馬鹿ばっか

田原摩耶

文字の大きさ
上 下
77 / 96
馬鹿も食わないラブロマンス

15※

しおりを挟む
 頭の奥が熱い。脳が揺れる。立ち上がろうとしても汚泥に足を掬われ、沈んでいくような意識の中、遠くからなにか声が聞こえた。
 良く聞こうと耳を澄ませるが、まるで分厚い膜に覆われたかのようにその会話の内容は聞き取れない。
 そこで俺は自分が気絶していたことを思い出す。瞼越し、強烈な光が射し込む。そして、どこかから聞こえてくるモーター音。

「っ、ん、ぅ……」

 なにかが、おかしい。
 意識が覚醒するとともに腹の奥、何かが震動する感覚は鮮明になっていく。
 無理矢理目を開いた矢先、差すような光に視界が眩んだ。そして。

「っは、……ぁ゛……?」

 目を開いてまず目に入ったのは、満面の笑顔を携えた腹立つほどの色男の顔だった。

「おやおや、ようやく眠り姫のお目覚めですか。ぐっすりと眠れたようで何よりです、尾張さん」

 そう、照明を背に俺を見下ろしていたやつは、言いながら俺の太腿を撫でる。そこで、俺は自分の下半身がとんでもないことになってることに気付いたのだ。
 マットの上、転がされた体。なにもかも神楽に縛られたときと同じ状況だった。ただ違うのは、ケツの穴にずっぽりと刺さった異物だった。
 目が痛くなるほどのドギツイピンクのそれは、俺が先程から感じていた違和感の正体なのだろう。腹の深くまで収まり、全身を小刻みに震わせては中を掻き回すバイブの存在に気付いた瞬間、眠っていた間に自分の体に何かをされたということだけはわかった。

「の、ぎ……っ、ぉ、お前……っんぅ゛」
「ああ、まだイカないで下さいね。せっかくのイベントなのです。貴方には頑張っていただけなければなりませんしね」
「なに、いって……ぇ゛……っ」
「ふふ、それにしても……随分と会計と仲良くしていたようではありませんか。せっかく貴方も楽しめるように私が直々にお相手するつもりでしたのに、全てがパァですよ」

 言いながら、バイブのハンドル部分を掴んだ能義はそのまま前立腺を押し上げるようにバイブを動かす。
 瞬間、「ぅくっ」と喉奥から声が漏れた。本気でなにかが出るのではないかと思ったが、おかしい。イキそうなのにイケなかった違和感に視線を下ろせば、なんということだろうか。眠ってる間に痛々しいくらいまで勃起してた亀頭にはプラグが刺さっていた。シリコン製のそれに射精を阻害されていたのだ。

「っ、ぅ、く、ひ……っ! な、なに、なにやってんだ、お前……っ! 勝手にぃ……っ!」
「相変わらず美しい肉体ですね。……ふふ、政岡には抱かれたんですか? あのときに比べると、幾分かここはすんなり玩具も受け入れれるようになっていたようですが」

 人の話を無視し、能義は笑いながらバイブで人の体内を弄ぶ。ゆるく動かされるだけでも表面についた突起物の凹凸に刺激され、体内が焼けるように熱くなった。
 まだ神楽に飲まされた妙な薬の効果があるのか、一往復だけで恐ろしいほど快感を得てしまい、下半身に熱が集まれば集まるほど行き場を失った熱がただただ苦しかった。
 朦朧とした頭の中、辛うじてここがあの倉庫だということは認識した。

「……っ、ぬ、け……っ、こ、こんな真似して……」
「咥えて離さないのは貴方の方ですよ、尾張さん」
「っ、ひ、くぅ……っ」
「せっかくのパーティーです、楽しみましょう。――お互いに。……ねえ、岩片さん」

 ――今、なんて言った。この男
 俺の頭の方、その奥に目を向けて微笑む能義にただ全身から熱が抜け落ちる。そして、俺はその視線の先につられて目を向け、固まった。

「……そうだな」

 あいつは、確かにそこにいた。ただ壁に背を向け、静かに佇んでは分厚いレンズ越しにこちらをじっと見ていた。
 ――最悪だ。

「……っ、まっ、ぁ゛……ッ!」
「おっと……ふふ、急に活きがよくなってきましたね。岩片さんがいると分かってそんなに嬉しいのですか?」
「っ、ぅ、く……ッ! ち、が……ぁ……っ」
「おっと、そうでしょうか? ……ふふ、まあいいでしょう。どちらにせよ、“これ”は貴方が招いた結果なのですから。貴方が中々しぶといお陰でこんな強硬手段に出なければならなくなったんですよ」

