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未知領域【鹿波視点】
01
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俺には理解できないものがある。
一つはアニメや漫画やゲームのキャラに逆上せるやつ。
もう一つは男同士の恋愛に性的興奮を覚えるやつだ。しかも、それが男だというと更にわけがわからない。
友人の山下の部屋に遊びに来ていた俺は一人、部屋の本棚の前に座り込んでいた。
今山下はトイレに行っていて、この部屋には誰もいない。そう、誰も。
だからだろう。こんなに思い切った行動が取れるのは。
「…………っ」
少年漫画から青年漫画、中には少女漫画まで並べられたあまりにもバラエティーに富んだ本棚の再奥、隠すように背表紙を向けて並べられたそれを手に取った俺はごくりと固唾を飲んだ。
表紙にはちんぽ生やした女とどっからどう見ても男のガキが絡み合うグロテスクな絵(そのくせ絵は少女漫画みてえにキラキラしてる)。
それともう一冊、ゴツいゴリラみてえなマッチョが数人絡み合ってなんかもう表紙から熱気がむんむんくるようなやばいやつ。
二冊とも両極端なものだが、共通してるのがあった。
「お……男のケツに突っ込んでる……」
なんでだ、突っ込むなら女のケツ突っ込めよ。
わけわかんねえ、ぜってー頭湧いてると思いながらも読み進む手は止まらない。
胸焼け、吐き気、嫌悪感、諸々こみ上げてくるがそれらを覆すほどの熱に心臓が加速し、喉が乾く。
この本棚の持ち主である『あいつ』の弱みを探すため、見つけた本を適当に流し読んで馬鹿にしてやるつもりが、読み進めれば読み進めるほど気分が悪くなる。
汗が滝のように流れ、漫画の中の絡み合う男どもが自分で変換され、一瞬、心臓が止まりそうになった。
絶対、あいつのせいだ。あいつが、あいつのせいで、あいつが、俺を、俺を。
思い出したくもない記憶の数々が脳裏を巡る。
咄嗟に頭を振り、思考を振り払おうとするが止まらない。あまりの気分の悪さに我慢できずに、投げ捨てるように本を閉じれば、俺は深く息を吐いた。
「あぁ~……っくそ……ッ」
こんなんじゃなかったはずなのに。
掻きむしるように髪を掻き乱してはみるが、髪型が崩れるだけで体の火照りが冷めることはない。
なにがびーえるだ、ホモだ、ふざけんな、人にまで余計なもん付属しやがって、ホモ野郎。
あいつのアホ面を思い出すだけでぐちゃぐちゃに殴ってやりたくやるけど、それ以上に逆上せてる自分をぶん殴ってやりたい。
「全部、全部、あの野郎のせいだ!!」
むしゃくしゃして、足元に落ちたホモエロ本を蹴り上げる。
無人の部屋に自分の声が虚しく響く。
ぼとりと落ちる本。丁度開いたページに『僕、お姉さんのせいでちんぽがないとダメなえっちな体になっちゃったんですぅ』と目を潤ませるガキの絵が視界に入り、慌ててそれを拾い上げた俺はそのまま閉じた。
人一人、しかも自分よりも劣ったヲタク野郎に狂わされるだと?
