12 / 18
未知領域【鹿波視点】
01
しおりを挟む
俺には理解できないものがある。
一つはアニメや漫画やゲームのキャラに逆上せるやつ。
もう一つは男同士の恋愛に性的興奮を覚えるやつだ。しかも、それが男だというと更にわけがわからない。
友人の山下の部屋に遊びに来ていた俺は一人、部屋の本棚の前に座り込んでいた。
今山下はトイレに行っていて、この部屋には誰もいない。そう、誰も。
だからだろう。こんなに思い切った行動が取れるのは。
「…………っ」
少年漫画から青年漫画、中には少女漫画まで並べられたあまりにもバラエティーに富んだ本棚の再奥、隠すように背表紙を向けて並べられたそれを手に取った俺はごくりと固唾を飲んだ。
表紙にはちんぽ生やした女とどっからどう見ても男のガキが絡み合うグロテスクな絵(そのくせ絵は少女漫画みてえにキラキラしてる)。
それともう一冊、ゴツいゴリラみてえなマッチョが数人絡み合ってなんかもう表紙から熱気がむんむんくるようなやばいやつ。
二冊とも両極端なものだが、共通してるのがあった。
「お……男のケツに突っ込んでる……」
なんでだ、突っ込むなら女のケツ突っ込めよ。
わけわかんねえ、ぜってー頭湧いてると思いながらも読み進む手は止まらない。
胸焼け、吐き気、嫌悪感、諸々こみ上げてくるがそれらを覆すほどの熱に心臓が加速し、喉が乾く。
この本棚の持ち主である『あいつ』の弱みを探すため、見つけた本を適当に流し読んで馬鹿にしてやるつもりが、読み進めれば読み進めるほど気分が悪くなる。
汗が滝のように流れ、漫画の中の絡み合う男どもが自分で変換され、一瞬、心臓が止まりそうになった。
絶対、あいつのせいだ。あいつが、あいつのせいで、あいつが、俺を、俺を。
思い出したくもない記憶の数々が脳裏を巡る。
咄嗟に頭を振り、思考を振り払おうとするが止まらない。あまりの気分の悪さに我慢できずに、投げ捨てるように本を閉じれば、俺は深く息を吐いた。
「あぁ~……っくそ……ッ」
こんなんじゃなかったはずなのに。
掻きむしるように髪を掻き乱してはみるが、髪型が崩れるだけで体の火照りが冷めることはない。
なにがびーえるだ、ホモだ、ふざけんな、人にまで余計なもん付属しやがって、ホモ野郎。
あいつのアホ面を思い出すだけでぐちゃぐちゃに殴ってやりたくやるけど、それ以上に逆上せてる自分をぶん殴ってやりたい。
「全部、全部、あの野郎のせいだ!!」
むしゃくしゃして、足元に落ちたホモエロ本を蹴り上げる。
無人の部屋に自分の声が虚しく響く。
ぼとりと落ちる本。丁度開いたページに『僕、お姉さんのせいでちんぽがないとダメなえっちな体になっちゃったんですぅ』と目を潤ませるガキの絵が視界に入り、慌ててそれを拾い上げた俺はそのまま閉じた。
人一人、しかも自分よりも劣ったヲタク野郎に狂わされるだと?