「……ラブハメイチャイチャセックスを諦め、こんな真似に」そう、表面に浮かんだ凹凸部分で内臓を掻き回された瞬間、頭の中が真っ白になる。

「――ッ、ふ、ぅ゛……っ!」
「おっと、……ふふ、随分と今夜の貴方は活きがいいようですね。やはり、彼に見られながらというのは興奮しますか?」

 嫌だ。見るな。やめろ。聞くな。
 必死に顔を隠そうとするが、後ろ手に拘束された腕はびくともしない。
 それどころか、目を逸らそうともせずにこちらを見下ろしてくる岩片の視線が絡みついてくる。むき出しになった下半身に、能義に押さえつけられた体に、恐らく酷いことになっているであろう俺の顔面に。

「っふ、ぅ゛、ぁ……っ、や、め゛ッ! ……っ、ぅ゛う……ッ!」
「おやおや、もう限界ですか。……仕方ない方ですねえ。……一回だけですからね」
「っ、く、ぅうう……っ!」

 能義に尿道プラグを引き抜かれた瞬間、どぷ、と勢いのない精液が垂れ、腹を下半身を汚す。睾丸の奥が熱い。もう出るものもないと思っていたのに、全身の汗と体液で干からびてしまいそうだった。
 休む隙もなく持続的に与えられ続ける快感にただ神経がすり減っていく。

「……っは、ふ……」

 見るな、見るんじゃねえ。
 焼けるようにヒリつく脳味噌の中、俺はただ目を瞑り現実から目を背けることしかできなかった。

「ん、……っ、ふふ、岩片さん、貴方は見てるだけでいいのですか? これ、貴方の愛犬ですよね?」
「――元、な」

 いっそのこと、まだ完全に理性を失えた方がよかっただろう。
 岩片の吐いた言葉は下手な刃物よりも鋭く、深く、俺の胸に突き刺さった。
 そんな俺の反応を見て、能義はくつくつと肩を揺らして笑う。

「ああ、可哀想な尾張さん。……随分と冷たいではありませんか。それとも、やはり初物に拘りがあるのですか? 貴方も神楽も、随分な偏執狂ですね」
「……っ、ふ……」
「勘違いするなよ、有人。俺は別に処女厨じゃねえよ。……今のこいつに何したって意味ないだろ、って話だよ」
「ああ、そういう……加工物よりも天然物がいいということですか」
「っ、ふー……っ、ぅ゛、ん゛う……っ!」

 突然ハンドルを握ったまま能義はぐぽ、と音を立ててバイブを引き抜いた。栓を失い、ぽっかりと開いた穴に指をねじ込み、そのまま能義は腫れ上がった内壁を内側から撫でる。

「……っふふ、処女も悪くはありませんが、やはり私はグズグズになって男に媚びることを覚え始めた穴が一番そそられますがね」
「っ、ふ、ぅ゛……っ!」
「おやおや、随分と物欲しそうに吸い付いてくるではありませんか、尾張さんのアナル。柔らかくてとろとろふわふわ……ああ、堪りませんね」
「ッ、ぅ、んん……っ! ふー……っ!」

 言いながら、自分の下半身に手を伸ばし、ベルトを掴む能義に青ざめる。そのままベルトを外そうとする能義に、岩片は「おい」と声をかけた。

「有人、お前自分で決めたルールも守れねえのか?」

 岩片の言葉に、「おっと、そうでしたね」と思い出したように能義はその右手を止める。
 それから、手にしていたバイブを再び俺のケツの穴に押し当てた。

「っぁ、やめ、ぅ、んん……っ!」
「いけませんいけません。尾張さんがあまりにも愛らしいため、つい失念しておりました」
「っ、く、ひ……!」

 ずぶ、と容赦なく中へと再び入ってくる異物に全身がぶるりと震えた。一人でに外れぬよう、ずっぽりと根本までねじ込んだ能義はそのまま愛おしそうに捲れ上がったケツの縁をなぞる。

「お楽しみはきちんと取っておかなければ……助かりましたよ、岩片さん」
「……っ、……」

 舐めるような能義の視線がただ不愉快だった。俺の体から手を離し、パンパンに勃起させたまま立ち上がる能義。そのまま倉庫を後にしようとする能義に、「どこに行くんだ」と岩片は声をかけた。

「おっと、わざわざ聞かずとも同じ男ならば察していただきたいところですが……少々、お花でも詰んできますよ」

 では、と振り返り微笑んだ能義に「ごゆっくり」と岩片は他人事のように呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟

あおい夜
BL
注意! エロです! 男同士のエロです! 主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。 容赦なく、エロです。 何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。 良かったら読んで下さい。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました。 おまけのお話を更新したりします。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

総受け体質

田原摩耶
BL
二人の兄に毎晩犯されて可愛がられてきた一人称僕・敬語な少年が初めて兄離れをして全寮制学園に通うことになるけどモブおじさんにセクハラされたり色々されながらも友達をつくろうと肉体的に頑張るお話。 ※近親相姦、セクハラ、世間知らず、挿入なしで全編エロ、乳首責め多め。なんでも許せる方向け。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...