天国か地獄

田原摩耶

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√β:ep. 2『変動と変革』

02

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 言われるがまま、休むことにしたはいいが阿佐美のことが気になって仕方なかった。
 今、どうしてるのだろうか。
 気になったが、今会いに行くわけにもいかない。

「……気になるのか」

 俺のために飲み物を用意してきた会長は、何度も座り直す俺を見てそう静かに尋ねてきた。
 気にならないといえば、嘘になる。
 俺は、「はい」と頷き返した。

「君の気持ちも分かる。が、今は休め。ベッドに横になってもいいんだぞ」
「……でも、きっと……寝れそうにないです。……なにか、神経が張り詰めてるみたいで……あの、ありがとうございます。気遣っていただいて……」

 会長は、いや、とだけ小さく口にした。
 それから何かを考え込むように押し黙る。
 沈黙が流れる。
 生意気なことを言ってしまっただろうか、会長を怒らせてしまっただろうか、と不安になっていると、サイドボードにグラスを置いた会長はそのまま俺から顔を逸らした。

「……俺がいない方がいいか」
「……えっと……」
「いや、いい。君も混乱してるだろうしな。俺は席を外す。……放課後になったらまた、来る。それまでゆっくり休んでくれ」

 俺が答えるよりも先に、そう言って会長は仮眠室から出ていった。
 もしかして本当に気分を悪くしてしまったのではないだろうかと不安になったが、声を掛ける暇もなかった。
 閉まる扉、室内に静寂が走る。

 確かに、会長がいると緊張するのも事実だ。
 けれど、本当に心配してくれていたのだと思うとなんだか悪いことをした気がしてならない。

「……はぁ」

 携帯はなくなったし、それを持ってる会長もいなくなった。
 仮にもここは生徒会室の奥だ、会長の支配下、今だけは外部のことなんて何も気にすることはない。
 そう思うと、ドッと疲れが溢れ出してくるようだった。

 ……少しだけ、少しだけ、目を瞑るだけだ。
 頭の中を嫌な考えばかりが巡る。眠れる気はしないが、眠れなくても良い。少しだけ横になりたかった。
 恐る恐る仮眠室のベッドに横になり、そのままそっと目を瞑った。


 夢というよりも、それは今日の記憶に近かった。
 抱き締められた腕の感触に、肉の潰れるような音。目の前の阿佐美の顔が引きつるのが見えて、そこで、俺は目を覚ます。

 恐らく、大して時間は経っていないだろう。
 どうやら、眠ってしまっていたようだ。

 ……阿佐美。
 せめて、阿佐美の様子が分かればいいんだが。
 そう考えていたときだった。
 コンコン、と扉を叩かれる。
 その音に驚いて、俺は飛び起きた。
 会長だろうか、と思ったが、もうそんな時間になったのだろうか。俺が答え倦ねていると、「おーい、佑樹ー」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『起きてるか?』
「あ……うん」
『腹、減ったんじゃないかって思って飯買ってきたんだけど食えそうか?』

 正直、何かを食べるような空腹感もないのだけれど、せっかく尋ねてきた十勝をおざなりにするのも申し訳ない。
 ベッドから降り、扉を開けばそこには袋を手にした十勝がいた。

「悪い、もしかして起こしちゃった?寝起きだろ?」
「大丈夫だよ。丁度今、目を覚ましたところだったから……」
「そ?なら良かった。ならすげー腹減ってんじゃねえの?結構眠ってたみたいだし」

 そんな十勝の言葉に「え?」とつられて俺は時計に目を向けた。
 すると、とっくに放課後は過ぎており、窓の外は真っ暗になっているではないか。
 そんなに経っていないと思っていたが、逆だ。かなりの時間、俺は眠っていたらしい。

「お腹は……そんなに減ってないんだけど……その、ごめん……すごい長い間仮眠室占領しちゃって……」
「あ?気にしない気にしない!どーせ栫井くらいしか使わねーんだし」

