93 / 98
第四章【モンスターパニック】
22
しおりを挟む
――楽しい宴会。
そう言ったもののだ。ひたひたと歩いていく長い廊下の中、なんだかどんどん空気が重くなっているような気がした。
血の匂いがするわけでもない、地下の狭っ苦しい泥のトンネル潜らされてるわけでもない。それなのに、上から脳味噌に圧をかけられてるみたいだ。
対する他の皆の足取りは――巳亦を除いて代わりはなかった。
つい歩くペースが遅くなったとき、伸びてきた腕に体を抱き寄せられる。顔を上げれば黒羽の顔があった。
「伊波様」
「あ、……黒羽さん、ごめん」
「具合が悪いのか」
「なんだろう……慣れてないからかな、なんだか、頭が……重たくて」
「無理もありませんわ、ここは妖力で作られた施設。……人間の曜殿には少々お辛いかもしれませんわね」
そう言って、ひたりと足を止めた白梅は袖の下から何かを取り出した。
「これを」と差し出されたのは真っ黒な小瓶だった。中になにか液体のようなものが入ってるのが見えたが、何色かまでは視認できない。
「これは……」
「有り体に言えば、一時的我々の同胞になれる薬です。中には妖怪の血が少々入ってますの」
「同胞……?」
足下の行燈に翳せば、その小瓶は怪しく光る。それを見て息を飲む。
「ええ」と白梅はにっこりと微笑み、小瓶を手にした俺の掌ごと握り締めようとし、それを黒羽が振り払う。
「貴様、何を考えてる」
「あら、烏の。貴方は主の苦しむ姿を見て平気なのかしら」
「そんなわけないだろう。……伊波様、飲む必要はない」
「え、あ、黒羽さ……」
そのまま小瓶を取り上げる黒羽。
確かに歩けないほどではないが、白梅たちに失礼ではないのか。と黒羽を見上げたとき、どこからともなくクナイを取り出す黒羽。
そして、いきなり躊躇なく自分の指先を傷つける黒羽にぎょっとした。
「く、黒羽さん?! なにし……っ、んむ……っ?!」
開いた口にねじ込まれる太く硬い指先。そのまま舌に擦り付けられるように舌の根を引っ張られ、広がる鉄の味におえっとなりそうになったところで「何してるの、貴方」と呆れたように白梅は目を開いた。それは巳亦、アンブラも同じだ。
そして、俺も例外ではない。
「見てわからんか。得体の知れない薬を飲まさせるくらいなら、俺の血を飲まさせる」
「んむ、ぅ……っ」
「伊波様、苦しいだろうが我慢してください。……そうだ、薬のようなものだと思え」
「……っん、んむ……」
他意はないとしてもだ。
ちゅぱちゅぱ、と赤子のように黒羽の指を舐めさせられる姿を人に見られるのは恥ずかしい。
そして何よりも、少し強引な黒羽に抱かれたときのことを思い出して体が反応し始めてることが恐ろし恥ずかしかった。
「は、んむ……っ、くろ、はさ……血、飲んだ……」
「……そうか、具合は?」
「わ、わかんない……っ、けど、血の味がする……」
「薬よりも俺の血は濃い。効き目はあるはずだ。……効かなければまた言うんだ、いいな」
そう言って、黒羽は俺の口からちゅぽんと指を引き抜いた。自分の唾液で濡れた指が透明な糸を引いてるのを見て、どうやってもエロい事しか考えられなくなってしまう自分を叱咤する。
少しだけ引いた顔をしていた白梅だったが、「姉様」と黄桜に呼びかけられハッとしたようだ。
「……まあ、いいわ。それでは参りましょうか。……少々、寄り道し過ぎでしまいましたわね」
そのまま歩いていく白梅、その後を追いかける黄桜に再びついていく。
口の中には未だ黒羽の指の感触と血の味が残ってるようで落ち着かなかった。
けれど、確かに効果はあったようだ。先程よりも大分体が軽くなったような気がする――が、その代わりになんだか体温が下がってる気がする。
もしかしてあれか、妖怪になってるのだろうか。俺。
身体的には特には目立った変化はないので、特に気にせず俺は再び白梅たちに意識を向けることにした。
けれど、なんだろうか。ずっとどこからか見られてるような感覚は常にあった。
姿を隠した妖怪がいてもおかしなことではないが、黒羽の血を飲んだことでより全ての感覚が鋭くなっていってる気がしてならなかった。
そう言ったもののだ。ひたひたと歩いていく長い廊下の中、なんだかどんどん空気が重くなっているような気がした。
