36 / 37
エリア1・始まりの町
さよなら、始まりの街。
しおりを挟む
新たな仲間を迎え入れた五人は、次の街へ移動するためにゲートへと向かって歩いていた。
そのゲートというのは案内人である佐藤しか知らない。補習生たちからしてみれば、ただ宛のない道を歩かされるだけに等しい。
案の定痺れを切らした伯万は「まだ着かねえのかよ」と後方から佐藤目掛けて野次を飛ばしてくる。
「まだ歩き始めて十分も経ってませんよ、伯万さん」
「つーか、すぐつくって言ったのはお前だろ。ポンコツアンドロイド」
「ええ、それがなにか」
「見たところ全然それらしいものないじゃねえかよ」
辺りにはNPC達が暮らす長閑な町並みが広がるばかりで、頭の中で思い描いていた巨大なゲートどころか転移装置すらも見当たらない。
「もしかして適当言って徒歩で移動するつもりじゃねえだろうな」
「はは、流石にそれはないと思うよ」
そう伯万に応えたのは因幡樂だった。道中、土産代わりに購入した菓子を食べながら因幡は「ね、健太君」と佐藤へと微笑み掛ける。どさくさに佐藤の腰に回される手を避けながら、佐藤は「ええ」と同調して頷いた。
そして、「こちらです」と似たようなレンガの建物と建物の間、狭い路地へと入り込む佐藤。
「おい、どんな道だよ!」
「王道パターンで門から移動というのはつまらないんじゃないかという開発の遊び心ですね」
「んなお遊び要素いらねえっての……っ! くそ、狭え……っ!!」
「ギャーギャー言ってねえでさっさと前行けよ、後ろつっかえてんだよ……!」
「うるせえ、んなこと言われても、あ゛あ! 服汚れる!」
路地の壁に挟まれて騒いでる伯万と頸城に構わずするりと広い通路へと出た佐藤は振り返る。どうやら全員なんとか出てこれたようだ。ぜえぜえと疲弊してる伯万と頸城に比べて因幡と三十三は涼しい顔をしていた。
そして四人がいるのを確認した佐藤は「こちらです」と視線を正面に向ける。
つい先程まで、変哲のない土色のレンガが並んでいたそこに現れたのは黒い扉だ。長閑な街には不釣り合いなほど不気味なオーラを纏ったその扉を前に、佐藤は「ではどうぞ」とその扉に手を差し出すのだ。
扉の奥にはただ真っ暗闇が続いているだけで、その中の様子は分からない。
「……って、じ、地味~……」
「文句を言わないでください。ほら、では伯万さんからどうぞ」
「なんで俺から?!」
「一番近かったので」
「早くしてください」と言わんばかりに、伯万の背中をぐいぐいと押す佐藤。佐藤に急かされるまま扉の前までやってきた伯万。
「なんか黒いモヤモヤ出てんだけど?」
「ただの装飾のようなものなので気にしないでください」
「それはそれで聞きたくねえな……」
「つべこべ言わないでください」
有無を言わせない佐藤に折れた伯万は、開かれた扉に足を踏み入れた。
そんな伯万の背後、「伯万さん、どうですか」と三十三が覗き込む。
「いや、なんつーかひんやりするくらいで全然わかんね……ッておわっ!!」
三十三にとん、と背中を押され、そのまま暗闇の中へと落ちていく伯万。「おいミトぉ!!」という断末魔と共に掻き消えた伯万に手を振りながら、三十三はその後を追いかけるようにぴょんと足を踏み出した。
「ではまた後で会いましょう」
「貴方はたまに恐ろしいことしますね」
三十三がしなければ自分が背中を押すつもりだったのだが、と佐藤は思いつつもそのまま消えていく三十三を見送った。
「次の世界はどんなところなのかな。また、楽しそうな場所だったらいいんだけど」
「それは着いてからのお楽しみです」
「お前、本当に呑気だよな……」
佐藤の言葉に上機嫌に笑う因幡を前に、思わず頸城はぽろりとこぼした。その声はしっかりと因幡の耳にも届いていたようだ。「頸城君は楽しみじゃないの?」と不思議そうな顔をする因幡に、益々頸城の表情は曇る。
「楽しみってか、普通こえーだろ。もしかしたらバケモンだらけのところに放り出される可能性もあるんだろ?」
「あくまでこの世界は貴方がたを育てるためのシステムです。そのときはレベリングをすればいいだけなのでなんの問題はありません」
淡々と応える佐藤に「そういうところが嫌なんだよ」と頸城は吐き捨てた。
頸城が大事そうに抱えていた鞄の中、その声に反応するように「わふっ」と小さな鳴き声が聞こえてくる。
「そ、それに……街移動したらこいつが消えるとか……ねーよな?」
「その点は問題ありません。そういう前提で彼もまた作られたシステムなので」
「こいつのことをシステムシステム言うなよ、人の心がねえのか!」
「俺は人間ではありませんので」
「ぐ、そうだな……」
このままぐだぐだと時間を潰すつもりはない。
頸城が反論できないのを確認し、改めて佐藤は二人に目配せする。
「もう心配事はありませんね。それでは、お二人ともそのゲートをくぐってください」
「うわっ! 押すなっ、自分でいける!」
「因幡さんも」
ぎゅうぎゅうと頸城を詰めつつ、因幡を呼べば「うん」と笑ってやってきた。そして、佐藤の手を取るのだ。「君も一緒に」そう囁かれるように腕を引っ張られ、頸城の背中を押した因幡はそのまま佐藤を抱えるようにゲートへと飛び降りた。
そんなことせずとも自分でいけます、と言うタイミングを逃した佐藤はそのまま落下時特有の浮遊感に身を委ねる。近くもなく遠くもない場所から聞こえてくる頸城の悲鳴と因幡の笑い声を聞きながら、ただ目的地につくのを待った。
そして暫くして、遠くから波の音が聞こえてくる。世界が切り替わったのを頭で感じ、佐藤はゆっくりと目を開いた。鼻を擽るのは潮の匂い。
そこには既に四人の補習生の姿があった。
今にも壊れそうな船の甲板の上、どんよりと曇った黒い空の下。佐藤は外を見渡した。初めて見た世界だが、この世界のことは知っている。――そういう風に作られているからだ。
しかしなんだろうか、佐藤の胸には確かな違和感を覚えていた。
それが俗に言う『不安』ということを、今の佐藤は知る由もなかった。
≪エリア・1「サンブロー」クリア≫
そのゲートというのは案内人である佐藤しか知らない。補習生たちからしてみれば、ただ宛のない道を歩かされるだけに等しい。
案の定痺れを切らした伯万は「まだ着かねえのかよ」と後方から佐藤目掛けて野次を飛ばしてくる。
「まだ歩き始めて十分も経ってませんよ、伯万さん」
「つーか、すぐつくって言ったのはお前だろ。ポンコツアンドロイド」
「ええ、それがなにか」
「見たところ全然それらしいものないじゃねえかよ」
辺りにはNPC達が暮らす長閑な町並みが広がるばかりで、頭の中で思い描いていた巨大なゲートどころか転移装置すらも見当たらない。
「もしかして適当言って徒歩で移動するつもりじゃねえだろうな」
「はは、流石にそれはないと思うよ」
そう伯万に応えたのは因幡樂だった。道中、土産代わりに購入した菓子を食べながら因幡は「ね、健太君」と佐藤へと微笑み掛ける。どさくさに佐藤の腰に回される手を避けながら、佐藤は「ええ」と同調して頷いた。
そして、「こちらです」と似たようなレンガの建物と建物の間、狭い路地へと入り込む佐藤。
「おい、どんな道だよ!」
「王道パターンで門から移動というのはつまらないんじゃないかという開発の遊び心ですね」
「んなお遊び要素いらねえっての……っ! くそ、狭え……っ!!」
「ギャーギャー言ってねえでさっさと前行けよ、後ろつっかえてんだよ……!」
「うるせえ、んなこと言われても、あ゛あ! 服汚れる!」
路地の壁に挟まれて騒いでる伯万と頸城に構わずするりと広い通路へと出た佐藤は振り返る。どうやら全員なんとか出てこれたようだ。ぜえぜえと疲弊してる伯万と頸城に比べて因幡と三十三は涼しい顔をしていた。
そして四人がいるのを確認した佐藤は「こちらです」と視線を正面に向ける。
つい先程まで、変哲のない土色のレンガが並んでいたそこに現れたのは黒い扉だ。長閑な街には不釣り合いなほど不気味なオーラを纏ったその扉を前に、佐藤は「ではどうぞ」とその扉に手を差し出すのだ。