 そう言って十勝は「でも喉は乾いたんじゃねえの?」と袋から取り出した水のペットボトルを俺に手渡してくれる。

「あ、ありがとう……」
「それじゃ、佑樹食わねーんなら俺がもらおうかな~」

 そう言って、仮眠室に入ってきた十勝はそのままソファーに腰を下ろし、弁当を開く。
 美味しそうな良い匂いが部屋の中に広がった。
 十勝のペースに相変わらず巻き込まれそうになるが、俺は一つ、疑問を抱いた。

「あの、十勝君……会長は一緒じゃないの?」
「んや?なんかさー途中まで会長と一緒だったんだけど、電話掛かってきたみたいで急いでどっか行ったんだよな。『これ、齋藤君に渡してくれ』って弁当押し付けてさ」

 早速一口食べる十勝は、もごもごとそう続ける。
 十勝が会長の使いなのはわかったが、それよりも俺は十勝の口から出たとある単語に引っ掛かった。

「っ、……電話……?」
「そ、そ。内容までは知らねーけど、なんか血相変えてどっか行ったんだよなー。でもま、すぐ戻るって言ってたし気にすんなよ」
「……」

 普通なら、それほど気に取り止めないだろう。
 それでも、もし、その会長が受けた電話というのが俺の携帯に掛かってきたものだと思うと、気が気でなかった。

「佑樹?」
「……え?」
「大丈夫か?顔色悪いけど……」

 心配そうに覗き込んでくる十勝にハッとする。
 確かに心配だったが、会長だ。きっとどうにかしてくれるだろう。そう思うことしか出来なくて、そんな気分を紛らすように俺は「大丈夫だよ」と十勝に告げる。

「……あの、十勝君。俺が寝てた間……外で何かなかった?」
「外?別に?俺の耳には特に何も入ってこなかったけどな~……あっ、もしかして、俺がチカちゃんに告られたこと言ってる?」
「い、いや、ないんならいいんだ……」

 チカちゃんって誰だと思ったが、十勝の恋愛関係を調べている気分でもない。
 阿佐美のこと、表沙汰にはなっていないということは上手く処理したのだろうか。俺が会長に伝えてしまった今、どうなることになるかは分からないが……せめて阿佐美のその後を知りたかったが、十勝は何も知らないようだ。

 そう、十勝から目逸らしたときだ。

「えいっ」

 いきなり手が伸びてきたと思えば、眉間をぎゅっと掴まれる。

「と、十勝君……っ?」
「佑樹~、あんま心配すんなよ。確かに、彼女……じゃねえか、好きな人のことが気になる!ってのは分かるけどさー、ダメだぞ、煮詰まりすぎんのは」

 そう言って、うりうりうりと眉間を揉んでくる十勝。
 十勝なりに俺のことを気遣ってくれているのだろうが、如何せん擽ったい。

「ありがとう……そうだね、あんまり気にしないようにするよ」
「おう、そうだそうだ!その意気だ!」

 心配なのは芳川会長ではなく、阿佐美なのだけれども十勝に余計な気負いもさせたくない。
「その調子でこのリンゴを食え!」とリンゴを掴んだお箸を向けてくる十勝に躊躇いつつそのリンゴを頂けば、しゃくりと音を立て口の中に独特の酸味が広がる。

「それにしても、最近つまんねーよなぁ」

 もぐもぐと弁当を食べながら十勝はぼやく。
 つまらない、というには色々起きすぎているような気がするが、十勝からしたらそうではないのかもしれない。

「五味さんもあんま来なくなったし、栫井はあいついつものことだけど、和真もいねーし、会長は……まあいつものことか?」
「……そうなんだ……」
「でも、佑樹がいるしな、そのお陰でまだいいんだけど……あんまこういうの、俺好きじゃないんだよな……」

 うーんと唸る十勝。
 こうやって十勝が弱音というか愚痴を吐くのは初めてではないが、十勝の言わんとすることも分かる。
 生徒会全体の空気が可笑しくなっているのは明らかだ。
 人一倍周りを見てる十勝には特にそう感じるのだろう。
 その原因も分かるが、俺は口出しできる立場ではない。

「楽しくて、皆でわいわいやってたらいいって思ってたんだけど……なんだろうなぁ、やっぱ会長と五味さんの喧嘩のせいかな。佑樹いたんだろ?その時」
「……うん。……その、一応、和解……というか、五味先輩も会長の考えは理解していたみたいだったけど……」
「そっかー、なら時間の問題か?……でも、なんかさーなんで二人じゃなくて俺がこんな心配してんだろって思うとなんか馬鹿馬鹿しくなるんだよな~……変だよな、これって」
「変じゃないよ。……ええと、その、十勝君は優しいんだと思うよ」

 なんて答えればいいのか分からず、酷く他人行儀なことを言っているような気がするが、それでも、十勝の表情は晴れなかった。
 生徒会がギクシャクしてる。
 それは、お世話になっている俺からしてもなんとかしたいところだった。けれどあくまで部外者だ、と思う自分もいることも事実だ。

「そうだ、パーティーしよう」

 そして、十勝は俺が考えるよりもずっと俺の斜め上を行く人間だった。

「え、あの……何?」
「パーティーだよパーティー!佑樹!鍋パしようぜ!生徒会にさぁ、鍋バーンってして!ほら、この間の打ち上げみたいに!!」

 勢いを取り戻した十勝は止まらない!
 今そんなことしてる場合ではないだろうと思ったが、十勝が皆を心配する気持ちも無碍に出来ない。そしてそもそも俺は十勝を説得できる気がしない。

「ええと、でも……ここではダメなんじゃないかな……」

 違うそうじゃないだろう俺。

「あ、そうか。なら俺の部屋とかどーよ。亮太なら閉め出せばいいし、な、佑樹も一緒に来てさ!あ、そーだ。連理さんたちも呼ぶか。皆で色々持ち寄って~とかもいいよな~!」

 確かに楽しそうだけれど、芳川会長がそれを許可してくれる気がまるでしない。
 もしもここまで楽しみにしてる十勝の案が却下されたときの十勝のことを考えるとなんとも言えない気持ちになる。

「なあ、どう?これ名案じゃね?」

 そう、笑い掛けてくる十勝に『そうは思わない』なんて言えるわけがなかった。
 それに、二人に仲直り……否、いつも通りに戻ってほしいというのは本心だ。

「そうだね……俺もそう思うよ」

 そう答えれば、ぱぁっと十勝の表情に光が差す。
 本当に嬉しそうな十勝を見てると、益々時期を改めた方がいいなんて言えるはずもなく、「だろー?!」とはしゃぐ十勝に俺は頭の中の数人の自分に「そんなその場しのぎのこと言って十勝君が怒られたらどうするんだ」とか「逃げたな」とか「詩織の犯人を捕まえるんじゃないのか」とかすごい責められるが、そんなこと重々承知してる。けれど、今の俺に出来ることといえば限られてる。
 つまり、なるようになるということだ。思いながら、俺はいまさらになってこれでよかったのだろうかと不安になったがそれも十勝に掻き消される。

「佑樹何か好きなものとかあるか?俺、用意してくるけど」
「え?俺はやっぱり白菜が好きかな……じゃなくて、その十勝君……そのお鍋って、十勝君の部屋でやるんだよね……?」
「そうそう、やっぱ言い出しっぺは俺だしな~!」
「その……志摩は、大丈夫なの?」

 忘れ掛けていたが、あの志摩のことを考えるとこんなタイミングでぞろぞろ部屋に会長たちが押し掛けてみろ。その時のことを考えるだけでお腹が痛くなってくる。

「ああ、それなら心配いらねーよ」
「……え?」
「あいつ、結構前から部屋空けてるし」
「え、そ、そうなの……?」

 結構、というのがどれくらいか分からなかったが十勝が部屋にも戻ってきていないと騒がれてたのがつい最近だ。そんな十勝が戻ってきたのがつい最近だと考えると、志摩が部屋に戻らなくなったのはそれより前ということにならないか。
 この間会った時はそんなこと言ってなかったのに……。
 今どこで寝泊まりしているのだろうか、気になったが、十勝は「大丈夫大丈夫」と笑うばかりだった。

