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俺はクラスメイトの日口のことは好きだった。
一緒にいると楽しくて、ずっと友達として隣にいれたらよかった。そう思っていた。
思っていたはずなのに。
――今俺は、日口の頭を切り落としている。
「蔀君、朝になっちゃうよ」
真っ白なタイルは赤黒い血で汚れ、換気扇回しっぱなしの浴室の中。鼻の奥に溜まる濃厚な血の匂いに吐き気を止めることなどできなかった。
何度吐いたのかもわからない、空になった胃からはもう胃液すらも出てこない。
骨を断つのではなく、骨と骨の間の隙間をよく狙え。
力を入れすぎると手にした肉包丁の刃に引っかかる、だから抜くように腕を引く。刃自体をのこぎりのように動かすのではなく、梃子のように扱うのだ。引く力は軽くでいい。
そう、俺の背後に立っていたやつは手にしたアイスを齧りながら助言してくるのだ。
そんなことなど知りたくもなかった。
衣類の繊維が邪魔にならないようにと服を脱がした日口だったものを見下ろしたまま、俺は血の上でただひたすら無心で解体していた。
◆ ◆ ◆
あの男、祝安泰は少なくとも友達と呼べる関係ではなかった。
ピンクにも金にも見えるような派手な髪色のその男は見た目通り周りからも浮いていた。
俺と正反対の位置に属するタイプだ。色んな人間と揉めている。協調性が欠けており、そのくせ本人はそれを全然気にしていないときた。
そんな祝と知り合ったのは、たまたまだった。
帰り道、怪我した猫がいた。だから、手当だけでもしようと慌てて近くのペットショップを探して次に戻ってきたとき、そこには先客がいたのだ。
最寄りのコンビニの袋をぶら下げた祝は猫の前に屈みこんでいる。虐めてるのかと思って慌てて「おい」と声をかけたのが全て、全ての始まりだった。
背中を丸めたまま、祝は「なあに?」とこちらを振り返る。その手元、下手くそな包帯を巻かれ、側に置かれた猫缶を食べていた猫が見えて驚いたのを覚えてる。
「お前が、それやったのか」
「うん。けどこの子、動き回るから難しくて」
「……」
ろくな噂を効かない祝が猫の手当。
驚いたし、つい勢いとは言えど自分から話しかけてしまったことにも驚いた。そんな俺のことなど知ったこっちゃないと言う顔で、祝は俺の手元に目を向ける。
「君、それ。もしかしてこの子のために?」
上目に尋ねられ、思わず目を逸した。
祝は猫を撫で、「へえ、よかったねえ猫ちゃん」と微笑むのだ。
――変なやつ。
それが俺の祝とのファーストインプレッションの感想だった。
俺も祝もペットを飼える環境ではなかったが、放置するわけにもいかなくてどうにかしようと話し合った結果実家を離れてる兄が飼い、すぐに病院にも連れて行ってくれることにもなった。
それから、祝と校内で何度か会ったときに祝に猫のその後を聞かれては兄から届いた写真を見せたりする。
周りから見たらさぞ奇妙な関係だっただろう。スマホを見て笑ってる俺達を見て周りが妙な顔をしていたのをよく覚えていた。
けれどあくまで祝と俺の共通点はその猫だけだ。
猫の無事を知ると、祝は俺に話しかけることもなかった。そもそも、まず学校で会うこともなかっていた。
俺もあの男と仲良くなりたいと思っていたわけではない。けど、兄から新たな猫の画像が送られてくる度になんとなく祝の顔が過ぎっていた。
わざわざ俺から会いに行くのも違う気がして、結局アクションを起こすこともなかったのだ。
俺にも俺の生活がある。
祝のように目立つようなこともないが、気の置ける友人たちに囲まれてそれなりに充実した日々を送っていた。
送っていたのに。
「好きだ、土生」
その友人たちの中に、日口はいた。中でも一緒にいることが多くて、俺も日口のことが好きだった。少なからず嫌いとは程遠い、一緒にいれるならずっといれる。そう思っているほど気の合うやつだった。
そんな日口に告白をされた俺は戸惑った。確かに好きだったけど、俺にはまだ恋愛のことなど理解すらもできていなくて。
日口とキスする自分を想像すること想像することができなかった。
だから、俺は日口に『待っていてほしい』と伝えた。
そのときの日口の顔をまともに見ることなど、俺にはできなかった。
