成り代わり物語

田原摩耶

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前編【誰が誰で誰なのか】

10※

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 なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
 自分の蒔いた種だとわかっていても、やはり納得出来なかった。

「今日なんか馬淵君元気だねー。いいよいいよ、俺元気な子ちょー好き」
「とか言いながら好きな子殴るとか最低だろ」
「ははっ!バーか!元気なやつ殴るのが好きなんだよ」
「どっちにしろ最低じゃねえか」

 目の前で交わされる会話に、楽しそうな笑い声。
 こんな体じゃなかったら。
 無駄とはわかっていてもそう思わずにはいられない。
 腹部ばかりを重点的に殴られ続け、逃げようとしても背後から腕を掴まれているせいで体がビクともせず、せめて痛みを和らげようと腰を引こうとしたら背後の不良に無理矢理抱き締められるように胸を仰け反らされる。
 すると必然的に反った腹部は無防備になり、そこから膝頭で殴られたり丸めた拳をのめり込まされたり好き勝手され、ズキズキと焼けたような痛みが走る腹部には内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような不快感でいっぱいになった。
 殴られた箇所が酷く疼く。
 痛みで全身の力が抜け落ち、だらしなく開いた唇から唾液が溢れた。
 顎先へと垂れるその感触が気持ち悪くて手で拭ってやりたかったのに拘束されているお陰でそれすらも儘ならない。

「最低とか言うなよ。ほら、馬淵君喜んでるんだし寧ろ献納?つーかボランティア?」
「喜んでるっていうか意識混濁って言うんだろ、そーいうの」
「ちげーよ。ちゃんと起きてるって、馬淵君」

「なあ」さっきから不愉快な言葉を口にしてはゲラゲラと笑う不良Aはこちらを向くなりそう鳩尾に拳を叩き込まれる。

「は、ぁ゙……ッ」

 喉奥から呻き声が漏れ、下半身がガクガクと軽い痙攣を起こした。
 その一撃は貧弱貧相な馬淵にとっては酷く重く、まともに立ってられなくなる。
 目の前が白ばみ、全身に嫌な汗が滲んだ。
 調子に乗りやがって。襲い掛かる痛みと嘔吐感に堪えれずえずき、そのまま俺は正面に立つ不良Aを睨む。

「涎垂らして喜んじゃってーやらし。馬淵君がマゾっていうウワサ、まじっぽいじゃん。ウケるわー」

 そう言いながら唇に触れそのまま指の腹で唾液を拭う不良Aの顔が近付いてきて、真っ正面から見据えられる。
 それをにやにやしながら眺める連中。
 何度か話をしてこいつらが厄介なやつらとはわかってはいたが、唯一バカだったのが救いなのかもしれない。
 詰めが甘いんだよ。名前すらも知らない友人たちを見渡し、食いしばった口の中で小さく呟いた。

 震えが止まり、だらりと垂らしていた足の裏に力を入れる。
 背後から羽交い締めにされたまま体勢を立て直した俺はぎゅっと地面を踏んだ。
 腹筋に力が入らないのが難点だが、こんなひょろい腹筋あってもなくてもなんの役にも立ちやしない。
 思いながら、近付いてくる不良Aの顔を見据えたまま俺は片足を地面から離し、そのまま爪先に力を入れるように不良Aの脛を蹴り上げた。

「い……ってぇ!」

 ゴリッとした硬い骨の感触が上履きに当たり、間抜けな悲鳴と共に目の前の不良Aは目を丸くして脛を押さえるように踞る。
 周囲は俺の足元なんかに気にしてなかったようだ。
 いきなり踞る不良Aに何事かと目を丸くさせる周囲に構わず、俺は羽交い締めにされた状態で出来る限り顎を引く。

「おいっなにやって……ぐぁッ!」

 そしてそのまま思いっきり顔を上げ、背後にある不良Bの顔面に後頭部を打ち込んだ。
 確かな手応えとともに後頭部に鈍い痛みが走り、脳味噌が揺れる。
 一瞬そのまま力が抜けそうになったが踏ん張り、羽交い締めにする相手の手の力が緩んだ隙を見て俺は不良Bを思いっきり振り払った。
 もう一発とどめを刺したいところだったが、周りにいた不良に捕まえられそうになって咄嗟に便所の出口に向かって走り出す。

「てっめぇ……ッ」
「おい!さっさと捕まえろ!」
「ぶっ殺す!」

 飛ばされる野次を背に、俺はただ出口を目指して走る。
 腹が痛い。腹ばっかりぶん殴られたお陰でかなり支障を来しているようだ。
 思ったよりも力が入らず、スピードが出ない。
 ただ単に馬淵の足が糞遅いだけなのかもしれないが。
 伸びてくる手をなんとかすり抜け、そのまま出口まで来たとき。ふと、死角になった出入り口外の廊下から人影が現れた。
 ただ逃げることに夢中になっていた俺は現れたそれに気付くのが遅れ、立ち塞がるそれにそのまま顔面からぶつかる。

「……っ」

 鼻に痛みが走り視界が暗くなる。
 その反動でふらふらとよろめいたとき、ふと伸びてきた手に腰を支えられた。
 背後に近付いてくる複数の足音。
 もしかしたら、渡利だろうか。そんな都合のいい思考を働かせてしまうのはやはり状況からだろう。
 しかし、その可能性はすぐに断ち切られた。
 鼻を押さえた俺はそのまま顔をあげ、そのまま全身を硬直させる。

「つーかまえた」

 目の前にいたのは不良連中の仲間と思わしきいかにもな服装違反の男子生徒だった。
 見張り。そんな単語が脳裏を過る。迂闊だった。
 何度も加害者側に回ったことがあるにも関わらず、その存在を忘れるなんて。
 気付いたらやってきた不良連中に囲まれていて、全員が全員敵意を剥き出しにしてこちらを睨んでいた。
 渡利はどこにいるんだ。なにしてるんだあの役立たずは。どこをほっつき歩いてるんだ。さっさとこいつらを全員殺せ。
 そう声を上げようとした瞬間、後頭部に衝撃が走る。
 まるで固いもので撲られた焼けるような鈍い痛み。
 そのまま抱き締めてくる見張りに凭れた俺は力を振り絞って背後を振り返る。そこには、デッキブラシを手にした不良Aが立っていた。

「……っクソ……ッ」

 次第と薄れていく意識とは対照的に熱を持って疼き出す頭部の痛みにそう毒吐かずにはいられなかった。

 後頭部を思いっきり殴られ、全身から力が抜ける。
 思考が停止し、自分が目が覚めてるのか夢を見てるのかわからなくなった。
 そして、いきなり襲ってきた腹部の衝撃と頭上から落ちてきた低い声によって夢現つだった俺の意識は強制的に引き戻される。

「いつまで寝てんだよ」
「ッんぐ」

 容赦なく腹部にめり込む二発目の蹴りにそのまま俺は腹部を庇うように背中を丸める。そこで、自分が床に寝ていることに気付いた。
 痛みに目を細め、咄嗟に辺りを見回せばそこはまだ便所の中で。汚い。
 顔面半分にくっついたタイルの床に青ざめた俺は慌てて起き上がろうとするが、近くから飛んできた爪先に顎を蹴られそのまま蹲る。

「はッ、……っぅ゙う」
「ねーどうするこれ」
「どうする?」

 ずきずきと激痛が走る顎を押さえ、囲むように立つそいつらを睨むように見上げる。
 どうやら便所の奥まで引きずり込まれたようだ。

「どうするもこうするもやっぱ馬淵君って言ったらさあ、こっちじゃん?」

 最悪だ。なんて思いながらどうにかしてこの状況を切り抜けることが出来ないか思案したとき、近くにいた不良に片足首を掴まれた。
 いきなり伸びてきた手に股を開くように片足を持ち上げられ、顔をしかめた俺は慌ててそれを振り払おうと足を動かすがこの体制からして不利のようだ。
 抵抗しようとすればするほど関節が軋むばかりで、下腹部に向けられる不躾な周りの視線から逃げることはできなかった。

「あーそういやそっち系だっけ。まじなんあれ」
「試して見ればいいだろ」

 不愉快極まりない下品なやり取りに頭が痛くなる。
 いつも一緒になって笑っていたのに、自分が笑われる対象になるというのとは大分状況が変わってくるようだ。

「ケツに突っ込んだらいいんだっけ?」

「ほら、ケツ出せよ。気持ち良くしてやるから」そして慌てて足を閉じ足首を掴んでくる手を離そうとしたとき、俺の傍にいた不良Aがモップの柄を手にしたままわらう。
 不良Aがなにを企んでいるの気付き、流石に血の気が引いた。

「……っ離せ!離せよっ」

 カラカラになった口の中、固唾を飲んだ俺はそう搾り出すように声を上げる。
 咄嗟にもう片方の足を掴もうとしてくる不良Aの膝を蹴り、抵抗した。
 が、筋肉と無縁の馬淵の体だ。威力なんてたかが知れている。

「あいたたた、ちょっとちゃんと捕まえといてってば」

 まるで犬に噛まれたようにそう面倒臭そうな顔をする不良Aは言いながら俺の腹部を蹴り上げる。
「ッ」胃液が逆流しそうになり、アザだらけになったそこには鈍痛が走った。
 一瞬体が浮き、そのまま俺は壁にぶつかる。
 背中に硬く冷たい壁の感触が辺り、とうとう追い詰められた俺は痛みに小さくえずいた。
 そしてそのまま背中を丸めるような蹲ったとき、飛んできた靴の裏に肩を踏まれ無理矢理壁に押し付けられる。全体重をかけてくるそいつの足を掴み離そうとしたとき、正面に屈み込んだ不良Aに制服のズボンを掴まれた。

「じゃあ馬淵君脱ぎ脱ぎしよっか」

 小馬鹿にしたような下品な笑み。
 まるで赤ん坊でもあやすような口調でそう笑う不良Aにイラついてカッと顔面に血が集まるのがわかった。

「やめろっ、触んなっ!」

 助けが来る前に自分がどうにかされるかもしれない。
 そう思ったらいちいち馬淵のフリをする余裕なんてなかった。

 咄嗟に足をばたつかせるが、上手く力が出ない。
 覚醒した意識に比べ肉体はまだ眠ったままのようだ。
 至るところ鬱血した体はまともに力が入らず、慌ててベルトを掴むがいとも簡単にそれは手から離せそのままズボンを脱がされる。

「まじで入れんのかよ、それ」

 下着ごと剥かれ、肌寒くなる下半身を隠したくなる衝動に駆られる。
 自分に向けられる侮蔑や好奇心、嘲笑を孕んだ無数の視線。
 その中に哀れみや同情の眼差しを向ける人間は一人もいない。

「どうせいっつも色んなもん突っ込んでんだろ?ちんこと大差ねーって」

 こちらを見てはにやにやと笑う一人の問い掛けに対し、足で腿の付け根を踏み付けてくる不良Aは言いながらこちらを見下ろしてくる。
 体重を掛けられる度に靴の裏の凹凸が皮膚に食い込み、無理矢理開脚された関節が軋んだ。
 そんな不良Aに対し、ドン引くどころか「うっわ鬼畜ー」と囃し立てるようにドッと湧く。
 こいつらの笑いのツボが可笑しいのは今に始まったわけではないが、今はただ不愉快で仕方なかった。

「寧ろ優しさだろ、優しさ」

 楽しそうに笑う不良Aはモップの柄を持ち変え、おもむろに柄の先端を俺の下腹部へ潜り込ませる。
 そして、次の瞬間。

「大好きなアナル弄って貰えるんだから、さあっ!」
「っ、ぎぁッ!」

 楽しそうな声と共に柄で肛門を軽くつつかれたと思ったと同時にそれは無理矢理ねじ込まれる。
 遠慮無しに乾いたそこに入り込んでくるモップの柄は思ったよりもすんなり体内に入り、不良Aの荒々しい手付きとともにそのまま乾いた内壁を引っ張るように奥深くまで侵入してきた。

「ッ……は、ぁ、ぐぅ……ッ」

 感じたことのない圧迫感に異物感。
 みちみちと裂くように突き進んでくる細長い柄に、全身を緊張させた俺はただひたすら藻掻く。
 毛穴という毛穴から汗が吹き出、痛みを堪えるように食いしばった歯からは呻き声が生まれた。
 突っ込まれたのなんて初めてなのに、なぜかそんな気がしない。
 体が覚えてるというやつだろうか。体内を乱暴に擦り上げてくる無機質なそれに俺は目を見開いた。

「どうせ鳴くんならもうちょっと可愛く喘げよ。サービス精神ねえな」
「一本じゃ物足りないんじゃね?」
「なるほどな、馬淵君ヤリマンだからなぁ」
「マンじゃないだろ、マンじゃ」

 腹の中を抉るように突き進んでくる柄に全神経が集中する。
 不良連中の馬鹿げた会話を理解する余裕なんてなかった。
 慣れてない場所に突っ込まれ、激しい痛みを伴うものの挿入は止まらない。
 柄を掴み引き抜こうとするが、伸びてきた足に思いっきり手のひらを踏まれ、床と靴の裏の間に挟めて踏み潰される。
 手の甲が軋み、至るところに走る痛みに身悶えた。

「あー残念、モップねえわ」

 そして、連中の戯れ言を真に受け掃除用具入れを覗いた一人の不良はそう残念そうに笑う。
 実際残念がってるのだろう。
 俺からしてみれば余計なことをするなとしか思えない。

「あ、じゃー代わりこれでいいじゃん」

 そして、掃除用具入れの近くにいたもう一人の生徒は扉から中を覗き、言いながらそれを取り出した。
 青いゴム製のその細長いそれは俺にとっても日常的に見覚えがあるものだった。
 ホースだ。

「っ?!」

 全身が凍り付く。挿入とは掛け離れたようなぐにゃぐにゃのフォルムに、その用途を理解した俺は生きた心地がしなかった。
 しかし、それに気付いたのは俺だけだったようだ。

「馬鹿、どうやって突っ込むんだよ」

 あまりにも場違いなそれに一人の不良が尋ねる。
 そして、ホースを水道に繋げるその生徒は「どうって」と可笑しそうに笑いながらこちらに歩いてきた。
 咄嗟に後退るが、背中の壁と踏まれた体のお陰で儘ならない。

「そりゃこーやってだろ。普通に」

 そして、既に深くまで入ったモップを咥え込んだ下腹部に手を伸ばしたその生徒は問答無用で肛門を指で広げ、そのまま潰したホースを体内に埋めてきた。
 十センチ程入れた所で手を止めた生徒はモップとホースを束ねるように持ち、そのまま固定する。

「んじゃ、水出しちゃえ」

 その言葉を合図に、ホースの水道の近くに待機していた生徒は蛇口を捻った。
 慌てて止めようとしたが、一歩遅かった。

「っ、ひ」

 瞬間、じわりと体内に広がるひんやりとしたその冷水に全身が跳ねる。
 染み渡るように流れ込んでくる水はそのまま外へ溢れ、太ももを濡らすように水溜まりを作った。
 ただの水とわかっているのに、濡れる下腹部に排泄に似た羞恥を覚える。

「ちゃんと押さえとけよ」

 そして、水溜まりに気付いた不良Aは言いながら俺の腿から足を離したと思えば、そのまま乱暴に足首を掴まれ腰を持ち上げられる。
 異物を突っ込まれた肛門を人目に晒すような体勢も拷問に近かったが、なによりもキツかったのはその体勢によってホースの水が奥へと浸透してくることだった。
 無理な体勢にただでさえ筋肉痛に苛まれていた全身が痛み、「了解了解」と笑いながらもう片方の足を持ち上げてくるまた別の生徒に俺は呻く。

「どんくらい膨らむか試してみよっか」
「くそ……っ、やめろ、抜けって……ッ!」

 腹部に溜まる冷水にただならぬ不快感を覚える俺はそう唸るように声を荒げる。
 どうやらそれが不味かったようだ。

「馬淵君元気いいなあ、誰か口塞いどけよ」
「りょーかい」

 そんな会話を交わす連中。
「ほら、馬淵君お口チャックしないと駄目だよ」そして、ホースとモップを掴むそいつは汗びっしょりにった俺に笑いかけてくる。
 今すぐ大声出して助けを呼びたかったが、僅か振動でちゃぷちゃぷ波を立てる水道水の感触がただひたすら気持ち悪くて口を開いた俺はただえずく。
 本来ならば排泄する場所から強制的に体内に水を注ぎ込まれることによって生まれる激しい嘔吐感。

 そして、何度もえずいてると体内のホースが大きく跳ねた。
 何事かと水道付近の生徒に目を向ければ、どうやら水道を全開にしたようだ。
 先ほどとは非にならないくらいの大量の水道水が腹部に注ぎ込まれ、体が可笑しそうになる。

「っが、ぁ……ひっ、ぎぁ……っ」

 何が自分の体に注ぎ込まれているのかわからなくなるほどの衝撃と息苦しさに口を開閉させる。
 声帯が震え、開いた口からは呻き声に似たそれが漏れた。
 そして、次の瞬間。

「おー膨らんどる膨らんどる」
「っぅぶ」

 まるで食後のように不自然に膨らむ腹部に目を輝かせた不良Aは言いながら思いっきり膨らみを潰すように足を下ろした。
 瞬間、放水されるそこから勢いよく中に溜まった水が溢れる。

「あははっ!すげー出たじゃん!」
「きったねーな。靴濡れただろうが」

 恥ずかしい音を立て異物を挿入されたその隙間から勢いよく噴出する水は辺りを濡らし、近くにいた不良たちは水浸しになる俺を見下ろしゲラゲラと笑いながら好き勝手口にした。
 腹の上から踏まれ、中に入った柄がごりごりと体内に当たる。
 そして、開きっぱなしになった水道のホースは再び俺の腹を満たしにかかってきた。

「まだまだ膨らむぞ」

 蛇口を締めない限り、体内への放水は止まらない。
「っも、止め……」腹部を無理矢理押し広げ膨らませるような水責めに耐えられず、気付いたときにはそう呻くように懇願していた。
 それに対し、こちらを見下ろしていた不良Aは「俺のちんぽしゃぶってくれたらいいよ」と笑う。
 声につられるように顔を上げれば目の前に下腹部があり、あまりの不愉快さに顔をしかめた俺は慌てて反らす。

「誰が……ッ」
「ん、じゃあこのまま固定しとくか」

 どうやら最初からおれが咥えるなんて思っていなかったようだ。
 そう即答する俺に対し、なんでもないように続ける不良Aは「誰かガムテ持ってね?」と周りに声をかける。

「持ってねーだろ」

 そう口々にする連中の中、掃除用具入れの傍にいた生徒は「じゃじゃーん」と言いながらガムテープを取り出す。
 連中も都合よくあるとは思っていなかったようだ。
 目を丸くする俺同様呆れたような顔をする連中は「なんで持ってんだよ」と可笑しそうに笑った。

「や、そこに置きっぱになってた。んで固定すりゃいいんだっけ?」
「ホースが外れないようにと、こっちも外れないように」
「りょーかい、じゃあ先に馬淵君からいこっか」

 ヘラヘラと笑いながらガムテープを放り投げてくるそいつからそれを受け取った不良Aはビリッと音を立てガムテープを伸ばす。
 そしてそのまま乱暴にモップを引き抜かれ、いくらか水が零れ腰から背筋へと垂れる。
 水が浸水しているお陰であまり痛みは伴わなかったが息苦しさは変わらない。
 反応するように足が揺れ、片足を担いだままガムテープを近付けてくる不良Aは「おい暴れんなって」と面倒臭そうな顔をした。

「体も縛っとくか」
「いーなそれ」

 足と手首を束ねるようにガムテープにぐるぐる巻きにされたと思ったら小便器のパイプに固定される。

「やめ、っんぶ」

 大きく開脚させるような無理な体勢にそう声を上げようとしたとき、不良Aに口元を鷲掴むように両頬を潰されその先は言葉にならなかった。

「あーあ、馬淵君がしゃぶってくんねえから皆ノリノリになってんじゃん。腹破裂しても俺のせいにすんなよ」
「……っ」
「まあ、しゃぶる気出たらいつでも言えよ。水止めてやるから」
「ッ、死ね」

 あまりにも調子に乗った発言が鼻に付き、耐えれずそう呻けば不良Aは馬鹿でも見るかのように笑い、そして残念そうに肩を竦めた。

「あーあ、せっかく人が優しくしてやってんのに。馬淵君なんてもうしーらない」

 なにが優しくだ。従ったところで解放するつもりなんてないくせに。
 暴力に屈し、へこへこ頭下げる馬淵なんかとオレを一緒にしないで欲しい。
 そう思ってる間にもう片方も縛られ、両手両足を固定された体は僅かに地面から浮く。
 こんな拘束、自分でどうにかなる。
 そう思っていたが、正直想像以上だった。
 体が浮いたせいで全体重が両手両足にかかり、身動ぎするがぐるぐるに巻かれたそこはちょっとやそっとじゃどうにかなるものではなかった。
 体に溜まる水に両手両足にかかる体重、血が止まりそうなくらいキツく拘束するガムテープ。
 どうせ馬淵の体なのだからどんな辱めを受けようがこれは俺ではないのだから大丈夫だ。そう言い聞かせていたが、感じる痛みや苦痛は明らかに現実のもので視覚的問題や主観でどうこうなるものではなかった。
 手足に負担をかけないように何とかしようとするが、体を置き座れるような場所は丁度背後に当たる小便器ぐらいしか見当たらない。
 汚い便器にケツを乗せる気にはなれず、どうにかならないかと試行錯誤してる間にあっという間に下半身のホースも固定され、よく見ればホースの繋がった結合部である水道口もガムテープでぐるぐるにされていて、とうとう身動きが取れなくなってしまう。

「はい、馬淵君タンクのかんせーい」

 そして、最後に十センチくらいの長さに切られたガムテープで口を塞がれた。
 その言葉に周りは楽しそうに笑いながら完全に拘束されたこちらを見て嘲笑したり携帯を向けてきたりと各々すき勝手な反応を見せる。
 笑われてるのは馬淵だ。写真や動画を撮られてるのも馬淵だ。俺ではない。
 そう言い聞かせるが、不躾な周りの態度に苦痛を感じずには入られない。

「うわ、もうこんな時間じゃん」
「飽きてきたしそろそろ帰るか」
「あー腹減った」

 そして、好き勝手人の体を玩具にしたと思ったら今度はそう口々にする。
 時計がなかったので時間が分からなかったが、どうやら連中はこの行為に飽きたようだ。
 ずっと望んでいたタイミングのはずなのに、このまま放置されると思ったら不安を覚えずにいられなかった。
 せめて水を止めてくれ。そう水浸しになったタイルの床を踏みながらぞろぞろと便所を出ていく連中を目で追うが、誰一人視線に気付かない。
 そして、ようやく最後の一人である不良Aと目が合った。

「じゃーねえ馬淵君、また明日!」

 俺の視線に気付いた不良はそうにこりと笑いながら手を振り、そのまま連中とともに便所を後にする。
 とうとう便所に一人取り残された俺。一気に静かになった便所には廊下から聞こえてくる不良連中の笑い声と複数の足音、そして水が流れる音だけが響いた。

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