14 / 55
三巡目
01
しおりを挟む
ほんの数秒のようで、もっと長い間眠っていたような感覚があった。
それでも、意識は確かに残っていた。
生々しいほどの、自分の命が終わる瞬間までの感覚もだ。
目を覚ませば、俺はいつもの中庭の中にいた。
脂汗でぐっしょりと濡れた身体。心配そうに声をかけてくる後輩を無視し、俺はそのまま中庭に置かれた繊細な装飾が施された長椅子へと腰をかける。
今は部屋に戻る時間も惜しかった。
記憶が薄れる前に、自分の中の記憶をまとめたかったのだ。
あの世界では間違いなくハルベルは殺されていた。
そして、最後に俺を殺したのは――間違いなくアンリだ。何故、という疑問の方が多かった。
咄嗟のことで細部まで確認するほどの余裕はなかったが、アンリが手にしていた手斧、あれはもしかしてハルベルを死に至らしめた得物ではないのだろうか。
ぐちゃぐちゃになればなるほど思考が回らない。
何故アンリがハルベルを殺す必要があったのだ?
ハルベルのやつがアンリに対して不穏な態度を取っていたのは違いない。俺の知らない裏で、ハルベルとアンリの間でなにかがあったのか。
そこまで考えて、今までの世界線には居なかったユーノの存在を思い出す。
――あの男がなにか関わっているのか?
そこまで考えて、休み時間の終了を告げる鐘の音が遠くから鳴り響く。
まだこの世界にはアンリはいない。けれど、それも数日のことだ。
「……」
とにかく、ユーノのことを調べてみよう。
このまま授業を受ける気にはなれなかったが、サボったりでもして目をつけられるような真似だけは避けたかった。
重い腰を持ち上げ、一旦俺は教室へと戻ることにした。
そして何事もなかったかのように他の生徒たちに紛れ、授業を受ける。
どうしても死の感触が生々しく残っている状況だ。落ち着かない気分があったが、それを上回るほど俺は思ったよりも追い詰められていたようだ。調査しなければ、という気持ちの方が強かった。
それに、と最期にみた光景を思い出す。
アンリに突き飛ばされたあのとき、強く感じたデジャヴュ。どうしても俺の中にある卯子酉の部分が強く反応したのだ。
八代杏璃が卯子酉の死、そしてこの世界への転生に関わっている?
たまたまの偶然だとしても、その真偽を調べる必要があったのだ。
◆ ◆ ◆
教師の言葉をただ右から左へと受け流すだけの授業を終え、放課後の鐘が学園内に鳴り響いた。それを聞きながら、俺は足早に教室を出る。そんなときだ。
「リシェス様」
教室の前で待っていたのか。出入りするための扉の前に立っていたその長身の男の姿に思わず息を飲んだ。
「ハルベル」と声が震えそうになるのを堪えて名前を呼べば、男――ハルベルはにこりと微笑んだ。
「丁度良かった。リシェス様もこれからお帰りなのですか?」
「……」
「? リシェス様……?」
リセットされて繰り返される世界というのも、いい加減慣れなければならないと分かっててもやはり簡単に受け入れられるものではない。
つい先程血溜まりに沈む青白くなったハルベルを見てきたばかりのせいか、目の前で動いて笑うハルベルを見てると胸の奥に大きなしこりのようなものができるようなそんな違和感があった。
「……いや、俺は少しアンフェールのところに寄って帰る。お前は先に戻ってろ」
そう敢えて突き放す言葉を選んだ。
調べ物はユーノのことだ。この世界線の出来事ではないとしても、そのことをハルベルに知られるのは良くないと考えたのだ。
ハルベルはしゅんとし、「わかりました」と頭を下げる。そのまま俺は罪悪感を抱く前に、ハルベルから逃げるように執務室へと駆け足で向かった。
以前の世界線では、必要以上にハルベルに甘えてしまった節もある。そんな行動のせいで結果的にハルベルを殺してしまったのだとしたら――今はまだ迂闊に接するべきではないだろう。
――俺だって、好きでよく知った人間の死体をみたいと思わない。
それでも、意識は確かに残っていた。
生々しいほどの、自分の命が終わる瞬間までの感覚もだ。
目を覚ませば、俺はいつもの中庭の中にいた。
脂汗でぐっしょりと濡れた身体。心配そうに声をかけてくる後輩を無視し、俺はそのまま中庭に置かれた繊細な装飾が施された長椅子へと腰をかける。
今は部屋に戻る時間も惜しかった。
記憶が薄れる前に、自分の中の記憶をまとめたかったのだ。
あの世界では間違いなくハルベルは殺されていた。
そして、最後に俺を殺したのは――間違いなくアンリだ。何故、という疑問の方が多かった。
咄嗟のことで細部まで確認するほどの余裕はなかったが、アンリが手にしていた手斧、あれはもしかしてハルベルを死に至らしめた得物ではないのだろうか。
ぐちゃぐちゃになればなるほど思考が回らない。
何故アンリがハルベルを殺す必要があったのだ?