一人になりたいとき、考え事をしたいとき。俺はいつも足を運ぶ公園があった。
公園のくせに子供はいなければ遊具もない、ただ木とベンチがあるだけの公園だった。寂れた商店街の一角、そのベンチに腰を掛けて俺は沈む夕陽を眺めていた。
そんな俺の前に、そいつは現れたのだ。
「蔀君、元気?」
「……祝」
夕陽に照らされキラキラと輝くその髪はピンク色に見えた。いつの日か見たときと変わらない軽薄な笑顔。そして、傷を覆い隠す無数のガーゼと絆創膏。
不良なんだし、喧嘩くらいするものなのか。そんなことを思いながらも、俺は祝の顔から目を逸らすことができなかった。
「お前、それ」
「あ、やっぱ気になる?」
「……痛くないのか?」
「ちょっとね、けど、僕からしてみたら温かいお茶飲めない方が辛いかなあ」
妙に噛み合わない会話も以前と同じだ。少しだけ喋りにくそうにしながらも、祝は隣のベンチに腰をかけてきた。
「喧嘩、したのか?」
恐る恐る尋ねれば、祝は小さく吹き出す。そして「いてて」と笑いながらも顔を歪めるのだ。
「蔀君って、たまに先生みたいなことを言うよね」
「なんだよ、心配してるんだよ」
「それ。そういうとこ。……別に、どうでもいいじゃんね」
「気にしなくてもいいのに」なんて笑う祝の横顔は、その言葉とは裏腹にどことなく嬉しそうにも見えた。
「それより、蔀君」
「あ、そうだ……猫だろ?」
「あー猫もだけど、一応今僕は君の方聞いてるんだよ」
「元気?」と小首を傾げ、こちらを覗き込んでくる祝。
不思議なやつだと思う。何も考えてなさそうな顔をして、たまにこうやって変に鋭い。
「……んー、どうだろうな」
「元気じゃないの?」
「体は元気ではあるけどな」
「じゃあ、心が元気じゃないんだ」
「お前って……すごいな」
人が言葉を選んでいるところをズケズケと入り込んでくる祝に驚いた。その上、嫌な気持ちにはならないのだから不思議なやつだ、本当に。
「なにが?」と本人は不思議そうな顔をしたままこちらを見ていた。わざわざ教えてやるのもなんか変な気がして、俺は「色々な」と言葉を濁す。
「俺も、お前みたいに正直だったらよかったのかな」
「それってお悩み相談?」
「……わかんねえ」
「ふーん……」
「……」
沈黙。
なにを話したらいいのかも分からないし、そもそも一人になりたくてここに来ていた俺からしてもべらべら積極的に話しかける気分ではなかった。
やや沈黙が続いたあと、無言で立ち上がった祝はそのままひょこひょこと歩いて公園を出た。
別に別れ際の挨拶を求めていたわけでもないし、俺もなにも言わずにそれを見送る。そして数分後、祝は近くのコンビニの袋を手にしたまま戻ってきた。
再び俺の目の前に現れた祝は、手にしたビニール袋をガサガサと漁る。それから、「ほい」とアイスをこちらへと渡すのだ。
「……これ、くれんのか?」
「ソーダ味。好き?」
「好き」と答えれば、祝は「そ、よかったね」とふんわりと笑った。この男、前も思ったが笑うと雰囲気が変わる。いつものふにゃふにゃとした曖昧で芯のない豆腐、とはまた違う柔らかくて子供のような笑顔だ。
「俺の好きなやつ。どーぞ、おごり」
「……ありがと」
「んーん」
隣に座った祝は自分の分のアイスを開け、そのまま大きく口を開けて齧りつく。時折痛そうな顔をしていたが、「うま~」とにこにこしていたので俺も見習って水色のアイスに口を寄せた。思いの外冷たくて、小さく齧っただけで口を離す。
そんな俺を見て「リスみたいだね」と祝は笑った。なんだか馬鹿にされているようで恥ずかしくなり、俺はすぐさま二口目を齧る。先程よりもほんの少し大きく口を開いて。
シャクシャクと二人分の咀嚼音が辺りに響く。
なにやってんだ、俺。と思いながらも、静かな時間が過ぎていった。
そして、串の先についていた味付きの氷を食べ終わったあと。
「祝は告白されて付き合ったりとか……ありそうだな」
言いながら、怪我をしても尚整ったやつの横顔を見て自己完結してしまった。棒に残っていた汁まで舐めていた祝は眼球だけ動かしてこちらを見る。
「んや、ないよ」
「え」
「そんなに驚くこと?」
だって、そりゃそうだ。噂でも祝は女を取っ替え引っ替えだとか、実際祝のファンである女子もよく見かけるし。
固まる俺に、祝は興味なさそうに棒をゴミ箱に向かって放り投げる。
「告白とかくらいはあるだろ」
