成り代わり物語

田原摩耶

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後編【執着型偏愛依存症】

01

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『古屋がパン買いすぎたらしいから一緒に食おうぜ』

 そう久保田に誘われ、裏庭へと向かった昼休み。
 一分一分が勿体なくて、とにかく一分一秒でも長く久保田と一緒に過ごすため俺は急いで裏庭へと向かった。
 そのとき、隣を歩かせていた渡利から目を離したのが悪かったようだ。渡利がいなくなった。いや、まだそれだけならよかった。

 授業開始のチャイムが鳴ってどれくらいが経っただろうか。
 校舎内、廊下。ぜえぜえと肩を上下させ肺に空気を取り込む俺は、手に握り締めた携帯電話を睨み付ける。

「糞……ッ」

 どこに行ってるんだ、あいつは。
 やつの番号に何コールかけても一向に出る気配がない渡利に無意識に舌打ちが漏れる。そして、不意にこちらへと近付いてくる足音に全身を強張らせた。
 俺は今、逃げていた。馬淵周平に絡む連中から。
 まあ、つまりいつも通りの鬼ごっこだ。いつも通りだが、渡利がいないというのはやはり俺にとって最大の弱味らしく、迎え撃つことも出来ずただひたすらこの貧相な足で逃げ惑う俺だったが、それすらもう限界に近い。
 ああくそ、この足もいだ方が早く走れるんじゃないのか。思いながら壁に背中を擦り付け、そっと息を潜めたときだった。
 足音が、止まる。

「…………」

 もしかして、撒いたのだろうか。
 乱れる鼓動を静めながら、そう、間を空けゆっくりと曲がり角から廊下を覗こうとしたときだった。角からぬっと手が伸び、そのまま乱暴に首を掴まれる。

「ほら、隠れてないで馬淵君ヤらせてよ」

 俺を追っていた連中の一人がそこにいた。
 口許に軽薄な笑みを浮かべ、首根っこを掴み無理矢理俺を陰から引っ張り出そうとする不良に目を見開いた俺は、慌てて不良の手を掴み、引き剥がそうと暴れる。それに構わず、服の裾に手を突っ込んでくる不良に全身が緊張した。

「離せ、この……っ!」

 相手の髪を掴み、引きちぎる勢いで引っ張るが、服の中をまさぐってくる大きな手は動きを止めない。
 服を引っ掻き乱す指先のくすぐったさと正面から抱き竦められるような人の温もりに酷い不快感を覚え、堪らず顔をしかめたときだった。
 不意に、脈絡もなくその手の動きは止まる。何事だろうかとゆっくり顔を上げ、そのときだった。
 顔の横がなにかを過る。そして次の瞬間、ゴッと鈍い音が聞こえた。なにか硬いものが擦れたような嫌な振動と音。
 ぎょっと目を見開き、音のする方へと目を向ければそこには先程まで正面に立っていた不良が壁に顔を擦り付けていた。
 その後頭部には無骨な手が這わされており、そのまま恐る恐る手の持ち主を見上げれば、そこには俺の探していたやつがいた。

「お前……っ」
「…………」

 どこから沸いてきたのか、不良の背後に立ち、その後頭部を鷲掴んだ渡利敦郎は目を丸くする俺を一瞥するなりもう一発、不良の顔面を壁に叩き付ける。
 なにかが潰れたような音がして、不良が呻き声を漏らした。が、それも束の間。
 気絶したのか、脱力した不良はそのままずるりと壁に顔面を擦り付けるように床へと崩れ落ちた。
 じわじわと足元に滲む赤色に眉間を寄せた俺はそのまま視線を上げ、現れた渡利を睨み付ける。

