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番外編
クリスマスの魔力【一番ケ瀬×十鳥】
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クリスマスなんて興味ない。
冬期休暇の間は大半の生徒は年末年始実家で暮らしたり、外部の友人たちと過ごすためにこの学園を出ていく。
そのため、俺のように面倒臭がりな人間やそれ以外のなにかしらの都合がある人間だけが学園に残る形になっていた。
そして、意外なことにこの男も学園に居残り組だという。
「十鳥、メリークリスマス」
「……一番ケ瀬」
「な……なんだよ、反応薄いな。普通に恥ずかしくなってくるだろ?」
カースト最下位に落ち、一番ケ瀬の部屋に転がり込んでから暫く経った頃の十二月二十四日。
一番ケ瀬が出掛けて、一番ケ瀬の部屋の扉を叩かれるのでまさかまた俺を探しに来たやつでもきたんじゃないかと戦々恐々としながらも扉を開けば、そこにはどこぞのディスカウントショップで叩き売りされてそうなサンタ帽を被った浮かれクリスマス野郎――もとい一番ケ瀬がいた。
数分前まで怯えていた自分がアホのようだ。思わず脱力しそうになる俺に、「十鳥?どうした?」と慌てて身体を支えてくれる一番ケ瀬。
「どうしたこもこうしたも、こっちの台詞だっての。……なんだよその格好は」
「なにって、さっき言っただろ? メリークリスマスって」
「それはわかるけど、一番ケ瀬お前、『ちょっとジュース買ってくるわ』って言ってたくせに」
「ジュースも買ってきたぞ」
ほら、としっかりと売店の袋を掲げる一番ケ瀬。その中にはお菓子諸々も入っているのが見えた。
「……って買いすぎじゃないか?」
「パーティーなんだから多いくらいがいいだろ」
「……パーティー?」
「俺と十鳥のクリスマスパーティーだよ」
「今から? もう夕方だぞ」
「明日はクリスマス当日なんだから全然ありだろ」
それに、とがさりと袋に手を突っ込んだ一番ケ瀬はなにかを取り出した。一番ケ瀬が頭に被ってるのと同じ赤い三角の形の浮かれた帽子。それをぽふ、と俺の頭に乗せた一番ケ瀬は「ふはっ」と吹き出す。
「……っておい、なんだよこれ」
「ふ、……十鳥お前似合わないな~」
「わ、わかってる。そんなことは……って勝手に被せるなよ」
「ツッコミ遅いな」と一番ケ瀬。
俺は本職ツッコミの人ではないんだから速さを求められても困る。
思わずむっとすれば、一番ケ瀬は「冗談だよ」と帽子を取ろうとしていた俺の手を取ったのだ。
「おい、なんだよこの手は……ってなに撮って……っ! スマホ向けるな……!」
「残念、動画なんだよなこれ。……いいだろ? せっかくのクリスマスなんだし」
「俺のも撮ってくれてもいいぞ」と一番ケ瀬は笑う。そういう問題ではないのだと思ったが、あまりにも楽しそうな一番ケ瀬を見てると水を差す気にもなれなかった。
……俺は一番ケ瀬に甘いのだろうか。
「ほら、そんなむくれるなよ」
「俺はお前がたまに怖いよ」
「そんなこと言うなって。すげーかわいいぞ」
「…………全然嬉しくねえ」
そんな言葉がさらりと出てくる辺り、改めてこいつとは別の世界の人間だと思い知らされるような気持ちになる。
そして、そんなやつが俺とクリスマスとかいう日を一緒に楽しもうとしてくれているという事実がまだ受け入れきれていない。
一番ケ瀬とクリスマスを過ごしたいと思ってる連中が他にいると知ってるからこそ、余計。
「…………今日だけだからな」
「ん?」
「クリスマスごっこ……今日までならいいぞ」
そう小さく付け足せば、目を丸くしていた一番ケ瀬は微笑んだ。
そのまま俺の手を握る。
「……そうだな、明日はちゃんとクリスマスデートするか」
「は? な、なんでそんな話になるんだよ……」
「買い出しついでに、ちゃんと外出許可証もらってきてよかったよ。お前に断られたら出番なかったけどな」
「誰も行くとは言ってないだろ、まだ」
あまりにも勝手に話が進んでる気がして思わず突っ込んでしまった。
すると、一番ケ瀬は「だめなのか?」とこちらを覗き込んでくるのだ。
なんでそんなに目をキラキラさせてるのだこの男は。くそ。自分の顔がいいことを自覚してるだろお前。
「……っ、夕方までに帰れるなら、いいけど」
夜は冷え込むから嫌だ、と呟けば、そのまま「十鳥!」と一番ケ瀬に抱きしめられるのだ。
「っ、あぶね……っおい、一番ケ瀬……」
「あ、悪い……つい。けど、お前がそう言ってくれて嬉しいよ、十鳥」
「…………そりゃ良かったな」
俺も、俺と過ごしたがるような物好きがこの世に存在してることに驚くことに悪い気はしなかった。
何故やたらと人間はクリスマスとかいうただの冬の日を過ごしたがるのかわからなかったが、ずっとほぼ一日を共に過ごしている一番ケ瀬相手にそんな風に思うのだから不思議なものだと思う。
つけっぱなしになっていたテレビから聞こえてくるクリスマスソングを聞き流しながら、取り敢えず一番ケ瀬主催クリスマスパーティーとかいう急な催し物のために部屋の片付けから始まるのだった。いや、許可証取りに行くより先に片付けからしてくれ一番ケ瀬。形から入る男。
おしまい
冬期休暇の間は大半の生徒は年末年始実家で暮らしたり、外部の友人たちと過ごすためにこの学園を出ていく。
そのため、俺のように面倒臭がりな人間やそれ以外のなにかしらの都合がある人間だけが学園に残る形になっていた。
そして、意外なことにこの男も学園に居残り組だという。
「十鳥、メリークリスマス」
「……一番ケ瀬」
「な……なんだよ、反応薄いな。普通に恥ずかしくなってくるだろ?」
カースト最下位に落ち、一番ケ瀬の部屋に転がり込んでから暫く経った頃の十二月二十四日。
一番ケ瀬が出掛けて、一番ケ瀬の部屋の扉を叩かれるのでまさかまた俺を探しに来たやつでもきたんじゃないかと戦々恐々としながらも扉を開けば、そこにはどこぞのディスカウントショップで叩き売りされてそうなサンタ帽を被った浮かれクリスマス野郎――もとい一番ケ瀬がいた。
数分前まで怯えていた自分がアホのようだ。思わず脱力しそうになる俺に、「十鳥?どうした?」と慌てて身体を支えてくれる一番ケ瀬。
「どうしたこもこうしたも、こっちの台詞だっての。……なんだよその格好は」
「なにって、さっき言っただろ? メリークリスマスって」
「それはわかるけど、一番ケ瀬お前、『ちょっとジュース買ってくるわ』って言ってたくせに」
「ジュースも買ってきたぞ」
ほら、としっかりと売店の袋を掲げる一番ケ瀬。その中にはお菓子諸々も入っているのが見えた。
「……って買いすぎじゃないか?」
「パーティーなんだから多いくらいがいいだろ」
「……パーティー?」
「俺と十鳥のクリスマスパーティーだよ」
「今から? もう夕方だぞ」
「明日はクリスマス当日なんだから全然ありだろ」
それに、とがさりと袋に手を突っ込んだ一番ケ瀬はなにかを取り出した。一番ケ瀬が頭に被ってるのと同じ赤い三角の形の浮かれた帽子。それをぽふ、と俺の頭に乗せた一番ケ瀬は「ふはっ」と吹き出す。
「……っておい、なんだよこれ」
「ふ、……十鳥お前似合わないな~」
「わ、わかってる。そんなことは……って勝手に被せるなよ」
「ツッコミ遅いな」と一番ケ瀬。
俺は本職ツッコミの人ではないんだから速さを求められても困る。
思わずむっとすれば、一番ケ瀬は「冗談だよ」と帽子を取ろうとしていた俺の手を取ったのだ。
「おい、なんだよこの手は……ってなに撮って……っ! スマホ向けるな……!」
「残念、動画なんだよなこれ。……いいだろ? せっかくのクリスマスなんだし」
「俺のも撮ってくれてもいいぞ」と一番ケ瀬は笑う。そういう問題ではないのだと思ったが、あまりにも楽しそうな一番ケ瀬を見てると水を差す気にもなれなかった。
……俺は一番ケ瀬に甘いのだろうか。
「ほら、そんなむくれるなよ」
「俺はお前がたまに怖いよ」
「そんなこと言うなって。すげーかわいいぞ」
「…………全然嬉しくねえ」
そんな言葉がさらりと出てくる辺り、改めてこいつとは別の世界の人間だと思い知らされるような気持ちになる。
そして、そんなやつが俺とクリスマスとかいう日を一緒に楽しもうとしてくれているという事実がまだ受け入れきれていない。
一番ケ瀬とクリスマスを過ごしたいと思ってる連中が他にいると知ってるからこそ、余計。
「…………今日だけだからな」
「ん?」
「クリスマスごっこ……今日までならいいぞ」
そう小さく付け足せば、目を丸くしていた一番ケ瀬は微笑んだ。
そのまま俺の手を握る。
「……そうだな、明日はちゃんとクリスマスデートするか」
「は? な、なんでそんな話になるんだよ……」
「買い出しついでに、ちゃんと外出許可証もらってきてよかったよ。お前に断られたら出番なかったけどな」
「誰も行くとは言ってないだろ、まだ」
あまりにも勝手に話が進んでる気がして思わず突っ込んでしまった。
すると、一番ケ瀬は「だめなのか?」とこちらを覗き込んでくるのだ。
なんでそんなに目をキラキラさせてるのだこの男は。くそ。自分の顔がいいことを自覚してるだろお前。
「……っ、夕方までに帰れるなら、いいけど」
夜は冷え込むから嫌だ、と呟けば、そのまま「十鳥!」と一番ケ瀬に抱きしめられるのだ。
「っ、あぶね……っおい、一番ケ瀬……」
「あ、悪い……つい。けど、お前がそう言ってくれて嬉しいよ、十鳥」
「…………そりゃ良かったな」
俺も、俺と過ごしたがるような物好きがこの世に存在してることに驚くことに悪い気はしなかった。
何故やたらと人間はクリスマスとかいうただの冬の日を過ごしたがるのかわからなかったが、ずっとほぼ一日を共に過ごしている一番ケ瀬相手にそんな風に思うのだから不思議なものだと思う。
つけっぱなしになっていたテレビから聞こえてくるクリスマスソングを聞き流しながら、取り敢えず一番ケ瀬主催クリスマスパーティーとかいう急な催し物のために部屋の片付けから始まるのだった。いや、許可証取りに行くより先に片付けからしてくれ一番ケ瀬。形から入る男。
おしまい
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