ハルベルのやつがアンリに対して不穏な態度を取っていたのは違いない。俺の知らない裏で、ハルベルとアンリの間でなにかがあったのか。
そこまで考えて、今までの世界線には居なかったユーノの存在を思い出す。
――あの男がなにか関わっているのか?
そこまで考えて、休み時間の終了を告げる鐘の音が遠くから鳴り響く。
まだこの世界にはアンリはいない。けれど、それも数日のことだ。
「……」
とにかく、ユーノのことを調べてみよう。
このまま授業を受ける気にはなれなかったが、サボったりでもして目をつけられるような真似だけは避けたかった。
重い腰を持ち上げ、一旦俺は教室へと戻ることにした。
そして何事もなかったかのように他の生徒たちに紛れ、授業を受ける。
どうしても死の感触が生々しく残っている状況だ。落ち着かない気分があったが、それを上回るほど俺は思ったよりも追い詰められていたようだ。調査しなければ、という気持ちの方が強かった。
それに、と最期にみた光景を思い出す。
アンリに突き飛ばされたあのとき、強く感じたデジャヴュ。どうしても俺の中にある卯子酉の部分が強く反応したのだ。
八代杏璃が卯子酉の死、そしてこの世界への転生に関わっている?
たまたまの偶然だとしても、その真偽を調べる必要があったのだ。
◆ ◆ ◆
教師の言葉をただ右から左へと受け流すだけの授業を終え、放課後の鐘が学園内に鳴り響いた。それを聞きながら、俺は足早に教室を出る。そんなときだ。
「リシェス様」
教室の前で待っていたのか。出入りするための扉の前に立っていたその長身の男の姿に思わず息を飲んだ。
「ハルベル」と声が震えそうになるのを堪えて名前を呼べば、男――ハルベルはにこりと微笑んだ。
「丁度良かった。リシェス様もこれからお帰りなのですか?」
「……」
「? リシェス様……?」
リセットされて繰り返される世界というのも、いい加減慣れなければならないと分かっててもやはり簡単に受け入れられるものではない。
つい先程血溜まりに沈む青白くなったハルベルを見てきたばかりのせいか、目の前で動いて笑うハルベルを見てると胸の奥に大きなしこりのようなものができるようなそんな違和感があった。
「……いや、俺は少しアンフェールのところに寄って帰る。お前は先に戻ってろ」
そう敢えて突き放す言葉を選んだ。
調べ物はユーノのことだ。この世界線の出来事ではないとしても、そのことをハルベルに知られるのは良くないと考えたのだ。
ハルベルはしゅんとし、「わかりました」と頭を下げる。そのまま俺は罪悪感を抱く前に、ハルベルから逃げるように執務室へと駆け足で向かった。
以前の世界線では、必要以上にハルベルに甘えてしまった節もある。そんな行動のせいで結果的にハルベルを殺してしまったのだとしたら――今はまだ迂闊に接するべきではないだろう。
――俺だって、好きでよく知った人間の死体をみたいと思わない。
60
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載


言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる