馬鹿ばっか

田原摩耶

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一歩下がって二歩曲がる

10※

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「っ、やめろ、嘘つきやがって、何が変なところは触らないだ、やっぱりただの下心じゃねーかよ……ッ!!」
「おや、今更ではありませんか。私が貴方のことをどのように見ているのか知ってて貴方はこの私を選んだんですよ、つまり、これは合意の上です」
「……何言って……」
「無防備に体を触らせるなんて私に犯して下さいって言ってるも同然。……それとも、私が本当に何もしないと思ってたならそれこそ私は貴方の危機管理能力が心配になりますが」

 顎の下を擽られ、頬を舐められる。ふざけるな、と目の前のこの男を突き飛ばそうとするが、生白い腕の力は強い。テント張った能義の下腹部、俺の手を握りしめたままジッパーを下ろした能義は中から勃起した性器を取り出す。触れた指先に先走りの嫌なぬめりが触れ、慌てて俺は体をひこうとするがやつはそれを無視して俺の掌ごと包み込むように自分のそれを握り締めた。
 瞬間、掌に直に触れる熱に、粘着質なその感触に、青褪める。

「っ、やめろ、おいッ」
「やめろと言われてここでやめる男がいますか」

 視覚的暴力に等しい。顔に似合わず恐ろしいほど隆々と反り返ったそれに目を逸らせば、ソファーに乗り上げた能義は俺の後頭部を掴む。驚いて顔を上げればすぐ目の前に迫るそれに、血の気が引く。他人のものをここまでまじまじと見たことはないが、見て喜べるものではないが寧ろその逆だ。

「そう邪険にせず見てください、貴方の可愛さのあまりにこうなったんですよ。……少しは可愛がってくれてもいいのではありませんか?」
「お前、お前……ッ」

 ショックのあまりに言葉を失う俺に、能義酷く興奮したような顔をして俺の頬にそれを押し付けようとしてくる。
 俺は慌てて能義の腰を掴み、離れようとするが、頬に先端を擦りつけられ、息が止まる。

「っ、や、め、……っ、おい……ッ!」
「ああ、尾張さん、そんなに口を開けたらついうっかり咥えさせてしまいそうだ……いいんですか?」
「っ、……ッ!!」

 良くねえよ、言い訳あるか!
 言い返したいが、これこそ口を開ければ本当に捩じ込んできそうな気がして、慌てて俺は唇をぐっと噛みしめる。

「……尾張さん、貴方のそのような行動は逆効果ですよ」

 え、と思った瞬間。
 一文字に結んだ唇に能義はわざとその鈴口を擦り付けるように腰を動かす。俺の手を握り、まるで口紅でも塗りたくるようにねっとりと押し付けられるそれに全身が泡立った。堪らず目を閉じ、必死にソファーの上から逃げようとするが、後頭部を掴まれ、余計丹念に擦り付けられる。発狂しそうだった。すぐそばから聞こえてくる音に、濃厚な雄の臭い。顔中を先走りで汚される。玩具にされる都度、力が入らなくなる。

「っ、尾張さん、……可愛いですね、そんなにフェラをするのは嫌ですか?」
「っ……」
「すごい顔ですね。ふふ、意地でも口は開けたくないと言うことでしょうか。……そういうところ、好きですよ。まあ、入れるところは口以外にもありますからね」

 そう、そっと顎下から耳の付け根を指で撫でられれば、ぞわりと血の気が引いた。
 冗談ではない、咄嗟に能義の腰を引き離そうとするが、唇から離れたそれを今度は頬に全体を擦りつけられ、思わず目を見開く。

「っ、ぅ、ん、ぅう……ッ!」

 不快感とかそんなレベルではない、わざと髪を絡めるようにコメカミに向かって擦りつけられ、顔が引き攣る。やつの体を引き離そうと擦るが手首を掴まれ、頭の上にむりやり固定された。

「っ、……いいですね、その顔、貴方の嫌がる顔は酷く唆られる」

 真っ赤に充血し、脈打つそれに、息を乱れさせ、舌なめずりをさせる能義に、俺は己を恨んだ。誰だよ、こんなド変態糞野郎を頼ったやつは。俺だ。
 自業自得なだけにどうしようもない。顔を使ってズラれ、それを見せつけられる。嫌だ、やめろ、と睨みつけたところで逆効果だ。必死に手を動かそうとするが、能義の拘束はびくともしない。