……冗談じゃねえ。
舌打ちをし、取り敢えず山下が戻ってくる前に元に戻しとこうと再び本棚の前に座り込んだときだった。
「ちげぇよ、それは右手から二列目」
「あぁ……わり、ってうわあああ!」
聞こえてきた聞きたくもない無気力な声に飛び上がった俺は慌てて振り返る。
そこにはいつの間にか山下と同室のあいつが戻ってきて、青褪める俺に「うおっ、ビックリした」と対してビックリした素振りもなく呟く。
「なっ、どっ、い……ッ」
「扉開けっ放しになってたから。あと、帰ってきたのはさっき。お前、随分熱心に漫画読んでたから気付かなかったんだろ」
「声くらいかけろよ!糞!」
「いや、迷ったんだけどさ、せっかく鹿波君が勉強してたみたいだったから声を掛けないほうがいいかなって」
そこまで言って、高倉はにたぁっと口元を歪めた。
視線の先には、マッチョの男どもが絡み合うあの胸焼け漫画。
「それにしても、いやぁーお前がそっちに興味あるなんてなぁ、言ってくれれば好きなだけ読ませてやるのに」
楽しそうに笑う高倉に、全身から血の気が引いていくのを感じた。
おしまい
一つはアニメや漫画やゲームのキャラに逆上せるやつ。
もう一つは男同士の恋愛に性的興奮を覚えるやつだ。しかも、それが男だというと更にわけがわからない。
友人の山下の部屋に遊びに来ていた俺は一人、部屋の本棚の前に座り込んでいた。
今山下はトイレに行っていて、この部屋には誰もいない。そう、誰も。
だからだろう。こんなに思い切った行動が取れるのは。
「…………っ」
少年漫画から青年漫画、中には少女漫画まで並べられたあまりにもバラエティーに富んだ本棚の再奥、隠すように背表紙を向けて並べられたそれを手に取った俺はごくりと固唾を飲んだ。
表紙にはちんぽ生やした女とどっからどう見ても男のガキが絡み合うグロテスクな絵(そのくせ絵は少女漫画みてえにキラキラしてる)。
それともう一冊、ゴツいゴリラみてえなマッチョが数人絡み合ってなんかもう表紙から熱気がむんむんくるようなやばいやつ。
二冊とも両極端なものだが、共通してるのがあった。
「お……男のケツに突っ込んでる……」
なんでだ、突っ込むなら女のケツ突っ込めよ。
わけわかんねえ、ぜってー頭湧いてると思いながらも読み進む手は止まらない。
胸焼け、吐き気、嫌悪感、諸々こみ上げてくるがそれらを覆すほどの熱に心臓が加速し、喉が乾く。
この本棚の持ち主である『あいつ』の弱みを探すため、見つけた本を適当に流し読んで馬鹿にしてやるつもりが、読み進めれば読み進めるほど気分が悪くなる。
汗が滝のように流れ、漫画の中の絡み合う男どもが自分で変換され、一瞬、心臓が止まりそうになった。
絶対、あいつのせいだ。あいつが、あいつのせいで、あいつが、俺を、俺を。
思い出したくもない記憶の数々が脳裏を巡る。
咄嗟に頭を振り、思考を振り払おうとするが止まらない。あまりの気分の悪さに我慢できずに、投げ捨てるように本を閉じれば、俺は深く息を吐いた。
「あぁ~……っくそ……ッ」
こんなんじゃなかったはずなのに。
掻きむしるように髪を掻き乱してはみるが、髪型が崩れるだけで体の火照りが冷めることはない。
なにがびーえるだ、ホモだ、ふざけんな、人にまで余計なもん付属しやがって、ホモ野郎。
あいつのアホ面を思い出すだけでぐちゃぐちゃに殴ってやりたくやるけど、それ以上に逆上せてる自分をぶん殴ってやりたい。
「全部、全部、あの野郎のせいだ!!」
むしゃくしゃして、足元に落ちたホモエロ本を蹴り上げる。
無人の部屋に自分の声が虚しく響く。
ぼとりと落ちる本。丁度開いたページに『僕、お姉さんのせいでちんぽがないとダメなえっちな体になっちゃったんですぅ』と目を潤ませるガキの絵が視界に入り、慌ててそれを拾い上げた俺はそのまま閉じた。
人一人、しかも自分よりも劣ったヲタク野郎に狂わされるだと?
……冗談じゃねえ。
舌打ちをし、取り敢えず山下が戻ってくる前に元に戻しとこうと再び本棚の前に座り込んだときだった。
「ちげぇよ、それは右手から二列目」
「あぁ……わり、ってうわあああ!」
聞こえてきた聞きたくもない無気力な声に飛び上がった俺は慌てて振り返る。
そこにはいつの間にか山下と同室のあいつが戻ってきて、青褪める俺に「うおっ、ビックリした」と対してビックリした素振りもなく呟く。
「なっ、どっ、い……ッ」
「扉開けっ放しになってたから。あと、帰ってきたのはさっき。お前、随分熱心に漫画読んでたから気付かなかったんだろ」
「声くらいかけろよ!糞!」
「いや、迷ったんだけどさ、せっかく鹿波君が勉強してたみたいだったから声を掛けないほうがいいかなって」
そこまで言って、高倉はにたぁっと口元を歪めた。
視線の先には、マッチョの男どもが絡み合うあの胸焼け漫画。
「それにしても、いやぁーお前がそっちに興味あるなんてなぁ、言ってくれれば好きなだけ読ませてやるのに」
楽しそうに笑う高倉に、全身から血の気が引いていくのを感じた。
おしまい
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