強制補習ヘドニズム

田原摩耶

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エリア1・始まりの町

メンテナンス

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『……これはまた、随分と愛らしい格好をしているね』

 定期メンテナンスのために自室に現れた博士の姿形をしたホログラムは目の前の我が子を見、苦笑する。

「生徒の一人からこれを着用するように、と命じられました。……なにやらこの衣装は士気を上げるにはもってこいと」
『ふーむ……なるほど』
「……博士もそうなのですか?」
『ええ、僕?僕かい?……そりゃあまあ、メイドは男のロマンとはよく言ったものだけど僕自身はどうかと問われれば普通だね。……まあ確かに昔は好きだったけどね』
「……そうですか、やはりあの生徒が異端なだけですね」
『……とはいえ、やはり面白いものだね。ある程度自我は芽生えさせてるつもりだけど、その結果がメイド服なんて。……これだから飽きない』

 どうやら気分がいいようだ。博士は独り言のようにぶつぶつと口にしながらも手を止めることなく何かを操ってるようだ。
 ベッドの上。座った体勢のまま佐藤は、ベッドの側をウロウロと歩く博士をただじっと目で追う。

 本来ならばメンテナンス時に会話などする必要はない。
 博士からは佐藤の頭の中から体の隅々まで確認することができる。それでも、『生徒たちにより親しみを持ってもらうことができるようになるための修練みたいなものだよ』と博士が言うので、佐藤はその言葉にただ従っていた。
 けれど、今回のメンテナンスでは博士に直接聞きたいことがあった。

「……あの博士、実は初日に、人工魔術科の生徒になにやら細工をされたようで……どうやら俺の体に異変が生じてるようです」
『ああ、確かに感応プログラムの数値がぐちゃぐちゃになってるね……。それに、いくつかウイルスが仕込まれてる。……健太くん、エネミーに狙われなかった?君までもプレイヤーと認識されるような細工がされてるみたいだ』
「……通りで。攻撃されることが幾度かありました」
『それだね』

 さして驚くわけでもなく、寧ろ興味深そうに手元のモニターを眺める仕草をする博士のホログラム。
 薄々感じていたが、博士にここまではっきり告げられるとやはりよくわからない、足元が覚束ない感覚に陥る。

 ――……これも、ウイルスの作用でしょうか。

 不安になり、「博士」と目の前の白衣の男を呼べば、男は『大丈夫だよ』と佐藤の頭を撫で、応える。

『以前の状態に戻すのには少し時間が掛かりそうだが、応急処置に僕の方で抗体ウイルス用意しておくよ。……けれど、君が感覚を覚えるというのも面白いからね。あくまで数値を抑え、通常の人よりかは鈍い感覚を覚える程度は残しておこう』
「……」
『そんな怖い顔しなくても大丈夫だ。確かに強引なハックだけど丁寧だ。……これはきっといい結果を君に齎してくれるよ』

 上機嫌な博士は歌うように続ける。
 他人事、というよりも、あくまでも彼の中で自分が研究対象だと言う事実を知らしめられたようであまり面白くない。

 ――けれど、博士がそういうのならばそうなのかもしれない。

 感応プログラムが自分に必要とは思えないが、凡人況してや機械を相手にしているような学者の思考と自分が同じ考えをするとも限らない。

「……わかりました」
『僕はね、健太くん。君が色んなことを感じて色んなことを知って、その結果どのように育つかが楽しみでもあるんだよ』

 独り言のように口にする博士は、何も答えない佐藤を見て、静かに微笑む。
 一概の人工知能に何を求めてるのか、佐藤には理解し兼ねた。――けれど、悪い気はしない。
 その毒のようなウイルスのせいでろくでもない目に遭ったのも事実であるが、その結果、悪いことばかりではないのもまた事実だ。
 博士が自分を通して何を見てるのかまだすべてを知ることは敵わないが、少しでもその夢を支えたいと思う。
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