「あいつがふら~っていなくなるのはよくあることだし、お前はなんも気にしなくていいって。それに、どうせあいつ阿賀松たちんところに行ってんだろ」
「……ッ」

 さらりと十勝の口から出た言葉に、つい、身体が凍りつく。
 阿賀松たちのところに……。
 あまり考えたくないが、志摩が頼りそうな相手となるとその辺りしか思い浮かばないのも事実だ。

「それじゃ、今夜は鍋だな!早速買い出しに行って……あ、会長に佑樹を見張っとけって言われてんだった……」

 どうしたものかと唸る十勝。
 つい十勝のペースに巻き込まれそうになっていたが、一応俺が狙われている可能性があるのも事実だ。
 十勝のことが気になるのも事実だが、無理して付いていくわけには行かないだろう。

「あの、俺ならここにいるから大丈夫だよ。……その買い出し行っても」
「はぁ?!ダメダメ!ダメに決まってんだろ?そんなことしてみろよ、会長にぶん殴られるって!」
「……う、そ、そうだよね……」
「うーん、本当はサプライズ~って感じでやりたかったんだけど、まあいいか。和真と栫井にも手伝わせよ」

 そう言いながら携帯端末を取り出した十勝は慣れた手付きで操作し始める。
 灘と栫井……灘はともかく、栫井が素直に応じるとは思えないが……。

「五味さんと会長にも連絡入れておくか!えーっと、今夜皆でご飯食べませんか……っと」
「……」
「っと、和真から電話だ!」

 もうか。随分と早いなと驚くのも束の間、十勝は「よ、早かったな!」と笑顔で通話に応える。

「何、見てくれた?……そうそう、鍋だよ鍋。和真今何してんの?暇?」

 なんて、十勝が電話越しに灘に質問を投げ掛けていたときだ。
 仮眠室の扉が開き、携帯端末を耳に押し当てた灘がそこに立っていた。

「……暇、ではありませんが……十勝君、随分といきなりじゃありませんか」
「な、灘君……!」
「えー!いいじゃん、今だからこそってやつだろ?和真も鍋好きじゃん!」
「……そうですが、状況が状況です。俺や栫井君はともかく、会長が参加するとは考え辛いです」

 どうやら灘も俺と同じ考えのようだ。
 俺からしてみれば栫井が参加するとも思えないが。

「えーじゃあそんときは俺と和真と佑樹で闇鍋しよーぜ」
「齋藤君、君はそれでいいんですか」
「え……ええと……」

 こちらに話を振ってくるか。
 じっとこちらを見てくる灘。その目は暗に『そんなことをしている場合ではないだろう』と言ってくるかのような冷たさがある。

「その……俺も、鍋、食べたいな……なんて」
「だよなー!佑樹やっぱ分かってんじゃん!」
「……畏まりました。ではそのように会長には俺から伝えておきます」

 え、もしかして会長に何か言われてたのだろうか。
 内心焦る俺の隣、気に留めるどころか「流石和真話分かるー!」と十勝が叫んでいた。……十勝のそういうところ、見習いたいな。
 それから、五味がやってきたのは間もない頃だった。

「あっ、どーも五味さん!来たんすね!」
「来たんすね!……じゃねーよ!なんだよ、この鍋パーティーって!」
「なんだよって……何言ってんすか?鍋パは鍋パ以外の何者でもないじゃないっすか!」
「そういうことを言ってんじゃねえよ、馬鹿!」