「はぁ……ッ、尾張さん、その目、いいですよ、もっと見てください、貴方のせいでこんなに勃起してしまったんですよ、見てください……ねえ、尾張さん……っ」

 そんな恐ろしいことを言われて見るやつがいるか。
 なのにやつは萎えるどころか、徐々に間隔が短くなり、浅くなる呼吸。そして、加速する摩擦、ぐちゃぐちゃと品のない音が響く。
 嘘だろ、まじかよこいつ、と、つい、目を開けてしまったのがまずかった。
 瞬間、能義は小さなうめき声とともに躊躇なく俺の顔にぶっかけた。髪にかかるのもお構いなしに、額から頬にかけてどろりと精液が落ちる。唖然とする俺を前に、射精したばかりのそれが再び頭を擡げ始めたとき、乱暴に扉が開いた。
 思考停止していた俺は、すぐに現実に引き戻された。
 扉の前、能義の腰越しに見えたそこには五十嵐が立っていた。
 そしてやつは、まっすぐにこちらを見ていたのだ。

「……おや、早かったですね」

「もっとゆっくりしてきてもよかったですのに」能義は、五十嵐を尻目にそんなことを言う。
 そこでようやく俺はことの重大さを理解した。理解したところで、好転することもなかったのだが。
 見られた、それもしっかりと。
 隠すことも出来ず、逃げることもできず、嫌な汗が流れ落ちる。

「……何やってんだ、お前ら」

 呆れたような、興味なさそうな、そんな顔でこちらを見てくる五十嵐に正直、生きた心地がしなかった。
 最悪だ、最悪である。「これは能義が」なんて言ったところでもう遅い。

「見ての通り、尾張さんが『お礼をしたい』なんて言うので付き合ってもらってたんですよ。……ねえ?」
「なに言って……ッんん゛!」

 反論のため、口を開けた瞬間舌を掴まれる。
「そうですよね、尾張さん」なんてニコニコ笑いながら舌の肉を指の腹で擦り上げられ、開きっぱなしになる口内から涎が溢れた。不可抗力だった。

「よろしければ貴方も混ざりますか、書記」

 こいつ何を余計なことを言ってるんだ。涼しい顔してとんでもないことを言い出す能義にせめてもの抵抗として思いっきり指に噛み付くが、やつにぐっと舌を引っ張られてしまえば「ぁえ」っと間抜けな声とともに力が抜けそうになる。

「っ、ひ、はは……ひゃへほ……っ」
「大丈夫ですよ、書記は口が硬い男なので、きっと貴方に悪いようにはしない」

「そうでしょう、彩乃」名前を呼ばれた五十嵐は相変わらず仏頂面だった。やめろ、違う、というか助けてくれ、そんな念を五十嵐に送るが、届いてるかどうかはわからない。
 そして、暫しの沈黙の末、五十嵐は「そうだな」と袖口を捲りあげる。

「この間は抱き損ねたからな、丁度いい」

 耳を疑う。いっそのこと、聞き間違えであればよかった。
 近付いてきたやつに全身が竦み、咄嗟に逃げようとしたところを「おっと」と能義に抱き止められる。

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、貴方が痛がるような真似はしないので。……まあ、書記はどうかは知りませんが」

 ソファーの上、俺の隣にどかりと腰を下ろした五十嵐は躊躇なく俺の腰を抱く。太い筋肉質な腕に掴まれれば逃れられない。逃げようとする俺の耳元、唇を押し付けるように顔を寄せた五十嵐に、その吐息に全身が強張ったとき。

「……少し我慢しろ」

 そう、五十嵐は確かに口にした。
 どういう意味だ、と思わず聞き返そうとしたときだった。
 体を抱き抱えられ、力ずくでやつの膝の上に座らせられる。
 先程よりも高くなる視界。先程よりもより近い位置にくる能義の下腹部にぎょっとしたときだった。
 口内の能義の指に思いっきり口を開かされる。無防備に舌を突き出すような形になってしまい、嫌な予感に慌てて口を閉じようとするも、開きっぱなしだった顎にはうまく力が入らない。
 瞬間、目を細めた能義は躊躇なく口内に再度勃起し始めてるそれを捩じ込む。

