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後編【執着型偏愛依存症】
side:馬淵
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「ねーねー古屋君、これってさあ、どういう意味?」
歩いていたら目の前に立ちはだかるは派手めの女子。
その手にはキラキラと派手な装飾が施された携帯電話が握られており、僕はまたかと内心溜め息を吐いた。そして聞こえなかったフリをし、そのまま女子生徒の横を通り過ぎようとするがやはり逃がしてくれるはずもなく。
「ねえってば」
そう、苛ついたように語気を強める女子は言いながら僕の制服の裾を引っ張ってくる。
こうなったら、無視するわけにはいかない。
渋々立ち止まった僕は、そのまま背後の女子生徒を振り向いた。
「……悪いけど、今急いでるから」
苦笑を浮かべながらそうやんわりと女子生徒の手を退かした僕はそそくさと足を進ませようとするが、遅かった。
「ちょ……っ待ってよ、古屋君っ」
金切り声を上げ、今度は腕にしがみついてくる女子。
ぐっと強い力で引っ張られ、最近の女の子って力強いななんて思いながら「だから……」と軽く、そう軽く女子の腕を振り払おうとしたときだった。
「きゃっ」
女子が離れ、腕が軽くなったと思った矢先、よろめいた女子生徒はぺたんとその場に尻餅をついた。
そして、泣きそうに顔を歪めた女子は「いったぁ……ッ」と悲痛な呻き声を漏らす。
「…………」
ああ、そういやこの体は古屋君だったんだっけ。
その事実を再確認した僕は自分の手のひらを見詰める。
そうだ。力からなにからまで僕のものとは違うんだ。自分のものではないものの力の加減は難しく、やはり数週間経った今でも馴れないもので。
やはり、逸早く元に戻らなければ。ぼんやりと思いながら、僕はその場を後にした。
女子は、あまり得意ではない。
ただ単に免疫がないだけかもしれないが、なんとなく、苦手なのだ。異性として気にせず、自然体で接することが出来る同性と一緒にいる方が気が楽だった。
それでもやはり、同性でも苦手な人はいたが。
古屋将君。彼は、なんだか好きになれなかった。周りからは好かれているようだったが、僕はあまり好きではない。それは彼が僕のことを好いていないとわかったからだろうか。
なんとなく、苦手だった。
後先を考えない無謀さが。目的のためなら手段を選ばない必死さが。
平然を取り繕う糸が解れたとき、内側から覗く醜いそれが。
まるで鏡に映し出した自分を見ているかのような既視感に吐き気を覚え、見てみぬフリをした。見るに堪えなかった。
だけど、まさか、本当なんでこうなってしまったのだろうか。改めて彼と入れ替わってしまった事実に戸惑いながら、僕は歩いていた。
放課後、教室前廊下。
授業が終わり、話し掛けようとしてくる同級生を適当にかわしやってきたのは久保田君がいるはずの教室だ。
いつもに比べなにかある度に話し掛けてきた周りがいない分早く教室に辿り着くことができ、扉の前までやってきた俺はそっと教室を覗く。
夕暮れに染まった赤い教室内。殆どの生徒は部活だデートだ遊びだと各々教室を後にし、教室には人影はあまりなかった。
教室の隅にある、二つの影を除いて。
人気の無い教室内。そこにはひとつの机を挟み、お互いに向かい合うように椅子に座って談話している久保田君と古屋君がいた。否、僕の姿形をした古屋君と言った方が適切なのかもしれない。
「…………」
なにを話しているのだろうか。ここまで声は聞こえなかったがきっと他愛ないものなのだろう。
楽しそうに笑う久保田君を見上げ、照れ臭そうに、嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる僕もとい古屋君。
何故だろうか。楽しげな二人を見ていたら、教室に入ることができなかった。周りからしたら、こんな風に見えているのだろうか。
なんて思いながら、教室と廊下を隔てる窓から内部を眺める。
不思議な感覚だ。久保田君の隣にいるのは僕の体のはずなのに、中身が古屋君とわかっているせいだろうか。なんとなく、いい気分ではなかった。
嫉妬、とは、なんか違う気がする。独占欲か。なにに対する?久保田君?それとも僕の体への?
答えの無い自問をしてみるが、面倒臭くなり思考を振り払った。
自分の気持ちについて考えるのはあまり得意ではない。でも、古屋君が今どんな気持ちかくらいはすぐにわかった。
ああ、楽しそうだな。思いながら、小さく顔を伏せ頬を緩ませる古屋君を見据える。
古屋君は久保田君に恋をしている。いや、執着というべきだろうか。
古屋君の久保田君に対するそれは僕から見て異常に見えた。
だけど本人はもちろん周りの人間は古屋君のそれに気付いていない。僕も最初は気付かなかった。
けど、こうして環境が変化したお陰で滲み出るそれを感じることが出来た。
二人の間になにがあってここまで古屋君が久保田君に入れ込んでいるかはわからなかったが、もしかしたら、その古屋君の久保田君に対する異常なまでの恋情を利用することが出来れば古屋君を説得できることができるのではないだろうか。
あまりにも幸せそうな古屋君を眺める自分の脳裏にそんな思考が過ったときだ。
不意に、足音がした。咄嗟に足音がした方へと振り返れば、そこには渡利君がいた。
「渡利君」
「……」
「……奇遇だね、こんなところで」
「古屋君に言われてここに?」壁際、同様物陰から教室内部を覗いていた渡利君はいきなり話し掛けられ驚いたようだ。
僅かに緊張し、「まあな」とぶっきらぼうな調子で呟いた渡利君は言いながら僕から目を逸らす。
なんとなく様子が可笑しい。
渡利君の挙動不審は今に始まったことではないが、タイミングがタイミングだからだろうか。なんとなく、気になった。
心配になり相手を眺めていたとき、ふと僕は赤く腫れた渡利君の腕に気付いた。
「……その傷」
手の甲から腕にかけて複数の赤い線が滲む渡利君の腕のそれはどうやら引っ掻き傷のようだ。
皮が剥がれ、痛々しく腫れた腕の傷に目を見開いた僕は「誰かと喧嘩したの?」と渡利君を見上げれば、相変わらずこちらを見ようとしない渡利君は「ちげーよ」と語気を強める。
「別に、引っ掛かれただけだって」
「……引っ掛かれた?もしかして、古屋君に?」
「関係ねえだろ」
「まあ、そうだけど……。あ、そうだ、絆創膏……」
しまったとばつが悪そうな渡利君に構わず、慌てて制服のポケットに手を突っ込む僕。
お互いによく怪我をする体質なので常時絆創膏をポケットに入れ持ち歩いていたのだが、ポケットは空のままで。
そこで、ようやくこれが古屋君の制服だということを思い出す。
なにか代わりになるものはないだろうかと全身のポケットを漁ってみるが、ない。
苦戦する僕に対し「いいって、別に」と渡利君はそう溜め息混じり続ける。
「でも、傷口から菌が入ったら……」
「ごちゃごちゃうるせーな、気にすんじゃねえって言ってんだろっ!」
そして、渡利君の腕に触れようとしたときだった。じわじわと顔を赤くした渡利君はそう怒鳴り声を上げる。
渡利君が怒った。鼓膜を揺するその声にビクッと跳ね上がったときだった。
教室から聞こえていた久保田君たちの笑い声がピタリと止まる。どうやらこちらに気付いたようだ。
そして、
「古屋?」
椅子から離れ、教室からひょっこりと顔を出す久保田君。
そして、その後ろには怨めしそうな目でこちらを睨んでくる古屋君が立っていた。
「……っ」
どうやら渡利君は二人に気付かれるとは思っていなかったようだ。
面倒臭そうに舌打ちをし、久保田君を睨んだと思えばそのまま構わず教室を離れる。
「あ、渡利君……っ!」
咄嗟に、呼び止めようとするが遅かった。
無理して引き留めても絶対面倒なことになりそうだなと察した僕は諦め、去っていく渡利君の背中を眺める。
「おい、あいつって……」
さっきの傷、ちゃんと消毒したのかななんて思いながら一気に静まり返る廊下を眺めていると、同様渡利君の去った後を見据えていた久保田君は眉を潜め、こちらを見る。
「なんか言われたのか?」
どうやらまた僕が渡利君に襲われていたと勘違いしたようだ。
やけに真面目な顔をして心配してくれる久保田君になんだか気恥ずかしくなりながらも本当のことを話すわけにもいかなかったので、僕は「いや、大丈夫。大したことないから」と慌てて首を横に振る。
