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第四章【モンスターパニック】
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刑天閣での食事を終えた俺達はそのまま刑天閣を後にした。赤色の提灯が浮かび並ぶ中華通りを抜けて、そのままメインストリートであるビザール通りへと向かう。
すべての授業が終わったピークの時間帯はやはり賑わい方が違う。食事を食べに来た魔物たちでビザール通りは大賑わいだ。
ずっとヘルヘイム寮に居たからだろう、この賑わいすらもなんだか懐かしく感じる。
が、人が多い場所ほど気が抜けない。
「アンブラ、はぐれないように……ってアンブラ?! どうした?! 顔めちゃくちゃ真っ白だぞ!」
「い、伊波……ひ、人気の少ないところ……通りたい……」
「ひ、人気のないところ……?!」
こそ、と耳打ちしてくるアンブラは唇まで真っ青になっていた。あれか、人酔い的なことか?
あまりにも酷い顔をしてるので心配になりながらも、「ああ、わかった」と俺は黒羽に目配せをした。しっかりと聞き耳を立てていた黒羽は、「こっちだ」と短く告げ、そのままビザール通りの細い路地裏へと向かう。
路地裏には魔物たちの中でも大衆向けではない分類の所謂マニア向け料理店や食材を取り扱った店が多く並んでた。俺からしてみたら魔界の大衆向けもマニア向けも同じような分類なのだが、もはや原型がなんなのかわからない生き物のどこかの部位が店の軒下にずらりと並んで干されてるのを見て「おお……」と声が漏れた。よく見たら小刻みに動いてるのがまた生々しくて夢に出そうだ。
「なあアンブラ。そういえば、夢魔――ナイトメアってどういうのが好きなんだ?」
「お、俺は……別に、普通だけど」
「普通? ってことはやっぱり夢とかを食べるのか?」
「ああ。……けど、魔界で夢を見る生き物は限られている。眠らないやつが殆どだからな」
「だから、昔はそういう夢を見る生き物を飼っては眠ってる間に夢を食べたりした」とアンブラは落ち着かない様子で辺りを見渡しながらも口にした。
「へえ。なんだか大変だな」
「別に、人間みたいにしょっちゅう食べなくてもいいからそんなに手間はかからないけど……それに、俺、少食だし」
ぼそぼそと付け足すアンブラ。言われてみれば、先程刑天閣でも杏仁豆腐を食べていただけだった。
「けど、他の食べ物が食べられないってわけじゃないのか」
「……まあ、そうだけど。……別に、腹は満たされないからあまり意味はないな」
「へえ、やっぱり魔物も色々あるんだな」
他人の夢を食べるという感覚はあまり想像つかないが、なんとなく綿飴を食べるようなイメージをした。
「曜は興味津々だな。……っと、つまみを買うならここ、いいんじゃないか?」
そして、俺の隣にいた巳亦がそう立ち止まる。その店の看板に目を向けた。……相変わらずなんて書かれているか分からないが、干し肉や干し魚、そしてあらゆるお酒の瓶が店のショーウィンドウに並んでるのを見て「大人の店だ」と思わず口から素直な感想が出た。
「大人の……まあ、間違いではないのか? ここは酒の肴に丁度良いものを取り扱われてる。もちろん、曜も食べられそうなスナック菓子もあるぞ」
言いながらも、先陣を切って店内へと扉を潜る巳亦の後を追いかけて俺達も店内へと入った。店の中はあらゆる食材で埋め尽くされていた。
表から見ればそんなに大きくなさそうな建物だったが、扉をくぐった瞬間まるで別の空間に移動したような広い店内が目の前にはあった。店の奥、一番目立つ場所に謎の竜のような巨大な生き物の燻製肉がパック詰めがインテリアの一部のように並んでる。『誰が食べるんだろうか』と眺めていると、黒羽の二倍以上はありそうな鬼のような魔物がそれを吟味しているのを見てなるほど、と思った。
「す、すごいな……一日で見て回れないかも」
「はは、だろ? ビザール通りの飲み屋でもよく重宝されてるんだ」
スタッフらしき動物の頭をした魔物たちが忙しなく働いている。巳亦の言葉通り、俺達のような一般客に混ざって明らかに料理中に抜け出してきたような格好の魔物も数人見かけた。
と、そこで燻製肉コーナーの方をちらちらと見ている黒羽に気づく。
「黒羽さん、俺もゆっくり見るから黒羽さんも好きなの見てきてよ」
「……不要だ。別に腹は空いてなど……」
「そうそう、曜なら俺が見ておくから気にしないでいいよ」
「な?曜」と肩に手を乗せてくる巳亦。巳亦なりに黒羽のことを気遣ってくれているのだろうか。
「そうだよ、黒羽さん。……っていうか、巳亦も別に好きなもの見てきてもいいんだからな?」
「俺はまあ、大体曜と似てるから」
「そうなのか?」
蛇の主食と言われるとどうしてもネズミが浮かんでくるが、確かに巳亦はあまりゲテモノ系統を食べてるイメージはない。そんな巳亦と黒羽のやりとりを見ていたテミッドが「ぼ、僕も……」とそわそわしながら手を上げる。
「ん? どうした、テミッド」
「ぼ、僕も……あっち、見てきてもいいですか……?」
恐る恐る奥を指差すテミッド。そちらに目を向ければ、明らかに一部だけ意図的に暗くされた見るからに危険地帯そうなコーナーがあった。
「あ、ああ、良いぞ。じゃあこれから自由行動ってことで、また後でこのレジ前に集合な」
すべての授業が終わったピークの時間帯はやはり賑わい方が違う。食事を食べに来た魔物たちでビザール通りは大賑わいだ。
ずっとヘルヘイム寮に居たからだろう、この賑わいすらもなんだか懐かしく感じる。
が、人が多い場所ほど気が抜けない。
「アンブラ、はぐれないように……ってアンブラ?! どうした?! 顔めちゃくちゃ真っ白だぞ!」
「い、伊波……ひ、人気の少ないところ……通りたい……」
「ひ、人気のないところ……?!」
こそ、と耳打ちしてくるアンブラは唇まで真っ青になっていた。あれか、人酔い的なことか?
あまりにも酷い顔をしてるので心配になりながらも、「ああ、わかった」と俺は黒羽に目配せをした。しっかりと聞き耳を立てていた黒羽は、「こっちだ」と短く告げ、そのままビザール通りの細い路地裏へと向かう。
路地裏には魔物たちの中でも大衆向けではない分類の所謂マニア向け料理店や食材を取り扱った店が多く並んでた。俺からしてみたら魔界の大衆向けもマニア向けも同じような分類なのだが、もはや原型がなんなのかわからない生き物のどこかの部位が店の軒下にずらりと並んで干されてるのを見て「おお……」と声が漏れた。よく見たら小刻みに動いてるのがまた生々しくて夢に出そうだ。
「なあアンブラ。そういえば、夢魔――ナイトメアってどういうのが好きなんだ?」
「お、俺は……別に、普通だけど」
「普通? ってことはやっぱり夢とかを食べるのか?」
「ああ。……けど、魔界で夢を見る生き物は限られている。眠らないやつが殆どだからな」
「だから、昔はそういう夢を見る生き物を飼っては眠ってる間に夢を食べたりした」とアンブラは落ち着かない様子で辺りを見渡しながらも口にした。
「へえ。なんだか大変だな」
「別に、人間みたいにしょっちゅう食べなくてもいいからそんなに手間はかからないけど……それに、俺、少食だし」
ぼそぼそと付け足すアンブラ。言われてみれば、先程刑天閣でも杏仁豆腐を食べていただけだった。
「けど、他の食べ物が食べられないってわけじゃないのか」
「……まあ、そうだけど。……別に、腹は満たされないからあまり意味はないな」
「へえ、やっぱり魔物も色々あるんだな」
他人の夢を食べるという感覚はあまり想像つかないが、なんとなく綿飴を食べるようなイメージをした。
「曜は興味津々だな。……っと、つまみを買うならここ、いいんじゃないか?」
そして、俺の隣にいた巳亦がそう立ち止まる。その店の看板に目を向けた。……相変わらずなんて書かれているか分からないが、干し肉や干し魚、そしてあらゆるお酒の瓶が店のショーウィンドウに並んでるのを見て「大人の店だ」と思わず口から素直な感想が出た。
「大人の……まあ、間違いではないのか? ここは酒の肴に丁度良いものを取り扱われてる。もちろん、曜も食べられそうなスナック菓子もあるぞ」
言いながらも、先陣を切って店内へと扉を潜る巳亦の後を追いかけて俺達も店内へと入った。店の中はあらゆる食材で埋め尽くされていた。
表から見ればそんなに大きくなさそうな建物だったが、扉をくぐった瞬間まるで別の空間に移動したような広い店内が目の前にはあった。店の奥、一番目立つ場所に謎の竜のような巨大な生き物の燻製肉がパック詰めがインテリアの一部のように並んでる。『誰が食べるんだろうか』と眺めていると、黒羽の二倍以上はありそうな鬼のような魔物がそれを吟味しているのを見てなるほど、と思った。
「す、すごいな……一日で見て回れないかも」
「はは、だろ? ビザール通りの飲み屋でもよく重宝されてるんだ」
スタッフらしき動物の頭をした魔物たちが忙しなく働いている。巳亦の言葉通り、俺達のような一般客に混ざって明らかに料理中に抜け出してきたような格好の魔物も数人見かけた。
と、そこで燻製肉コーナーの方をちらちらと見ている黒羽に気づく。
「黒羽さん、俺もゆっくり見るから黒羽さんも好きなの見てきてよ」
「……不要だ。別に腹は空いてなど……」
「そうそう、曜なら俺が見ておくから気にしないでいいよ」
「な?曜」と肩に手を乗せてくる巳亦。巳亦なりに黒羽のことを気遣ってくれているのだろうか。
「そうだよ、黒羽さん。……っていうか、巳亦も別に好きなもの見てきてもいいんだからな?」
「俺はまあ、大体曜と似てるから」
「そうなのか?」
蛇の主食と言われるとどうしてもネズミが浮かんでくるが、確かに巳亦はあまりゲテモノ系統を食べてるイメージはない。そんな巳亦と黒羽のやりとりを見ていたテミッドが「ぼ、僕も……」とそわそわしながら手を上げる。
「ん? どうした、テミッド」
「ぼ、僕も……あっち、見てきてもいいですか……?」
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