「っ、ん゛……ッ、ぅ、ぷ……!」

 吐き出したいのに舌の上、滑るように喉の奥まで咥えさせられるそれは吐き出すことができない。
 顎が外れそうなほど開かされたそこにただでさえ苦しいのにそれどころか後頭部をがっしりと抑えられ、口蓋垂を掠めるその肉の感触に吐き気を覚える。苦しい、それ以上に、耐えられないほどの異物感と吐き気に視界が霞む。

「っ、尾張さんの口の中、すごい熱いですね……苦しいですか? 喉の奥、必死に私のことを締め付けてきてますよ」

「愛らしい」とうっとりした顔で呟く能義は言うなりゆっくりと動き始める。固定された顔、咥内、その喉全体を性器に見立てて内部を摩擦される度に瞼の裏が点滅し、頭の中がどろどろに溶けていくような錯覚を覚える。
 身をよじらせ、少しでも離れようとするものの背後の五十嵐の腕が邪魔で動けない。
 先走りと唾液、そして先程の射精で残っていた精液が口の中で混ざり合い、能義のものを濡らしていく。口の中で響く粘った水音に、酷く恥ずかしくなった。

「っ、ふ、ぅ……ぐ……ん゛ん゛……ッ!!」

 我慢しろ、って言ったって。
 今すぐ諸々吐き出して口を濯ぎたい衝動に駆られる。
 髪を掬うように指の腹で頭を撫でられる。喉の奥、内壁を掠める度に吐き気が込み上げ、えづいた。それが能義は酷く気持ちいいらしい、腰を動かし、その度に恍惚とした表情で息を吐く能義に殺意を覚える。動くな、やめろ、死ね、糞、この変態野郎。
 色んな罵倒で思考が塗る潰されるが、それもすぐに掻き乱される。
 腰に回されていた五十嵐の手に膝小僧を掴まれる。
 え、と思った矢先、大きく脚を開かされ、心臓が跳ね上がりそうになった。

「っ、ん゛ッ、ぅ、う゛ゥ!!」

 おい、話が違うだろ、我慢しろって言ったのはそっちのくせに、なんで。
 こんがらがる思考の中、脚を閉じようとしたところに五十嵐の脚が、膝が、股の間に割って入る。五十嵐の膝が邪魔で閉じるにも閉じれず、無防備に晒されるそこにやつの手が伸びてきて、体が震えた。
 心臓が破裂しそうなほど煩い。
 五十嵐がどういうつもりかわからない、わかりたくもない、どちらにせよ間違いないのは今この展開はとてもよろしくないということだ。

「っ、……いいですよ、尾張さん、そんなに恥ずかしがらなくとも私と書記しかいないんですから……人のものしゃぶらされて顔射されて手を握られただけで勃起してようが今更引きませんよ」

 ゆるく腰を動かしながら俺の下腹部に目を向けた能義は喉を鳴らして笑う。指摘されて酷く恥ずかしくなる。それ以上に、誰のせいだという憤りすら覚えた。
 条件反射、だと思いたい。芯を持ち始めていたそこを五十嵐に握られたと思いきや、制服越しに揉まれる。
 大きな掌に全体を柔らかく包み込まれ、やんわりと押し潰すように動くその手に腰が震えた。
 嫌だ、と腰を浮かせそうになるが、片方の腕で腰を抱かれ、頭を能義に掴まれてるせいか動くことも儘ならない。
 少しでも助けてくれるのだろうかと期待した俺が馬鹿だったのか。
 全く遠慮のないその手の動きに、全身の体温がより増す。思わず体に力が入り、能義は息を漏らす。後頭部を掴む手に力が籠もり、口の中のそれは更に大きくなる。上顎を強引に開けられるような内側からの圧迫感。
 まじで、口が壊れる。絶対おかしくなってる。今度からちゃんと閉じられるのだろうか。そんな不安とは裏腹に能義は楽しそうで。

「……ッ尾張さん、もう一踏ん張りですよ」

 舌の感触を味わうように丹念に裏スジを擦りつけられ、奥を何度も小刻みに突き上げられる。溺れる。水に浸かってるわけでもないが、まさにそんな状況だった。
 能義の腰を離そうとやつの細い腰を掴むが、力が入らない。それどころか、下腹部を弄られ、何も考えられなくなる。

「ぅ゛ッ、んお゛、ぶッ」
「……ッ貴方のその可愛い舌で、根本まで可愛がってください。そして早く私をイかせて下さい……あぁ、貴方の喉に、体の奥に、私をいっぱい注ぎたい、この舌に何を食べても私の味以外感じなくなるようにしたい」
「ん゛ゥ゛ッ、」

 後頭部に回された両手にガッチリ固定された咥内、何度も出し入れを繰り返されるそれは確実に絶頂に近付いている。
 脈打つ性器は限界まで張り詰め、いつも涼しい顔した能義の顔に汗が流れ落ちた。紅潮した頬、血迷いごと、知能指数が下がってるやつの発言にいちいち突っ込む気にもなれなかった。今はバカみたいなピストンを受け止めるので精一杯で、体が引き攣る。五十嵐の腕を掴んでいた手に力が籠もる。喉が乾いた、なんて考える余裕もない。口の中のそれが微かに反応した。くる、と身構えた瞬間、喉の最奥まで捩じ込まれたそこで熱が弾けた。焼けるような喉、絡みつくその独特の匂いのそれを吐き出すことも許されなかった。
 直接喉の奥へと注ぎ込まれたそれは俺のなす術なく腹の奥へと流れ込む。
 吐き出せることができるのなら今すぐ吐き出して口を濯ぎたいし、何ならうがいしたいくらいだ。
 けれど、拒むこともできずに流し込まれたそれは確かに喉奥へと落ちていく。

「ふふ、ちゃんと残らずごっくんできましたね。……偉いですよ、尾張さん」

 そっと頬から耳の付け根までを撫でられ、震える。
 羽のような柔らかな声が余計耳障りで、癪で、見下ろすその目を睨み返せば、能義は満足げに笑った。
 何が偉いだ、本当に飲ませるやつがいるか。
 文句の一つでも言ってやりたかったが、それよりも口の中の違和感諸々が半端なくて、まともに口を閉じることができなかった。ずっとえずいてる俺の顎を捕らえ、能義は躊躇なく唇を重ねてくる。

「っ、ん……ッ」

 何度も角度を変え、まだ精液が残ってる口の中を舐め回す能義。それを見て、背後の五十嵐は「変態が」と呆れたように吐き捨てる。

「どの口で言いますか。愛らしい尾張さんに反応してる貴方も同罪ですよ」
「……よくわかったな」

 そう言って、腰の違和感もとい五十嵐のブツを押し付けられ、震える。「やめろ」と、なるべく口で息をしないように歯向かうが、それでやめてくれるような聞き分けのいい連中ならごっくんさせられることもなかったはずだ。

「い、がらし……」

 なるべく感触を感じないように必死に腰を浮かせようとするが、虚しい抵抗だった。

「能義にしゃぶらされただけで興奮したのか」
「っ、違……」
「違わないだろ」

 傍目でも分かるほど盛り上がった下腹部をスラックス越しに撫でられ、息が漏れる。
 囁かれる低い声に、吹きかかる吐息に、その熱に、全身に感じる五十嵐という存在を知らしめられてるようで。

「そんな隙ばかり見せるからこうなるんだ」
「……ッ」

 それは、能義に聞こえないほどの声量だった。
 咄嗟に五十嵐の方を振り返ろうとしたとき、やつと目が合い、息を飲む。相変わらず何を考えてるのか読みにくい仏頂面だが、こちらを見据えるその目には確かに『あのとき』と同じ色が滲んでいて。
 視線がぶつかったとき、唇に噛み付くようなキスをされる。躊躇なく唇の甘皮ごと噛まれ、舌で嬲られ、歯列をなぞられる。