 今にも殴り掛かりそうな五味を灘と引き止めつつ、俺は十勝に代わって一連の事情を五味に説明する。
 一通り俺達の説明を受けた五味は、呆れたように溜息を吐いた。

「……仲直りってな、別に喧嘩してるわけじゃねえよ。お前らがそんなに気にする必要も全然ねえし」
「嘘だ~!だったらなんで朝飯も一緒に行かないで会長から避けるような真似ばっかしてんすか!五味さん、絶対そういうの自分から謝れないタイプだからタイミング踏み切れずにウジウジしてんだろ!」
「っはぁ?!誰がウジウジ野郎だと?!つうか先輩に指差してんじゃねえぞ!」
「まあまあ!……と、十勝君も落ち着いて!」

 仲がいいのか悪いのか分からないが、十勝なりに心配してるのは確かなんだろうが……こう、もう少しオブラートに包めないのだろうか。
 まあ、そこが十勝の良いところなのかもしれないが。

「別にぃ、五味さん来たくないんならいいっすよ別に!俺達でサーロインステーキ買い占めて全部鍋にぶち込んで高級肉鍋しますんで!」

 さっきからコロコロ鍋の趣旨が変わっているが、それはなかなか食欲がそそられないぞ……。
 拗ねる十勝に、灘に羽交い締めにされてる五味はぐぬぬと呻く。

「別に勝手にしろ!……俺は行かねえから。それに、あいつだってこんな時に鍋なんて呑気な真似……」
「一応会長からは『参加する』と返事がありました」
「………ッ、……何を考えてんだアイツは……ッ!!」
「会長の方がまだ融通は利くみたいっすね」

 本当なのか、驚いて灘を見るが灘はちらりとこちらを見て、隠れて親指を立てる。も、もしかして嘘なのか……!大丈夫なのかそんな適当なこと言って!

「……本当、お前ら、遊び気分も良いが連中が何をけしかけてくるかわかんねーんだぞ。もし、何かがあってからじゃ遅いんだからな!」
「それは、何をしてても同じじゃないっすか。そんときはそんときっすよ!それに、俺がいるから大丈夫っす!佑樹なら俺が責任持って守るんで!」

 そう笑って、十勝は俺の肩を叩いた。
 い、痛い。が、「なっ?」と無邪気な笑顔を向けられると、その眩しさについ慌てて顔を逸らしてしまう。

「う、うん……」
「ほら、佑樹もこう言ってますし!それに和真もいるんだからもうこれ最強ですって!」
「……………………」

 安心させるつもりなのだろうが、俺には分かる。
 五味の顔は十勝が太鼓判を押すごとに曇っていっているのだ。
 けれど、明らかに悩んでる。迷っているのだろう、やっぱり、会長のことが気掛かりなのだろうか……。

「……やっぱり、お前らだけは心配だな」
「……っ!」
「何時からやるつもりだ。当日に計画立てるんならせめてその旨も書いとくべきだろうが」

 そう、仕方なしといった調子で苦笑する五味。
 ということは、だ。もしかしなくても、参加してくれるのだろう。

「五味さん!」
「……五味先輩……!」

 俺と十勝は思わず顔を見合わせる。
 そして、「よっしゃッ!」と笑い、十勝は俺にハイタッチをしてきた。
 やっぱり、なんだかんだ言って五味にも参加してもらいたかったのだろう。そりゃあこの嫌な感じを振り払うための鍋なのだから本人たちがいないと始まらないのだが、それでもやっぱり俺は無理なのではないかと諦めていた分、やっぱり嬉しかった。

 ……と、なると、あとは一人……いや、二人か。
 芳川会長と、栫井。栫井はともかく、芳川会長は厳しいんじゃないか。
「本当は参加したかったんじゃないスカー?!」「素直じゃないっすね~」と五味に絡んでる十勝を横目に、俺は考える。
 やっぱり、皆笑顔なのがいいよな……。
 誰よりも嬉しそうにはしゃいでる十勝を見てると、改めてそう思えた。

 なんとか、会長を説得できないだろうか。
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