……冗談じゃねえ。
舌打ちをし、取り敢えず山下が戻ってくる前に元に戻しとこうと再び本棚の前に座り込んだときだった。
「ちげぇよ、それは右手から二列目」
「あぁ……わり、ってうわあああ!」
聞こえてきた聞きたくもない無気力な声に飛び上がった俺は慌てて振り返る。
そこにはいつの間にか山下と同室のあいつが戻ってきて、青褪める俺に「うおっ、ビックリした」と対してビックリした素振りもなく呟く。
「なっ、どっ、い……ッ」
「扉開けっ放しになってたから。あと、帰ってきたのはさっき。お前、随分熱心に漫画読んでたから気付かなかったんだろ」
「声くらいかけろよ!糞!」
「いや、迷ったんだけどさ、せっかく鹿波君が勉強してたみたいだったから声を掛けないほうがいいかなって」
そこまで言って、高倉はにたぁっと口元を歪めた。
視線の先には、マッチョの男どもが絡み合うあの胸焼け漫画。
「それにしても、いやぁーお前がそっちに興味あるなんてなぁ、言ってくれれば好きなだけ読ませてやるのに」
楽しそうに笑う高倉に、全身から血の気が引いていくのを感じた。
おしまい
一つはアニメや漫画やゲームのキャラに逆上せるやつ。
もう一つは男同士の恋愛に性的興奮を覚えるやつだ。しかも、それが男だというと更にわけがわからない。
友人の山下の部屋に遊びに来ていた俺は一人、部屋の本棚の前に座り込んでいた。
今山下はトイレに行っていて、この部屋には誰もいない。そう、誰も。
だからだろう。こんなに思い切った行動が取れるのは。
「…………っ」
少年漫画から青年漫画、中には少女漫画まで並べられたあまりにもバラエティーに富んだ本棚の再奥、隠すように背表紙を向けて並べられたそれを手に取った俺はごくりと固唾を飲んだ。
表紙にはちんぽ生やした女とどっからどう見ても男のガキが絡み合うグロテスクな絵(そのくせ絵は少女漫画みてえにキラキラしてる)。
それともう一冊、ゴツいゴリラみてえなマッチョが数人絡み合ってなんかもう表紙から熱気がむんむんくるようなやばいやつ。
二冊とも両極端なものだが、共通してるのがあった。
「お……男のケツに突っ込んでる……」
なんでだ、突っ込むなら女のケツ突っ込めよ。
わけわかんねえ、ぜってー頭湧いてると思いながらも読み進む手は止まらない。
胸焼け、吐き気、嫌悪感、諸々こみ上げてくるがそれらを覆すほどの熱に心臓が加速し、喉が乾く。
この本棚の持ち主である『あいつ』の弱みを探すため、見つけた本を適当に流し読んで馬鹿にしてやるつもりが、読み進めれば読み進めるほど気分が悪くなる。
汗が滝のように流れ、漫画の中の絡み合う男どもが自分で変換され、一瞬、心臓が止まりそうになった。
絶対、あいつのせいだ。あいつが、あいつのせいで、あいつが、俺を、俺を。
思い出したくもない記憶の数々が脳裏を巡る。
咄嗟に頭を振り、思考を振り払おうとするが止まらない。あまりの気分の悪さに我慢できずに、投げ捨てるように本を閉じれば、俺は深く息を吐いた。
「あぁ~……っくそ……ッ」
こんなんじゃなかったはずなのに。
掻きむしるように髪を掻き乱してはみるが、髪型が崩れるだけで体の火照りが冷めることはない。
なにがびーえるだ、ホモだ、ふざけんな、人にまで余計なもん付属しやがって、ホモ野郎。
あいつのアホ面を思い出すだけでぐちゃぐちゃに殴ってやりたくやるけど、それ以上に逆上せてる自分をぶん殴ってやりたい。
「全部、全部、あの野郎のせいだ!!」
むしゃくしゃして、足元に落ちたホモエロ本を蹴り上げる。
無人の部屋に自分の声が虚しく響く。
ぼとりと落ちる本。丁度開いたページに『僕、お姉さんのせいでちんぽがないとダメなえっちな体になっちゃったんですぅ』と目を潤ませるガキの絵が視界に入り、慌ててそれを拾い上げた俺はそのまま閉じた。
人一人、しかも自分よりも劣ったヲタク野郎に狂わされるだと?
……冗談じゃねえ。
舌打ちをし、取り敢えず山下が戻ってくる前に元に戻しとこうと再び本棚の前に座り込んだときだった。
「ちげぇよ、それは右手から二列目」
「あぁ……わり、ってうわあああ!」
聞こえてきた聞きたくもない無気力な声に飛び上がった俺は慌てて振り返る。
そこにはいつの間にか山下と同室のあいつが戻ってきて、青褪める俺に「うおっ、ビックリした」と対してビックリした素振りもなく呟く。
「なっ、どっ、い……ッ」
「扉開けっ放しになってたから。あと、帰ってきたのはさっき。お前、随分熱心に漫画読んでたから気付かなかったんだろ」
「声くらいかけろよ!糞!」
「いや、迷ったんだけどさ、せっかく鹿波君が勉強してたみたいだったから声を掛けないほうがいいかなって」
そこまで言って、高倉はにたぁっと口元を歪めた。
視線の先には、マッチョの男どもが絡み合うあの胸焼け漫画。
「それにしても、いやぁーお前がそっちに興味あるなんてなぁ、言ってくれれば好きなだけ読ませてやるのに」
楽しそうに笑う高倉に、全身から血の気が引いていくのを感じた。
おしまい
10
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる