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カースト最下位落ちの男と生徒会副会長。
04※
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結局、この関係を変えるという提案を切り出すタイミングを伺ってる間にも一番ケ瀬に守られるような関係は暫く続いた。
そんなときだった。俺がやつと再会したのは。
丁度放課後になり、そろそろ帰ろうかと一番ケ瀬がやってきた矢先のこと、一番ケ瀬は生徒会の顧問に呼び出されたのだ。
流石に無視するわけにもいかないだろうと渋る一番ケ瀬を見送ったあと、俺は一番ケ瀬を教室で待っていた。
そんなときだ。二年の教室にあの男が現れた。
「やあ、十鳥君」
「……え」
生徒会書記であるあの二重人格性悪男が俺の教室にやってきたのだ。
幸い、他にも残っている生徒もいたので王子様面のままだが、それでも見たくはない顔であることには違いない。
「なんの用だよ」
「はは、先輩に向かってタメ口とはね」
「……っ、ですか」
「おお、ちゃんと訂正した。偉いね」
……なんなのだ、この男は。
周りの視線がチクチクと突き刺さるのを感じながら、俺は目の前の男を見上げる。
「一番ケ瀬ならさっき、生徒会の顧問の先生に呼び出されてどっか行きましたよ」
「ああ、知ってるよ。……そうじゃなきゃ、わざわざこんなところに来るわけないだろ?」
後半は俺にだけ聞こえる声量で囁かれ、咄嗟に後退った。が、遅かった。そのまま俺の腕を掴んだ八雲はにっこりと微笑むのだ。
「僕が用があったのは君だよ、十鳥君。……ちょっといいかな」
「…………」
良いわけなんてない。
もう少し待てば一番ケ瀬も戻ってくるかもしれない。
どう考えても、この男と二人きりになることは得策ではないと分かっていた。
「すみませんけど、俺には用はないんで」
「一番ケ瀬君のことだよ」
「……っ、え」
思わず俺は八雲を見上げる。
目が合えば、八雲はふわりと微笑むのだ。
「君は知っておいた方が良いんじゃないかなって思ってさ、……一番ケ瀬君が今どんな状況に置かれてるのか」
「君のせいで」その薄く整った唇が動いた。
吐き出されたその言葉に、心臓がどくんと跳ね上がる。
「君には僕の話を聞く権利はあると思うんだけど? まあ、君が一番ケ瀬君がこの先どうなろうが興味ないというのなら無理強いするつもりはないけどね」
本当にこの男は性格が悪いと思う。
罠だと、関わったところでろくな目に遭わないと分からせておきながらも、わざわざ退路を塞いで誘導するような真似をする八雲にムカついた。
「……話なら、ここじゃ駄目なんですか」
「駄目だね」
「どうして……」
「君と二人きりになりたいから」
そう顔を寄せてくる八雲に全身にサブイボが立つ。思わず後退ろうとした俺の腕を手綱のように引っ張った八雲は「なんて」と小さく笑った。
「――言うわけないだろ? まさか、またなにかされるんじゃないかって期待でもしてるの?」
「っ、違う」
「ふふ、じゃあなにも躊躇うことはないじゃないか。……行くよ、僕も暇じゃないんだ」
――この男、本当に。
今すぐにでもこの男の腐った部分を周りに言いふらしてやりたかったが、敵に回すには明らかに分が悪すぎる。
周りから向けられる目がそれをよく物語っていた。俺たちの会話の内容を知らない周りからしてみれば、ただ俺が八雲に誘われてるようにしか見えてないのだろう。現に、向けられるその視線には羨望の眼差しもあった。
……最悪だ。
そう思いながら、それでも一番ケ瀬の話が気になった俺は観念して八雲の後についていくことにした。
八雲に連れられてやってきたのは適当な空き教室だった。
ただでさえこんなやつと二人きりになりたくないのに、なんでこんな人気のない場所を選ぶのか。
なるべく俺は八雲と一定の距離を保ちながら、「それで、話ってなんすか」と目の前の男に単刀直入に尋ねた。
後ろ手に扉を閉めながら、八雲は笑う。先程までの柔らかな笑顔ではない、いつの日か俺を犯したときのあの嫌な笑顔を浮かべて。
「何ですか、だろ? お前、四軍のくせにまだ自分の立場分かってないのかよ」
「……っ、……」
やっぱり、こんなやつに従うのではなかった。
もういい、聞くだけ無駄だ。そう思ってそのまま教室を出ようとすれば「おっと」と八雲に二の腕を掴まれる。
「……っ離せ……!」
「なんだ、一番ケ瀬のやつのことが気になるんじゃなかったのか?」
「だったら、早く言えよ。わざわざ触れる必要なんかないだろ……っ!」
「それを決めるのはこっちだよ、四軍君」
言うや否や、八雲に強く腕を引っ張られ、思わずバランスを崩してしまう。そのまま八雲に抱留められ、まるで抱き寄せるような格好にぎょっとした。
「っ、は、なせ……っ、ん、う……っ!」
躊躇なく顎を掴んでくる八雲。覆いかぶさってくる影に視界が暗くなったと思った矢先、そのまま噛み付くようにキスをされる。
「っ、ぅ、ふ……っ!」
分かっていたはずだ。こいつがろくでもないクソ野郎だと。それなのにまた、この間と同じような真似をされている自分にショックを受ける。
咄嗟に付き飛ばそうと八雲の胸を押し返すが、見た目よりもがっしりとした上半身は俺の力では歯が立たない。
唇を舐められ、そのまま唇をこじ開けられそうになるのを必死に唇を結んで耐えた。そんな俺に、やつは一笑する。
「は、……強情だな。この間はあんなに可愛かったのに」
「だ、まれ……っ! 俺は、こんなことするために来たんじゃない……っ!」
「彼氏のことがそんなに好きか?」
「か、れしじゃない……っ、あいつは、そんなんじゃ……」
「“そんなん”呼ばわりとはなあ。……可哀想に」
うるさい、黙れ。お前が一番ケ瀬のことを語るな。
そう言ってやりたかったのに、べろりと頬を舐められ息が詰まりそうになった。耳を引っ張られ、そのまま耳朶を唇で啄まれる。
「っ、や、めろ……っ、なに……」
「俺に抱かれたことも、まだあいつに言ってないんだろ? 馬鹿だな、本気で嫌なら泣きつけばよかっただろ。あいつならきっと、お前の味方してくれただろうに」
「それとも、またこうされるのを期待してたのか?」唾液で濡れた舌に耳の凹凸を舐められ、ふうっと息を吹きかけられた瞬間背筋がぞくぞくと震えた。ふざけるな、と体を離そうとするが、腰を抱き寄せられれば逃れることはできなかった。
「だ、れが……っ」
「けど、そうしなかったってことは分かってるんだろ? 俺との関係があいつにバレたらどうなるかって。……だから、この間も食堂で健気に我慢してたもんな?」
「さ、わるな……」
「一番ケ瀬のことが気になるんだろ? じゃあ――取り敢えずしゃぶれよ」
俺の手を取ったまま、八雲はそう言って自分の下半身を握らせてくるのだ。耳を疑った。
咄嗟に手を離そうとするが、やつはそれを許さない。それどころか、掌を重ねるように指を絡めては、更に自分の股間を握らせてくるのだ。既に硬くなり、膨らんでるその感触がただただ不愉快で、全身から血の気が引いていく。
「……っ、あんた、おかしいんじゃないのか……っ?!」
「うるっせえな、ほら、さっさとしろ」
「誰が……」
「じゃあ、お前を庇うためにあいつが夜な夜なパーティー開いたり、その濡れ衣を七搦に着せたってこと、九重会長に報告してもいいんだ?」
「……っ!」
やるか、と言いかけた矢先だった。八雲の口から出てきた言葉に呼吸が止まる。
なんで知ってるのだ。――まさか、七搦のやつか。
「あ、あんただって……似たようなことしてるだろ!」
「僕のは慈善活動だよ。お互い合意の上だし、皆得してる」
「でもあいつがしてたのは輪姦パーティーだよ、その違いがわかるかな?」人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる八雲にカッと顔が熱くなる。
なにが慈善活動だ、あんな悪趣味な集まりのどこがだ。
それに、と喉まで言葉が出かける。思い出したくもない記憶が頭に過り、視界が狭くなっていく。
「……っ、それ言うなら、あんたらだって――」
「ああ。あと、何か勘違いしてるみたいだけどさ」
そう目の前の男を睨もうとしたときだった。
片手でジッパーを下ろした八雲はそのまま性器を取り出した。生々しい肉の感触とその熱に気を取られ、思わず視線を下げたときだった。いきなり後頭部を押さえつけられ、八雲の足元へと屈ませられる。
そして、
「――お前をレイプするのは合意なんだわ」
「んぶ……っ!」
人の言葉を聞く前に、そのまま強引に唇にねじ込まれる性器にぎょっとした。拒む暇もなく俺の顎を無理矢理こじ開けたそれは喉の奥まで挿入される。
「んぐ、う゛……ッ!」
「……は、ちゃんと彼氏に練習させてもらってないのか? 相変わらずドへたくそだな……っ!」
喉の奥まで塞ぎ、みっちりと詰まる舌の上のそれにただ吐き気を覚える。あまりにもいきなりなもので、呼吸の方法が一瞬わからなかった。
逃げようとする俺の後頭部を押さえつけたまま、八雲は躊躇なくひとの喉をオナホかなにかのようにして性器を突っ込んでくる。
「っ、ぉ゛、ん゛ッ、う゛」
「汚え声、色気もねえな。一番ケ瀬はそれで喜ぶのか?」
「う゛ッ、む゛」
あいつの名前を出すな。そう言いたいのに睨むことすらできない。目の前にはやつの下半身しか見えなくて、こちらのペースなんてお構いなしに自分勝手に腰を動かしてくる。吐き気が止まらない。いっそのこと口の中の物に歯を立てればと思うが、無駄に太さがあるそれを噛むほどの顎の力すらも入らなかった。
もがく俺を見下ろしたまま、それでも苦しむたびに収縮する喉の感触を楽しんでるらしい。舌の上でびくびくと脈打つ性器から滲む先走りを咥内の粘膜、頬の裏側から上顎まで塗り込むように今度はねっとりと犯され、堪らず嗚咽が漏れる。
「はあ……っ、及第点だな、変に演技臭いのよりはリアル感あっていいな、その反応」
「っ、う゛、ん゛お゛ぇ゛……ッ」
「吐くなよ、ほら、頑張って舌と喉動かせよ。彼氏のこと、気になるんだろ?」
「ッ、ふー……ッぅ゛……ッ」
「は、……っ、一番ケ瀬の名前出す度に締まるのな、お前の喉マン」
――本当に、最低だ。
辱められ、馬鹿にされ、何故こんなことをさせられなきゃならないのか。
悔しくて腹が立つが、八雲相手に逆らおうとするだけ無駄だと分かっていた。それはもう、前回嫌というほどに。
さっさと終わらせる。頭の上から投げかけられる罵詈雑言を聞き流しながら、俺はもうただ八雲の好きにさせることにした。泣きそうなほど悔しいが、それが一番自分のためであると分かったからだ。
なにより、これ以上にこいつを楽しませたくなかった。
勝手に人の喉を使って性器を愛撫させる。ぐぷ、ぬぷ、と咥内でカウパーと唾液が混ざり、泡立つ。それを必死に耐えつつ、文句言われない程度に適当に舌を絡めれば、「下手くそ」と更に八雲に喉奥まで性器を突き立てられるのだ。
「ッぅ゛、んぉ゛ッ、ぐぷッ」
「……はぁ゛―~~ッ、これこれこれ! 下手くそなフェラよりすげえいい、四軍君にしかできないよな、こんなの……ッ!」
