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クソザコお荷物くん

04※

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 部屋の扉が叩かれる。起きようか迷ったが、反応するよりも先に扉が開いた。

「よぉ、具合大丈夫か?」

 現れたのはシーフだった。
 見たくもない顔を見てしまいうんざりする俺だったが、すぐにシーフの後ろから現れたそいつを見て息を飲む。

「今朝よりも顔色が悪いな」
「っ、お前……」

 シーフの背後、現れた勇者に俺は思わず起き上がった。よりによって、なんだその組み合わせは。全てを知ってるシーフは一人にやにやと面白そうな顔をしてるのが余計腹立った。
 それよりも、勇者だ。なんでこいつらここに。

「ははーん。さてはメイジのやつにまた虐められたか?」

 そう、他人事のように笑うシーフに図星を指され顔に血が集まる。
「そんなわけないだろっ」と咄嗟に声を荒らげれば、自分でも思った以上に大きな声が出て驚いてしまう。それはやつらも同じだ。

「うお、びっくりした。……なんだぁ?珍しいな、お前があいつのこと庇うなんて」
「っ、別に庇ってなんか……っ」

 ない、と言いかけたとき。ベッドの側までやってきた勇者に額を触れられる。驚いて顔を上げれば、こちらをじっと見る勇者と視線がぶつかった。

「熱は、まだあるな。今日は一日寝てた方がいい」

 なんだ、こいつは。
 昨日はあんな態度だったくせに、まさか酒抜けて記憶までなくなったのか。変わらない態度で心配してくる勇者に素直に困惑した。

「……言われなくてもそのつもりだ」

 そう、勇者の手を振り払えばやつの目が僅かに開かれた。しまった、と思ったが、今はシーフの前だ。これくらいの拒否くらい許されるだろう。

「あれ、なに? お前ら喧嘩でもしてんのか? ……珍しいな、雑用君がお前にそんなにつんつんしてんの」

 すると、案の定そんな俺達のやり取りを見ていたシーフはおかしそうに笑うのだ。
 この男は馬鹿そうに見えて嫌なところを突いてくるから本当に質が悪い。無視してると、勇者はそのままシーフの肩を叩いた。

「……シーフ、戻るぞ」
「はいよ。……それじゃあな、いい子で休んでろよ」
「……っ、うるさいんだよお前は」
「おーおー、どいつもこいつも機嫌悪いなぁ」

 そして、二人は部屋を出ていった。本当に様子を見に来ただけだったのか。
 何もされずにほっとする反面、体の奥でぞわりと嫌なものが蠢くのを感じた。あいつに触れられた箇所がより熱くなっているようだ。
 ……最悪だ。ただ話していただけだというのに布団の中、昂ぶっていた自身を見て絶望する。
 それから一回自分の手で処理をしたが、魔道士の言う通り射精だけでは収められるものではなかった。
 出しても出しても燻る熱は増すばかりで、悪循環だ。だからといって、魔道士にどうにかしてくれと頭を下げるのも癪だった。
 スライムがいるから、なんだ。大人しい連中は放置してれば害にはならないなずだ。
 そう言い聞かせながら再びベッドへと潜ったときだった。

 再び、部屋がノックされる。
 まさかまた勇者が戻ってきたのではないだろうかと身構えたが、扉の向こうから意外な声が聞こえてきたのだ。

『起きているか?』

 その声の主は騎士だった。
 慌てて起き上がり、「起きてる」と返せば扉が開いた。そこには着替えたらしい騎士がいた。

「休みのところ済まない。……晩御飯、女将殿が食べやすいものを用意してくれたというので持ってきたんだ。入りそうか?」

 一人前の食事を乗せたトレーを手にした騎士に、「ああ、悪い」と頷き返せば騎士は安心したようだ。トレーを近くのテーブルに乗せる。
 そして、そこに置かれた手付かずのままになっていた昼食を見つけたようだ。

「……昼食、入らなかったのか?」

 指摘され、思い出した。魔道士が用意してくれたのだが、あいつのせいで食事どころではなくなっていたのだ。
 ああ、と答えればその厳しい顔が更に険しくなる。

「けど、今は大丈夫だ。……食べられる」
「……そうか、じゃあ昼食の分は下げておくか」
「いや、そのままでいい。……せっかく作ってもらったんだしな」
「ならばもう一度温めてきてもらおうか」
「大丈夫だ、冷めてても食えるだろ」
「……そうか」