「っ、ぅ、ん、う、んんッ」

 呼吸も儘ならない。器用に緩められるウエスト、その中、下着越しに触れてくる無骨な掌の感触に全身が反応する。ただでさえパンパンになっててキツイのに、それをほぼ直接触れられ、死ぬほど恥ずかしくなる。
 萎えてなければならないのに、萎えるどころか先程以上に固くなってるのは事実だ。そのことに何よりも自己嫌悪した。先走りの滲む下着、その上から複数の指で弄られ、先端を捏ねるように揉まれれば恐ろしいほど腰が蕩けそうになる。

「尾張さんは感じやすいようですね。……この男は私よりも性格が悪いのであまりそんな可愛い反応しない方がいいですよ、しつこいですからね」
「放っておけ」
「図星指されても否定しないところが恐ろしいですよね、ああ、可哀想な尾張さん。このはち切れんばかりの胸、私が慰めて差し上げますからね」

 なにを言い出すんだこいつは、と青褪めるよりも先に、襟を開くように上着を脱がされる。舌なめずりする能義が視界に入り、デジャヴ。血の気が引いた。
 胸に這わされる掌から逃れようと背を反らすが、背後の五十嵐に凭れるような形になる。あ、と思ったときにはもう遅い、離れたばかりの唇に再度唇を塞がれる。
 胸と下腹部、両方を別の手に弄られ、思考があっちこっちに飛んでは何も考えられなくなる。

「っ、ふ、ぅ、んん……ッ!」

 濡れた下着の中、グチャグチャと絡みつく水音は増すばかりで。心臓の音が加速する。汗が溢れる。
 肌に張り付くワイシャツ越しに胸に顔を埋めた能義はごく自然な動作でシャツに浮き出た突起物を舐めるのだ。布越しとはいえ、まさか舐められるとは思わなくて体が、声帯が、震えた。

「っ、ぅ、ん、ん……ッ!」

 身を捩れば捩るほど拘束は強まるばかりで、息が浅くなる。腰が痙攣する。触れられる箇所が甘く痺れる。
 岩片に触れられた場所を上書きされるみたいで、嫌だった。そう思った瞬間、自分の思考を疑った。
 なんだよ、なんだよそれ、それじゃあ、まるで俺は――……。

「んんぅ……ッ!!」

 五十嵐の指に尿道口部分を縦にツブされた瞬間だった、辛うじて均衡を保っていたそれは呆気なくぶっ壊される。焼けるように熱い下腹部。溢れ出す熱を止めることはできなかった。下着の中、気持ち悪い感触が広がる。正直、死にたさの方が強い。
 俺はなにをさせられているのか。
 溢れる精液に、二人は顔色を変えるわけでもなく、愛撫する手を止めることはなかった。

「っ、ぅ、ん、ッふ、ぅ……ッ!」

 出したばかりのそれでどろどろに汚れた下着を擦り付けるようにそこを擦られる。射精したばかりにも関わらず、 芯を持ち始める自分のそれに死にたさしかない。

「っ、尾張さんはイクときは目を瞑るんですね、可愛いですよ、そういうところも」
「っ、も、や、め……ッ」
「ここでやめたところで貴方も不完全燃焼でしょう。……それに、貴方がなにもかも忘れるまで付き合うと約束したじゃありませんか」

「ねえ?」と、片方の乳首をシャツの上から摘まれ、仰け反る。「やめろ」と言ったところでこいつらが聞かないことはわかっていたが、それでも懇願せずにはいられなかった。
 唾液をたっぷり含んだ舌シャツの上から濡らされ、浮き上がるそこを口に含まれる。血が集まり、凝り始めるそこを甘噛みされるだけで息が止まりそうだった。
 胸に埋めるやつの頭部が視界に入るのが嫌で嫌でたまらなく嫌で俺は目を瞑る、息を殺す、声を抑える。けれど、五十嵐に下着をずり下げられ、勃起したそれを取り出された瞬間「ぁ」と間抜けな声が漏れてしまう。
 顔中にカッと熱が集まった。

「やめ……っ」
「このままじゃ辛いだろ」
「っ、辛くない、こんなの、全然……」
「そうですか? 私にはもっと弄ってくださいって涎垂らしてるようにしか見えませんが」
「珍しく同意見だ、能義」 
「ひ、ぃ、あ、嫌だ、やめろ……ッ嫌だ、いがらし……」 

