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第四章【モンスターパニック】
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それから五重塔へと帰った俺達は、待ってくれていた黒羽の愛車から荷物を受け取り、そのまま俺の自室まで運んでもらうこととなったわけだけども。
「す、すごい……二人とも……」
流石にこの量は俺も手伝わなければと意気込んでいたが、必要なかった。山のような買い物袋を腕いっぱいに積み上げ、器用に階段を上がっていく黒羽とテミッド。
見守ることしかできないというのもあれなので、一つくらいは袋を持たせてくれと俺は譲ってもらった紙袋を抱えて階段を登っていた。
そしてその後ろからついてくる巳亦とアンブラ。
「いや本当、二人がいてくれたお陰で楽できたな」
「巳亦……」
「肉体派じゃない俺達はゆっくり行こうか、曜」
俺からしてみれば巳亦も大分タフネスな気がするが、異論はなかった。
最初はどんな空気になるかと思っていたが、思ったよりも悪い空気ではない……よな?
ちらりと階段を登ってきていたアンブラに視線を向けた俺は、そこでアンブラの顔色が悪いことに気付いた。
「アンブラ、どうした?」
「い、いや……なんか」
「なんか?」と心配になって上がってきたアンブラに近づいた時だった。
――五重塔、最上階へと向かう途中の長く細い通路の奥。
二つの影がこちらへと近付いてきていることに気づいた。そして、「げ」と巳亦が呻いた。
「あら、いい匂いがすると思ったら曜殿じゃありませんか」
華やかな着物姿の白梅と黄桜がそこにいた。近付いてきた二人に益々アンブラの顔色が悪くなる。
「白梅、黄桜」
「随分な大荷物ね、お買い物帰り?」
「ああ、夜食に……」
「おい、こっちは急いでるから邪魔しないでもらえるか」
「み、巳亦……っ!」
相変わらず白梅たちのことを嫌ってるらしい。しっしと追い払う巳亦を無視し、俺の抱えていた紙袋の中を覗き込んでくる黄桜。
瞬間、黄桜は眠たげな目を見開くのだ。そして、興奮気味に白梅を振り返る黄桜。
「……お姉様、これ、京極様の好きな……」
「あ! 本当だ! しかもこれ、滅多に入荷しないのよね」
京極様――って、確か初めてここにきたときに会ったあの大きな鬼の人か。
二人揃ってきゃっきゃとはしゃいでるのを見てると、鬼だということを忘れてしまいそうだ。……っていうか、これ何が入ってるんだ。と、二人と一緒に中を覗き込んでみたら俺が適当に選んだ謎の生き物の干物が入ってた。
これ、そんなにレアだったのか。
「ね、ね、曜殿。よかったらこれあたし達に下さらない? 代わりといったらなんだけど、秘蔵貯蔵庫から何本かお好きなものと交換していいわよ」
「貯蔵庫……?」
「たくさんお酒がある部屋……って意味」
「へえ~……って、そんなものがここにあるのか」
そういや、黒羽さんお酒好きだったな。
別にこのつまみ自体そんなにこだわってたわけではないし、人助けと思えばまあ安いものだ。
「わかった。じゃあこれあげるよ」
「ありがとうございます、曜殿」
はい、と紙袋をそのまま白梅に渡せば、その手ごと握り締められその冷たさに思わず「わ、わ!」と声が漏れてしまった。
そしてすぐさま隣にいた巳亦に白梅の手を振り払われる。
「おいアマ、気安く曜に触るなよ」
「あら、まだ居たのね陰険蛇男。……あたしは曜殿と取引してるのよ。……さ、曜殿。こちらへ」
「あ、ああ……うん」
ニコニコと笑う白梅と相変わらず無表情の黄桜に左右を挟まれたまま、俺は鬼姉妹秘蔵の貯蔵庫へと向かうことになった。
「……全く、鬼女の扱いには慣れん」
「気が合うね、黒羽さん」
そんな黒羽と巳亦の会話が聞こえてきたが、正直それには同意かもしれない。
「す、すごい……二人とも……」
流石にこの量は俺も手伝わなければと意気込んでいたが、必要なかった。山のような買い物袋を腕いっぱいに積み上げ、器用に階段を上がっていく黒羽とテミッド。
見守ることしかできないというのもあれなので、一つくらいは袋を持たせてくれと俺は譲ってもらった紙袋を抱えて階段を登っていた。
そしてその後ろからついてくる巳亦とアンブラ。
「いや本当、二人がいてくれたお陰で楽できたな」
「巳亦……」
「肉体派じゃない俺達はゆっくり行こうか、曜」
俺からしてみれば巳亦も大分タフネスな気がするが、異論はなかった。
最初はどんな空気になるかと思っていたが、思ったよりも悪い空気ではない……よな?
ちらりと階段を登ってきていたアンブラに視線を向けた俺は、そこでアンブラの顔色が悪いことに気付いた。
「アンブラ、どうした?」
「い、いや……なんか」
「なんか?」と心配になって上がってきたアンブラに近づいた時だった。
――五重塔、最上階へと向かう途中の長く細い通路の奥。
二つの影がこちらへと近付いてきていることに気づいた。そして、「げ」と巳亦が呻いた。
「あら、いい匂いがすると思ったら曜殿じゃありませんか」
華やかな着物姿の白梅と黄桜がそこにいた。近付いてきた二人に益々アンブラの顔色が悪くなる。
「白梅、黄桜」
「随分な大荷物ね、お買い物帰り?」
「ああ、夜食に……」
「おい、こっちは急いでるから邪魔しないでもらえるか」
「み、巳亦……っ!」
相変わらず白梅たちのことを嫌ってるらしい。しっしと追い払う巳亦を無視し、俺の抱えていた紙袋の中を覗き込んでくる黄桜。
瞬間、黄桜は眠たげな目を見開くのだ。そして、興奮気味に白梅を振り返る黄桜。
「……お姉様、これ、京極様の好きな……」
「あ! 本当だ! しかもこれ、滅多に入荷しないのよね」
京極様――って、確か初めてここにきたときに会ったあの大きな鬼の人か。
二人揃ってきゃっきゃとはしゃいでるのを見てると、鬼だということを忘れてしまいそうだ。……っていうか、これ何が入ってるんだ。と、二人と一緒に中を覗き込んでみたら俺が適当に選んだ謎の生き物の干物が入ってた。
これ、そんなにレアだったのか。
「ね、ね、曜殿。よかったらこれあたし達に下さらない? 代わりといったらなんだけど、秘蔵貯蔵庫から何本かお好きなものと交換していいわよ」
「貯蔵庫……?」
「たくさんお酒がある部屋……って意味」
「へえ~……って、そんなものがここにあるのか」
そういや、黒羽さんお酒好きだったな。
別にこのつまみ自体そんなにこだわってたわけではないし、人助けと思えばまあ安いものだ。
「わかった。じゃあこれあげるよ」
「ありがとうございます、曜殿」
はい、と紙袋をそのまま白梅に渡せば、その手ごと握り締められその冷たさに思わず「わ、わ!」と声が漏れてしまった。
そしてすぐさま隣にいた巳亦に白梅の手を振り払われる。
「おいアマ、気安く曜に触るなよ」
「あら、まだ居たのね陰険蛇男。……あたしは曜殿と取引してるのよ。……さ、曜殿。こちらへ」
「あ、ああ……うん」
ニコニコと笑う白梅と相変わらず無表情の黄桜に左右を挟まれたまま、俺は鬼姉妹秘蔵の貯蔵庫へと向かうことになった。
「……全く、鬼女の扱いには慣れん」
「気が合うね、黒羽さん」
そんな黒羽と巳亦の会話が聞こえてきたが、正直それには同意かもしれない。
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