 世話焼きなのだろう。図体がでかい男が甲斐甲斐しく世話を焼く姿はなんだか滑稽だが、今はその優しさが正直有り難かった。

「ならばまた後で空になった食器は回収しに来よう。そのままにしていてくれて構わない」
「…………」
「む……どうした?」
「……いや、あんたさ、誰かになんか言われてんのか?」

 それは純粋な疑問だった。あまりにも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる騎士が不思議で堪らないのだ。

「誰かに、というのは……」
「勇者……あいつらに、俺の面倒見ろとか、押し付けられてんじゃないかって話だよ。それなら、別に無理して言うこと聞く必要ないからな」

 そう答えれば、騎士は驚いたような顔をする。
 そして「そんなことはない」と首を横に振ってすぐに否定するのだ。

「なら……」
「それは、……その、自分が勝手にしてることだ。それとも、貴殿の負担になると言うならやめるが……」
「いや、別にそういうわけじゃないんだ。その、……そのだな」

 こういうとき、なんと言えばいいのか言葉が見つからない。照れ臭くなって、俺はやつの顔をろくに見ることができなかった。

「……う、れしい」
「……!」
「けど、アンタに余計な気を遣わせたくない。だから、その……ほどほどでいいからな」
「……ああ、わかった」

 騎士の表情が安堵で緩む。むず痒い空気が流れ、なんだか落ち着かなくなった俺は誤魔化すように布団に潜った。

「それじゃあ……自分は失礼する」
「……ん」

 少しだけ頭を出し、出ていこうとしていた騎士に「またな」と声をかければ騎士はこちらを振り返って、仰々しく頭を下げていくのだ。
 ……変な男だ。思いながらも、俺は扉が閉まったのを確認してのそりと起き上がった。
 ……飯も食えばこの落ち着かなさもどうにかなるだろう。思いながら、俺は騎士の用意した晩飯に手をつけることにした。
 空腹すら気付かなかったようだ。湯気立つそれを見てようやく腹が鳴る。二回分の食事を一気に詰め込むと流石に腹が苦しくなったが、大分気は紛れていた。
 微熱状態は相変わらずだが、頭痛や関節の痛みは薄れていた。これもスライムのせいだろうか。わからないが、このまま消え失せてしまえばいいと思わずにはいられない。
 寝てばかりは気が滅入りそうだが正直、この状況だ。下手に誰とも関わりたくなかった。
 そんな状況なのに、騎士をまた部屋に来ることを許してしまうなんてな。俺も熱に浮かされていているのかもしれない。

 眠気もないのにベッドに横になって眠気を待つ。起きてると悶々としてしまうからだ。
 寝て過ごそう。そう暫く寝付こうと努力していたときだ。扉の外、足音が聞こえた。
 そして、その足音は扉の外で止まった。
 騎士だろうか、そうゆっくりと上半身を起こしたときだった。ノックもなしに開く扉にぎょっとする。

「よぉ、もうガキはねんねか? はえーな」

 不愉快なニヤケ面。そして、鼻につくのはアルコールの匂いだ。酒気を帯びたその男――シーフは俺の返事を待たずして部屋に上がり込んでくる。

「……っ、シーフ……!」
「飯はちゃんと食えたみたいだなぁ? 偉い偉い」
「勝手に部屋に入るな、この……ッ!」
「おいおい、そう毛嫌いすんなって。俺達の仲だろ?」
「……誰が……っ!」
「おい、んな大きな声出すなよ。……体に障るぞ」

 誰のせいだと思ってるんだ。腹立って、近くにあった枕を投げつけようとしたがすぐにベッドの側までやってきたやつに取り上げられる。

「――……相変わらず凶暴だな」
「っ、……っ触るな」
「そんな顔してよく言うな」

 どかりとベッドに腰を下ろしてくるシーフに肩を抱かれる。酒臭さに堪らず顔をしかめた時、やつの顔が近付いた。

「おい……っん、ぅ……ッ!」

 当たり前のように唇を塞がれる。唇を舐められ、舌を挿れようとしてくる目の前の男にムカついてその肩を叩いて引き離そうとするが、肩を抱く手は緩められるどころか離れない。

「っ、ぉ、い……っ、ん、……っふ、ぅ……ッ」
「勇者のやつと喧嘩したんだってなぁ? ……っ、なあ、だからか?……今日のお前すげー良いわ」
「な、に言ってんだ……っ! この、馬鹿ッ、ぅ、ん、……ッふ……ッ!」

 唇が離れたと思えば角度を変えて更に深く重ねられる。甘く唇を噛まれ、捲れたそこから舌先で歯列をなぞられればそれだけで背筋がぞくぞくと震えた。

「ッ!ふ、ぅ……ッ、ん、ぅ……ッ!」

 絶対に応えるものか、そう硬く唇を閉じようとすればするほどやつの行動は大胆になってくる。
 押し倒されそうになり必死に抵抗するが、熱を孕んだままの体は触れられただけでびくりと反応してしまう。

「……っ、は、なあ。本当にただの風邪かよ、それ」
「……だ、まれ……っん、ぅ、……っ、や、めろ……っ触るな……っ」
「っ、あっつ……やっぱりな。なあ、お前のそれ、本当は催淫だろ?」

 指摘され、息を飲む。気付かれていた。まさか、魔道士のやつが漏らしたのか。固まる俺を見て「まじか」とやつは楽しげに笑うのだ。

「……勇者と騎士のやつは気付いてねえみたいだけど、なあ、メイジとなんかあったんだろ?……あいつにやられたのか?」
「っ、ぉ、まえに関係ない……っ!」
「あるだろ。俺が楽しい」
「クソ野郎が……ッ」

 服の裾の下、潜り込んでくる無骨な手のひらに直接腹部を撫でられただけで頭の奥がびりびりと痺れた。体の奥深く、息を潜めていたスライムたちが一斉に起き出すような不快感に堪らずやつの腕から逃げようとするが「まあ待てって」と無理矢理やつの膝の上に座らせられるのだ。

「お前が具合悪いって言うからこっちも我慢してたんだわ。……溜まってんだよ、抜いてくれよ」
「っ、……お前……最低だな」
「褒め言葉だっての。ほら、手ぇ退けろ」

 太腿を撫でられ、必死に服の裾を掴んでいた手をやんわりと退かされる。腰に当たる硬い感触が不愉快なのに、擦り付けるように腰を押し付けられればそれだけで下腹部に熱が集まるのだ。

「っ、……っ、クソ……ん、ぅ……っ!」

 嫌なのに、持て余していた体はシーフに反応するのだ。逃げようとする体を抱き抱えるように胸を揉まれ、堪らず奥歯を噛み締めた。触れられただけなのに、それだけで反応してしまう浅ましい体が嫌だった。

「っ、さっさと、済ませろ……ッ」
「わーってるよ。……けど、お前のそれなんとかする方が先だろ?」
「っ、俺は、いい……から……っ、ぁ、……っ、おい……ッ!」
「何言ってんだ。お前がやる気になんねえとこっちもまるで無理矢理してるみたいで萎えるんだよ」
「っ、どの口で……っん、ぅ……ッ」

 乳輪を撫でられ、そのまま乳首の周囲を指先でぐるりとなぞられるだけで体が恐ろしいほど熱くなった。油断したら出したくもない声が漏れてしまいそうで、咄嗟に口元を手の甲で押さえれば、シーフの片手は俺の下腹部に触れるのだ。

「っ、ぅ……ん、ッ、ぅ……ッふ……ッ」
「すげえ、感度すげえよくなってんな。毎回これやってもらうか?」
「だ、まれ……ッ」
「そうカリカリすんなよ」

 ほら、と下着の中に入ってきたシーフの手に甘勃ちしていたそこを握られた瞬間、息が詰まりそうになる。そのまま尿道口の溝を指先ですりすりと撫でられればそれだけで恐ろしいほど快感が高まり呼吸が浅くなる。

「これ、好きだろ?」
「っ、や、め……っ、やめろ、っ、それ……っ」
「っ……は、かわいー声」
「ん、っ……ぅ、ふ……ッ!」

 ドクドクと脈が加速する。全神経がシーフに触れられてる箇所に集まっていく。いつの間にかにぴんと尖ったそこを柔らかく潰されるだけで熱は増し、勃起した性器その先端から透明な液体が滲むのを感じて顔が熱くなる。

「ぅ、く……ッ、ふ、……ッ! ぐ、……ぅ……ッ!」
「やべ、どんどん溢れてくるな。……そんなに溜まってんのか?」
「そ、んなわけ……っ」
「じゃ、収まんねーのか。……お前もおっかねえ魔法掛けられたな」
「っ、う、るせ……ぇ……ッ」

 ゆるゆると性器を擦られ、その度に粘着質な水音が混ざる。性器と乳首を同時に扱かれ、体中に無数の得体の知れないなにかが一斉に騒ぎ出すのだ。
 ぐちぐちと濡れた音が響く。身を捩り逃げようとする体を更に抱き込まれて先程よりも執拗に性器を摩擦されればあっと言う間に限界に達した。

「ッ、ふ、ぅ……ッ!」

 尿道口から勢いよく溢れた精液が腹部に飛び散る。先程自慰したせいか、それともメイジの嫌がらせのせいかはわからないが明らかに普段よりも過敏になってるのはわかった。一人でしたときでもここまでは早くなかった。だからこそ余計惨めで、恥ずかしかった。

「へえ、流石に早えな」
「っは、ぁ……はぁっ、……くそ、ぉ……ッ!」
「っはは、そう照れんなよ。……感じやすいのはいいことだろ」

 なあ?と耳朶を舐められ、息が乱れる。やめろ、とやつを睨めば、そのまま唇を重ねられるのだ。抵抗する気にもなれなくて、絡められる舌を受け入れる。全身が性感帯になったようだ。唇も、歯も、粘膜も、舌も。嬲られ、吸われるだけで頭の中がぐずぐずになっていく。せめて、理性だけは。そう思うのに、乳首をくりくりと弄ばれるだけで脳汁が溢れるようだった。

「っ、ん、ぅ、……っ、ふ、ぁ……ッ」
「……ん、そうそうお前はそうやってた方が絶対可愛いって。ほら、舌出せよ」
「っ、う、るへ……ん、ぅ……っ」

 突き出した舌に舌を絡められる。気付けば片方の胸にもやつの手が伸びてきて、胸筋を円を描くように揉まれればそれだけで何も考えられなくて、ただそれを受け入れる。

「ん、っ、う……ッふ……ぁ……ッ!」

 腫れた乳首は指が掠めただけでも痺れるような刺激が走る。それを見て、「堪んねえな」とシーフは更に腰を押し付けてくるのだ。

「お前のここもすっかりいやらしく育ってんな、なあ、こんなエロい乳首の野郎なんてお前か男娼くらいだろ。……いや、お前も男娼みたいなもんか?」

 こんな状況じゃなきゃぶん殴ってやりたいのに。笑われても言い返せない。それどころか、現に飾りでしかなかったその部位でこれほどまでの快楽を得られるようになってること自体異常なのだ。
 クソ野郎、そう口の中で吐き捨てたときだった。
 コンコン、と部屋の中にノックの音が響いた。

『……夜中に済まない。食事の片付けに来た』

 ――騎士だ。
 血の気が引いた。「お」とシーフが動きを止めた瞬間俺はやつを押しのけ、慌てて服を着直した。
 ちょっと、待ってくれ。そう、騎士に声をかけようとしたときだ。

「丁度良い、入ってきていいぞ」

 この男、シーフは信じられないことにこの状況で騎士を招き入れようとした。部屋の外で食器だけを渡そうと考えていた俺は、この男の突拍子のない言動にただ固まった。

「な……ッ!」
『……シーフ殿?』
「片付けに来たんだろ、入っていいぞ。俺が許可する」

 何言ってるんだ、この男は。
 いけしゃあしゃあと自分の部屋のように、それ以前にこんな状況で他人を招き入れようとするこの男の神経がまるで理解できなかった。
 扉越しに騎士の困惑が伝わってくる。本当に入っていいのか、あの真面目な男だからこそ邪魔をせまいとしてるのだろう。俺は、万一扉が開く前にシーフの腕を思いっきり抓って「イテッ!」と怯んでる隙にやつから離れた。そして、慌てて乱れた服を戻す。

「おい、お前……」
「煩い、黙れ、喋るなこの人でなし……っ!」

 シーツを投げつけ、やつの見たくもない下腹部を隠す。俺は後片付けのためのトレーを手に取り、逃げるように部屋を出た。
 扉を開ければ、騎士がいた。シーフに対する怒鳴り声が騎士まで聞こえてたのだろう、「何事か」と驚いたような顔をしている。

「済まない、貴殿の手を煩わせるつもりではなかったのだが……」
「別にいいよ。これくらいもう自分で運べる」

「アンタのお陰で大分楽になった」なんて。あの性悪魔道士のせいで病よりも別の部分が悪化してるが、病の症状は軽くなってるのは事実だ。

「しかし、ずっと寝たきりだったんだ。急に動くと負担がかかるだろう。俺が運ぶ、貴殿は部屋に戻るといい。……それに、シーフ殿を待たせるわけにはいかないだろう」

 何を気遣ってるのか。
 俺が本当はシーフから逃げ出したくて出てきたと思わなかったのか。余程あの男を信用してるのか、或いは俺たちが仲良しに見えるというのか。
 呆れて一瞬言葉に詰まってしまう。
 ……しかし、そうだ。普通ならばまさか部屋の中で何をしていたか分かるはずがない。寧ろあの男たちの方が異常なのだ。そう自分に言い聞かせ、なんとか平静を保った。

