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エリア1・始まりの町
初めてのクエスト
しおりを挟む――第1エリア、街中。
様々な露店が並ぶその道路の中央にNPCの女性はいた。
足を崩し、へたり込む彼女の辺りに木箱が一箱が転がっている。そしてその中に入っていたらしい果物が辺りに散乱していた。
四名の補習生を引き連れたまま、佐藤はNPCの女性へと近付く。
座り込む相手に視線を合わせるように膝をつき、「いかがなさいましたか、お嬢さん」と補習生たちに向けるものとは打って変わって優しげな声で話しかけた。
「今、モンスターが現れてお店に並べるつもりだった果物を奪われてしまいました」
「すげー説明口調」
「あれ? 健太君。このエリアにモンスターは出ないっていってなかったっけ」
「イベントは別に決まってるじゃないですか」
「後出しの情報が多いな」
「サプライズです」
「物は言いようだねえ」
なんてやり取りを交わしていると「なんですかこれはっ!」と三十三が声を荒げた。
次はなんだと振り返れば、泣き崩れNPCの背後から抱きすくめていた三十三は切羽詰まった顔で佐藤を見上げる。
「全然胸硬いじゃないですか」
「なにをやってるんですか貴方は」
そしてなにを言ってるんだ。
いくら相手がNPCとはいえやりたい放題していいとは言っていない。
佐藤は無言で三十三の首根っこを掴みNPCから引き出す。
「しかもなんか服脱がせれなかったし……」
「当たり前です。イベント中に脱がせれるわけないじゃないですか、脱がせるイベントならともかく。というかあなた方はなにをしているんですか見境無さすぎますよ」
「騙された……」
「電脳世界とは言えどモラルを持って行動してください」
次回博士に会った時に自分にポイント減点機能を追加してもらうように頼もう。
そうひっそりと決意する佐藤だった。
「そもそも、先ほど報酬と言ったはずですよ。イベントはまだ依頼受領すらもしていない段階ですよ。どんだけ先走ってるんですか」
「はは、健太君もそう言うこと言うんだ」
「別にこれは下ネタではありませんが」
「あーもういいからさっさとパスワード言えよ! じれってえな!」
「……一先ず、彼女の話を聞いてみましょう。クエスト達成後、報酬をもらうときに俺が実践してみせます」
佐藤の提案に異論はないようだ。
渋々頷く四人に一先ずほっとする。
なんで話聞く前にこんなに消耗させられているのか。
「おい根暗オタク、お前女久しぶりだろ? 話しかけさせてやるよ。さっさとイケって」
「……っ! 誰が根暗オタクだ、つか絡んでくんじゃねえうぜえ!」
「んじゃ頸城いけ! 俺が見守っててやるから!」
「んだこいつ……っ、命令してんじゃねえ!」
どうやら二人の相性はよくなさそうだ。
このままでは日が暮れてしまう。そう判断した佐藤は揉める二人の前に出てNPCの女性に声をかける。
「それで、そのモンスターっていうのはどこにいったんですか?」
「確か、あっちの方に……。ああ、どうしましょう。お父様に怒られてしまいます」
『あっち』と言って女性が示した方角には森に続いているようだ。
それを確認し、佐藤は女性に向かって微笑む。
「安心してくださいお嬢さん。この方々がモンスターに奪われたその果物を取り返して下さるようです」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます!」
佐藤が並べる特定のワードに反応した女性はパッと顔を上げる、そこでようやく体勢を変えた。
「お、ようやく立ち上がったな。これなら……」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます!」
「あーあ、ダメだね。BOT君になっちゃった」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます!」
「顔は悪くねえけどチンポ勃たねえよこれじゃ」
「そうかな? いかにも作り物って感じで意思がないの、悪くないと思うんだけどなあ……」
「因幡、お前……」
「そろそろ行きますよ、皆さん」
次のイベント発生源へ。
そう四人の共通マップに印をつけ、ルートを共有する。
「どうやらあちらが森の入り口になっているようですね」
「ちょっと待てよ、今からいくのかよ……っ」
「当たり前でしょう。あくまでもこれは補習。出された課題をクリアしていくのが目的です。のんびりしている暇なんてありませんよ」
「でも僕たち丸腰だよ? 大丈夫なの?」
「……そうですね。俺はそのままでも特に問題ないと思いますが、まともに実戦を行ったことがない皆さんからしてみたら心細いでしょう」
「これを装備して下さい。俺からのほんの細やかなプレゼントです」言いながら、佐藤は近くに転がった手頃な木の枝を四本拾い四人に手渡した。
冗談なのか本気なのかわからず無になる四人。佐藤は本気だった。
「ほんと細やかですね」
「なにもないよりはましでしょう」
「もっと他にもあるだろ、剣とか杖とか」
「それが気に入らない方は是非ご自分でポイントを稼ぎ、武器防具衣服アクセサリー一式お好きなものをご購入下さい」
「手心はねえのかよ手心はよ!」
「俺は人間ではありませんので」
真顔で即答する佐藤に食ってかかった伯万の方が狼狽える。
「こ、こいつ、こういうときだけ……」と唸りつつも何も返せなくなる伯万に異論はないと判断した佐藤は再び四人に目を向けた。
「では気持ちが白ける前にさっさと行きましょう」
頼りなさすぎる武器を手にした補習生たちを引き連れ、早速佐藤は森の入り口へと向かうことにした。
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