扉の奥にはただ真っ暗闇が続いているだけで、その中の様子は分からない。
「……って、じ、地味~……」
「文句を言わないでください。ほら、では伯万さんからどうぞ」
「なんで俺から?!」
「一番近かったので」
「早くしてください」と言わんばかりに、伯万の背中をぐいぐいと押す佐藤。佐藤に急かされるまま扉の前までやってきた伯万。
「なんか黒いモヤモヤ出てんだけど?」
「ただの装飾のようなものなので気にしないでください」
「それはそれで聞きたくねえな……」
「つべこべ言わないでください」
有無を言わせない佐藤に折れた伯万は、開かれた扉に足を踏み入れた。
そんな伯万の背後、「伯万さん、どうですか」と三十三が覗き込む。
「いや、なんつーかひんやりするくらいで全然わかんね……ッておわっ!!」
三十三にとん、と背中を押され、そのまま暗闇の中へと落ちていく伯万。「おいミトぉ!!」という断末魔と共に掻き消えた伯万に手を振りながら、三十三はその後を追いかけるようにぴょんと足を踏み出した。
「ではまた後で会いましょう」
「貴方はたまに恐ろしいことしますね」
三十三がしなければ自分が背中を押すつもりだったのだが、と佐藤は思いつつもそのまま消えていく三十三を見送った。
「次の世界はどんなところなのかな。また、楽しそうな場所だったらいいんだけど」
「それは着いてからのお楽しみです」
「お前、本当に呑気だよな……」
佐藤の言葉に上機嫌に笑う因幡を前に、思わず頸城はぽろりとこぼした。その声はしっかりと因幡の耳にも届いていたようだ。「頸城君は楽しみじゃないの?」と不思議そうな顔をする因幡に、益々頸城の表情は曇る。
「楽しみってか、普通こえーだろ。もしかしたらバケモンだらけのところに放り出される可能性もあるんだろ?」
「あくまでこの世界は貴方がたを育てるためのシステムです。そのときはレベリングをすればいいだけなのでなんの問題はありません」
淡々と応える佐藤に「そういうところが嫌なんだよ」と頸城は吐き捨てた。
頸城が大事そうに抱えていた鞄の中、その声に反応するように「わふっ」と小さな鳴き声が聞こえてくる。
「そ、それに……街移動したらこいつが消えるとか……ねーよな?」
「その点は問題ありません。そういう前提で彼もまた作られたシステムなので」
「こいつのことをシステムシステム言うなよ、人の心がねえのか!」
「俺は人間ではありませんので」
「ぐ、そうだな……」
このままぐだぐだと時間を潰すつもりはない。
頸城が反論できないのを確認し、改めて佐藤は二人に目配せする。
「もう心配事はありませんね。それでは、お二人ともそのゲートをくぐってください」
「うわっ! 押すなっ、自分でいける!」
「因幡さんも」
ぎゅうぎゅうと頸城を詰めつつ、因幡を呼べば「うん」と笑ってやってきた。そして、佐藤の手を取るのだ。「君も一緒に」そう囁かれるように腕を引っ張られ、頸城の背中を押した因幡はそのまま佐藤を抱えるようにゲートへと飛び降りた。
そんなことせずとも自分でいけます、と言うタイミングを逃した佐藤はそのまま落下時特有の浮遊感に身を委ねる。近くもなく遠くもない場所から聞こえてくる頸城の悲鳴と因幡の笑い声を聞きながら、ただ目的地につくのを待った。
そして暫くして、遠くから波の音が聞こえてくる。世界が切り替わったのを頭で感じ、佐藤はゆっくりと目を開いた。鼻を擽るのは潮の匂い。
そこには既に四人の補習生の姿があった。
今にも壊れそうな船の甲板の上、どんよりと曇った黒い空の下。佐藤は外を見渡した。初めて見た世界だが、この世界のことは知っている。――そういう風に作られているからだ。
しかしなんだろうか、佐藤の胸には確かな違和感を覚えていた。
それが俗に言う『不安』ということを、今の佐藤は知る由もなかった。
≪エリア・1「サンブロー」クリア≫
10
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる