつりと呟き、燕斗は俺の下半身に手を伸ばした。凝る乳首を舌先で押し潰し、そのまま乳輪に埋め込むように穿られればそれだけでぶるぶると体が震えるのだ。先程とはまた別の理由で。

「っ、は、ぁ……っ、や、そこ……っ」
「美甘、怖がらないで」
「え、燕斗……っ」
「……気持ちよくするから、俺のことを拒まないでくれ」

 美甘、と胸元でぼそぼそと繰り返す度に濡れそぼった乳首に燕斗の熱い吐息が吹きかかる。
 別にそんなことしろなんて一言も言っていないのに、中途半端に弄られたせいで帰るときもずっと勃ちっぱなしになってた性器を撫でられてしまえば、どんな言い訳もすることもできなかった。

「……っ、ふ……っ、ぅ……ッ」

 胸と性器を同時にねっとりと愛撫されれば、俺の我慢も関係なく腰が勝手にカクカクと動き出す。覆いかぶさってくる燕斗に手を掴まれたまま、緩めたベルトの下、下着をゆっくりと脱がす燕斗に息を飲んだ。
 先走り諸々で汚れ切っていた下着はぬちゃ、と嫌な音を立てながらずらされ、そして下から顔を出す性器は既に限界が近かった。己の体液で濡れたそこを見詰めた燕は安堵したように息を吐く。
 そして、擽るように裏筋をつうっと撫でた。それだけで内腿がびくりと痙攣する。

「美甘、また出したいのか?」
「っ、ちが、……っ! んぅ……っ!」
「じゃあ、出さなくてもいいのか?」
「はっ、ぅ゛……ッ!」

 そのままぎゅうっと性器の根本を親指と人差し指でつくった輪っかで握り締められ、堪らずぴんと背筋が伸びた。それを見て、燕斗は「ああ」と性器を握る指の力を緩めるのだ。

「……駄目だな、今度はちゃんと優しくするつもりだったのに」
「え、んと……?」

 先程から妙に優しいと思えば、どういうつもりなのか。燕斗の真意が分からないからこそ余計戸惑っていると、性器に伸ばされていた手がそのままゆるゆると性器を扱き始めるのだ。

「っ……っぁ、あ……ッ、え、燕斗……っ」
「痛いことはしないから、体の力を抜いてくれ。……美甘、ほら、こうやって亀頭穿られるの好きだろ?」
「っ、ぁ、っあ、ゃ、……っ、だ、だめ、それ……っ! ゆ、指……っ、こちょこちょするの……ッ!」
「嘘、どんどん先走りが溢れてくる。ほら、俺の手までぐちゃぐちゃだ」

 そう、目の前で指を広げる燕斗に俺は恥ずかしくて顔を逸した。いつもだったら「顔を逸らすな」だとか「逃げるな」だとか言って更に追い打ちかけてくるであろう燕斗だったが、小さく笑うだけでそのまま俺の言葉を無視して亀頭を責めるのだ。
 尿道口をこちょこちょと擽られながら亀頭全体を柔らかく揉まれる。亀頭責めに気を取られていると、空いた手が肛門に迫るのを感じた。
 まただ、と身構えたが、無意味だった。そのままつぷりと中へと入ってきた指に、そのまま肛門穿られながら前立腺を刺激される。その間もずっと性器の責めは止まらなかった。

「はー……っ、ぁっ、んっ、ぅ……ッ、ふ、……っ、ぅ゛……ッ」
「……っ、美甘」
「っ、ぅ、んん……っ」

 ベッドの上、開かされた股の間、押し付けられる燕斗の性器を嫌でも意識してしまった。腿へと擦りつけられながらも、挿入を避けるように何度も体へと擦りつけられる性器。そればかりに意識がいっては、なにも考えることはできなかった。
 犬のように腰を振り、一方的な愛撫に追い詰められて呆気なく何度目かの絶頂を迎えるが、勃起した性器からは少量の精液が噴き出すばかりだった。そしてボタボタと自分の腹の上に落ちるそれを食い入るように見詰めたまま、燕斗は更に性器を大きくする。

「は……っ、ぁ……ッ、ぇ、燕斗……も、むり、じ、ぬ゛……っ」

 既に俺の体力ゲージはミリだった。これ以上快感を与えられてしまえば、どこかしらの血管がぶっちぎれてしまうのではないか。
 そう怖くなり、嫌だと頭を横に振れば、燕斗はそのまま俺の体を抱き締めた。

「そうか。外でもやってたし、疲れたよな」
「……っ、ん、ぅ」
「なら少し休憩しようか」

 てっきり解放されると思いきや、そのまま隣に寝転がる燕斗にぎょっとした。そして、服を正す暇もなく優しく背中を撫でられる。
 
 こんな風に今更優しくされたところで、こいつの本性も知ってるのに。ぽむぽむと一定の感覚で背中を撫でられている内に昔のことを思い出して、つられて鼓動がなだらかになっていく。
 つい気が弛み、微睡んでいく意識の中。俺はそのまま燕斗の腕の中で眠りに落ちた。
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