強制補習ヘドニズム

田原摩耶

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エリア1・始まりの町

初めてのクエスト

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 第1エリア、商店街前。
 様々な露店が並ぶその道路の真ん中にNPCの女性はいた。
 足を崩しへたり込む彼女の辺りに木箱が一箱、その中に入っていたらしい果物が散乱している。
 そんな彼女に四人を引き連れやってきた佐藤は近付き、座り込む相手に視線を合わせるように膝をついた。

「いかがなさいましたか、お嬢さん」
「今、モンスターが現れてお店に並べるつもりだった果物を奪われてしまいました」

 佐藤の問い掛けに答えるNPCはそういうなり泣き出した。
 丁度彼女がいる場所は果物屋の真ん前で、どうやらこのNPCは果物屋の店員のようだ。
 そんな彼女の言葉が気になったらしい。因幡樂は不思議そうな顔をする。

「あれ? 健太君、君、このエリアにモンスターは出ないっていってなかったっけ」
「イベントは別に決まってるじゃないですか」

 即答する身も蓋もない佐藤の言葉に「えー、初耳」となんとなく腑に落ちなさそうな因幡。
 なんてやり取りを交わしていると「なんですかこれはっ!」と三十三が声を荒げた。
 次はなんだと振り返れば、泣き崩れるNPCの背後から抱きすくめるように胸に手を回した三十三は切羽詰まった顔で佐藤を見上げる。

「全然胸硬いじゃないですか」
「なにをやってるんですか貴方は」

 そしてなにを言ってるんだ。
 いくら相手がNPCとはいえ現実世界では犯罪のはずだ。
 逆ギれする三十三に思わず常識について再確認してみるがやはり三十三が可笑しいだけだ。

「しかもなんか服脱がせれないし」
「当たり前です。イベント中に脱がせれるわけないじゃないですか脱がせるイベントならともかく。というかあなた方はなにをしているんですか見境無さすぎますよ」

 言いながら座り込むNPCのスカートをまくろうとする伯万だが触られても座り込んだポーズから動かないNPC。
 そんなNPCから「なんか騙された気が……」とぼやく二人を強引に引き剥がした佐藤はなんだか先が思いやられる。

「大体報酬と言ったじゃないですか。イベントはまだ依頼段階ですよ。どんだけ先走ってるんですか落ち着いてください」
「あ、そーだ。早くパスワード教えてよ」

 思い出したようにぐいぐいと佐藤の服を掴む伯万に眉を寄せた佐藤は「わかりましたから服引っ張らないでください」とその手を振り払い、改めて四人に向き直る。

「一先ず、彼女の話を聞いてみましょう。それから報酬をもらうときに俺が実践してみせます」

 佐藤の提案に異論はないようだ。
 渋々頷く四人。そして落ち着かない様子の伯万はにやにやしながら離れた位置にいた頸城に絡み出す。

「ほらほら、根暗なにキョドってんだよ。早く話聞けってば」
「誰が根暗だ、根暗じゃない。頸城万里だ」
「んじゃ頸城いけ!」

 ビシッとNPCに向かって人差し指をさす伯万に顔をしかめた頸城は「命令すんじゃねえよ、てめえ」と吠える。
 どうやら二人の相性はよくなさそうだ。ごちゃごちゃと揉め始める二人を一瞥し、このままでは埒があかないと悟った佐藤は二人を放置して自らNPCに尋ねることにした。

「それで、そのモンスターっていうのはどこにいったんですか?」
「確か、あっちの方に……。ああ、どうしましょう。お父様に怒られてしまいます」

『あっち』と言ってNPCが示した方角には森に続いているようだ。
 それを確認し、佐藤はNPCに向かって微笑む。

「安心してくださいお嬢さん。この方々がモンスターに奪われたその果物を取り返して下さるようです」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます!」

 佐藤が並べる特定の単語に反応したNPCはぱあっと顔を上げ、そこでようやく立ち上がった。
 それからはなに話しかけても「まあ、本当ですか?ありがとうございます!」と繰り返すばかりで。どうやら次のイベントへと進まなければNPCも反応しないようにできているらしい。不気味だ。

「ってことで行きますよ、皆さん」

 ここにいても仕方がない。
 そう思った佐藤は四人に目を向け、そしてそのまま果物を奪ったらしいモンスターが逃げた森へ視線を流す。

「どうやらあちらが森の入り口になっているようですね」
「ちょっと待てよ、今からいくのかよ……っ」
「当たり前でしょう。あくまでもこれは補習。出された課題をクリアしていくのが目的です。のんびりしている暇なんてありませんよ」

 あくまで淡々とした佐藤の言葉に呆れたように目を丸くする頸城。
 頸城の代わりに因幡が尋ねる。

「でも僕たち丸腰だよ? 大丈夫なの?」
「……そうですね、俺はそのままでも特に問題ないと思いますがまともに実戦を行ったことがない皆さんからしてみたら心細いでしょう」

「これを装備して下さい。俺からのほんの細やかなプレゼントです」言いながら、佐藤は近くに転がった手頃な木の枝を四本拾い四人に手渡した。
 佐藤が冗談なのか本気なのかわからず微妙な顔をする四人。佐藤は本気だった。

「ほんと細やかですね」
「なにもないよりはましでしょう」
「もっと他にもあるだろ、剣とか杖とか」
「それが気に入らない方は是非ご自分でポイントを稼ぎ武器防具衣服アクセサリーお好きなものをご購入下さい」

 不満を露にする四人にそう相変わらずの高揚のない声で続ける佐藤は「では気持ちが白ける前にさっさと行きましょう」と森に続く道を歩いていく。
 頼りなさすぎる武器を手にした補習者たちのテンションが既にだだ落ちになっているのは言うまでもない。
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