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職業村人、パーティーの性欲処理係に降格。
04※
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食堂らしき扉に近付くに連れ、食欲を唆るような匂いが廊下に漂ってくる。
それに反応するかのようにぎゅるると鳴る腹部を押さえ、俺は食堂の扉を開いた。
まるでレストランのようなこじんまりとしたバーカウンター付きの食堂。そこには見覚えのある広い背中を見つける。
カウンター席で項垂れているのは間違いない――ナイトだ。
そしてそのカウンター内、酒瓶片手に何やらナイトと話していたらしいその男はこちらに気付くとニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「よお、久しぶりだな。……っつっても、一昨日ぶりか、スレイヴ」
「っ、スレイヴ殿……?」
「…………」
正直、食欲失せるようなメンツだ。
……こんな中で食べた料理など味もしないも同然だろう。よりによって会いたくなかったナイトまでいる。けれど、腹は減るのだ。
飯だけ掻っ払ってさっさと部屋に戻ろう。そう俺は食堂を過り、厨房らしき扉まで向かうが「待てよ」とシーフに呼び止められた。
「メイジのやつにそろそろお前が起きてくるだろうからって飯用意してやったんだよ。ほら、こっちで食ってけよ」
あまりにもこの男はいつもと変わらない。
それが余計腹立って、誰が食うかと睨んで無視しようかとしたがカウンターテーブルの上、どん、と置かれるプレートランチに思わず固唾を飲む。
いい匂いの正体はそれか。
「……お……っ」
「お前好きだろ、こういうの」
「……っ、変なもの、盛ってんじゃないだろうな」
「飯に細工なんて罰当たりな真似しねえよ。要らねえんならナイトに食わせるがな」
「いや……自分は、もう充分腹を満たすことはできた。……それに、俺はもう戻る。気にせず食べていくといい」
そう、立ち上がるナイト。が、しかし酔いが足に来てるのだろう。その場に崩れ落ちそうになるナイトに「おいおい」とシーフが呆れたように笑う。「少々躓いた」などと下手な言い訳を並べ、再度立ち上がろうとするがその巨体が揺れる。
これは転ぶな、と思い咄嗟に俺はナイトを支えた。
「……飲み過ぎだ、アンタ」
「……っ、スレイヴ殿……」
側に来てその酒の匂いにぎょっとする。おまけにこちらを向くもののその焦点は定まっていない。
「……手を煩わせてすまない、大丈夫だ」
「嘘つくな。酔っぱらいは皆そう言う」
「……っ、スレイヴ殿……」
食堂奥、広めのソファーへと引き摺るようにしてナイトを座らせれる。
とろんとした目は普段のナイトからは想像つかない。
「悪いなスレイヴ、実は昨夜からずっとこの調子でどうしたもんかと思ったんだが……いや助かった」
「……っ、まさか夜通し呑んでいたのか?」
「メイジの結界は強力でな、俺らも出られないんだわ。だから暇潰すにはこれしかないだろって」
「予め買い込んでた酒が役に立って良かった良かった」と笑うシーフに呆れて物も言えない。
とはいえシーフは元からこういういうやつだ、けれどナイトが酔っているところなんて見たことないしそんな無茶な呑み方をするようにも思えなかった。
なんでそんなことを、と言い掛けて昨日のやり取りを思い出す。
「……っ、……」
その先のことは考えなかった。
静かになったと思えば眠りについたのだろう、そのままソファーで眠り始めるナイトに内心ホッとしながらも俺は空いたカウンター席に腰を下ろした。
「それでお客さん、お飲物はどうなさいます?」
「……水でいい。あとその腹立つ演技も辞めろ」
シーフも大分飲んでるようだがこいつは酒にはめっぽう強い。
「つまんねえやつ」と笑い、そのままシーフは飲み物を取りにカウンターの奥へと引っ込んだ。
暫くもしない内に水が入ったボトルとグラスを手にしたシーフが戻ってくる。
「ほら、どうぞ。腹減っただろ。昨日もメイジに付き合わされてずっと部屋から出してもらえなかったって聞いたぞ」
グラスを受け取る。透き通ったその水を見てそこで自分が喉が渇いていたことを知る。
無視したかったが、こうして飯まで出された今無視するのもばつが悪い。
「……あいつがそう言ってたのかよ」
「いや、勇者がお前がメイジの部屋から出てこないって騒いでた。メイジのやつは否定もしなかったがな」
「…………」
あいつ、と舌打ちが出る。
受け取ったフォークで目の前の料理を口にすれば、見た目以上の味が口の中に広がり思わず目を開いた。
「美味いか?」と、ニヤニヤ笑いながら聞いてくるシーフを無視して俺は更に二口目、三口目と空腹の腹に飯を掻き込んだ。
「がっつき過ぎだ。別に誰も横取りしねえからゆっくり食えよ、喉に引っ掻かんぞ」
「……っ、別に、がっついてなんか……」
「ほら、水もちゃんと飲めよ」
この男にいいところなどあるのか?と思っていたが、まさか料理ができるとは知らなかった。
素直に美味いと褒めるのも癪だった俺は無言で水を流し込み、再び食事を再開させる。
「――メイジ、あいつは随分お前のことを気に入ってるみたいだな」
ふいにあいつの名前を出され、喉に飯が突っかかりそうになる。
カウンター越し、酒の入ったグラスを呷るシーフを睨む。やつはどこ吹く風でそれを受け流すのだ。
「別に、気に入られてなんかない」
「俺もそうだと思ったんだがな、あいつには執着とかそういったものは無縁だと思ったんだがな……正直俺も驚いた。魔道士には偏執狂の変態が多いと聞いたが正しいみたいだな」
それについては否定はしないが。
あいつのことは俺にもよく理解できない。
居心地が悪くなり、俺は誤魔化すようにグラスに口を付ける。
「ったく、無視か。相変わらず可愛くねえな」
「今飯を食ってる。……飯が不味くなる話はやめろ」
「はは! 確かにお前にとっちゃそうだな」
……この男は変わらない。
寧ろ今まで最初から無礼なだけだろうが、下手に気を遣ってくるわけでもない。
そう考えてしまうのは余程疲れているからだろうか。
ともかく、さっさと飯を食って部屋へ戻ろう。そう食事に集中しようとしたとき。
「そういや口直しに作ったデザートもあるぞ。食うか?」
「……っ、いらないなら、食う」
「お前、本当飯のことになると素直だな」
「こっちは腹が減ってるんだ。……文句あるのか?」
「ねえよ、別に。けど、お前なら『どこの馬の骨か分からないやつの作った飯なんか食えるか!』って嫌がると思っただけだ」
「……飯に罪はないし、腹が減ってるから食うだけだ。別に、お前の手作りかどうかはどうだっていい」
「ふーん?」
「……じろじろ見るなよ、食いにくい」
「いや、はは、普段からそう素直だと可愛げがあるってもんだが……今冷やしてるからそれ、食い終わったら持ってきてやるよ」
ん、とだけ返せばシーフは笑う。
「……お前、飯作れたんだな」
「そりゃ生きていくには必要なスキルだろ」
「一度だって料理作ってこなかったくせに」
「美味い飯屋があるんならそっちで食う。それともなんだ? スレイヴは俺の飯が美味すぎるあまり毎日朝昼晩食いたいと」
「……っ、んなこと言ってないだろ」
「あーはいはい、俺が悪かったからそう拗ねんな。……と、食うの早いなお前」
待ってろ、とグラスを置いたシーフは立ち上がり、冷蔵庫からデザートを取り出す。
きんきんに冷えたバニラジェラートに思わず固唾を飲む。
「そら、やるよ」
「…………いただきます」
「ははっ、お前にいただきますって言われる日が来るなんてな」
俺も、お前の手作り料理を食う日が来るとは思わなかった。
それも、よりによって今日。
なんとも皮肉なものか。それとも、この男はわかってて俺に豪勢な料理まで用意してくれたのか相変わらず読めないが……案外本当に何も考えていないのかもしれない。俺は思考を振り払い、目の前の甘味を堪能する。……美味い。
「ナイトは本当に真面目だな。……そう思わないか?」
「……っ、急になんだよ……」
「あ? まさかナイトの話も飯が不味くなるのか?」
「……ならないわけがないだろ」
そもそも、誰のせいだと思っている。睨み返せば、シーフはなるほど、と肩を竦める。
「多感な時期ってわけか」
「……できることなら、お前の顔も見たくないがな」
「あ、なんだよそれ。そんなこと言うんだったらそれ、没収するぞ」
「……っ、できることならって言っただろ」
「お前にとってできることならは枕詞かよ」と苦笑するシーフ。
「……けどお前の方は思ったよりも元気そうだな。あんなことあったあとだ、俺らの顔なんて見たくないってずっと閉じ籠ってんのかと思ったが……おまけに呑気に俺の手料理まで食いやがって」
「……っ」
内心ぎくりとした。
何かを怪しまれているのか。もしかしてメイジとの企みに気付かれたわけではないだろうが……。
「……もしかして、スレイヴお前……」
「……っ、なんだよ……」
「ようやくお前も素直になったのか?」
ムカつくあまりにグラスの水を引っ掛けそうになったが、寸でのところで留まった。
相手は酔っぱらいだ、相手にするだけ無駄なのだ。
「そうか、まあ抵抗したって疲れるだけだもんな。……それがいい」
シーフは一人うんうん頷きながら、よっこらせと隣のチェアに腰を掛けた。
近付いて分かったが、この男相当な酒の匂いだ。
よくもこんな状態で料理が出来たな。むかつきよりも感心すら覚える。
「……もう少し離れろ。酒臭いんだよ」
「お前も呑むか?」
「呑まない」
「付き合い悪いやつだな。前はあんな可愛く酔ってたのに」
「……っ、クソ……」
余計なことを思い出させるな。
嫌なものを感じ、ジェラートを口の中に掻き込んだ俺はそのまま「ご馳走さま」とスプーンを置いた。
そして逃げるように立ち上がろうとしたときだ。
「……まあ、待てよ。せっかく来たんだ、もう少しゆっくりしていったらどうだ?」
「これ以上酔っぱらいに付き合うつもりはない」
「そう寂しいこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
何が仲だ。握られた手を振り払う。そのまま立ち上がろうとしたときだ。足元がぐらりと揺れた。
立っていられず、思わず体が傾く。
「……っ!」
「あーあ、相当足にキてんな」
思うように力が入らない。おかしい、そう感じたときには遅かった。立ち上がろうとするが、目が回るように体に力が入らない。
そんな俺を見て、手にしていたグラスを置いたシーフは立ち上がり俺の横まで来る。
「お、まえ……何を……ッ」
「おいおい、俺は本当に何も盛ってないからな。さっきのジェラートに酒入れたくらいだし」
「……っ!」
「まあ、美味かったんならいいだろ。ほら、立てるか?」
クソ、こいつ。元はといえば俺のために作っていたのではないとわかっていただけに何も言えない。それでも、俺が酒が得意ではないと知っていたはずだ。
抱き抱えられ、「降ろせ」と藻掻くが力が入らない。
ナイトが眠りこけるソファーまで連れてこられ、寝転がらされる。やつの隙きを見て逃げ出そうとするが、跨ってくるシーフに乗られると身動きが取れなくなってしまうのだ。
「っ、や、めろ……ッ!」
「今更何言ってんだ? ……せっかくあいつの公認になったんだ、もうコソコソする必要もなくなったんだから人目なんて気にする必要なんてないんだぞ」
この男は本当に何も変わらない。
伸びてくる手に胸元を弄られ、息を飲む。一つ隣のソファーでは眠りこけているとはいえナイトもいるのだ。
「じょ、うだんじゃ……ねえ……ッ!」
「抵抗すんなよ。俺は無理矢理みたいな真似は好みじゃないんだ」
こいつ、どの口で。怒りで頭がどうにかなりそうになったとき、当たり前のように塞がれる唇にぎょっとする。
「っ、ん、ぅ……ッ!」
濃くなる酒気に噎せ返りそうになる。
舌で唇を這った瞬間、つい昨夜の名残で自ら口を開けてしまいハッとしたときには遅かった。
「っ、待っ、て、この……ッん、ぅ……ッ!」
ぢゅぽ、と濡れた音を立て口いっぱいに頬張らされる舌に頭の中が塗り替えられていく。
眠っていたナイトが俺の声に反応するかのように小さく唸るのを見て、血の気が引いた。
「っ、シーフ、やめろ……ここは駄目だ……ッ」
「そんなにナイトにバレたくないのか?……どうせもう一度は寝たんだ、気にする必要ねえだろ」
「っ、そういう問題じゃ……」
「酒が足りてねえんだよ、ほら、お前ももっと飲めよ」
そうどこからか持ち出す酒瓶の口から直接それを喇叭のように飲むのだ。そしてそれを口に含んだまま口移ししてくるやつにぎょっとする。
「ん、っ、ぅ……ッ!」
流し込まれる酒を必死に拒否しようとするが、唇から溢れる酒に混じってそれを回避して喉奥へと流れる感覚に背筋が震えた。口いっぱいに広がる酒の味に頭の中が白く靄がかったように霞む。
「っ、……こ、の野郎……ん、っ、んぅ……っ!」
文句を言う隙も与えられなかった。口移しで直接体内へと酒を飲まされ続け、シーフの手にする瓶が空になったときには既に俺の意識は輪郭を失いかけていた。
溢れるのも構わずに酒を浴びせられ、ソファーの上から逃げることもできない。
「ようやく可愛げが出てきたな」
酒瓶に残った酒を俺の頭に掛け、それを舐め取りながらやつは笑う。
どこを触れられてるのか最早感覚すらなかった。
「この、やろ……っ」
「どうせメイジとも遊んだんだろ。いいじゃねえか、減るもんじゃねーし」
してねえよ、と言い掛けて言葉を飲んだ。
一晩いて何もないのは可笑しい、何か企んでるなどと変な勘ぐり入れられるのは厄介だ。
必死にシーフの腕を掴み、引き離そうとするがろくに腕に力が入らない。はいはい、とあしらうように躱されるのだ。
抵抗も虚しく呆気なく脱がされる服。寒いはずなのに、熱い。
ソファーの上、仰向けに倒れる俺をじっと見下ろすシーフは「妙だな」と片眉を上げる。
文字通り無防備状態の上半身に絡みつくようなその視線が不愉快で、隠そうと体を撚るが腕を掴まれ再び仰向けの形で固定されるのだ。
「っ、さ、わるな」
胸元。当たり前のように指の腹で撫でられ、不快感に堪らず体が跳ねる。それでもシーフは俺の反応など気にも留めずに至るところへと手を這わせた。まるで何かを探すように。
腕を掴まれ、脇の下まで覗き込まれれば頭がおかしくなりそうなほど熱が増す。やめろ、とシーフの腕を振り払おうとしたときだった。
「お前、まさかメイジと何もしてないのか?」
シーフの言葉に体が固まる。
言われて自分の体に目を向けた。確かに昨夜は何もされなかった……わけではないが、それでもキスだけだ。
そんなことどうでもいいだろ。そう言いたいところだが、この男はそういうことに変に敏いのだ。背筋に冷たいものが走る。
「それともあいつがご丁寧に痕跡ごと消したのか?」
「ど、……っ、でもいいだろそんなこと……」
「そうか? じゃあセックスはしたのか。何回中に出してもらったんだ?体位は?」
「っ、……こ、の……」
「ははっ! そう怒んなよ。可愛い冗談だろ」
どこがだ、と睨めば満足げにシーフは笑うのだ。そして、脇の下に手を差し込むようにして上半身を抱き込まれ、親指で胸の突起を潰される。
まるでゴム手袋越しに触れられてるような鈍い感触。にも関わらず、それだけで反応しそうになる自分の体に血の気が引いた。
「や……っ」
「あいつ、どんな女にも興味示さないから使い物にならないのかと思ってたけど……一昨日のあれ、正直驚いたんだよな俺。そりゃ女に興味ないわけだわ。お前みたいのが好みならな」
「っち、がう……そんなわけ……」
「好きの反対は無関心だと言うわけだな。お前にはやたら絡んでたしな」
違う、と言いたいのに下半身を触れられればその続きを発することはできなかった。
下着ごとずるりと下を脱がされ、剥き出しになる下半身。俺の腿を掴んだシーフはそのまま膝の頭を上半身へと押し付けるように開脚させてくる。
「っ、や、やめろ……っ! 離せ……っ!」
「こっちも治されてんのか。……ああ、でもこりゃどう見ても立派な性器だな。メイジのやつでも、ケツの穴の広がりだけはどうしようもないってことか?」
息を飲む。自分の体がどんな状況かなんて知りたくもない。
柔らかくなったそこを唾液で濡らした指で撫でられ、息を飲む。「やめろ」と首を横に振れば、シーフは問答無用で指を挿入させてくるのだ。
「ぅ、ん……ッ!」
「はは、大分柔らかくなってんな。……見ろよ、すぐに俺の指まで飲み込んでいく」
「っ、だ、まれ……っ!」
「あんま大きな声出すなよ、ナイトが起きるぞ」
こいつ、と睨んだとき、体内へと指を追加される。腹側へ向かって柔らかく襞を揉まれ、ぶるりと背筋に寒気のようなものが走る。
ナイトのことを興奮剤にでもしてるつもりか、悪趣味男が。口の中で罵倒することが精一杯の抵抗だった。
「っ、ぅ、ふ……く、ぅ……ッ」
「白くなるまで唇噛んで声我慢してんの、いじらしいよなぁ? ……なんなら助け呼んでみたらどうだ? ナイト様ーってな」
「だ、まれ……ッ!」
怒りで頭がのぼせ上がりそうだった。
酔いのせいか焦点も定まらない。ただ腹の中を掻き混ぜる骨這った無骨な指の感触だけがやけに生々しくこびりつくのだ。
気持ちよくない。こんな行為。そう思うのに、ぬちぬちと音を立て中を愛撫されるだけでいつの間にかに全身はじっとりと汗で濡れる。呼吸が浅くなり、込み上げてくる快感を逃がそうと腰が浮くが逃れるどころか更に責め立てられるのだ。
「っ、ぁ、や、抜け……ッ! や、め……っ、ん、ぅ……ッ!」
「まあ、もうあいつはお前を助けちゃくれねえだろうがな」
「……ッ、ん、ぅ……ッ!」
唇を噛み、声を殺そうとするがくぐもった声までは殺すことができない。
逃げようとする腰を捕えられ、腿を掴んでいたその手は脹脛を撫でるようにそのまま踝まで降りていく。そのまま俺の靴を脱がせば、素足、丸まった爪先に唇を寄せる。
「っひ、や、どこ……ッ!」
「お、お前足の指弱いのか? ……中、すげえ締まったぞ」
「やめろ、馬鹿ッ! ッ、さ、わるな……ッぁ、おい……ッ!」
「っ、小せえ足」
舌を出すシーフに冗談だろ、と血の気が引いた。あろうことかやつは人の足の指に舌を這わせるのだ。
「っ、や、……ぅ、……ッくぅ……ッ!」
ぞわぞわと背筋が凍り付いた。
足の指を口に含められ、ぬるりとした熱に覆われた爪先に這わされるナメクジのような感触に腰が震えた。
そんなところ舐められたこともなかった。
やめろ、とシーフを蹴ろうとするが、下腹部に力が入らない。
「っ、や、めろ……汚いだろ、シーフ……ッ!」
「っ、は……すげえ中ヒクヒクしてる。勇者に舐めさせたことなかったのか?」
「ぁ、……あるわけ……ッ!」
「じゃ教えてやんねえとな。お前は足の指の谷間、舌で穿られんの好きだって」
「……ッ、く、ぅうん……ッ!」
この酔っ払いが。
怒りと羞恥でどうにかなりそうだった。汚い音を立て、唾液でどろりと濡らされた指ごと吸い上げられた瞬間体が大きく震える。自分で制御できるようなものではない。
内股が痙攣し、腰にろくに力が入らない俺を見下ろしてシーフは満足げに丸まった指から口を離す。そのままこれみよがしに爪先にキスをされ、顔面に血液が集まる。見られていることが、やつの視線が耐えられなくて俺は逃げるように腕で顔を覆った。
「……おい、隠すなよ。せっかくの貴重なお前の可愛い顔が見れないだろ?」
「っ、黙れ、変態……ッ」
「変態はどっちだよ」
ぬぽ、と音を立て中から引き抜かれる指に息を吐く暇もなかった。
いつの間に血液が集中し、服の裾の下から頭を擡げていたそこを指で弾かれ腰が跳ね上がる。
「ッ、や……め……ッ」
「イヤイヤ言ってる割にしっかり濡れてんじゃねえか。ケツの穴まで垂れてきてんぞ、先走り」
「っ、ぅ……ッ」
「これなら潤滑油要らずだな」
ぬるりと先走りを絡め取るように性器の周囲を這っていたその指は、再び口を開かされていたそこにぬぷりと咥えさせられる。先程よりも執拗に内壁に塗り込まれるそれに堪らずシーフの腕を掴めば、やつは笑った。
「っ、ぃ、やだ……シーフ……ッ」
「諦めろ、どうやったってお前は逃げられないらしいからな。……それなら全部諦めて気持ちよくなった方が楽だと思わねえか?」
「お互い」と囁かれる声に腰が反応する。そんなわけがない。言い返したいのに、腰を持ち上げられ、下からごり、と押し付けられるその嫌な感触に言葉詰まった。
「ぉ、まえ……っ」
「ナイトにバレたくないんなら声、しっかり我慢しとけよ」
見てわかるほどに張り詰めた前を器用に片手で寛げるシーフ。
鼓動の間隔が狭まり、呼吸も浅くなる。
服の裾を噛み、下着の中から限界まで張り詰めたグロテスクなそれ取り出すシーフ。
俺はそれを直視することができなかった。
これから、これを当たり前のように受け入れらなければならないのだ。抵抗せずに、享受しなければならない。
「……ッふ、ぅ……っ」
口を手の甲で押さえ、声を殺す。肛門にぴったりとくっつけられる亀頭に腰が逃げそうになるのをシーフに掴まれた。
ナイト、頼むから、頼むからずっと寝ててくれ。
頭の中で呟き、硬く目を瞑った。辺りが闇に覆われるも一瞬、すぐに視界は白く火花を散らす。
「っ、ひ……ん゛ぅ゛ッ! ふ、……――ッ、ぅ、ん゛ぅ……ッ!!」
何度やったとしても馴れることはなかった。
大きく股を開かされ、正面顔を覗き込まれるように犯されるこの体勢がただ苦痛だった。
「……っ、は、やっぱ最高だな、お前……ッ!緩くなってるかと思ったが寧ろ中は柔らかくなって余計吸い付いてくるの堪んねえわ……ッ!」
黙れ、でかい声を出すな。
そう言ってやりたいが、少しでも唇を開こうものなら出したくもない声が出てしまいそうで怖かった。
ギシギシと軋む古いソファーのスプリングに、ナイトが目を覚まさないか気が気でなかった。
さっさと済ませろと必死に堪えていたときだった。
「……う……」
隣で眠っていたナイトが寝返りを打つのだ。先程まで背中を向けていたにも関わらずこちらを振り返るナイトに血の気が引いた。
そんな俺を見てやつは笑う。
「……っ、は、そんなに焦んのかよお前、ビビりすぎだろ。すげえ中締まったし……ッ」
「も、……ぉ……さっさと、済ませろ……ッ!」
「……はいはい」
そう、やつがニヤリと笑ったときだった。
根本奥深くまで挿入したままやつは俺を抱き抱えるのだ。
「っ、お……おい……ッ!」
嘘だろ、と驚愕する暇もなかった。
結合部から伝わる振動、体重に耐えられずに奥をずんと突かれる衝撃に頭の中がどうにかなりそうだった。あまりの刺激に耐えられず、咄嗟にシーフの体にしがみついたときだった。すぐに体は降ろされた。それも、ナイトのすぐ隣にだ。
「やめろ、シーフ……やめてくれ……ッ!」
「はは、あんな生意気だったお前に懇願されんのは悪くねえなぁ……ッ!」
「っ、ひ、ィ……ッ!」
「っ、……やっぱな、すげえ中ビクビクしてんの。……なあ、スレイヴ。やめてほしいんだったらお前から腰振って俺をイカせてみろよ」
腰の動きを止めたまま、シーフは挿入物により膨らんだ俺の腹を撫でるのだ。その触れただけの感触ですらあまりにも強く、脳髄が溶け出してしまうかのような熱に視界が眩む。
「っ、な、にいって……」
「じゃ、ナイト起こして三人でやるか? 俺はそれでも全然構わねえけど?」
「……ッ! や、めろ……!」
「即答かよ。なあ、そんなにあいつのこと嫌ってやんなよ。ナイトが可哀想だろ」
その言葉とは裏腹にこの男はこの状況を楽しんでいた。
そして本気でバレても構わないと思っている。
「……クソ……っ」
何よりも一番腹立たしかったのは、一向に萎える気配のない己自身だ。
屈辱だった。さっさとこのくだらない行為を終わらせるためだとは言え、だ。
溶けるほど熱い体は最早一人手にまともに動くこともできない。腰を動かせてこの男を射精させることなど、もし俺の体が動けたとしても満足に行えるかどうかすら怪しい。
「はっ、色気ねえなぁ……」
「っ、だ、まれ……」
必死に声を殺し、堪える。
内臓を押し上げる異物は少しでも動けば弱いところにあたってしまい、その都度全身の身の毛がよだつほどの耐え難い感覚に陥るのだ。
それでも俺が動かなければいつまで経ってもこの苦行は終わらない。
「っ、くそ……っ」
「騎乗位でもいいって言ったろ」
その言葉に血の気が引いた。
シーフはそんなに難しいなら自分の上に跨がれと言い出したのだ。おまけに向かい合うようにだ。そんなの、耐えられない。
いくら酒が入ってようとこの男に恋人のように向かい合うなんて。
「い、やだ……お前とだけは……」
「可愛くねえなぁ。まあいいや、ほら、腰浮かせてみろ」
「……ッや、め……動く、なぁ……ッ」
「……っ、逆に俺のが辛くなってくんだよ、ここまで生殺しにされると」
腰に這わされた掌に撫でるように掴まれ、そのまま緩く腰を打ち付けられれば全身が驚いたように跳ね上がる。
待て、としがみつけば、シーフは「そのまま」と耳元で囁くのだ。
「……っ、そのまま、動きたいように動いてみろよ」
「っ、な、に……言って……」
「ここに当たると気持ちいいとことか、あるだろ?……それとも、そこまで俺が手取り足取り教えてやんなきゃなんねえのか?」
臍の窪みをぐるりと親指で撫で上げられた瞬間ぞわりと背筋が震えた。ぐ、と軽く抑えられただけで外側からの圧迫で余計刺激が強くなり、瞼裏が白くなるのだ。
「っお、すな……ッ」
「なるほど? お前はここが弱いのか?」
やめろ、とシーフの骨張った硬い腕に爪を立て抵抗しようとしたときだった。腰を軽く持ち上げられたままそこをガチガチに固くなった性器で直接抉られた瞬間、全身に電流が流れたかのように大きく跳ね上がる。
「っ、ひ、ぐ……ッ!」
「ほら、ここだろ? ……ここ。もっとしてくれって腰が勝手に動いてんぞ」
「ち、ッ、やめろ……ッ! や、ァ……ッ!」
「ハ……ったく、本当にうっすい腰だな……掴みやすくて助かるけどな……ッ!」
俺の意思とは関係なく、シーフのピストンに耐えられずにガクガクと揺れる己の下半身を見て血の気が引いた。見たくもないのにシーフと繋がったそこを見てしまい、余計全身の血液が熱くなるようだった。
視線を逸らすことすらままならない。執拗に亀頭で前立腺を擦るようにゆるゆると腰を打ち付けられるだけで出したくもない声が出てしまいそうになる。
「ほら、ちゃんと起きろ? ヤル気あんのかお前……ッ!」
カリを引っ掛けるように挿入繰り返されるだけでどうにかなりそうだった。逃れようとする度に肩が隣で眠りこけるナイトにぶつかってしまいそうになり、血の気が引く。
声を抑えるのが精一杯だった。動こうとしても俺の意思など既に関係ない。びくびくと震える腰に、シーフは「仕方ねえな」と笑うのだ。
そして、俺の腿を掴んで更に深く体重を沈めてくる。
「ぅ、ひッ」
「この間はあんなにナイトにはしがみついてたのになぁ? ……寂しいだろ?」
「ッ、ぅ……あ……ッ!」
苦しいという感覚よりも、ただ熱に溺れそうになるのだ。動きが激しくなるにつれ、ギシギシとソファーが軋む音も増す。
やめろ、馬鹿。シーフを止めようとするが、腹の奥を太い性器で掻き回されるだけで力が抜けそうになるのだ。
「っは、ぅ……ッ! く、ぅ、んんぅ……ッ!」
「っ、そーそー……っ! そうやってりゃいいんだ、お前は余計なこと考えんなよ……ッ」
「ッ、ぁ、くぅ……っ!」
全身が侵されているようだった。まるで夢でも見てるような心地の中、それでもなけなしの理性だけは捨ててはならないということだけは頭にあった。顎を持ち上がられ、深く唇を貪られる。
濡れた肉が潰れるような音が辺りに響く。太い舌で咥内を体内同様好き勝手弄れ、器用に芽生えた快楽の芽を摘み取っていくのだ。
「し……ッ」
シーフ、となけなしの理性で止めようとしたときだった。隣で影が大きく動く。そして。
「……っ、ん……シーフ殿……?」
響くその寝惚けた声に全身から血の気が引いた。
「な、何をやってる……ッ!」
酔も醒めたのか血相変えるナイトにシーフはさして驚くわけでもなく、ピストンを弛めようともせずに目だけをナイトに向けるのだ。
「あー……っ、見て分かんねえ? こいつと仲良く遊んでたんだよ」
「なあ? スレイヴ?」と名前を呼ばれ、性器で前立腺を擦られればそれだけで言葉すらもでなかった。
「や、め……ぇ……ッ!」
「丁度良かった。ナイト、お前も混ざれよ。……っ、こいつと仲直り、したかったんだろ?」
「シーフ殿……ッ!!」
「ほら、お前に見られてるとこいつも反応良くなんだよ」
血の気の引いたナイトに笑いかけるシーフ。言いながら逃げようとしていた腰を掴まれ、奥深くまで挿入される。やめろ、と言いたいが声にすらならない。
グリグリと亀頭で奥の突き当りを柔らかく押し上げられればそれだけでどうにかなりそうだった。
「ゃ……ッ」
嫌だ、と首を横に振る。見ないでくれ、という言葉はシーフが邪魔をしてまともに発することも出来なかった。
「何が嫌だ? お前の喘ぎ声が煩いからナイトが起きたんだろ。自業自得だ、自業自得……ッ!」
「っひ、ィ」
「シーフ殿、やめ……ッ」
「おっと……止めんなよ。そりゃルール違反だ。そんなにこいつが俺に犯されんの見たくねえってんなら大人しく部屋に帰るなりしたらどうだ?」
何がルールだ、そんなもの存在しない。あんな横暴で一方的なもの気にする方がおかしい。
それなのに、ナイトの顔色が悪くなる。
何かを堪えるように拳を握り締めるナイト。
――あの夜と同じだ。
「っぅ、あ……ッ!」
なんで帰らないのか。こちらを見ようとしないのはせめてもの気遣いのつもりなのか。
こんな痴態、見せたくもないのに。
「……っ、本当、難儀なやつだなお前も」
楽になりゃいいのに、と呆れたように笑い、シーフはそのまま俺の脚を掴み、更にピストンのペースを上げた。
硬い竿で直腸を犯され、持続的な快楽の波に逆らうことはできなかった。
とろりと溢れる精液と先走りが混ざったような半濁の体液で濡れた性器。そこに手を伸ばしたシーフはそのまま手を上下に扱くのだ。
「っ、ふ、ぅ……ッ! ぅ、んうぅ……ッ!」
「もう声我慢しなくていいってのに、ほら、もっと聞かせろ……ッ」
「や、ッ、ぅ、ひ……ッ!」
グチャグチャと濡れた音が耳の鼓膜を直接犯す。前と後孔両方を執拗に愛撫され、抵抗することも出来なかった。
そこからの記憶は曖昧だった。
酔いが充分回った頭と体では受け入れることしかできず、長い間挿入されていた気もする。
広がりきった肛門の中、どくどくと大量に吐精するシーフの熱に内壁から溶けてしまいそうだった。
満足したのか、性器を引き抜かれた瞬間、どろりと中に溜まっていた精液が溢れる。脚を閉じることもできなかった。
「ッあー……熱……って、おい。なんだ? やる気になったのか?」
指先を動かすことすらも億劫だった。
起き上がることもできず、ソファーの座面に転がったままになっていると視界の隅で何かが動いた。
瞬間、急に体が持ち上がる。
混乱する頭の中、何が起きたのかはすぐに理解できた。すぐ側にあるナイトの顔。
俺はやつに抱き抱えられていたのだ。
「あーはいはい、なるほど? ……俺にも見せたくないってわけね。お宅って案外独占欲強そうだもんな」
「……」
ナイトは何も言わない。
どうして、とかどういうつもりなのか、とか。言いたいことは色々あったが声を発する気力もなかった。
人を抱えたまま食堂を出ていくナイトを横目に、どこからか取り出した煙草を片手にシーフは「ごゆっくり~」と呑気に見送っていた。
体をしっかりと抱き留めるナイトの手のひらがやけに熱く感じた。
まるであのときと同じだ。
どこに行くつもりなのか、酔いも完全に抜けたわけではないだろうが先程よりも足取りはしっからしている。暴れる気力すらなかった。
それに反応するかのようにぎゅるると鳴る腹部を押さえ、俺は食堂の扉を開いた。
まるでレストランのようなこじんまりとしたバーカウンター付きの食堂。そこには見覚えのある広い背中を見つける。
カウンター席で項垂れているのは間違いない――ナイトだ。
そしてそのカウンター内、酒瓶片手に何やらナイトと話していたらしいその男はこちらに気付くとニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「よお、久しぶりだな。……っつっても、一昨日ぶりか、スレイヴ」
「っ、スレイヴ殿……?」
「…………」
正直、食欲失せるようなメンツだ。
……こんな中で食べた料理など味もしないも同然だろう。よりによって会いたくなかったナイトまでいる。けれど、腹は減るのだ。
飯だけ掻っ払ってさっさと部屋に戻ろう。そう俺は食堂を過り、厨房らしき扉まで向かうが「待てよ」とシーフに呼び止められた。
「メイジのやつにそろそろお前が起きてくるだろうからって飯用意してやったんだよ。ほら、こっちで食ってけよ」
あまりにもこの男はいつもと変わらない。
それが余計腹立って、誰が食うかと睨んで無視しようかとしたがカウンターテーブルの上、どん、と置かれるプレートランチに思わず固唾を飲む。
いい匂いの正体はそれか。
「……お……っ」
「お前好きだろ、こういうの」
「……っ、変なもの、盛ってんじゃないだろうな」
「飯に細工なんて罰当たりな真似しねえよ。要らねえんならナイトに食わせるがな」
「いや……自分は、もう充分腹を満たすことはできた。……それに、俺はもう戻る。気にせず食べていくといい」
そう、立ち上がるナイト。が、しかし酔いが足に来てるのだろう。その場に崩れ落ちそうになるナイトに「おいおい」とシーフが呆れたように笑う。「少々躓いた」などと下手な言い訳を並べ、再度立ち上がろうとするがその巨体が揺れる。
これは転ぶな、と思い咄嗟に俺はナイトを支えた。
「……飲み過ぎだ、アンタ」
「……っ、スレイヴ殿……」
側に来てその酒の匂いにぎょっとする。おまけにこちらを向くもののその焦点は定まっていない。
「……手を煩わせてすまない、大丈夫だ」
「嘘つくな。酔っぱらいは皆そう言う」
「……っ、スレイヴ殿……」
食堂奥、広めのソファーへと引き摺るようにしてナイトを座らせれる。
とろんとした目は普段のナイトからは想像つかない。
「悪いなスレイヴ、実は昨夜からずっとこの調子でどうしたもんかと思ったんだが……いや助かった」
「……っ、まさか夜通し呑んでいたのか?」
「メイジの結界は強力でな、俺らも出られないんだわ。だから暇潰すにはこれしかないだろって」
「予め買い込んでた酒が役に立って良かった良かった」と笑うシーフに呆れて物も言えない。
とはいえシーフは元からこういういうやつだ、けれどナイトが酔っているところなんて見たことないしそんな無茶な呑み方をするようにも思えなかった。
なんでそんなことを、と言い掛けて昨日のやり取りを思い出す。
「……っ、……」
その先のことは考えなかった。
静かになったと思えば眠りについたのだろう、そのままソファーで眠り始めるナイトに内心ホッとしながらも俺は空いたカウンター席に腰を下ろした。
「それでお客さん、お飲物はどうなさいます?」
「……水でいい。あとその腹立つ演技も辞めろ」
シーフも大分飲んでるようだがこいつは酒にはめっぽう強い。
「つまんねえやつ」と笑い、そのままシーフは飲み物を取りにカウンターの奥へと引っ込んだ。
暫くもしない内に水が入ったボトルとグラスを手にしたシーフが戻ってくる。
「ほら、どうぞ。腹減っただろ。昨日もメイジに付き合わされてずっと部屋から出してもらえなかったって聞いたぞ」
グラスを受け取る。透き通ったその水を見てそこで自分が喉が渇いていたことを知る。
無視したかったが、こうして飯まで出された今無視するのもばつが悪い。
「……あいつがそう言ってたのかよ」
「いや、勇者がお前がメイジの部屋から出てこないって騒いでた。メイジのやつは否定もしなかったがな」
「…………」
あいつ、と舌打ちが出る。
受け取ったフォークで目の前の料理を口にすれば、見た目以上の味が口の中に広がり思わず目を開いた。
「美味いか?」と、ニヤニヤ笑いながら聞いてくるシーフを無視して俺は更に二口目、三口目と空腹の腹に飯を掻き込んだ。
「がっつき過ぎだ。別に誰も横取りしねえからゆっくり食えよ、喉に引っ掻かんぞ」
「……っ、別に、がっついてなんか……」
「ほら、水もちゃんと飲めよ」
この男にいいところなどあるのか?と思っていたが、まさか料理ができるとは知らなかった。
素直に美味いと褒めるのも癪だった俺は無言で水を流し込み、再び食事を再開させる。
「――メイジ、あいつは随分お前のことを気に入ってるみたいだな」
ふいにあいつの名前を出され、喉に飯が突っかかりそうになる。
カウンター越し、酒の入ったグラスを呷るシーフを睨む。やつはどこ吹く風でそれを受け流すのだ。
「別に、気に入られてなんかない」
「俺もそうだと思ったんだがな、あいつには執着とかそういったものは無縁だと思ったんだがな……正直俺も驚いた。魔道士には偏執狂の変態が多いと聞いたが正しいみたいだな」
それについては否定はしないが。
あいつのことは俺にもよく理解できない。
居心地が悪くなり、俺は誤魔化すようにグラスに口を付ける。
「ったく、無視か。相変わらず可愛くねえな」
「今飯を食ってる。……飯が不味くなる話はやめろ」
「はは! 確かにお前にとっちゃそうだな」
……この男は変わらない。
寧ろ今まで最初から無礼なだけだろうが、下手に気を遣ってくるわけでもない。
そう考えてしまうのは余程疲れているからだろうか。
ともかく、さっさと飯を食って部屋へ戻ろう。そう食事に集中しようとしたとき。
「そういや口直しに作ったデザートもあるぞ。食うか?」
「……っ、いらないなら、食う」
「お前、本当飯のことになると素直だな」
「こっちは腹が減ってるんだ。……文句あるのか?」
「ねえよ、別に。けど、お前なら『どこの馬の骨か分からないやつの作った飯なんか食えるか!』って嫌がると思っただけだ」
「……飯に罪はないし、腹が減ってるから食うだけだ。別に、お前の手作りかどうかはどうだっていい」
「ふーん?」
「……じろじろ見るなよ、食いにくい」
「いや、はは、普段からそう素直だと可愛げがあるってもんだが……今冷やしてるからそれ、食い終わったら持ってきてやるよ」
ん、とだけ返せばシーフは笑う。
「……お前、飯作れたんだな」
「そりゃ生きていくには必要なスキルだろ」
「一度だって料理作ってこなかったくせに」
「美味い飯屋があるんならそっちで食う。それともなんだ? スレイヴは俺の飯が美味すぎるあまり毎日朝昼晩食いたいと」
「……っ、んなこと言ってないだろ」
「あーはいはい、俺が悪かったからそう拗ねんな。……と、食うの早いなお前」
待ってろ、とグラスを置いたシーフは立ち上がり、冷蔵庫からデザートを取り出す。
きんきんに冷えたバニラジェラートに思わず固唾を飲む。
「そら、やるよ」
「…………いただきます」
「ははっ、お前にいただきますって言われる日が来るなんてな」
俺も、お前の手作り料理を食う日が来るとは思わなかった。
それも、よりによって今日。
なんとも皮肉なものか。それとも、この男はわかってて俺に豪勢な料理まで用意してくれたのか相変わらず読めないが……案外本当に何も考えていないのかもしれない。俺は思考を振り払い、目の前の甘味を堪能する。……美味い。
「ナイトは本当に真面目だな。……そう思わないか?」
「……っ、急になんだよ……」
「あ? まさかナイトの話も飯が不味くなるのか?」
「……ならないわけがないだろ」