「どこほっつき歩いてたんだよ。約束が違うだろ」
「職員室。……呼び出されてたんだよ」

 問い詰める俺に、小さく息を吐く渡利はそう吐き捨てるように冷たく呟く。
 ……なんだ、職員室か。
 もしかしたら馬淵に捕まえられたかもしれない。そう心配した俺はその言葉に内心安堵する。
 渡利を教員の中年連中が捕まえることなんて出来るのだろうか。なんて思ったが、初めて渡利を見掛けたとき、あいつは指導室に連れていかれていた。
 嘘か本当かわからなかったが、こうして元に戻ってくれたことで大分安心した。これでなんとか不良連中から逃げることは出来るだろう。
 そう安堵した俺が乱れた制服を直そうとしたときだった。不意に、手首を掴まれ手を止められる。

「……なに?」
「これで、借り一つだ」

 訝しげに顔を覗き込む俺に対し、そう渡利は相変わらず仏頂面のまま続けた。その一言に、俺は渡利との約束を思い出す。
 渡利は俺の言うことを聞く代わりに俺を好きに犯す。
 場所時間は問わない。それが、渡利との約束のはずだ。しかし、それは俺が馬淵のフリをしていたときの話だ。

「……あぁ、そうだな。そうだ、そんな約束だったな」

「……俺、馬淵じゃねえけど」そう、浮かべた笑みを引きつらせて渡利を見上げれば渡利は「お前が言ったんだろ。馬淵の真似するって」となんでもないように続ける。
 そして、

「しろよ」
「……っ、ここで?」
「当たり前だろ。言ったよな、その体をどう使おうが俺の自由だって」

 高圧的で、見下げたような態度。
 俺が馬淵周平ではないとわかったからの高圧的なそれなのだろう。
 その偉そうな態度が気に入らなくて、それでもここで渡利の気を損ねさせるわけにはいかなかった俺は「ああ、糞、勝手にしたらいいだろ」と吐き捨てた。
 すると、渡利は「あいつはそんな口悪くねえよ」とかごちゃごちゃ言い出す。
 ムカついて、舌打ちしそうになったのを寸でで堪えた。

「うっさいな、ほら、するならさっさとしてよ。たらたらしてる内にこいつが目ぇ覚まして公開プレイなんてやだよ」
「それはお前次第だろ」
「なんで……っふ、んん……っ」

 言いかけて、手首ごと腕全体を壁に押し付けられたと思ったら覆い被さってくる渡利は首元に顔を埋めてくる。そして、そのまま喉仏を舐められ、皮膚を這うぬるりとした生暖かい舌の感触に身を竦めた。
 息が吹き掛かり、間近に渡利がいるということを再確認した俺はなんだかいたたまれなくなる。
 ああ、本当悪趣味だな。
 空いた方の手が、先程まで不良に乱された制服の裾の下から入り込んでくるのを感じながら、俺はただこの忌々しい行為に渡利が飽きるのを待つことにした。

「っ、く、ふ……ぅ……っ」

 舌で首筋から鎖骨を撫でられ、皮膚に浮かび上がる骨格の凹凸を丹念にしゃぶられる。
 渡利が唇を動かす度に湿った音が体内に響き、なんだかもう気が気ではなかった。相手の熱っぽい吐息に当てられたのか、触れた箇所がじんと痺れる。
 そして、ようやく渡利が顔を上げたと思えば、服の中をまさぐっていたその手は裾を掴み、そのまま強引に服をまくり上げた。

「ちょ、ぅわ、なに……っ」

 強引に露出させられた胸元が肌寒くなる。
 何事かと渡利を見上げれば、渡利はこちらを見ようともせずそのまま今度は剥き出しになった貧相かつ貧弱な胸元に顔を埋めた。その行動にぎょっとした矢先だった。
 まだ夏の名残が残っているとはいえ、肌寒さを感じ、固くなっていた胸の突起に渡利の唇が触れる。
 それだけでもかなり嫌なのに、やつはあろうことか乳首を舐めてきた。

「ん、ぅ、……っや、ぁ……っ」

 巨乳ならまだわかる。わかるけど、こんな平坦な胸弄ってなにが楽しいんだ、ほんと。悪趣味だ。
 渡利の熱く濡れた舌先が突起を掠る度に刺激に慣れていないそこにはぞくぞくと嫌な感触が走り、呻いた。
 服をまくり上げていたもう片方の手で空いた方の乳首を摘ままれ、堪らず俺は逃げるように壁に背中を擦り付けたがそれが不味かったようだ。
 小さく勃起した乳首を突き出すように仰け反らせたお陰で、腕を掴んでいた渡利の手にそのまま腰を掴まれ乳首を吸われる。引っ張られるようなその湿った感触に肌が跳ねた。

「わたり、く、……っそういうの、いらないってば……ぁ……ッ」

 舌先と唇でねっとりと嬲られ、もう片方の突起は指先で乱暴に扱かれる。
 両胸に送られる違う刺激に顔が熱くなり、俺は胸元に頭を埋める渡利の髪を引っ張るが、唇に含められ唇で挟まれ舌で先端をやわやわ嬲られていたそこをコリッと甘噛みされればビクりと緊張した指先は反射で渡利から離れた。

「っ、ひ、んんっ、く、ぅっ」

 そしてそのまま乳首を噛まれ、もう片方の突起を荒い手付きで捏ねられる。
 本来ならば痛いの部類に入れられるはずの感覚なのだろうが浅ましいことに馬淵の体にはその荒さは心地よく感じてしまうように出来ているようだ。
 勃起したそこを潰され、更に硬度を増す胸の突起になんだか泣きそうになる。
 なんで俺がこんなやつに乳首吸われなきゃいけないんだよ。

「渡利、く……んんっ」

 それでもただ相手の行為を受け入れることしか出来ないこの契約が今は忌々しい。
 身を捩らせ、渡利の肩を掴みそのまましがみつこうとしたときだった。
 不意に、唇を離した渡利は顔を上げる。
 急に行為を止める渡利に驚いて、慌てて手を引っ込めれば、すぐに渡利が行為を中断させたその理由に気付いた。
 人の声だ。人の声がする。
 一応授業中の今、校内を出歩いているやつなんて限られている。
 足元で鼻血出して眠っている不良を見た。まさか、まだ諦めてなかったのだろうか。追いかけ回してきた不良連中のことを思い出し、いや渡利がいるから大丈夫だと安心するもすぐに自分の状況に気付き、内心冷や汗を滲ませる。でも、流石に渡利もこのまま続ける程の馬鹿ではないようだ。
 周囲に目を向け、渡利は俺から手を離す。
 中断してくれる渡利にほっと安堵し、みすぼらしく濡れた胸元を拭いまくり上げられていた制服を下ろしたときだった。
 なにを思ったのか自らの下腹部に手を近付けた渡利はベルトのバックルを外し、自分のウエストを緩めようとする。まさか、まだするつもりなのか。

「ねえっ、人が……っ」
「関係ねえよ」

 目の前でのんきにスラックスを下ろし下着から性器を取り出そうとする渡利に流石に動揺する俺はぎょっと目を丸くし、相手の下腹部を凝視した。
 そしてそれが勃ちかけていることを酷く軽蔑し、後ずさる。
 勿論背後の壁に阻まれた。
 だからなんで勃起してるんだ、こいつは。そう眉を潜めたときだ。
 伸びてきた渡利の手に手首を掴まれ、捻り上げられる。
 そして、

「しゃぶれ」

 そう一言。変態染みた言葉を口にする渡利に目を見開いた俺は渡利の顔を見上げる。
 こちらを見下ろす渡利のどこか冷めた目と目があい、視線が絡み合った。堪えれず、すぐに視線を逸らす。

「なんで、僕が」
「さっさとしろ。お前の言うこと聞かなくていいのかよ」
「…………ッ」

 本当、調子に乗りやがって。
 この俺を脅迫するつもりかよ。くそ、渡利のくせに。渡利のくせに。
 あまりにも偉そうな渡利の態度が気に食わず、ムカついてムカついて仕方がない。
 仕方がないのに、約束のことを出されればどうしようもなくなってしまう。
 お互いにとってこの契約は弱味であり、拒否することが出来ない。
 そういう風に出来ている契約だからこそ、また俺も拒否することは出来なかった。
 馬淵がこんなに無能ではなければ、こんなことせずとも普通に学園生活を送ることが出来たのに。
 ぎっと奥歯を噛み締め、顔をしかめた俺はそう渡利を睨み、そして地面に膝をついたままそっと渡利の下腹部に顔を寄せた。

「…………っ」

 跪き、渡利の下腹部に顔を近付けたまま俺は硬直する。
 独特の臭いが鼻腔から染み込み、軽い目眩を覚えた。全身の筋肉が強張り、顔が引きつる。性器を凝視したまま動こうとしない俺に痺れを切らしたようだ。
 面倒臭そうに髪を掻いた渡利は舌打ちをした。

「なにもたもたしてんだ、早くしろよ」
「早くって……そんな、急かさないでよ」

「こんなの、口にできるわけないじゃん。汚い……っ」そう渡利の腰を掴んだまま身を退こうとしたとき、その一言に渡利の額に青筋が浮かぶ。
 そして長ったらしい前髪を乱暴に鷲掴まれ、無理矢理顔を上げさせられた。

「うるせぇな、言うこと聞いてほしいんだろうが。つべこべ言う暇あったらさっさと口開けよ」
「っ、んぶッ」

 頭皮の痛みに小さく呻いたとき、もう片方の手で鼻を摘まれる。
 息苦しくなり、空気を取り込むため小さく口を開けば渡利は容赦なくそこに勃ちかけた性器を捩じ込んだ。

「ん゙んッ、ぅ、むぅ……ッ」

 根本まで一気に咥えさせられ、その異物に圧迫された咥内に嫌な味が広がった。
 息苦しさに増し、圧迫感、異物感、嫌悪感諸々で涙腺は緩み、生理的な涙が滲む。
 咥えさせられたまま嗚咽を繰り返す俺を見下ろす渡利は渇いた唇を舐め、そのまま掴んだ俺の頭を前後させ咥えさせた性器を口全体で奉仕させてきた。

「っぅ゙えっ、ぐっ、っふ、んぐっ」

 顎が外れそうだった。
 強制的に前後する頭部に合わせて腰を動かしてくる渡利に何度も喉奥を突かれる度に捩じ込まれた異物のお陰で開きっぱなしなった口端からは唾液が溢れる。
 それを拭う隙すら与えられず、俺はただその乱暴かつ性器ではないところへの挿入を必死に受け止めようと、壊されてしまわないようと泣きそうになりながら渡利の腰にしがみつくが渡利の挿入は激しさを増すばかりで、喉奥を性器で突かれる度に目の前がチカチカし、嗚咽した。
 こいつ、俺が馬淵ではないとわかった途端この扱いとかほんと、嘗めてんじゃないだろうか。
 まるでオナホを相手に突っ込んでるようなこちらに配慮していない乱暴な動きに顎は痛み、強引な動かされる首は軋む。
 舌を動かし相手をさっさとイカせようとするにもそんな余裕がなく、だらしなく垂れた舌の上を性器が何度も掠るようなものになってしまう。
 そう、苦痛に喘ぎ開きっぱなしになった唇から汁を溢れさせる俺を見下ろす渡利は楽しそうに口角を持ち上げた。そして俯きがちになっていた俺の髪を引っ張り、再度上を向かせてくる。

「ほら、さっさと喉締めろよ……っ動いてやってんだろッ」
「んんっ、ぅ、っ、ぐ……っ」

 そして、渡利に大きく腰を打ち付けられた。
 ドクンドクンと脈打つ性器は咥内で膨張し、高度を増したそれのせいで軽い呼吸困難に陥った俺は咥内に充満した生臭さに耐えられず込み上げてくる吐き気に喘いだ。
 その拍子、喉奥まで来ていた口の中のそれを思いっきり締め付けてしまったらしい。
 ビクンと別の生き物のように跳ねたそれは次の瞬間喉の気管に大量の精液を吐精した。