 言いかけた瞬間、亀頭部分に五十嵐の太い指先が充てがわれる。凹凸部分を指の腹で擦られ、電流が走ったみたいに全身が痙攣した。

「ッ、ぁ、嫌、だッ、やめ、ッや、ぁ、あ!」

 自分のものとは思えないほどのでかい声が喉から溢れる。止めることはできなかった。
 逃げる腰を捕まえられ、根本から全体を鷲掴むように握り込まれ、そのまま執拗に亀頭を重点的に責められる。
 開きっぱなしの口から唾液が溢れ、たまらず、俺は能義の頭を抱き締めていた。舌に、指に、両方同時に責められ、逃げる場所もない。抑え込まれた体は行き場を失い、ぐるぐると全身を駆け巡った。
 二発目の射精は一回目よりも呆気ないものだった。直接的な愛撫に耐えられず、呆気なく俺は再び五十嵐の掌で果てた。

「っ、も、やめろ……も、い……から……ッ」

 情けない声が出てもいい、懇願せずにはいられなかった。
 このままでは、自分が自分でなくなってしまうようで怖くて、不安だった。

「……おれが、悪かった……っ」

 あんたに頼った俺が、全部。
 なけなしの理性で告げれば、能義は少しだけきょとんとして……そしてその整った顔にいつもと変わらない笑みを貼り付ける。

「おやおや……そんな可愛い顔をして泣かないで下さい。……私は貴方を責めるつもりはないんですから、寧ろ、その逆……」

「助けてあげたい、と思ってるんですよ」細い指が頬を撫でる。なんの気無しに触れる指先は顎先から頬を滑り、能義は涙だか汗だかで濡れた頬に唇を寄せる。
 それを避ける暇もなかった。

「……貴方が不安に感じることはありません、大丈夫ですよ。……私達は貴方を助けたいと思ってるだけなので」

 ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを頬から口元、そして顎へと落とす。擽ったさもあったが、それ以上に、こんな状況で優しく慈しむような口づけは場違いのあまり、背筋が凍り付く。
 ゆっくりと顔を上げた能義は俺の目を覗き込み、そして、目を細めて笑う。

「怖いのは最初だけです、直に慣れますよ」

 耳を撫でられ、頭を掴まれる。目を伏せた能義は、躊躇なく俺の唇に吸い付いた。
 有無を言わせない強引な口づけに、酸素ごと奪われる。唇の熱に嫌悪する暇も余裕もない。

「ッ、ぅ、ん、ふ……ッ!」
「っ、分かりますか……尾張さん、貴方の声も、体も……この唇も、甘くなってきてるのが」
「っ、や、め……ッ、ん、ぅ……ッ」
「……貴方は男を煽るのが上手ですねぇ……初々しい尾張さんも素敵ですが、男を知ってから……ここまで色気が増すなんて」

 ねっとりと腰から背筋を撫で上げられる。
 耳元で囁きかけられる言葉は到底シラフでは聞くに耐えない言葉ばかりだ。蕩けた能義の声は甘く、ねっとりと絡みつく。
 言い返してやる気力も、唇を甘く噛まれ、舌を捩じ込まれれば何も考えられなくなった。

「……おい、能義」
「悪いですね、一番始めは私が貰いますよ。……先程から尾張さんを見てると……ここが痛くて仕方ないんです」

 止める五十嵐の言葉も聞かず、そう能義は自分の下腹部を撫でる。
 ……見たくもない。どこでどうやったらそこまで勃起することができるのか、張り詰めた下半身は俺から見てもキツそうだと思うくらいだが……その先の展開を考えるのならば、冗談ではないという感想が真っ先に来る。流石に、血の気が引く。
 昨夜の岩片とのあれこれを思い出し、血の気が引いた。
 またあんなことを、それもこいつらにされると思うと生きた心地がしない。