血の匂いがするわけでもない、地下の狭っ苦しい泥のトンネル潜らされてるわけでもない。それなのに、上から脳味噌に圧をかけられてるみたいだ。
対する他の皆の足取りは――巳亦を除いて代わりはなかった。
つい歩くペースが遅くなったとき、伸びてきた腕に体を抱き寄せられる。顔を上げれば黒羽の顔があった。
「伊波様」
「あ、……黒羽さん、ごめん」
「具合が悪いのか」
「なんだろう……慣れてないからかな、なんだか、頭が……重たくて」
「無理もありませんわ、ここは妖力で作られた施設。……人間の曜殿には少々お辛いかもしれませんわね」
そう言って、ひたりと足を止めた白梅は袖の下から何かを取り出した。
「これを」と差し出されたのは真っ黒な小瓶だった。中になにか液体のようなものが入ってるのが見えたが、何色かまでは視認できない。
「これは……」
「有り体に言えば、一時的我々の同胞になれる薬です。中には妖怪の血が少々入ってますの」
「同胞……?」
足下の行燈に翳せば、その小瓶は怪しく光る。それを見て息を飲む。
「ええ」と白梅はにっこりと微笑み、小瓶を手にした俺の掌ごと握り締めようとし、それを黒羽が振り払う。
「貴様、何を考えてる」
「あら、烏の。貴方は主の苦しむ姿を見て平気なのかしら」
「そんなわけないだろう。……伊波様、飲む必要はない」
「え、あ、黒羽さ……」
そのまま小瓶を取り上げる黒羽。
確かに歩けないほどではないが、白梅たちに失礼ではないのか。と黒羽を見上げたとき、どこからともなくクナイを取り出す黒羽。
そして、いきなり躊躇なく自分の指先を傷つける黒羽にぎょっとした。
「く、黒羽さん?! なにし……っ、んむ……っ?!」
開いた口にねじ込まれる太く硬い指先。そのまま舌に擦り付けられるように舌の根を引っ張られ、広がる鉄の味におえっとなりそうになったところで「何してるの、貴方」と呆れたように白梅は目を開いた。それは巳亦、アンブラも同じだ。
そして、俺も例外ではない。
「見てわからんか。得体の知れない薬を飲まさせるくらいなら、俺の血を飲まさせる」
「んむ、ぅ……っ」
「伊波様、苦しいだろうが我慢してください。……そうだ、薬のようなものだと思え」
「……っん、んむ……」
他意はないとしてもだ。
ちゅぱちゅぱ、と赤子のように黒羽の指を舐めさせられる姿を人に見られるのは恥ずかしい。
そして何よりも、少し強引な黒羽に抱かれたときのことを思い出して体が反応し始めてることが恐ろし恥ずかしかった。
「は、んむ……っ、くろ、はさ……血、飲んだ……」
「……そうか、具合は?」
「わ、わかんない……っ、けど、血の味がする……」
「薬よりも俺の血は濃い。効き目はあるはずだ。……効かなければまた言うんだ、いいな」
そう言って、黒羽は俺の口からちゅぽんと指を引き抜いた。自分の唾液で濡れた指が透明な糸を引いてるのを見て、どうやってもエロい事しか考えられなくなってしまう自分を叱咤する。
少しだけ引いた顔をしていた白梅だったが、「姉様」と黄桜に呼びかけられハッとしたようだ。
「……まあ、いいわ。それでは参りましょうか。……少々、寄り道し過ぎでしまいましたわね」
そのまま歩いていく白梅、その後を追いかける黄桜に再びついていく。
口の中には未だ黒羽の指の感触と血の味が残ってるようで落ち着かなかった。
けれど、確かに効果はあったようだ。先程よりも大分体が軽くなったような気がする――が、その代わりになんだか体温が下がってる気がする。
もしかしてあれか、妖怪になってるのだろうか。俺。
身体的には特には目立った変化はないので、特に気にせず俺は再び白梅たちに意識を向けることにした。
けれど、なんだろうか。ずっとどこからか見られてるような感覚は常にあった。
姿を隠した妖怪がいてもおかしなことではないが、黒羽の血を飲んだことでより全ての感覚が鋭くなっていってる気がしてならなかった。
44
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です




悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる