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ハルベル・フォレメクという男

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 まるで夢を見ているようだった。
 出来の悪い、最悪で最高な夢を。

「っ、ふ、ぅ゛……っ、ん、む」

 足元で傅き、スラックスの下から取り出した性器を細い指で固定したまま恐る恐る亀頭を咥えるリシェス様を見下ろす。柔らかいその唇の中へと誘い込まれる亀頭、ちろりと鈴口に這わされるその舌の感触も何もかも現実と相違ない。
 だからこそ余計、没入する。まるでこれが夢ではないみたいだと錯覚する。深く深くはまり込む。恐ろしいことに、こんな端なく淫らな口淫をするリシェス様にすぐにでも達してしまいそうなほど興奮した。

 ぬぷ、ぐちゅ、と喉の奥まで招き入れられる性器に絡みついてくる唾液。「こうか?」と不安そうにしながらも、頬を膨らませて必死に性器にしゃぶりついてくるリシェス様に僕は堪えるので必死だった。終わらせたくない、達してしまえば全てが夢になるのではないかと怖かった。リシェス様の髪に指を絡め、頬の裏から上顎、喉の奥の粘膜中の肉質感と締め付けを堪能する。

 会話などする余裕もない。僕は、気付けば夢中になってリシェス様の口の中を犯して犯して指に絡んだ髪と乱れた金糸の下、涙と精液で汚れた顔でこちらを見上げてくるリシェス様に堪らずまた二度目の射精をした。狭く細い喉の奥、たっぷりと精液を吐き出せば、受け止めきれなかったリシェス様は濁った嗚咽とともに白濁を吐き出した。そのままくたりと座り込みそうになるリシェス様。その体を引き上げ、抱き寄せた僕は精液で汚れたその口にキスをした。

「っ、ん゛、ぅ、……っ、まっ、へ、はるぇう……っ、ん、む……っ」
「……っ、リシェス様、……っ」

 一度壊れた歯止めは利くことはない。
 すっぽりと収まるその体に手を伸ばす。アンフェール様に抱かれていた体を、揉みくちゃに揉みしだく。甘い紅茶の匂いに包み込まれる。罪悪感も感じなかった。あるのはただ結果のみ。薄く、それでもほどよく肉付きのいいリシェス様の臀部は手のひらに吸い付くようだった。
 スラックスの上から谷間に指を這わせれば、ぴくぴくとリシェス様の体が震える。吐息混じり、甘えたような鼻がかった声を漏らしながらもリシェス様は僕の体にしがみついた。まるで自分で慰めるように胸を押し付けながら、シャツの摩擦を楽しむように淫らに動くリシェス様に既に性器は痛いほど腫れ上がっていた。お互いの性器は先走りと精液を絡めるように擦れ合い、僕はその熱を楽しむ。

 淫蕩な行為に耽溺し、溺れる。リシェス様を脱がし、その下から現れる真っ白な足に僕はいつの日かのことを思い出す。リシェス様の真っ白な足、太腿。靴下を履かせる度に勃起する性器を抑えるのが精一杯だった。
 どれほどこの足を夢見ていたことだろうか。しっとりとし、それでいて少しでも強く触れてしまえば傷つけてしまいそうな危うさすらあるその皮膚に指を這わせる。内腿から脚の付け根までゆっくりと手を這わせれば、リシェス様の体は微かに震えていた。
 もう数センチ伸ばせば、その奥に触れれてしまいそうなほどの距離。リシェス様の性器を押し上げるように勃起する性器の上、恐る恐る跨ったリシェス様はそのまま太腿で僕の性器を挟めるのだ。

「……っ、リシェス、様……」
「も、無理だ……焦らさないでくれ、ハルベル……」
「貴方という人は……っ、本当に……」
「ハルベル……っ、ん、ぅ、……っ、ぁ、また……っ」