前回、渡利君に殴られて怪我を負わされてから久保田君はあまり渡利君を快く思っていないようだ。
誰にでも優しいイメージがあったので渡利君を邪険にする久保田君はなんとなく意外だったが、それ程久保田君が心配してくれていると思ったら嬉しくなると同時に渡利君に申し訳なくなった。
でもやっぱり、嬉しい。
ただ、古屋君の視線がチクチク痛いが。
その日の夜、夢を見た。
幼馴染みに暴行を加えられる夢を。
渡利君に胸を舐められ、嬲られ、弄ばれ、性器を咥えさせられたと思いきや喉奥に射精され、その場で嘔吐する。
こんな夢を見るのは初めてではない。
渡利君に犯される夢を見始めたのはつい先日からだ。
そこまで欲求不満だったわけでもなかったし、ましてや相手は渡利君だ。
そして最大の問題は、その夢を見たタイミングだ。
古屋君と入れ替わった今、その夢がなにを示しているか僕は理解出来た。
いや、映像と言った方が適切なのかもしれない。
正確には古屋君と入れ替わってから、夢を見なくなった。
見るのは、古屋君視点の断片的な記憶のみ。
眠っているはずの間見るそれが古屋君の見たそれだと気付くのには然程時間は掛からなかった。
単純に、僕のその日の記憶とその彼視点の映像が重なっていたから、僕はそれが古屋君自身の記憶だということに気付いた。
音声はない。あくまで、白黒の映像だ。
今までは特に気にしていなかったが、今まで自分の見ていたそれが古屋君の記憶だとわかってしまった今、断片的ながらも通常的には思えない渡利君と彼のやり取りに頭が痛くなった。
そして何より、今日見たそれは今までとは決定的に違うものがあった。感触が、体に残っている。
「…………っ」
目を見開き、勢いよくベッドから飛び起きた僕は辺りを見回す。
間違いない。ここは古屋君の部屋だ。それに、体も古屋君のままだ。
なのに、何故だろうか。全身を這う手の感触だけがくっきりと体に残っている。明らかに、生々しさを帯びていた。こんなこと今までなかったのに。
嫌な、予感がする。
歩いていたら目の前に立ちはだかるは派手めの女子。
その手にはキラキラと派手な装飾が施された携帯電話が握られており、僕はまたかと内心溜め息を吐いた。そして聞こえなかったフリをし、そのまま女子生徒の横を通り過ぎようとするがやはり逃がしてくれるはずもなく。
「ねえってば」
そう、苛ついたように語気を強める女子は言いながら僕の制服の裾を引っ張ってくる。
こうなったら、無視するわけにはいかない。
渋々立ち止まった僕は、そのまま背後の女子生徒を振り向いた。
「……悪いけど、今急いでるから」
苦笑を浮かべながらそうやんわりと女子生徒の手を退かした僕はそそくさと足を進ませようとするが、遅かった。
「ちょ……っ待ってよ、古屋君っ」
金切り声を上げ、今度は腕にしがみついてくる女子。
ぐっと強い力で引っ張られ、最近の女の子って力強いななんて思いながら「だから……」と軽く、そう軽く女子の腕を振り払おうとしたときだった。
「きゃっ」
女子が離れ、腕が軽くなったと思った矢先、よろめいた女子生徒はぺたんとその場に尻餅をついた。
そして、泣きそうに顔を歪めた女子は「いったぁ……ッ」と悲痛な呻き声を漏らす。
「…………」
ああ、そういやこの体は古屋君だったんだっけ。
その事実を再確認した僕は自分の手のひらを見詰める。
そうだ。力からなにからまで僕のものとは違うんだ。自分のものではないものの力の加減は難しく、やはり数週間経った今でも馴れないもので。
やはり、逸早く元に戻らなければ。ぼんやりと思いながら、僕はその場を後にした。
女子は、あまり得意ではない。
ただ単に免疫がないだけかもしれないが、なんとなく、苦手なのだ。異性として気にせず、自然体で接することが出来る同性と一緒にいる方が気が楽だった。
それでもやはり、同性でも苦手な人はいたが。
古屋将君。彼は、なんだか好きになれなかった。周りからは好かれているようだったが、僕はあまり好きではない。それは彼が僕のことを好いていないとわかったからだろうか。
なんとなく、苦手だった。
後先を考えない無謀さが。目的のためなら手段を選ばない必死さが。
平然を取り繕う糸が解れたとき、内側から覗く醜いそれが。
まるで鏡に映し出した自分を見ているかのような既視感に吐き気を覚え、見てみぬフリをした。見るに堪えなかった。
だけど、まさか、本当なんでこうなってしまったのだろうか。改めて彼と入れ替わってしまった事実に戸惑いながら、僕は歩いていた。
放課後、教室前廊下。
授業が終わり、話し掛けようとしてくる同級生を適当にかわしやってきたのは久保田君がいるはずの教室だ。
いつもに比べなにかある度に話し掛けてきた周りがいない分早く教室に辿り着くことができ、扉の前までやってきた俺はそっと教室を覗く。
夕暮れに染まった赤い教室内。殆どの生徒は部活だデートだ遊びだと各々教室を後にし、教室には人影はあまりなかった。
教室の隅にある、二つの影を除いて。
人気の無い教室内。そこにはひとつの机を挟み、お互いに向かい合うように椅子に座って談話している久保田君と古屋君がいた。否、僕の姿形をした古屋君と言った方が適切なのかもしれない。
「…………」
なにを話しているのだろうか。ここまで声は聞こえなかったがきっと他愛ないものなのだろう。
楽しそうに笑う久保田君を見上げ、照れ臭そうに、嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる僕もとい古屋君。
何故だろうか。楽しげな二人を見ていたら、教室に入ることができなかった。周りからしたら、こんな風に見えているのだろうか。
なんて思いながら、教室と廊下を隔てる窓から内部を眺める。
不思議な感覚だ。久保田君の隣にいるのは僕の体のはずなのに、中身が古屋君とわかっているせいだろうか。なんとなく、いい気分ではなかった。
嫉妬、とは、なんか違う気がする。独占欲か。なにに対する?久保田君?それとも僕の体への?
答えの無い自問をしてみるが、面倒臭くなり思考を振り払った。
自分の気持ちについて考えるのはあまり得意ではない。でも、古屋君が今どんな気持ちかくらいはすぐにわかった。
ああ、楽しそうだな。思いながら、小さく顔を伏せ頬を緩ませる古屋君を見据える。
古屋君は久保田君に恋をしている。いや、執着というべきだろうか。
古屋君の久保田君に対するそれは僕から見て異常に見えた。
だけど本人はもちろん周りの人間は古屋君のそれに気付いていない。僕も最初は気付かなかった。
けど、こうして環境が変化したお陰で滲み出るそれを感じることが出来た。
二人の間になにがあってここまで古屋君が久保田君に入れ込んでいるかはわからなかったが、もしかしたら、その古屋君の久保田君に対する異常なまでの恋情を利用することが出来れば古屋君を説得できることができるのではないだろうか。
あまりにも幸せそうな古屋君を眺める自分の脳裏にそんな思考が過ったときだ。
不意に、足音がした。咄嗟に足音がした方へと振り返れば、そこには渡利君がいた。
「渡利君」
「……」
「……奇遇だね、こんなところで」
「古屋君に言われてここに?」壁際、同様物陰から教室内部を覗いていた渡利君はいきなり話し掛けられ驚いたようだ。
僅かに緊張し、「まあな」とぶっきらぼうな調子で呟いた渡利君は言いながら僕から目を逸らす。
なんとなく様子が可笑しい。
渡利君の挙動不審は今に始まったことではないが、タイミングがタイミングだからだろうか。なんとなく、気になった。
心配になり相手を眺めていたとき、ふと僕は赤く腫れた渡利君の腕に気付いた。
「……その傷」
手の甲から腕にかけて複数の赤い線が滲む渡利君の腕のそれはどうやら引っ掻き傷のようだ。
皮が剥がれ、痛々しく腫れた腕の傷に目を見開いた僕は「誰かと喧嘩したの?」と渡利君を見上げれば、相変わらずこちらを見ようとしない渡利君は「ちげーよ」と語気を強める。
「別に、引っ掛かれただけだって」
「……引っ掛かれた?もしかして、古屋君に?」
「関係ねえだろ」
「まあ、そうだけど……。あ、そうだ、絆創膏……」
しまったとばつが悪そうな渡利君に構わず、慌てて制服のポケットに手を突っ込む僕。
お互いによく怪我をする体質なので常時絆創膏をポケットに入れ持ち歩いていたのだが、ポケットは空のままで。
そこで、ようやくこれが古屋君の制服だということを思い出す。
なにか代わりになるものはないだろうかと全身のポケットを漁ってみるが、ない。
苦戦する僕に対し「いいって、別に」と渡利君はそう溜め息混じり続ける。
「でも、傷口から菌が入ったら……」
「ごちゃごちゃうるせーな、気にすんじゃねえって言ってんだろっ!」
そして、渡利君の腕に触れようとしたときだった。じわじわと顔を赤くした渡利君はそう怒鳴り声を上げる。
渡利君が怒った。鼓膜を揺するその声にビクッと跳ね上がったときだった。
教室から聞こえていた久保田君たちの笑い声がピタリと止まる。どうやらこちらに気付いたようだ。
そして、
「古屋?」
椅子から離れ、教室からひょっこりと顔を出す久保田君。
そして、その後ろには怨めしそうな目でこちらを睨んでくる古屋君が立っていた。
「……っ」
どうやら渡利君は二人に気付かれるとは思っていなかったようだ。
面倒臭そうに舌打ちをし、久保田君を睨んだと思えばそのまま構わず教室を離れる。
「あ、渡利君……っ!」
咄嗟に、呼び止めようとするが遅かった。
無理して引き留めても絶対面倒なことになりそうだなと察した僕は諦め、去っていく渡利君の背中を眺める。
「おい、あいつって……」
さっきの傷、ちゃんと消毒したのかななんて思いながら一気に静まり返る廊下を眺めていると、同様渡利君の去った後を見据えていた久保田君は眉を潜め、こちらを見る。
「なんか言われたのか?」
どうやらまた僕が渡利君に襲われていたと勘違いしたようだ。
やけに真面目な顔をして心配してくれる久保田君になんだか気恥ずかしくなりながらも本当のことを話すわけにもいかなかったので、僕は「いや、大丈夫。大したことないから」と慌てて首を横に振る。
前回、渡利君に殴られて怪我を負わされてから久保田君はあまり渡利君を快く思っていないようだ。
誰にでも優しいイメージがあったので渡利君を邪険にする久保田君はなんとなく意外だったが、それ程久保田君が心配してくれていると思ったら嬉しくなると同時に渡利君に申し訳なくなった。
でもやっぱり、嬉しい。
ただ、古屋君の視線がチクチク痛いが。
その日の夜、夢を見た。
幼馴染みに暴行を加えられる夢を。
渡利君に胸を舐められ、嬲られ、弄ばれ、性器を咥えさせられたと思いきや喉奥に射精され、その場で嘔吐する。
こんな夢を見るのは初めてではない。
渡利君に犯される夢を見始めたのはつい先日からだ。
そこまで欲求不満だったわけでもなかったし、ましてや相手は渡利君だ。
そして最大の問題は、その夢を見たタイミングだ。
古屋君と入れ替わった今、その夢がなにを示しているか僕は理解出来た。
いや、映像と言った方が適切なのかもしれない。
正確には古屋君と入れ替わってから、夢を見なくなった。
見るのは、古屋君視点の断片的な記憶のみ。
眠っているはずの間見るそれが古屋君の見たそれだと気付くのには然程時間は掛からなかった。
単純に、僕のその日の記憶とその彼視点の映像が重なっていたから、僕はそれが古屋君自身の記憶だということに気付いた。
音声はない。あくまで、白黒の映像だ。
今までは特に気にしていなかったが、今まで自分の見ていたそれが古屋君の記憶だとわかってしまった今、断片的ながらも通常的には思えない渡利君と彼のやり取りに頭が痛くなった。
そして何より、今日見たそれは今までとは決定的に違うものがあった。感触が、体に残っている。
「…………っ」
目を見開き、勢いよくベッドから飛び起きた僕は辺りを見回す。
間違いない。ここは古屋君の部屋だ。それに、体も古屋君のままだ。
なのに、何故だろうか。全身を這う手の感触だけがくっきりと体に残っている。明らかに、生々しさを帯びていた。こんなこと今までなかったのに。
嫌な、予感がする。
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