そもそも、誰のせいだと思っている。睨み返せば、シーフはなるほど、と肩を竦める。
「多感な時期ってわけか」
「……できることなら、お前の顔も見たくないがな」
「あ、なんだよそれ。そんなこと言うんだったらそれ、没収するぞ」
「……っ、できることならって言っただろ」
「お前にとってできることならは枕詞かよ」と苦笑するシーフ。
「……けどお前の方は思ったよりも元気そうだな。あんなことあったあとだ、俺らの顔なんて見たくないってずっと閉じ籠ってんのかと思ったが……おまけに呑気に俺の手料理まで食いやがって」
「……っ」
内心ぎくりとした。
何かを怪しまれているのか。もしかしてメイジとの企みに気付かれたわけではないだろうが……。
「……もしかして、スレイヴお前……」
「……っ、なんだよ……」
「ようやくお前も素直になったのか?」
ムカつくあまりにグラスの水を引っ掛けそうになったが、寸でのところで留まった。
相手は酔っぱらいだ、相手にするだけ無駄なのだ。
「そうか、まあ抵抗したって疲れるだけだもんな。……それがいい」
シーフは一人うんうん頷きながら、よっこらせと隣のチェアに腰を掛けた。
近付いて分かったが、この男相当な酒の匂いだ。
よくもこんな状態で料理が出来たな。むかつきよりも感心すら覚える。
「……もう少し離れろ。酒臭いんだよ」
「お前も呑むか?」
「呑まない」
「付き合い悪いやつだな。前はあんな可愛く酔ってたのに」
「……っ、クソ……」
余計なことを思い出させるな。
嫌なものを感じ、ジェラートを口の中に掻き込んだ俺はそのまま「ご馳走さま」とスプーンを置いた。
そして逃げるように立ち上がろうとしたときだ。
「……まあ、待てよ。せっかく来たんだ、もう少しゆっくりしていったらどうだ?」
「これ以上酔っぱらいに付き合うつもりはない」
「そう寂しいこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
何が仲だ。握られた手を振り払う。そのまま立ち上がろうとしたときだ。足元がぐらりと揺れた。
立っていられず、思わず体が傾く。
「……っ!」
「あーあ、相当足にキてんな」
思うように力が入らない。おかしい、そう感じたときには遅かった。立ち上がろうとするが、目が回るように体に力が入らない。
そんな俺を見て、手にしていたグラスを置いたシーフは立ち上がり俺の横まで来る。
「お、まえ……何を……ッ」
「おいおい、俺は本当に何も盛ってないからな。さっきのジェラートに酒入れたくらいだし」
「……っ!」
「まあ、美味かったんならいいだろ。ほら、立てるか?」
クソ、こいつ。元はといえば俺のために作っていたのではないとわかっていただけに何も言えない。それでも、俺が酒が得意ではないと知っていたはずだ。
抱き抱えられ、「降ろせ」と藻掻くが力が入らない。
ナイトが眠りこけるソファーまで連れてこられ、寝転がらされる。やつの隙きを見て逃げ出そうとするが、跨ってくるシーフに乗られると身動きが取れなくなってしまうのだ。
「っ、や、めろ……ッ!」
「今更何言ってんだ? ……せっかくあいつの公認になったんだ、もうコソコソする必要もなくなったんだから人目なんて気にする必要なんてないんだぞ」
この男は本当に何も変わらない。
伸びてくる手に胸元を弄られ、息を飲む。一つ隣のソファーでは眠りこけているとはいえナイトもいるのだ。
「じょ、うだんじゃ……ねえ……ッ!」
「抵抗すんなよ。俺は無理矢理みたいな真似は好みじゃないんだ」
こいつ、どの口で。怒りで頭がどうにかなりそうになったとき、当たり前のように塞がれる唇にぎょっとする。
「っ、ん、ぅ……ッ!」
濃くなる酒気に噎せ返りそうになる。
舌で唇を這った瞬間、つい昨夜の名残で自ら口を開けてしまいハッとしたときには遅かった。
「っ、待っ、て、この……ッん、ぅ……ッ!」
ぢゅぽ、と濡れた音を立て口いっぱいに頬張らされる舌に頭の中が塗り替えられていく。
眠っていたナイトが俺の声に反応するかのように小さく唸るのを見て、血の気が引いた。
「っ、シーフ、やめろ……ここは駄目だ……ッ」
「そんなにナイトにバレたくないのか?……どうせもう一度は寝たんだ、気にする必要ねえだろ」
「っ、そういう問題じゃ……」
「酒が足りてねえんだよ、ほら、お前ももっと飲めよ」
そうどこからか持ち出す酒瓶の口から直接それを喇叭のように飲むのだ。そしてそれを口に含んだまま口移ししてくるやつにぎょっとする。
「ん、っ、ぅ……ッ!」
流し込まれる酒を必死に拒否しようとするが、唇から溢れる酒に混じってそれを回避して喉奥へと流れる感覚に背筋が震えた。口いっぱいに広がる酒の味に頭の中が白く靄がかったように霞む。
「っ、……こ、の野郎……ん、っ、んぅ……っ!」
文句を言う隙も与えられなかった。口移しで直接体内へと酒を飲まされ続け、シーフの手にする瓶が空になったときには既に俺の意識は輪郭を失いかけていた。
溢れるのも構わずに酒を浴びせられ、ソファーの上から逃げることもできない。
「ようやく可愛げが出てきたな」
酒瓶に残った酒を俺の頭に掛け、それを舐め取りながらやつは笑う。
どこを触れられてるのか最早感覚すらなかった。
「この、やろ……っ」
「どうせメイジとも遊んだんだろ。いいじゃねえか、減るもんじゃねーし」
してねえよ、と言い掛けて言葉を飲んだ。
一晩いて何もないのは可笑しい、何か企んでるなどと変な勘ぐり入れられるのは厄介だ。
必死にシーフの腕を掴み、引き離そうとするがろくに腕に力が入らない。はいはい、とあしらうように躱されるのだ。
抵抗も虚しく呆気なく脱がされる服。寒いはずなのに、熱い。
ソファーの上、仰向けに倒れる俺をじっと見下ろすシーフは「妙だな」と片眉を上げる。
文字通り無防備状態の上半身に絡みつくようなその視線が不愉快で、隠そうと体を撚るが腕を掴まれ再び仰向けの形で固定されるのだ。
「っ、さ、わるな」
胸元。当たり前のように指の腹で撫でられ、不快感に堪らず体が跳ねる。それでもシーフは俺の反応など気にも留めずに至るところへと手を這わせた。まるで何かを探すように。
腕を掴まれ、脇の下まで覗き込まれれば頭がおかしくなりそうなほど熱が増す。やめろ、とシーフの腕を振り払おうとしたときだった。
「お前、まさかメイジと何もしてないのか?」
シーフの言葉に体が固まる。
言われて自分の体に目を向けた。確かに昨夜は何もされなかった……わけではないが、それでもキスだけだ。
そんなことどうでもいいだろ。そう言いたいところだが、この男はそういうことに変に敏いのだ。背筋に冷たいものが走る。
「それともあいつがご丁寧に痕跡ごと消したのか?」
「ど、……っ、でもいいだろそんなこと……」
「そうか? じゃあセックスはしたのか。何回中に出してもらったんだ?体位は?」
「っ、……こ、の……」
「ははっ! そう怒んなよ。可愛い冗談だろ」
どこがだ、と睨めば満足げにシーフは笑うのだ。そして、脇の下に手を差し込むようにして上半身を抱き込まれ、親指で胸の突起を潰される。
まるでゴム手袋越しに触れられてるような鈍い感触。にも関わらず、それだけで反応しそうになる自分の体に血の気が引いた。
「や……っ」
「あいつ、どんな女にも興味示さないから使い物にならないのかと思ってたけど……一昨日のあれ、正直驚いたんだよな俺。そりゃ女に興味ないわけだわ。お前みたいのが好みならな」
「っち、がう……そんなわけ……」
「好きの反対は無関心だと言うわけだな。お前にはやたら絡んでたしな」
違う、と言いたいのに下半身を触れられればその続きを発することはできなかった。
下着ごとずるりと下を脱がされ、剥き出しになる下半身。俺の腿を掴んだシーフはそのまま膝の頭を上半身へと押し付けるように開脚させてくる。
「っ、や、やめろ……っ! 離せ……っ!」
「こっちも治されてんのか。……ああ、でもこりゃどう見ても立派な性器だな。メイジのやつでも、ケツの穴の広がりだけはどうしようもないってことか?」
息を飲む。自分の体がどんな状況かなんて知りたくもない。
柔らかくなったそこを唾液で濡らした指で撫でられ、息を飲む。「やめろ」と首を横に振れば、シーフは問答無用で指を挿入させてくるのだ。
「ぅ、ん……ッ!」
「はは、大分柔らかくなってんな。……見ろよ、すぐに俺の指まで飲み込んでいく」
「っ、だ、まれ……っ!」
「あんま大きな声出すなよ、ナイトが起きるぞ」
こいつ、と睨んだとき、体内へと指を追加される。腹側へ向かって柔らかく襞を揉まれ、ぶるりと背筋に寒気のようなものが走る。
ナイトのことを興奮剤にでもしてるつもりか、悪趣味男が。口の中で罵倒することが精一杯の抵抗だった。
「っ、ぅ、ふ……く、ぅ……ッ」
「白くなるまで唇噛んで声我慢してんの、いじらしいよなぁ? ……なんなら助け呼んでみたらどうだ? ナイト様ーってな」
「だ、まれ……ッ!」
怒りで頭がのぼせ上がりそうだった。
酔いのせいか焦点も定まらない。ただ腹の中を掻き混ぜる骨這った無骨な指の感触だけがやけに生々しくこびりつくのだ。
気持ちよくない。こんな行為。そう思うのに、ぬちぬちと音を立て中を愛撫されるだけでいつの間にかに全身はじっとりと汗で濡れる。呼吸が浅くなり、込み上げてくる快感を逃がそうと腰が浮くが逃れるどころか更に責め立てられるのだ。
「っ、ぁ、や、抜け……ッ! や、め……っ、ん、ぅ……ッ!」
「まあ、もうあいつはお前を助けちゃくれねえだろうがな」
「……ッ、ん、ぅ……ッ!」
唇を噛み、声を殺そうとするがくぐもった声までは殺すことができない。
逃げようとする腰を捕えられ、腿を掴んでいたその手は脹脛を撫でるようにそのまま踝まで降りていく。そのまま俺の靴を脱がせば、素足、丸まった爪先に唇を寄せる。
「っひ、や、どこ……ッ!」
「お、お前足の指弱いのか? ……中、すげえ締まったぞ」
「やめろ、馬鹿ッ! ッ、さ、わるな……ッぁ、おい……ッ!」
「っ、小せえ足」
舌を出すシーフに冗談だろ、と血の気が引いた。あろうことかやつは人の足の指に舌を這わせるのだ。
「っ、や、……ぅ、……ッくぅ……ッ!」
ぞわぞわと背筋が凍り付いた。
足の指を口に含められ、ぬるりとした熱に覆われた爪先に這わされるナメクジのような感触に腰が震えた。
そんなところ舐められたこともなかった。
やめろ、とシーフを蹴ろうとするが、下腹部に力が入らない。
「っ、や、めろ……汚いだろ、シーフ……ッ!」
「っ、は……すげえ中ヒクヒクしてる。勇者に舐めさせたことなかったのか?」
「ぁ、……あるわけ……ッ!」
「じゃ教えてやんねえとな。お前は足の指の谷間、舌で穿られんの好きだって」
「……ッ、く、ぅうん……ッ!」
この酔っ払いが。
怒りと羞恥でどうにかなりそうだった。汚い音を立て、唾液でどろりと濡らされた指ごと吸い上げられた瞬間体が大きく震える。自分で制御できるようなものではない。
内股が痙攣し、腰にろくに力が入らない俺を見下ろしてシーフは満足げに丸まった指から口を離す。そのままこれみよがしに爪先にキスをされ、顔面に血液が集まる。見られていることが、やつの視線が耐えられなくて俺は逃げるように腕で顔を覆った。
「……おい、隠すなよ。せっかくの貴重なお前の可愛い顔が見れないだろ?」
「っ、黙れ、変態……ッ」
「変態はどっちだよ」
ぬぽ、と音を立て中から引き抜かれる指に息を吐く暇もなかった。
いつの間に血液が集中し、服の裾の下から頭を擡げていたそこを指で弾かれ腰が跳ね上がる。
「ッ、や……め……ッ」
「イヤイヤ言ってる割にしっかり濡れてんじゃねえか。ケツの穴まで垂れてきてんぞ、先走り」
「っ、ぅ……ッ」
「これなら潤滑油要らずだな」
ぬるりと先走りを絡め取るように性器の周囲を這っていたその指は、再び口を開かされていたそこにぬぷりと咥えさせられる。先程よりも執拗に内壁に塗り込まれるそれに堪らずシーフの腕を掴めば、やつは笑った。
「っ、ぃ、やだ……シーフ……ッ」
「諦めろ、どうやったってお前は逃げられないらしいからな。……それなら全部諦めて気持ちよくなった方が楽だと思わねえか?」
「お互い」と囁かれる声に腰が反応する。そんなわけがない。言い返したいのに、腰を持ち上げられ、下からごり、と押し付けられるその嫌な感触に言葉詰まった。
「ぉ、まえ……っ」
「ナイトにバレたくないんなら声、しっかり我慢しとけよ」
見てわかるほどに張り詰めた前を器用に片手で寛げるシーフ。
鼓動の間隔が狭まり、呼吸も浅くなる。
服の裾を噛み、下着の中から限界まで張り詰めたグロテスクなそれ取り出すシーフ。
俺はそれを直視することができなかった。
これから、これを当たり前のように受け入れらなければならないのだ。抵抗せずに、享受しなければならない。
「……ッふ、ぅ……っ」
口を手の甲で押さえ、声を殺す。肛門にぴったりとくっつけられる亀頭に腰が逃げそうになるのをシーフに掴まれた。
ナイト、頼むから、頼むからずっと寝ててくれ。
頭の中で呟き、硬く目を瞑った。辺りが闇に覆われるも一瞬、すぐに視界は白く火花を散らす。
「っ、ひ……ん゛ぅ゛ッ! ふ、……――ッ、ぅ、ん゛ぅ……ッ!!」
何度やったとしても馴れることはなかった。
大きく股を開かされ、正面顔を覗き込まれるように犯されるこの体勢がただ苦痛だった。
「……っ、は、やっぱ最高だな、お前……ッ!緩くなってるかと思ったが寧ろ中は柔らかくなって余計吸い付いてくるの堪んねえわ……ッ!」
黙れ、でかい声を出すな。
そう言ってやりたいが、少しでも唇を開こうものなら出したくもない声が出てしまいそうで怖かった。
ギシギシと軋む古いソファーのスプリングに、ナイトが目を覚まさないか気が気でなかった。
さっさと済ませろと必死に堪えていたときだった。
「……う……」
隣で眠っていたナイトが寝返りを打つのだ。先程まで背中を向けていたにも関わらずこちらを振り返るナイトに血の気が引いた。
そんな俺を見てやつは笑う。
「……っ、は、そんなに焦んのかよお前、ビビりすぎだろ。すげえ中締まったし……ッ」
「も、……ぉ……さっさと、済ませろ……ッ!」
「……はいはい」
そう、やつがニヤリと笑ったときだった。
根本奥深くまで挿入したままやつは俺を抱き抱えるのだ。
「っ、お……おい……ッ!」
嘘だろ、と驚愕する暇もなかった。
結合部から伝わる振動、体重に耐えられずに奥をずんと突かれる衝撃に頭の中がどうにかなりそうだった。あまりの刺激に耐えられず、咄嗟にシーフの体にしがみついたときだった。すぐに体は降ろされた。それも、ナイトのすぐ隣にだ。
「やめろ、シーフ……やめてくれ……ッ!」
「はは、あんな生意気だったお前に懇願されんのは悪くねえなぁ……ッ!」
「っ、ひ、ィ……ッ!」
「っ、……やっぱな、すげえ中ビクビクしてんの。……なあ、スレイヴ。やめてほしいんだったらお前から腰振って俺をイカせてみろよ」
腰の動きを止めたまま、シーフは挿入物により膨らんだ俺の腹を撫でるのだ。その触れただけの感触ですらあまりにも強く、脳髄が溶け出してしまうかのような熱に視界が眩む。
「っ、な、にいって……」
「じゃ、ナイト起こして三人でやるか? 俺はそれでも全然構わねえけど?」
「……ッ! や、めろ……!」
「即答かよ。なあ、そんなにあいつのこと嫌ってやんなよ。ナイトが可哀想だろ」
その言葉とは裏腹にこの男はこの状況を楽しんでいた。
そして本気でバレても構わないと思っている。
「……クソ……っ」
何よりも一番腹立たしかったのは、一向に萎える気配のない己自身だ。
屈辱だった。さっさとこのくだらない行為を終わらせるためだとは言え、だ。
溶けるほど熱い体は最早一人手にまともに動くこともできない。腰を動かせてこの男を射精させることなど、もし俺の体が動けたとしても満足に行えるかどうかすら怪しい。
「はっ、色気ねえなぁ……」
「っ、だ、まれ……」
必死に声を殺し、堪える。
内臓を押し上げる異物は少しでも動けば弱いところにあたってしまい、その都度全身の身の毛がよだつほどの耐え難い感覚に陥るのだ。
それでも俺が動かなければいつまで経ってもこの苦行は終わらない。
「っ、くそ……っ」
「騎乗位でもいいって言ったろ」
その言葉に血の気が引いた。
シーフはそんなに難しいなら自分の上に跨がれと言い出したのだ。おまけに向かい合うようにだ。そんなの、耐えられない。
いくら酒が入ってようとこの男に恋人のように向かい合うなんて。
「い、やだ……お前とだけは……」
「可愛くねえなぁ。まあいいや、ほら、腰浮かせてみろ」
「……ッや、め……動く、なぁ……ッ」
「……っ、逆に俺のが辛くなってくんだよ、ここまで生殺しにされると」
腰に這わされた掌に撫でるように掴まれ、そのまま緩く腰を打ち付けられれば全身が驚いたように跳ね上がる。
待て、としがみつけば、シーフは「そのまま」と耳元で囁くのだ。
「……っ、そのまま、動きたいように動いてみろよ」
「っ、な、に……言って……」
「ここに当たると気持ちいいとことか、あるだろ?……それとも、そこまで俺が手取り足取り教えてやんなきゃなんねえのか?」
臍の窪みをぐるりと親指で撫で上げられた瞬間ぞわりと背筋が震えた。ぐ、と軽く抑えられただけで外側からの圧迫で余計刺激が強くなり、瞼裏が白くなるのだ。
「っお、すな……ッ」
「なるほど? お前はここが弱いのか?」
やめろ、とシーフの骨張った硬い腕に爪を立て抵抗しようとしたときだった。腰を軽く持ち上げられたままそこをガチガチに固くなった性器で直接抉られた瞬間、全身に電流が流れたかのように大きく跳ね上がる。
「っ、ひ、ぐ……ッ!」
「ほら、ここだろ? ……ここ。もっとしてくれって腰が勝手に動いてんぞ」
「ち、ッ、やめろ……ッ! や、ァ……ッ!」
「ハ……ったく、本当にうっすい腰だな……掴みやすくて助かるけどな……ッ!」
俺の意思とは関係なく、シーフのピストンに耐えられずにガクガクと揺れる己の下半身を見て血の気が引いた。見たくもないのにシーフと繋がったそこを見てしまい、余計全身の血液が熱くなるようだった。
視線を逸らすことすらままならない。執拗に亀頭で前立腺を擦るようにゆるゆると腰を打ち付けられるだけで出したくもない声が出てしまいそうになる。
「ほら、ちゃんと起きろ? ヤル気あんのかお前……ッ!」
カリを引っ掛けるように挿入繰り返されるだけでどうにかなりそうだった。逃れようとする度に肩が隣で眠りこけるナイトにぶつかってしまいそうになり、血の気が引く。
声を抑えるのが精一杯だった。動こうとしても俺の意思など既に関係ない。びくびくと震える腰に、シーフは「仕方ねえな」と笑うのだ。
そして、俺の腿を掴んで更に深く体重を沈めてくる。
「ぅ、ひッ」
「この間はあんなにナイトにはしがみついてたのになぁ? ……寂しいだろ?」
「ッ、ぅ……あ……ッ!」
苦しいという感覚よりも、ただ熱に溺れそうになるのだ。動きが激しくなるにつれ、ギシギシとソファーが軋む音も増す。
やめろ、馬鹿。シーフを止めようとするが、腹の奥を太い性器で掻き回されるだけで力が抜けそうになるのだ。
「っは、ぅ……ッ! く、ぅ、んんぅ……ッ!」
「っ、そーそー……っ! そうやってりゃいいんだ、お前は余計なこと考えんなよ……ッ」
「ッ、ぁ、くぅ……っ!」
全身が侵されているようだった。まるで夢でも見てるような心地の中、それでもなけなしの理性だけは捨ててはならないということだけは頭にあった。顎を持ち上がられ、深く唇を貪られる。
濡れた肉が潰れるような音が辺りに響く。太い舌で咥内を体内同様好き勝手弄れ、器用に芽生えた快楽の芽を摘み取っていくのだ。
「し……ッ」
シーフ、となけなしの理性で止めようとしたときだった。隣で影が大きく動く。そして。
「……っ、ん……シーフ殿……?」
響くその寝惚けた声に全身から血の気が引いた。
「な、何をやってる……ッ!」
酔も醒めたのか血相変えるナイトにシーフはさして驚くわけでもなく、ピストンを弛めようともせずに目だけをナイトに向けるのだ。
「あー……っ、見て分かんねえ? こいつと仲良く遊んでたんだよ」
「なあ? スレイヴ?」と名前を呼ばれ、性器で前立腺を擦られればそれだけで言葉すらもでなかった。
「や、め……ぇ……ッ!」
「丁度良かった。ナイト、お前も混ざれよ。……っ、こいつと仲直り、したかったんだろ?」
「シーフ殿……ッ!!」
「ほら、お前に見られてるとこいつも反応良くなんだよ」
血の気の引いたナイトに笑いかけるシーフ。言いながら逃げようとしていた腰を掴まれ、奥深くまで挿入される。やめろ、と言いたいが声にすらならない。
グリグリと亀頭で奥の突き当りを柔らかく押し上げられればそれだけでどうにかなりそうだった。
「ゃ……ッ」
嫌だ、と首を横に振る。見ないでくれ、という言葉はシーフが邪魔をしてまともに発することも出来なかった。
「何が嫌だ? お前の喘ぎ声が煩いからナイトが起きたんだろ。自業自得だ、自業自得……ッ!」
「っひ、ィ」
「シーフ殿、やめ……ッ」
「おっと……止めんなよ。そりゃルール違反だ。そんなにこいつが俺に犯されんの見たくねえってんなら大人しく部屋に帰るなりしたらどうだ?」
何がルールだ、そんなもの存在しない。あんな横暴で一方的なもの気にする方がおかしい。
それなのに、ナイトの顔色が悪くなる。
何かを堪えるように拳を握り締めるナイト。
――あの夜と同じだ。
「っぅ、あ……ッ!」
なんで帰らないのか。こちらを見ようとしないのはせめてもの気遣いのつもりなのか。
こんな痴態、見せたくもないのに。
「……っ、本当、難儀なやつだなお前も」
楽になりゃいいのに、と呆れたように笑い、シーフはそのまま俺の脚を掴み、更にピストンのペースを上げた。
硬い竿で直腸を犯され、持続的な快楽の波に逆らうことはできなかった。
とろりと溢れる精液と先走りが混ざったような半濁の体液で濡れた性器。そこに手を伸ばしたシーフはそのまま手を上下に扱くのだ。
「っ、ふ、ぅ……ッ! ぅ、んうぅ……ッ!」
「もう声我慢しなくていいってのに、ほら、もっと聞かせろ……ッ」
「や、ッ、ぅ、ひ……ッ!」
グチャグチャと濡れた音が耳の鼓膜を直接犯す。前と後孔両方を執拗に愛撫され、抵抗することも出来なかった。
そこからの記憶は曖昧だった。
酔いが充分回った頭と体では受け入れることしかできず、長い間挿入されていた気もする。
広がりきった肛門の中、どくどくと大量に吐精するシーフの熱に内壁から溶けてしまいそうだった。
満足したのか、性器を引き抜かれた瞬間、どろりと中に溜まっていた精液が溢れる。脚を閉じることもできなかった。
「ッあー……熱……って、おい。なんだ? やる気になったのか?」
指先を動かすことすらも億劫だった。
起き上がることもできず、ソファーの座面に転がったままになっていると視界の隅で何かが動いた。
瞬間、急に体が持ち上がる。
混乱する頭の中、何が起きたのかはすぐに理解できた。すぐ側にあるナイトの顔。
俺はやつに抱き抱えられていたのだ。
「あーはいはい、なるほど? ……俺にも見せたくないってわけね。お宅って案外独占欲強そうだもんな」
「……」
ナイトは何も言わない。
どうして、とかどういうつもりなのか、とか。言いたいことは色々あったが声を発する気力もなかった。
人を抱えたまま食堂を出ていくナイトを横目に、どこからか取り出した煙草を片手にシーフは「ごゆっくり~」と呑気に見送っていた。
体をしっかりと抱き留めるナイトの手のひらがやけに熱く感じた。
まるであのときと同じだ。
どこに行くつもりなのか、酔いも完全に抜けたわけではないだろうが先程よりも足取りはしっからしている。暴れる気力すらなかった。
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