「さあ、わかんないや。好きだとか、言われたことはあるけど」
「それが告白じゃ……」
「違うよ」
静かな公園に祝の声が響く。
いつも柔らかな話し方をするやつだっただけに、語気の強さに少しだけ驚いた。
「好きだとか言うだけだったら誰でも出来るよ。それこそ、好きじゃなくたって言える」
「……祝?」
「そんなの、告白にカウントされないだろ」
……あっと、と思った。
地雷だったのか。いつもとどこか雰囲気の違う祝に俺は気まずくなった。けど、こいつの言いたいこともわかる。それを言っているのが、祝だということに驚いているだけで。
「確かに、それはそうかもな」
「蔀君は、告白されたの?」
「ん……ああ」
「それで? ならなんでそんな顔をしてるの?」
「嫌いなやつからだった?」と畳み掛けるように尋ねてくる蔀に首を小さく横に振る。
「好きだよ」と応えた。
すると、祝は「へえ」と目を開く。先程までのどこか冷たい空気ではなく、まるで自分のことのように嬉しそうに目を輝かせて。
「けど、俺、まだそういうのはわかんねーから……」
「わからない?」
「そう。……わかんねーの」
俺の言葉に、ますます祝は不思議そうな顔をした。
本来ならば嬉しいはずなのに、実際喜んでいる自分もいた。
けど、好きだと言われた瞬間今までのように同じ目で見れなくなったのだ。まるで日口のことが、知らない男のように見えて戸惑った。
日口がそんな風に俺のことを見ている、その事実を受け止めきることができていない時点で俺の気持ちは決まったようなものだった。
祝に伝えてから改めて自覚する。
「じゃあ、それそのまま伝えたらよくね?」
そんなとき、当たり前のように告げる祝に思わず顔を上げた。
至極当然とでもいうなかのような祝の表情に呆気にとられ、俺の口からは「え」とアホみたいな声が漏れてしまう。そんな俺に釣られるみたいに、祝もキョトンと顔をした。
「なんでそんなに驚くの?」
「なんでって……」
「蔀君のこと好きだって言うならきっと分かってくれるよ。蔀君も好きだって思える人なら、きっとね」
歯に衣を着せないってこういうことを言うのかもそれない。
恥ずかしげもなく微笑む祝。
なんだか背中を押されているようだった。
「……やっぱ、お前ってすげーよ」
「僕は、蔀君のがすごいと思うよ」
「俺?」
「こうして僕の話をちゃんと聞いてくれるの、君だけだよ」
言われてから、俺は今の今でもこいつのことを色眼鏡掛けて見ていたのだと思う。
それはきっと、他の奴らも同じだ。
「そんなことないぞ、俺は……」
「過程はどっちにしろだよ、きっかけもどうだっていい。けど君は、こうして僕と並んでアイス食べてくれてる。それが全てだよ」
「祝の周りには、そんなやついなかったのか?」
「いると思う?」
「いなさそう」
「あは、正解。ましてや、わざわざペットショップにまで言ってペット用の薬を用意してくれる子なんていないよ」
「類友かもしれないけど」と笑いながら自虐的な言葉を口にする祝の顔が痛々しく見えたのは怪我のせいだけではないだろう。「そんなことはない」と、俺は祝の手を取った。
「お前だって、手当してたじゃん」
「下手くそだけどね」
「俺だって下手くそだった」
だってやったことねえし、と唇を尖らせれば、祝はようやくこちらを見て笑った。
「僕たちって、なんだか似てるね」なんて、あの子供じみた邪気のない笑顔で笑うのだ。
「因みに、似てない」
「そっかなあ?」
そうだ。嗜好も見た目も、多分考え方も伝え方も違う。けれど。
「けど、やりたいことは同じなんだろうな」
「それはあるかも」
生き方も全部正反対だけど根本にあるものは同じなのかもしれない。
だからこんな風にすっと祝の言葉が入ってくるだろう。そう思うと、改めて俺たちが奇妙な関係なのだと思った。友達ほど濃い時間を過ごした分けでもないのに、腹を割って話せる。
遠いからこそ、話せることもある。
「今、お前と会えて良かったよ」
一人になりたくてきた俺にとって思いもしない出会いだったが、ずっとあの告白以来胸の奥にできていたシコリがなくなっていた。
祝は小さく笑い、「僕も」と目を伏せるのだ。
「今日、君と話せて良かったよ。……蔀君」
その声はなんだか弱々しく聞こえた。
その後、祝と別れた俺は日口に『話がある』と連絡をし、きちんと告白を断った。
――今の俺ではお前の気持ちには応えられない。だから、悪い。
そう頭を下げる俺に、日口は悲しそうに眉尻を下げた。
『そうか、ちゃんと考えてくれてありがとな』と、そう応える日口は明るく振る舞って見せていたが俺にはその目の奥に傷付いている日口がいることはわかっていた。
それから、また緩やかに時間は進む。
日口を振った手前、今まで通りいろと日口にいうのもおかしな気がした。
正直な話、俺は日口との距離の計り方がわからなくなっていたのだ。
あの告白をなかったことにしたら日口にも失礼な気がして、だからとは日口に過度に期待させるようなこともしたくない。
結果、俺は日口と疎遠になった。
そうなると周りの連中からも自然とギクシャクしてしまい、俺は自分から一人になることを選んだのだ。
寂しくはあった。けれど、後悔はなかった。
それに、
「や、元気?」
放課後、公園に行くとたまに祝が顔を出した。それから並んでアイスを食べながらだらりとした時間を過ごす。
最初は猫の話だけだったが、今はお互いのこともぽつりぽつりと話していた。
日口を降った日の放課後、祝には「そういや告白、断った」と伝えた。そうすれば、「そっか」とだけ祝は口にした。俺の顔を見て、「この前よりいい顔してる」とも笑った。
祝の隣は居心地がいい。
たまに職質に巻き込まれることもあったけどそれも少し新鮮で、祝の代わりになぜか俺がめちゃくちゃ謝ってるのを見てぽかんとしてる祝の顔が面白かった。
なにかを失う代わりに何かを得る。
日口たちとは疎遠になったが、代わりに祝と会う機会は増えていた。
全てが一変したのはそんなある日のことだった。
放課後のチャイムが響き、今日もお土産を持って例の公園へと立ち寄ろうかと思った俺の前に日口が現れたのだ。
――話がある、と。
見たことのない暗い表情をした日口を前に、俺はその誘いを断ることもできなかった。
俺はそのまま日口に連れられ、使われてない教室に連れて行かれた。
「なあ。お前、祝安泰と仲良いのか?」
開口一番、日口はそう真正面から尋ねてくる。
別に隠していたわけでも、知られて都合悪いわけでもない。けれど、日口のその言葉の端々や視線に咎めるようなものを感じて気分が悪かった。
だからだろう、「だったらなんだよ」と少し語気が強くなってしまう。
「あいつはろくな噂を聞かない。あいつの家だってまともな親じゃないって聞くし」
「俺だって噂は知ってた。けど、噂は噂だ。……それに、人の家庭に口出すなよ」
「土生、お前は騙されてんだよ。あいつと付き合ってたら絶対ろくな目に遭わない、だから、やめとけ。あいつには関わるな」
ああ、と思う。恐らく日口は本気で俺の身を案じてくれているのだろう。
だからこそ、祝のことを下げることにも躊躇のない日口の言葉を聞くたびに辛かったし、腹立った。俺も祝とちゃんと出会う前はその認識だったから悪くは言えない、けれど。
「あいつはそんなやつじゃない。……俺のことが信じれないのか」
悲しさの理由はこれだった。
俺のことを好きだといった口で、祝のことを貶す日口に耐えられなかった。言い返せば、日口は「お前のことは信じてる」と返してくる。
「けど、心配なんだ。俺は……分かってくれ」
そう、伸びてきた手に抱き締められそうになり、俺は気付けば日口のことを突き飛ばしていた。
俺も、日口も驚いた。けれど今、腹の底から込み上げてきたのは間違いなく『嫌悪感』だった。
「土生……」
「悪いけど、俺のことは放っておいてくれ」
これ以上、分かり合える気がしなかった。
俺は日口にそう告げ、そのまま教室を後にした。
廊下を歩いている間も沸々と込み上げてくる不快感が解消されることはなかった。
なんとなく祝に会わせる顔がなくて、俺はその日公園に寄り道せずに真っ直ぐに家に帰ることにした。
帰っている最中もずっとムカついて、腹立った。
日口のことを嫌いになりたくなかったのに、考えれば考えるほどそんなやつだったのかという失望と怒りが込み上げて、俺は思考から逃げるように布団に潜り込む。
兄から届いていたメッセージに添付されたあの猫の写真を見つめながら、俺は祝に会いたいと思った。
会わせる顔がないのに、会いたいなんておかしな話だと自分でも思う。
あいつだったらどうするのだろうか、なんて思いながらその日は眠りについた。
一緒にいると楽しくて、ずっと友達として隣にいれたらよかった。そう思っていた。
思っていたはずなのに。
――今俺は、日口の頭を切り落としている。
「蔀君、朝になっちゃうよ」
真っ白なタイルは赤黒い血で汚れ、換気扇回しっぱなしの浴室の中。鼻の奥に溜まる濃厚な血の匂いに吐き気を止めることなどできなかった。
何度吐いたのかもわからない、空になった胃からはもう胃液すらも出てこない。
骨を断つのではなく、骨と骨の間の隙間をよく狙え。
力を入れすぎると手にした肉包丁の刃に引っかかる、だから抜くように腕を引く。刃自体をのこぎりのように動かすのではなく、梃子のように扱うのだ。引く力は軽くでいい。
そう、俺の背後に立っていたやつは手にしたアイスを齧りながら助言してくるのだ。
そんなことなど知りたくもなかった。
衣類の繊維が邪魔にならないようにと服を脱がした日口だったものを見下ろしたまま、俺は血の上でただひたすら無心で解体していた。
◆ ◆ ◆
あの男、祝安泰は少なくとも友達と呼べる関係ではなかった。
ピンクにも金にも見えるような派手な髪色のその男は見た目通り周りからも浮いていた。
俺と正反対の位置に属するタイプだ。色んな人間と揉めている。協調性が欠けており、そのくせ本人はそれを全然気にしていないときた。
そんな祝と知り合ったのは、たまたまだった。
帰り道、怪我した猫がいた。だから、手当だけでもしようと慌てて近くのペットショップを探して次に戻ってきたとき、そこには先客がいたのだ。
最寄りのコンビニの袋をぶら下げた祝は猫の前に屈みこんでいる。虐めてるのかと思って慌てて「おい」と声をかけたのが全て、全ての始まりだった。
背中を丸めたまま、祝は「なあに?」とこちらを振り返る。その手元、下手くそな包帯を巻かれ、側に置かれた猫缶を食べていた猫が見えて驚いたのを覚えてる。
「お前が、それやったのか」
「うん。けどこの子、動き回るから難しくて」
「……」
ろくな噂を効かない祝が猫の手当。
驚いたし、つい勢いとは言えど自分から話しかけてしまったことにも驚いた。そんな俺のことなど知ったこっちゃないと言う顔で、祝は俺の手元に目を向ける。
「君、それ。もしかしてこの子のために?」
上目に尋ねられ、思わず目を逸した。
祝は猫を撫で、「へえ、よかったねえ猫ちゃん」と微笑むのだ。
――変なやつ。
それが俺の祝とのファーストインプレッションの感想だった。
俺も祝もペットを飼える環境ではなかったが、放置するわけにもいかなくてどうにかしようと話し合った結果実家を離れてる兄が飼い、すぐに病院にも連れて行ってくれることにもなった。
それから、祝と校内で何度か会ったときに祝に猫のその後を聞かれては兄から届いた写真を見せたりする。
周りから見たらさぞ奇妙な関係だっただろう。スマホを見て笑ってる俺達を見て周りが妙な顔をしていたのをよく覚えていた。
けれどあくまで祝と俺の共通点はその猫だけだ。
猫の無事を知ると、祝は俺に話しかけることもなかった。そもそも、まず学校で会うこともなかっていた。
俺もあの男と仲良くなりたいと思っていたわけではない。けど、兄から新たな猫の画像が送られてくる度になんとなく祝の顔が過ぎっていた。
わざわざ俺から会いに行くのも違う気がして、結局アクションを起こすこともなかったのだ。
俺にも俺の生活がある。
祝のように目立つようなこともないが、気の置ける友人たちに囲まれてそれなりに充実した日々を送っていた。
送っていたのに。
「好きだ、土生」
その友人たちの中に、日口はいた。中でも一緒にいることが多くて、俺も日口のことが好きだった。少なからず嫌いとは程遠い、一緒にいれるならずっといれる。そう思っているほど気の合うやつだった。
そんな日口に告白をされた俺は戸惑った。確かに好きだったけど、俺にはまだ恋愛のことなど理解すらもできていなくて。
日口とキスする自分を想像すること想像することができなかった。
だから、俺は日口に『待っていてほしい』と伝えた。
そのときの日口の顔をまともに見ることなど、俺にはできなかった。
一人になりたいとき、考え事をしたいとき。俺はいつも足を運ぶ公園があった。
公園のくせに子供はいなければ遊具もない、ただ木とベンチがあるだけの公園だった。寂れた商店街の一角、そのベンチに腰を掛けて俺は沈む夕陽を眺めていた。
そんな俺の前に、そいつは現れたのだ。
「蔀君、元気?」
「……祝」
夕陽に照らされキラキラと輝くその髪はピンク色に見えた。いつの日か見たときと変わらない軽薄な笑顔。そして、傷を覆い隠す無数のガーゼと絆創膏。
不良なんだし、喧嘩くらいするものなのか。そんなことを思いながらも、俺は祝の顔から目を逸らすことができなかった。
「お前、それ」
「あ、やっぱ気になる?」
「……痛くないのか?」
「ちょっとね、けど、僕からしてみたら温かいお茶飲めない方が辛いかなあ」
妙に噛み合わない会話も以前と同じだ。少しだけ喋りにくそうにしながらも、祝は隣のベンチに腰をかけてきた。
「喧嘩、したのか?」
恐る恐る尋ねれば、祝は小さく吹き出す。そして「いてて」と笑いながらも顔を歪めるのだ。
「蔀君って、たまに先生みたいなことを言うよね」
「なんだよ、心配してるんだよ」
「それ。そういうとこ。……別に、どうでもいいじゃんね」
「気にしなくてもいいのに」なんて笑う祝の横顔は、その言葉とは裏腹にどことなく嬉しそうにも見えた。
「それより、蔀君」
「あ、そうだ……猫だろ?」
「あー猫もだけど、一応今僕は君の方聞いてるんだよ」
「元気?」と小首を傾げ、こちらを覗き込んでくる祝。
不思議なやつだと思う。何も考えてなさそうな顔をして、たまにこうやって変に鋭い。
「……んー、どうだろうな」
「元気じゃないの?」
「体は元気ではあるけどな」
「じゃあ、心が元気じゃないんだ」
「お前って……すごいな」
人が言葉を選んでいるところをズケズケと入り込んでくる祝に驚いた。その上、嫌な気持ちにはならないのだから不思議なやつだ、本当に。
「なにが?」と本人は不思議そうな顔をしたままこちらを見ていた。わざわざ教えてやるのもなんか変な気がして、俺は「色々な」と言葉を濁す。
「俺も、お前みたいに正直だったらよかったのかな」
「それってお悩み相談?」
「……わかんねえ」
「ふーん……」
「……」
沈黙。
なにを話したらいいのかも分からないし、そもそも一人になりたくてここに来ていた俺からしてもべらべら積極的に話しかける気分ではなかった。
やや沈黙が続いたあと、無言で立ち上がった祝はそのままひょこひょこと歩いて公園を出た。
別に別れ際の挨拶を求めていたわけでもないし、俺もなにも言わずにそれを見送る。そして数分後、祝は近くのコンビニの袋を手にしたまま戻ってきた。
再び俺の目の前に現れた祝は、手にしたビニール袋をガサガサと漁る。それから、「ほい」とアイスをこちらへと渡すのだ。
「……これ、くれんのか?」
「ソーダ味。好き?」
「好き」と答えれば、祝は「そ、よかったね」とふんわりと笑った。この男、前も思ったが笑うと雰囲気が変わる。いつものふにゃふにゃとした曖昧で芯のない豆腐、とはまた違う柔らかくて子供のような笑顔だ。
「俺の好きなやつ。どーぞ、おごり」
「……ありがと」
「んーん」
隣に座った祝は自分の分のアイスを開け、そのまま大きく口を開けて齧りつく。時折痛そうな顔をしていたが、「うま~」とにこにこしていたので俺も見習って水色のアイスに口を寄せた。思いの外冷たくて、小さく齧っただけで口を離す。
そんな俺を見て「リスみたいだね」と祝は笑った。なんだか馬鹿にされているようで恥ずかしくなり、俺はすぐさま二口目を齧る。先程よりもほんの少し大きく口を開いて。
シャクシャクと二人分の咀嚼音が辺りに響く。
なにやってんだ、俺。と思いながらも、静かな時間が過ぎていった。
そして、串の先についていた味付きの氷を食べ終わったあと。
「祝は告白されて付き合ったりとか……ありそうだな」
言いながら、怪我をしても尚整ったやつの横顔を見て自己完結してしまった。棒に残っていた汁まで舐めていた祝は眼球だけ動かしてこちらを見る。
「んや、ないよ」
「え」
「そんなに驚くこと?」
だって、そりゃそうだ。噂でも祝は女を取っ替え引っ替えだとか、実際祝のファンである女子もよく見かけるし。
固まる俺に、祝は興味なさそうに棒をゴミ箱に向かって放り投げる。
「告白とかくらいはあるだろ」
「さあ、わかんないや。好きだとか、言われたことはあるけど」
「それが告白じゃ……」
「違うよ」
静かな公園に祝の声が響く。
いつも柔らかな話し方をするやつだっただけに、語気の強さに少しだけ驚いた。
「好きだとか言うだけだったら誰でも出来るよ。それこそ、好きじゃなくたって言える」
「……祝?」
「そんなの、告白にカウントされないだろ」
……あっと、と思った。
地雷だったのか。いつもとどこか雰囲気の違う祝に俺は気まずくなった。けど、こいつの言いたいこともわかる。それを言っているのが、祝だということに驚いているだけで。
「確かに、それはそうかもな」
「蔀君は、告白されたの?」
「ん……ああ」
「それで? ならなんでそんな顔をしてるの?」
「嫌いなやつからだった?」と畳み掛けるように尋ねてくる蔀に首を小さく横に振る。
「好きだよ」と応えた。
すると、祝は「へえ」と目を開く。先程までのどこか冷たい空気ではなく、まるで自分のことのように嬉しそうに目を輝かせて。
「けど、俺、まだそういうのはわかんねーから……」
「わからない?」
「そう。……わかんねーの」
俺の言葉に、ますます祝は不思議そうな顔をした。
本来ならば嬉しいはずなのに、実際喜んでいる自分もいた。
けど、好きだと言われた瞬間今までのように同じ目で見れなくなったのだ。まるで日口のことが、知らない男のように見えて戸惑った。
日口がそんな風に俺のことを見ている、その事実を受け止めきることができていない時点で俺の気持ちは決まったようなものだった。
祝に伝えてから改めて自覚する。
「じゃあ、それそのまま伝えたらよくね?」
そんなとき、当たり前のように告げる祝に思わず顔を上げた。
至極当然とでもいうなかのような祝の表情に呆気にとられ、俺の口からは「え」とアホみたいな声が漏れてしまう。そんな俺に釣られるみたいに、祝もキョトンと顔をした。
「なんでそんなに驚くの?」
「なんでって……」
「蔀君のこと好きだって言うならきっと分かってくれるよ。蔀君も好きだって思える人なら、きっとね」
歯に衣を着せないってこういうことを言うのかもそれない。
恥ずかしげもなく微笑む祝。
なんだか背中を押されているようだった。
「……やっぱ、お前ってすげーよ」
「僕は、蔀君のがすごいと思うよ」
「俺?」
「こうして僕の話をちゃんと聞いてくれるの、君だけだよ」
言われてから、俺は今の今でもこいつのことを色眼鏡掛けて見ていたのだと思う。
それはきっと、他の奴らも同じだ。
「そんなことないぞ、俺は……」
「過程はどっちにしろだよ、きっかけもどうだっていい。けど君は、こうして僕と並んでアイス食べてくれてる。それが全てだよ」
「祝の周りには、そんなやついなかったのか?」
「いると思う?」
「いなさそう」
「あは、正解。ましてや、わざわざペットショップにまで言ってペット用の薬を用意してくれる子なんていないよ」
「類友かもしれないけど」と笑いながら自虐的な言葉を口にする祝の顔が痛々しく見えたのは怪我のせいだけではないだろう。「そんなことはない」と、俺は祝の手を取った。
「お前だって、手当してたじゃん」
「下手くそだけどね」
「俺だって下手くそだった」
だってやったことねえし、と唇を尖らせれば、祝はようやくこちらを見て笑った。
「僕たちって、なんだか似てるね」なんて、あの子供じみた邪気のない笑顔で笑うのだ。
「因みに、似てない」
「そっかなあ?」
そうだ。嗜好も見た目も、多分考え方も伝え方も違う。けれど。
「けど、やりたいことは同じなんだろうな」
「それはあるかも」
生き方も全部正反対だけど根本にあるものは同じなのかもしれない。
だからこんな風にすっと祝の言葉が入ってくるだろう。そう思うと、改めて俺たちが奇妙な関係なのだと思った。友達ほど濃い時間を過ごした分けでもないのに、腹を割って話せる。
遠いからこそ、話せることもある。
「今、お前と会えて良かったよ」
一人になりたくてきた俺にとって思いもしない出会いだったが、ずっとあの告白以来胸の奥にできていたシコリがなくなっていた。
祝は小さく笑い、「僕も」と目を伏せるのだ。
「今日、君と話せて良かったよ。……蔀君」
その声はなんだか弱々しく聞こえた。
その後、祝と別れた俺は日口に『話がある』と連絡をし、きちんと告白を断った。
――今の俺ではお前の気持ちには応えられない。だから、悪い。
そう頭を下げる俺に、日口は悲しそうに眉尻を下げた。
『そうか、ちゃんと考えてくれてありがとな』と、そう応える日口は明るく振る舞って見せていたが俺にはその目の奥に傷付いている日口がいることはわかっていた。
それから、また緩やかに時間は進む。
日口を振った手前、今まで通りいろと日口にいうのもおかしな気がした。
正直な話、俺は日口との距離の計り方がわからなくなっていたのだ。
あの告白をなかったことにしたら日口にも失礼な気がして、だからとは日口に過度に期待させるようなこともしたくない。
結果、俺は日口と疎遠になった。
そうなると周りの連中からも自然とギクシャクしてしまい、俺は自分から一人になることを選んだのだ。
寂しくはあった。けれど、後悔はなかった。
それに、
「や、元気?」
放課後、公園に行くとたまに祝が顔を出した。それから並んでアイスを食べながらだらりとした時間を過ごす。
最初は猫の話だけだったが、今はお互いのこともぽつりぽつりと話していた。
日口を降った日の放課後、祝には「そういや告白、断った」と伝えた。そうすれば、「そっか」とだけ祝は口にした。俺の顔を見て、「この前よりいい顔してる」とも笑った。
祝の隣は居心地がいい。
たまに職質に巻き込まれることもあったけどそれも少し新鮮で、祝の代わりになぜか俺がめちゃくちゃ謝ってるのを見てぽかんとしてる祝の顔が面白かった。
なにかを失う代わりに何かを得る。
日口たちとは疎遠になったが、代わりに祝と会う機会は増えていた。
全てが一変したのはそんなある日のことだった。
放課後のチャイムが響き、今日もお土産を持って例の公園へと立ち寄ろうかと思った俺の前に日口が現れたのだ。
――話がある、と。
見たことのない暗い表情をした日口を前に、俺はその誘いを断ることもできなかった。
俺はそのまま日口に連れられ、使われてない教室に連れて行かれた。
「なあ。お前、祝安泰と仲良いのか?」
開口一番、日口はそう真正面から尋ねてくる。
別に隠していたわけでも、知られて都合悪いわけでもない。けれど、日口のその言葉の端々や視線に咎めるようなものを感じて気分が悪かった。
だからだろう、「だったらなんだよ」と少し語気が強くなってしまう。
「あいつはろくな噂を聞かない。あいつの家だってまともな親じゃないって聞くし」
「俺だって噂は知ってた。けど、噂は噂だ。……それに、人の家庭に口出すなよ」
「土生、お前は騙されてんだよ。あいつと付き合ってたら絶対ろくな目に遭わない、だから、やめとけ。あいつには関わるな」
ああ、と思う。恐らく日口は本気で俺の身を案じてくれているのだろう。
だからこそ、祝のことを下げることにも躊躇のない日口の言葉を聞くたびに辛かったし、腹立った。俺も祝とちゃんと出会う前はその認識だったから悪くは言えない、けれど。
「あいつはそんなやつじゃない。……俺のことが信じれないのか」
悲しさの理由はこれだった。
俺のことを好きだといった口で、祝のことを貶す日口に耐えられなかった。言い返せば、日口は「お前のことは信じてる」と返してくる。
「けど、心配なんだ。俺は……分かってくれ」
そう、伸びてきた手に抱き締められそうになり、俺は気付けば日口のことを突き飛ばしていた。
俺も、日口も驚いた。けれど今、腹の底から込み上げてきたのは間違いなく『嫌悪感』だった。
「土生……」
「悪いけど、俺のことは放っておいてくれ」
これ以上、分かり合える気がしなかった。
俺は日口にそう告げ、そのまま教室を後にした。
廊下を歩いている間も沸々と込み上げてくる不快感が解消されることはなかった。
なんとなく祝に会わせる顔がなくて、俺はその日公園に寄り道せずに真っ直ぐに家に帰ることにした。
帰っている最中もずっとムカついて、腹立った。
日口のことを嫌いになりたくなかったのに、考えれば考えるほどそんなやつだったのかという失望と怒りが込み上げて、俺は思考から逃げるように布団に潜り込む。
兄から届いていたメッセージに添付されたあの猫の写真を見つめながら、俺は祝に会いたいと思った。
会わせる顔がないのに、会いたいなんておかしな話だと自分でも思う。
あいつだったらどうするのだろうか、なんて思いながらその日は眠りについた。
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