腐敗系男子

田原摩耶

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素晴らしき媚薬効果

01

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 始まりは、友人兼ルームメイトである山下のお節介だった。

「高座、これあげる」

 そう、山下は見るからに怪しい小瓶を差し出してくる。

「……なにこれ」
「媚薬だって」
「媚薬?」
「知り合いに何個か貰ったから高座にもお裾分け」
「どんな知り合いだよ」

 確かに山下の友人には様々なタイプがいると思ってはいたが、媚薬をプレゼントする知り合いはどうなんだ。思いながら、受け取ったその小瓶を傾けてみれば中身がゆっくりと瓶に合わせて傾いていく。とろみがあるようだ。

「あ、変なのは入ってなかったから大丈夫だよ」
「しかもお前使ったのかよ」
「いやー盛り上がった盛り上がった。一気にクリアしちゃったよ。エンディングまでに十発イッちゃって、そのまま寝落ちしそうになったからね」

 おまけにエロゲーでの自家発電に媚薬使用とはなんと贅沢な……。
 するのはいいがそのまま寝落ちした場合それを発見するの俺なんだからな。もっと慎重になってもらいたいものだ。
 とはいえ、媚薬を貰ったところで俺には無用の長物である。

「つか媚薬貰ったところで、使い道ねーし」
「ソロプレイも楽しいよ」
「ハマったらヤバそうだから自分で使いたくねえ」

「うわ高座それってわりとゲスじゃない?」とかほざく外野はさておき。

「でも高座媚薬モノ好きじゃん、少しは興味あるんじゃないの?」

 そうにやにやと厭な笑いを浮かべる山下。こいつなんで人の趣味知ってるんだ。と思案し、そして気付く。
 もしやこいつもしかしてベッドの下に隠しておいた媚薬特集アンソロジー勝手に見やがったな。

「いやーまさか高座がこんな涼しい顔してあんなえげつない趣味してるとは思わなかったよ。頑なに嫌がる相手を薬漬けで理性壊させてもうドロドロのぐっちゃぐちゃに犯しまくるなんて……和姦派の僕には理解できないな!ああ!いやらしい!」
「鼻血出てるぞ」
「おっと失礼……」

 なにが和姦派だ、凌辱系のエロゲばっかやってるくせに。この前通販していたゲームも凌辱輪姦ものだっただろうが。……と言いたいところだが、そんな底辺の争いをしたところで争いしか産まない。正直山下の言うとおりではある。本人の意志関係なく快楽へ落とすというシチュエーションはそれはもう大好きだ。普段、性に関して厳格な人間であればあるほどシコリティが高い。……勿論二次元限定の話だが。

「ついでに余ってるからもう一本あげるよ。自家発電用と資料用、これなら困らないでしょ」

 いや使い道に困るわ。
 が、まあ、貰えるものは貰っておくというのが俺の主義だ。
 ひとまず、これから学校があるのでまあ使い道は後々ゆっくりとで考えようということになり、制服のポケットに突っ込むことにした。


 例のごとく山下とともに食堂へと向かう。
 朝は戦争だ。腹を空かせた獣達を飯を奪い合う恒例行事を乗り越え、なんとか自分の分の朝飯をゲットした俺と山下は空いていた席に腰を落ち着けた。
 食堂で飯を食いながら、俺は頭の片隅で例の媚薬の使い道についてまだ考えていた。
 どっか美少年がいれば盛ってやろうかと思ったが、見渡すばかり男臭い連中しかいない。
 そういうやつらに媚薬盛ったところで筋トレで発散するのが目に見えていた。それもそれで面白そうだが無駄遣いこの上ないということで却下。

「山下、はよー」
「あ、おはよー」

 向かい側、座って朝食を食べていた山下に、通りすがる生徒が口々に挨拶をする。
 山下の顔の広さは本当謎だ。まあ確かに悪趣味極まりない性癖を隠せば普通にいいやつだ。あと外面がいい。
 例えば、わかりやすい例でいうと鹿波だ。あんな典型的な不良ですってタイプも山下の友達だったりするのだから分からない。
 思いながら、そのまま隣の空いたテーブルに固まって座る連中を一瞥する。
 ピアスに派手髪、大股開いて大きな声で離し始める連中は正しく鹿波タイプだ。
 あーこういうやつ、そうそうこういうやつだ。苦手なんだよな、と思いながら視線を逸らそうとしたとき、その中に見覚えのある顔を見つけた。
 赤茶髪に短い眉。目付きの悪いその眼は、確かに俺の方を向いていた。鹿波だ。
 噂をすればなんとやら。まさか朝から出会すとは。
 食べていたものが喉に詰まりそうになり、慌てて水を飲んだ。
 恨めしそうな顔をしてこちらをガンたれていた鹿波は、目が合うなりすぐに顔を逸らし、そして隣に座っていた友人らしき生徒と雑談を交わし始めた。

 鹿波とまともに顔を合わせたのは俺が入院時、やつが見舞いにやってきたとき以来だろう。
 とはいっても鹿波が俺を病院送りにした張本人で、見舞いというよりも教師に引き摺られて嫌々やってきただけだが。
 おのれ、ここであったが百年目!……と言うわけではないが、『鹿波てめえこの野郎』という気持ちでいっぱいになる。殴られたのも病院送りにされたもの、そこで更なる危害を加えられたのも山下曰く自業自得らしいがそんなの知ったこっちゃねえ。あいつは俺の敵だ。

「鹿波、おはよう」

 そんな俺の気持ちなんて他所に、山下は離れた位置に座る鹿波に声をかける。
 急に名前を呼ばれ、鹿波は少しだけ狼狽えた……ように見えた。
 かくいう山下も、先日俺と一緒に鹿波に病院送りされたやつの一人なのだから。もしかしたら鹿波の中で元友達に降格されてる可能性だってあるわけだ。やーい無視されろ無視されろもしくは蹴りを入れられろ、と、思ったが。

「……はよ」

 そう小さく呟けば、鹿波はすぐに山下から顔を逸らす。
 ……なんだそのちょっと嬉し恥ずかしの初夜を迎えた翌日、顔を合わせるのはちょっと恥ずかしいみたいなそんな挨拶は。俺が挨拶したら問答無用で殴りかかってくるくせにこいつなんだ。

「やったー、仲直りしちゃった。高座悪いね」
「どこがだよ」
「わかってないなぁ高座、あれは鹿波なりの仲直りだよ」

 鹿波を売ったやつが友情を語るなとつい熱くなってしまいそうになるが、ここで討論をしても仕方ない。
 もしかしたら、人前だから仕方なくというあれという可能性もある。そうに違いない。そうだと言ってくれ。

「……よう、鹿波」

 というわけで山下に倣って俺も爽やかな笑みで鹿波に挨拶をすることにした。

「話し掛けんじゃねぇ、糞が!」

 やった!鹿波様に糞って言われた!
 と、喜ぶほどマゾヒストではない俺は、もちろんあからさまな山下との差別に不満を覚えないはずがない。ぷいと顔を逸らす鹿波。糞もとい俺は向かい側で噴き出す山下の脛を蹴り上げた。
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