「っ、ふざ、けんな……っ! 一人でやれ……っ!」
「……ふふ、威勢が戻ってきたようですね……いいですよ、貴方のような方が啼く姿は何よりも唆られますからね」

 腿を掴まれ、強引にソファーの上に仰向けにされる。
 意図せず五十嵐に膝枕されるような体勢になり、慌てて起き上がろうとするものの、太腿を掴まれ、敵わなかった。

「っ、や、めろ……ッ」

 腰を上げさせられるかのように、腿を掴まれた。イッたばかりの性器を持ち上げられ、その奥、隠されているそこを明るい部屋の中で晒される。
 やつらの視線が突き刺さるのを感じ、羞恥のあまりに息を飲む。
 昨日はまだ、部屋が暗かった。
 岩片に見られただけでも死にたくなるほどだったのにも関わらず、能義は、この男は、人のケツの穴を見て「これはこれは」と笑うのだ。

「……随分と激しかったようですね。……ぷっくりと腫れてるじゃありませんか。一晩でここまで使い込まされるのも中々ないですよ」

 笑う能義に、舌を噛み切って死にたくなる。
 カッと顔が熱くなり、やつの顔をろくに見ることができなかった。腕で覆い隠したとき、晒されたそこにぬるりとした感触が触れ、ぎょっとする。

「っ、な、に……やめろ、やめろ能義……ッ!」
「……っ、ふふ、少しでも貴方が痛くないようにと労ってるんですよ……なんせ尾張さんは二回目ですからね、優しく……愛してあげなければ」
「っ、この、やろ……ッ!!」

 足をバタつかせるが、開脚させられる形で腹まで折られたそこはちょっとやそっとじゃビクともしない。
 ……っ、こいつ、見かけによらずなんて馬鹿力だ。
 暴れる俺をなんともなしに能義は押さえ込んだまま、閉じたそこに舌を這わせる。
 周囲の皺をなぞるように這わせたと思いきや、尖らせた舌先を窄みに押し付けた。

「っ、ぅ……ッく、ふ……ッ!」

 他人の熱を持った肉が、入ってくる。
 昨夜の熱が、感覚が、全身に蘇るようだった。身を固くし、息を飲む俺に下腹部の能義は小さく笑い、そして、躊躇いなく顔を寄せ、更に舌を奥へと押し進めるのだ。

「ぁ、い、やめ……や……ッ! ……ッ、い、がらし……ッ!」

 濡れた舌が別の生き物みたいに中に入り込み、中に唾液を流し込むかのように舌を這わせる。
 濡れた音が響き、堪らず、俺は頭上の五十嵐の腕にしがみついた。五十嵐は相変わらず何を考えてるかわからない目で俺を見下ろし、そして、慰めるように俺の髪を撫でる。
 瞬間、ぐちゅ、と濡れた音を立て、能義の舌はねっとりと内壁を舐め回した。指とも、性器とも違う、生々しいその肉の感触に脳が赤く染まるような幻覚を覚えた。息が浅くなる。やつが動く度に髪が下半身をかすめ、息遣いすらもそこに鮮明に伝わるのだ。

「っ、く、ふ……ッ、ぅ、……ッ!」

 腰が揺れる。嫌なのに、気持ち悪いだけのはずなのに、体の中が焼けるように熱くなって、性器に血が集まるのを感じ、絶望した。
 逃げる腰を掴まえ、能義は悶える人の顔を一瞥し、それからまた深く舌を挿入させた。腿ごと腰を抱かれ、深く挿入されるその異物から滲む唾液は、摩擦とともに丹念に肉癖へと塗り込まれる。
 ぐちゅ、ぐぷ、と時折空気が入ったような粘着音が腹の中で響き、恥ずかしさと死にたさでぐっちゃぐちゃになった頭の中では何も考えられなくなって、俺は、わけもわからず五十嵐の腕にしがみついた。

「っ、ぅ、く……ッ、ぅ……んん……ッ!」

 五十嵐は、爪を立てる俺の手を振り払うわけでもなく、ただ好きなようにさせた。腰が揺れる。味わい尽くすように執拗に嬲るその能義の舌に耐えられず、俺は息を押し殺してイッた。……精液は出ない、先走りのような半透明の液体が先端からどろりと溢れるだけだった。

 いっそのこと、誰か俺を殺してくれ。
 これ以上やつの前で醜態を晒すぐらいなら、まだ死んだ方がましだ。
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