 にゅちゅ、と自ら腰を動かし、人の性器で快感を得ろうとするリシェス様に乱されるのも束の間、僕はそのままリシェス様の腰を掴んだ。そして、リシェス様の臀部に手を伸ばす。下着を膝の上まで脱がし、そのまま大きく広げた肛門に柔らかく触れる。赤く熟れた穴は奥まで視える。ぱくぱくと強請るように収縮する肛門を前に理性などなかった。
 リシェス様の体を捕まえたまま、肛門に亀頭を押し当てる。悪夢だってなんだっていい、これは僕なのだ。僕が見た、僕が作り出した幻影だ。

「……っ、は、ぁ……っ、く……っ、リシェス、様……っ」
「っ、はー……っ、ぁ、ふ、ハルベル……っ、ハルベル……っ!」

 ――やばい、まずい。これは、本当に。

 腰を動かせば動かすほど、性器を食われていくような感覚に陥る。小さくて狭いのに、僕の形に合わせるように伸縮し、全体を柔らかく包み込んでくるリシェス様の体に、気付けば勝手に体が動いていた。

「……っはー……っ、ぁ゛……っ、リシェス様……リシェス様、……っ、気持ち、ぃ……っ、リシェス様の中……っ」

 情けなく声が震える。それでも開いた喉からは自分のものとは思えない声が漏れた。リシェス様は小さく息を漏らし、僕に抱きついたまま微笑むのだ。亀頭から竿、そして根本まで難なく飲み込んだリシェス様はその体を使って僕を愛撫する。性器ごと搾り取られそうになる。

 目が合えば息をするようにキスを交わし、白い肌を赤く染めたリシェス様は全身で僕を受け入れてくれた。
 僕の汚い精液も、欲望も、全部、受け入れてくれた。そしてもっとほしいと言わんばかりに体を開き、腰を揺らし、淫らに僕を誘うのだ。こんなもの、リシェス様ではない。わかっていた、だからこそ、リシェス様と瓜二つの顔をしたこの目の前の幻影に囚われた。
 リシェス様は何人もの男と遊んだような肛門をしてるわけがないし、リシェス様は僕の弱いところを知ってるはずがない。けれどこいつは知ってる。知ってて、僕を気持ちよくさせるためだけにその体を惜しみなく使った。
 何度出したところで尽きることのない欲望の中、僕はリシェス様の形をしたそれの中に再び射精する。既に精液でパンパンに膨らんだ腹の中、栓代わりの性器を抜いた瞬間ぶぴっと勢いよく吹き出す精液。それを尻目に、僕はその平らな胸に顔を埋めた。飾りのような小さく色付き、シャツの下から小さく主張していたそれは長時間の性交でぷっくりと腫れ上がって舐めやすかった。「んっ」と小さく息を漏らしながら、リシェス様は胸をしゃぶる僕の頭を抱きしめるのだ。

「……っ、ハルベル、本当お前はそこが好きだな」

 着替えさせているとき、風呂上がり時、無防備に晒される胸を見せつけられる身にもなってほしかった。僕は、ずっとこうしたかったのだろうか。舌で転がし、もう片方の乳首も指先で弾き、揉み、潰す。はあ、と浅くなるリシェス様の呼吸に再び股間はすぐに熱くなり、開いた肛門から垂れ、腿へと落ちてくるそれを目で追う。

「ハルベル……っ、ん、は……っ、ハルベル、もっと……っ」

 腰を震わせ、胸を押し付けてくるリシェス様。僕はそれに応えるように柔らかく乳頭を咥えたまま、音を立てて吸い上げた。びくんと大きく胸を震わせ、軽く達するリシェス様。

「もっと、……ハルベル、もっと、もっと……っ」

 呪詛のように甘く、脳裏を焼き付くような囁きに思考する隙も与えられない。終わらない、乾く暇もない欲望にただ落ちていく。絡め取られ、開いた口に自ら食われにいく。

 数時間、数日、一ヶ月、数カ月、一年、そんな期間を繰り返したところで僕にはもう数える術もなにもない。

 部屋の鍵はとうに壊れていた。
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