「気にするな」
「し、しかし……」
「あいつが無理矢理押し掛けてきたんだ。弱ってる俺が面白くてな。……寧ろ抜け出せて清々する」

 不完全燃焼といえばそうだが、完全に萎えてしまっていた。あんな男のいる部屋に戻るくらいなら騎士と一緒にいる方がましだ。そう吐き捨てれば、騎士は返事に困っているようだった。

「あんたはもう寝るところか?」
「……ああ、食器を返したあとは寝床につく予定だ」
「…………ふーん」
「つかぬ事を聞くようだが、貴殿は他の御仁とは……その、あまり親しくないのか」

 回りくどい聞き方をしてくるやつだった。誰に対して気遣ってるのか、ここにはいないシーフに対してか。

「親しくしようとは思わないな。あいつが、……勇者が連れてさえ来なければ関わることもないだろう、あんなろくでもないやつら……」
「それは……」
「誰がろくでもないって?」

 向かい側。廊下の奥、最悪のタイミングでやってきたのはメイジだった。どうやら飲み物を取りに行ってたらしい。俺の姿を見るなり、あの男は鼻で笑うのだ。

「そんな大きな声で人の悪口言えるんだったら十分元気そうだな。残念だ」
「……っお前……」
「メイジ殿、その言い方は……」
「騎士サマ、気を付けた方がいい。こいつは発情期の猫よりも凶暴でデリケートだからな、臍曲げないよう精々可愛がってやることだ」
「――ッ!」

 すれ違いざま、ぽんと肩を触れられた瞬間先程まで漸く収まりかけていた体内の異物が一斉に騒ぎ出す。下腹部、その奥、嵐のように荒れ狂う熱に堪らず膝から力が抜けそうになり、慌てて食器を抱えたときだ。バランスが崩れたところを「おっと」と魔道士に体を腕で支えられる。拍子に腰を撫でられ、身の毛がよだった。

「っ、は、なせ……ッ!」
「病人のくせに無理をするな。ほら、食器が割れたら大変だ。……騎士サマ、悪いけどこれ下に運んでおいてくれないか?」
「あ、ああ。分かった」
「俺はこいつを部屋に戻す。まだ万全じゃないようだからな」
「っ、ふ、ざけんな、俺は……ッ! ぅ、ん……ッ!」

 そう、俺の意思なんて無視して食器を乗せたトレーごと騎士に渡した魔道士にぎょっとする。
 心配そうな騎士の手前、無様な姿は晒したくない。
 そう思うのに、抵抗しようとすれば先程まで中途半端に弄られた胸を撫でられればそれだけで反応しそうになり、血の気が引いた。下手に触れられたくなくて抵抗やめる俺に、魔道士は笑った。そして「じゃあな」と騎士に別れを告げ、来た道を引き返していくのだ。

「っ、は、なせ……っ」
「そんな体で一人で歩けるのか? 体内でスライムたちが活性化している、早く掻き出してほしくて仕方ないだろ?」
「っ、……ッ」
「お前がつまらない意地張って俺に早く泣き付かない罰だな」

「それとも、あいつに泣き付くつもりだったのか?」顔がカッと熱くなった。騎士に聞こえるかもしれないのに。ふざけるな、とやつの腕から逃げようとするが力が思うように出ない。結局、あいつの思い通りだ。

 自室の前を通り抜けて連れてこられたのは普段は通らない廊下だ。その奥、魔道士の部屋があることだけは知っていた。こいつは隣や向かいに人がいるのが嫌だと言って毎回空き部屋の隣を取るのだ。それを知っていた俺は、やつの部屋に連れて行かれそうになって咄嗟に壁に爪を立てる。けど、あっさり手首を捉えられ、部屋の奥へと押し込められた。
 背後で扉が閉じる音を聞くよりも先に壁に体を押し付けられた。そして、やつは俺の首元を掴むのだ。

「っ、ぅ、っ、や、めろ……ッ」

 壁に縫い付けられたように動かない体、乱暴に服をたくし上げられ、熱が増す。
 真っ赤に主張する胸の突起物、そして既に先走りで粗相したようにシミをつくる下着の中を確認し、魔道士は冷ややかに俺を見下ろすのだ。

「……なるほどなぁ、発情期の猫はお前自身だったか」
「っ、は、なせ……ッ」
「ん……っ、アルコール臭いな。シーフだろ、さっきまでシーフと寝てたのか?それで、次は騎士か。随分と気の多いことだな」
「っ、ぅ、あ……っ、や、……っ、やめろ、見る……な……ッ!」

 くちゅ、と音を立て顕になる下腹部を撫でられ、ぶるりと腰が揺れた。とろりとした体液で濡れたそこは既にぴんと宙を向いていた。

「……そのくせ、俺に頼るのだけは嫌なのか?余程俺のことが嫌いか、それとも俺を妬かせてるつもりか?」
「っ、寝言は寝て言え、誰がお前なんか……ッ!」

 言いかけた瞬間、勃起していたその根本をぎゅっと握られる。指の輪っかはきつく根本を締め付け、先程まで先っぽ目掛けて集まっていた熱は行き場を失い腹の奥で暴れだす。嫌な汗が滲んだ。痛みよりも、射精を阻害される苦しさの方が強かった。
 魔道士は冷ややかな目で俺を見上げるのだ。そして、限界まで赤く勃起したその先っぽを片方の指で弾いた。瞬間、瞼の裏が真っ白に染まり、歯の奥からは自分ものとは思えない甲高い悲鳴が漏れる。ただ、ただ少し強い力で弾かれただけだ。そう分かってるのに、触れられた箇所はじんじんと熱くなり、疼き出すのだ。

「っ、ぁ、……あ……ッ」
「そんな口聞いていいのか? お前を助けられるのは俺だけだってのに。なあ?」
「ひッ! や、め、やめろっ、触るなッ! ぁ、っ、や、ぁ……ッ!」
「すごい脈だ。早く出したくて仕方ないんだろ? ……なら少しは媚びてみろ。そうしたら楽にしてやらないこともない」

 耳元で囁かれ、性器の先端を柔らかく潰されればそれだけで脳髄まで電流が走ったように何も考えられなくなる。いっそ、快楽に溺れた方が楽だとわかっていた。それでも、相手が魔道士だと、こんな体にした元凶だと思うと死んでも頼むかという気持ちの方が勝る。
 けれど、幾ら決意を固めても体までも従えるにはあまりにも不利だった。

「っ、く、そやろぉ……ッ誰が、お前なんか……ッ!」

 そう、思いっきりやつの手の甲を引っ掻き、引き剥がそうとしたときだった。魔道士は俺の性器から手を離した。
 根本だけを掴まれた状態、恐ろしいほど快楽の波が一気に引き、その代わり体の中を巡る熱だけは確かに一気に増した。

「……ッ!」
「クソ野郎、お前なんかには絶対頼まない。……そうお前は言うが、本当にそれでいいのか? 俺は別にお前が泣きそうに我慢してるのを見るのはそれはそれで全然楽しいから構わないがな」
「っ、ふ、……ぅ……っ」

 当たり前だ。お前なんか寧ろ触ってほしくない。そう言い返したいのに、思考が鈍る。先程まで雑に弄られたせいで指の感触までくっきりと残ったそれはじんじんと甘く痺れ、張り詰めたまま萎えるどころか持て余していた。触れられなくなったにも関わらず萎える気配すらない。
 熱い。気持ち悪い。なんだこれ。早く、早くイキたい。いっぱい出したい。品のない思考で脳内を塗り潰されそうになり、舌を噛んで堪えた。汗がぽたぽたと流れ落ちる。逃げたいのに、早く一人になりたいのに、体は抑え込まれたまま動けない。露が口を開いた先端から流れ落ちるのを見て、堪らなく喉が渇く。

「っ、ふ、……ッ! 早く、退け……ッ!」
「駄目だ。お前が素直になるまでずっとこのままだ」
「っ、は……」
「なんなら猿みたいに自慰でもしてみるか?お前みたいな淫乱なら、『これ』を使わずとも達することはできるだろ?」

 そう、性器の裏スジを撫でられただけでゾクゾクと得体の知れない感覚が走り抜ける。口車に乗ったら終わりだとわかってるのに、駄目だ。思考が快感に塗り潰される。それでも首を反らして堪える俺に、やつは嬉しそうに笑うのだ。そして、片方の手がゆっくりと腹部に降りてくる。剥き出しになった腹、その臍を指の腹でぐるりと撫でられた瞬間、腰が大きく揺れた。

「ぁ、や、……めろ……ッ」
「本当は挿れてほしくて堪らないんだろう? お前のここはもうただの性器だからな。男を受け入れるためだけの穴だ。ここを指で慰めてみるといい、男性器までとはいかずとも慰めくらいにはなるだろ」
「っくたばれ、変態野郎……ッ!」
「……っは、本当に行儀のいい口だ」

 そう、嬉しそうに魔道士が微笑んだときだ。腹の奥、あれほど暴れ回っていたものが一気に意思を持って蠢き出す。

「っひ、ッ、な、にしたッ! お前……ッ!」

 全身、内臓を掻き回すように一箇所へと集まってくるその異物感に堪らず魔道士の胸倉を掴んだときだった。液体となって全身に染み付いていたそれらは粘膜の上を這いずり、肛門へと集まってくるのだ。脳髄を掻き回されるような違和感、そして腹の奥、内側から敏感な部分を無数の突起が生えた触手で摩擦された瞬間堪らず悲鳴をあげた。

「っ、ぁ゛、やめろ、やめっ、ぇ゛ッ! 止めさせろっ! やめ、ッ、ひ、ぅ、……ッぐ、そ、っやめろ、ぉ……ッ!」
「悪いな。お前は俺が思ってるよりも我慢強いやつらしい。……それよりも、お前にはこうした方が堪えると思ってな」
「ぎ、っ、ひ、ィ、や、抜けッ! メイジ、抜けッ、ぬ……ぅ、ん゛ッ、ぅ、お゛……ッ!」

 スライムというよりはそれは一本一本意思を持った襞が生えた生き物だった。本来ならば届くはずのないそこすらも最奥からやってきたそれは抉じ開け、触れてはいけないところまで隈なく嬲っていく。媚薬付にされた体には凡そ拷問に等しいほどの強烈な快感だった。内臓を押し上げるほどぱんぱんに詰まったその足はそのまま肉壁に吸い付けばそれぞれバラバラの動きで体内中を内側から愛撫してくるのだ。

「っ、ぅ゛ッ、ひ、……ッぃ……ッ!」

 絶え間なく腫れ上がった粘膜を内側から摩擦され、その都度声が漏れてしまう。逸そ気を失った方がましとも思えるほどだった。

「っ、ひ、きょ、う……もの……ぉ゛……ッ!」
「どうした、腰が浮いてるぞ? まるで触ってほしそうだな」
「……ッ、ぅ、ぁ゛……ッ触るな、ッ、離せッ! はな゛ぜッ!」
「やだ」
「ぅ゛ッ、ひッ」

 臍の裏側と性器を同時に擦られる。根本を掴まれたまま上下に緩く扱かれただけで頭の中で無数の火花が弾け、何も考えられなくなる。

「っぉ゛、ッが、ぁ……ッ! ぅ゛、ぎ……ッ!」
「イカせて下さい、メイジ様。……ほら、復唱しろ。そしたら気持ちよくしてやるよ」

 誰が言うか誰が言うかお前みたいなクソ野郎、ふざけんな。なんで俺が。泣きたい気持ちよりも殺意が膨らむ。脳味噌までも直接掻き回されるような異次元の快感に最早自分の体ではないようだった。このままでは、馬鹿になる。この男に懇願した瞬間、なにもかもが終わる。理性を失うな、こんなの、耐えられる。

「だ、れが……ッ言うか……ッ! ぁ゛ッ、あ゛……ッ!」

 無数の襞が吸い付いてくる。濡れた音が増し、嬲られた箇所は熱く蕩けていくようだった。こんなやつに、こんな訳のわからないもので気持ちよくなるような男だと思われたくない。必死に堪えようと唇を噛めば、血の味が広がる。視界が白ばんでいき、なけなしの理性でそれを耐えた。
 ……耐えたというよりも意地でも答えなかった、答えることができなかったという方が適切なのかもしれない。
 性器の先端を捏ねられ、穿られ、快感を催させてくる魔道士はそんな俺の顔を見ては笑うのだ。「いい顔だな」と。楽しそうに。
 その間も腹の中では異物が跳ねる。絶え間なく与え続けられる快楽に耐えられず、溺れそうになる都度俺は自らの舌に歯を立てた。痛みが唯一俺の理性を繋ぎ止めてくれていた。唇から溢れる血を見て、魔道士は「は」と笑うのだ。そして、あの男は躊躇なく唇を重ねてくる。
 なんで、と叫ぶ暇もなかった。唇を開かされ、舌を絡め取られ、溢れ出す血ごと啜られる。ジンジンと痺れる舌を粘膜ごと嬲られ、愛撫される。痛みが引いていく。やつに嬲られた傷口がみるみるうちにふさがっていくのを感じた。
 こいつ、どういうつもりだ。声を出そうにもこいつの舌が邪魔で、くぐもった声しか出ない。

「ッ、ふ……ッ! ぅ゛ッ、ん゛ん……!!」

 濡れた音が増す。全身の毛穴が開き、どっと汗が滲む。治癒のつもりか、こんな真似して。屈辱だった。内側と外部から同時に責め立てられ、思考が裏返る。息が苦しい。おかしくなりそうだった。やめろ、と魔道士の腕を掴んだとき、やつは僅かに目を細めた。

「……ここまでだな」

 唇が離れたとき、そう魔道士の唇が動いた。
 一瞬その言葉の意味がわからず呆けたとき、扉がノックされたのだ。

『遅くに悪い。……メイジ、あいつ見てないか。部屋にいないようなんだ』

 勇者だ。聞こえてきた声に、ぞわりと背筋が凍り付く。魔道士は気付いていたのか、勇者がやってくると。性器から手を離し、俺の口を塞いだ魔道士はそのまま扉に目を向ける。

「いや、見てないな。さっきまでいたんだが、便所じゃないか?」

 ……っ、こいつ……。
 容易く嘘を吐く魔道士に辟易するが、今こんなところを勇者に見られるわけにはいかない。俺は声を殺す。それでも油断するとぐちゅぐちゅと腹の奥で這いずり回る異物の音が聞こえてるんじゃないかと怖かった。

『そうか……わかった。またどこかで具合が悪くなってるかもしれない。見かけたら俺に教えてくれ』
「ああ、わかったよ。本当に勇者サマは心配性だよなぁ?」
『悪かったな。……それじゃ、おやすみ』

 あいつが帰っていく。扉の向こうから聞こえてくるその足音が遠のくことにほっとしたときだ、視線がこちらを向く。そして、俺の根本を締め付けていた手が離れた瞬間だった。一瞬何が起きたのか分からなかった。腹に魔道士の指が触れた瞬間、中に入っていたスライムたちが一斉に後穴から引き摺り出されたのだ。

「ッ、ぎ、ィ! ひぐぅ……ッ!!!」

 確かにその瞬間意識がとんだ。射精を堰き止めるものもなくなった性器からどろりとした精液が垂れ、大量のスライムたちは体外へと出た途端液状化し、そのまま消えていくのだ。爽快感すらない。死にかけの体に鞭打ちを食らったような苦痛に立っていることすらできなかった。けれど、恐ろしいほど軽くなった体に安堵する暇もなかった。

「っ、は……ッ! ぁ、……ぁ……ああぁ……ッ」

 開きっぱなしの尿道からは今まで堪えていた尿がちょろちょろと溢れ出すのだ。それを止めることすらできなかった。座り込んだまま、床にシミが広がる。宿屋、それも他人の部屋。己の粗相で寝巻きを汚す俺を見て、視線を合わせるように屈んだあいつは俺の頭を抱き締める。

「よく頑張ったな」

 甘い香りに包み込まれる。頭がクラクラするような、嫌な匂いだ。それを払い除ける気力もなかった。自分が汚れることも構わず、やつは俺を抱き締めるのだ。

「まさか、お前がここまで我慢強いなんて。……ああ、やっぱり俺の審美眼に狂いはなかったな」

「惚れ直した」なんて、うっとりとした顔でやつは俺の顔を覗き込むのだ。寒気が走る。逃げ出したいのに、四肢に力が入らない。

「……けど、自分を傷付けるのはよくないな。虐めすぎて自害されても詰まらない。今夜はここまでにしてやる」
「…………ぉ、まえ…………」
「また遊ぼう、――」

 耳元で名前を呼ばれ、血の気が引く。瞬間、張り詰めていた糸が切れたように意識が薄らいでいく。妙な魔法を掛けられたのかわからない。
 この変態の前で眠ってはならない。わかっていても抗えなかった。

 昏睡する意識の中。
 次に目を覚ましたときは自室のベッドの上だった。服も全て着替えさせられ、体も清められていた。全部、全部あの男がしたのだと思うと腹立たしかった。
 全て夢だったらどれほどよかっただろう。けれど、記憶は恐ろしいほど鮮明に蘇るのだ。まるでまだ指が絡みついているかのように。恐る恐るシーツを捲り、自分の体を確認する。
 性器の根本、やつの指の跡がアザのように残ってるのを見て俺は慌てて服を整えた。
 ……最悪だ、クソ……ッ!
 爽やかな朝日とは裏腹に最悪の目覚めを迎えた俺は暫くベッドから動くことはできなかった。
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