「っ、ぅぶ……ッ!」

 ごぽりと、喉に直接注ぎ込まれる粘ついた熱い液体に目を見開いた俺は咄嗟に口を離そうとするが、頭部を固定した渡利の手がそれを許さない。
 変な気管に入ってしまったようだ。
 嫌な痛みが走り、苦痛に耐えきれずぎゅっと目を瞑った俺は喉奥へ舌を引っ込め、精液を飲み込まないように蓋をする。
 どうやらそれがまずかったようだ。
 蓋をしたせいで受け止めきれず、精液でいっぱいいっぱいになった咥内に尚も注ぎ込もうとする精液は行き場をなくし、俺の口から吐き出された。
 渡利の手を力いっぱい引っ掻き、剥がした俺はその場に踞り口の中のそれを廊下の上に吐き出す。
 ドロリとした液体は唇を伝い、ぼたぼたと床の上に白い水溜まりを作る。

「おぇ゙ッ」

 床に顔を伏せ、何度もえずいた。
 咥内に指を突っ込み、喉を刺激し飲み込んでしまった精液を嘔吐しようと指を動かすが、吐き出そうとした直前、伸びてきた渡利に髪を鷲掴まれ無理矢理上を向かされる。
 吐き損ね、咥内に残った精液が唇から垂れ、首筋へと流れ落ちるそのねっとりとした感触が酷く気持ちが悪い。
 それを拭いながら、俺は目の前の渡利を睨み付けた。
 そんな俺に不快そうにするわけでもなく、ただ渡利は白濁に汚れた俺を冷めた目で見下ろす。

「溢したやつ、全部舐めろ」
「っ、嫌だ」
「てめぇに拒否権あると思ってんのか?」

「舐めろって言ってんだろ」そう、低く地を這うような声で吐き捨てる渡利は俺の頭を掴み、そのまま汚れた床へ押し付ける。
 渡利がなにをしようとしているかわかった俺は手が汚れるのも構わず両手を床につき、必死に頭を上げようとするがやはり馬淵の体ではここまでが限界だったようだ。
 後頭部を押さえ付けてくる渡利の手に力が加わった瞬間、どしゃりと床に崩れ落ちた俺はそのまま顔面から精液の水溜まりに落ちる。

「い、ぁあ゙……ッ」

 ぐちゅりと、嫌な感触が頬を濡らす。
 全身が粟立ち、あまりの出来事に俺は声にならない呻き声を漏らし、そして慌てて体勢を建て直そうと再び伏せた腕に力を入れるが、渡利がそれを許さない。

「……っ」

 顔を上げようとしてすぐ、べしゃりと床に叩き付けられる顔面。
 そしてそのまま精液に頬をさせるよう後頭部を押さえつけられ、ぎゅっと目を瞑った。
 汚れる顔面。端から見れば今の俺は床に頬擦りしながら土下座をしてるようにしか見えないだろう。
 口許を容赦なく汚す生暖かい精液に、あまりにも馬鹿にしたような渡利の態度に憤慨した俺は目を見開き、屈み込んでこちらを覗いてくる渡利を睨み付けた。

「てめえ、覚えとけよ……っ」
「言い出しっぺはお前だろ?お前が馬淵の体にいる限り、死なせねえし逃がさねえよ」

「勿論、最後まで自分の言った責任取るよな」自分の頭部を容赦なく押し付けてくる渡利の手首を掴めば、渡利はそうこちらを睨み返してくる。
 体勢が体勢のせいか、やはり動かない。それでも構わず俺は渡利の手に爪を立て、皮膚を裂く。渡利は怯まない。

「ッ……馬淵のやつに、なに吹き込まれたんだよ」

 そう、口に精液が入ろうとも構わず渡利に問い掛ければ、こちらを見下ろす渡利は「馬淵は関係ねえよ」と相変わらず冷ややかな口調で言い切った。

「元々これは、俺とお前の約束だったはずだ」

 そして、ただ一言。渡利は親の仇でも見るような目でこちらを睨み、吐き捨てた。
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