「っぶ、ぅ゛むッ!」
「っ……あー出そ、イクからな、全部ちゃーんと飲めよ。一滴でも漏らしたらこのまま最後までヤるから」
「……ッ」
冗談だろ、と青ざめた矢先。ごぷ、と喉の奥、吐き出される精液に驚いて狭くなった喉。粘膜に絡みつき、噎せたあまり逆流してきそうになるそれに慌てて八雲のものから口を抜いた俺は自分の口を塞いだ。が、遅かった。咳き込んだ次の瞬間、ごぷ、と指と指の隙間から、鼻の穴から、飲み込みきれなかった精液が溢れ、顔面を汚した。
しまった、と青ざめる俺を見下ろしたまま、八雲は唇を歪めて笑った。
「ほんっと、欲しがりだよな。……お前」
そして、髪を引っ張られ、そのまま壁に体を押し付けられた。胸に壁の硬く冷たい感触が押し付けられぎょっとするのも束の間、突き出すような形で掴まれた下半身に這わされる大きな手に背筋が震えた。
「まっ、べ、ま゛っへ、も゛ッ、いっがい」
「なんて言ってんのかわかんねえよ……っ、ほら、逃げんなって……ッ」
「っ、ぁ゛ッ、いやだ、やめ……んん……っ!」
「無理矢理されてるみてーな声出してんじゃねえよ……ッ、もっと可愛い声で鳴く練習しとけ? なあ、ほら、十鳥ちゃん」
「っふ、ぅ゛……ッ!」
精液で汚れた口元をそのまま八雲の手に塞がれたと思えば、今度は下半身に押し付けられる性器の感触にぞっと震えた。先程出したばかりだというのに、既に大きくなったそれは制服越し、丁度割れ目の上に乗せるように置かれるのだ。
何故、何故俺がこんな目に遭わなければならないのか。
何度も自問を繰り返してきた問を、今もまた問い掛ける。
扉に手をついたまま、背後から覆いかぶさってくる八雲に奥深くまで性器をねじ込まれ、声をあげることもできなかった。
ろくな準備もされていない。初めてではないにしてもだ、勝手に濡れるわけではないそこに挿入されてみろ。最早それは拷問に等しい。
恐らく背後の男は分かっててそうやってるのだ。お前なんかこれで十分だろと、いつも側にいる見目麗しいセフレにはこんな真似など絶対しないのだ。
分かってたからこそ余計腹立つし、悔しかった。
逃げようとすれば更に奥を突き上げられ、手綱のように腕を引っ張られて更にぐりぐりと腹の奥を突き上げられれば全身が浮くようなそんな気分だった。痛みのあまり羞恥もなにも感じなくなる。限界まで広げられた肛門を更に犯され、下半身の感覚が馬鹿になるまで性器を突っ込まれたまま何度も腰を打ち付けられた。
その都度萎えた性器が震え、痛みと腹いっぱいの息苦しさと吐き気に何度か意識が飛びそうになったところに中に射精される。最後まで言葉を発することは許してもらえないまま、扉にしがみついたまま俺はそのままずるずると床に落ちた。
「……っ、は、まあまあだな。締まりがいいだけあって、フェラよかましだな」
「……っ、……」
「それで、なんの話だっけ? ああ、お前の大好きな一番ケ瀬君の話だったか? 忘れてたな」
くすくすと笑いながら、倒れ込んだまま返答する気力すらも残っていなかった俺の頭を掴み、そのまま頬に先程まで俺のケツに入ってた性器を押し付けてくるのだ。精液やらでぬらぬらと嫌に濡れた肉色のそれに思わず顔を逸らそうとすれば「ちゃんと綺麗にしろ、じゃなきゃ教えてやんねえぞ」とさらに頬に亀頭をぐりぐりと押し付けられるのだ。
「……っ、……ん、ぅ゛……」
クソ野郎、と口の中で罵倒しながら、俺はなるべく意識しないように鼻呼吸をやめ、目を瞑りながら八雲の性器に舌を這わせた。
「そんなに気になるのかよ、あいつのこと。よっぽど可愛がられてんのか?」
「っ……」
黙れ、いいからさっさと言え。
そう頭の中で言い返しながら、裏筋の凹凸に舌を這わせれば、八雲は小さく息を漏らす。そしてそのまま俺の髪に指を絡めるのだ。
「――……最近、あいつが全部投げ出してお前に付きっきりになってんの、気付いてるか?」
八雲の言葉に、思わず目を開ける。
そのままやつを見上げれば、こちらを見下ろしていた八雲と視線がぶつかった。
「あれ、すぐやめさせねーと……リコールされるぞ」
「……っ、り、こーるって」
思わず性器から口を外し、声を上げれば「そのまましゃぶってろ」と言わんばかりにすぐ唇に亀頭を押し付けられる。渋々俺はそのまま亀頭に舌を這わせた。ちろりと尿道口の窄みに尖らせた舌を這わせれば、八雲は呼吸を乱す。しかしそれも一瞬のことだ。
「……会長が許すわけねえだろって話。あいつの立場が悪くなってもいいんなら、このまま恋人ごっこしてろ。……その代わり、あいつも四軍落ちになるかもな」
「七搦のやつが今頑張って一番ケ瀬に探り入れてっから、気をつけろよ」それとも、仲間が増えた方がお前の仕事が減って楽か?と八雲は下卑た笑いを浮かべる。
正直、話が頭に入ってこなかった。意味は分かった。けれど、それを理解することを脳が拒否している。
――一番ケ瀬がリコール。
それだけならまだしも、四軍落ちになるなんて。
血の気が引く。あまりの衝撃に手を止めれば、舌打ちした八雲に「止めるな」とシャツ越しに乳首を抓られ、背筋が震えた。
「どうにかしたいんだったら、あいつをお前から離させるようにするしかねえな。……せめて、生徒会室に顔出して、会長の機嫌取りさせるように言えよ」
「それか、お前が直接会長に頼み込むか?」自慢の体でな、なんて抓られたばかりでジンジンと痺れるそこを今度は柔らかく揉まれ、びく、と大きく胸元が震えた。
考えたくない。それでも、一番ケ瀬をこのままにしておくわけにはいかない。
そのこと自体は俺も違和感を抱いていたことだ。
乳輪ごと乳首を捏ねられながら、俺はなるべく意識しないように八雲の性器に残っていた精液を犬のように舐めとる。
「……っ、ふ、そうやって忠犬ぶってりゃ、あの堅物でも気に入るかもな」
そんな八雲の言葉を聞き流しながら、俺はただ目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
「まあつまりそういうことだ。彼のことが本当に心配だと言うのならちゃんと君のその可愛い口から忠告してみるといい」
「僕とは会ってすらくれなかったけど、君の話なら一番ケ瀬君もちゃんと耳を傾けてくれるかもしれないからね」そうベルトを閉め直した八雲は普段と変わりない柔らかい口調で続けるのだ。
散々人を好き勝手犯してスッキリしたのか知らないが、あまりにも先程までとは別人のような八雲には毎度呆れさせられる。
「そりゃどうも」とだけ返しておく。
それから人を残して八雲はさっさと教室を出た。
あの男、本当に忠告しにきたつもりだったのか。
……取り敢えず、口を洗いたい。
◆ ◆ ◆
八雲と別れたあと、その他諸々の後片付けをした俺は疲れ切ったまま教室へと戻った。
流石に一番ケ瀬も教室に戻ってきてるかもしれない、と思いながら扉を開けば、案の定そこには一番ケ瀬がいた。
俺の顔を見るなり、あいつは「十鳥!」と駆け寄ってくる。
「……遅かったな。八雲先輩に呼ばれたって聞いてずっと待ってたんだぞ」
「あ、ああ……悪い」
「なにかあったのか?」
「いや、大したことじゃない」
だから、そんなに心配しなくてもいい。
そう一番ケ瀬を落ち着かせ、いち早く部屋に帰りたかった俺は「取り敢えず、帰るか」と一番ケ瀬に声を掛ける。
一番ケ瀬は何か言いたげな顔をしていたが異論はないようだ。「ああ」とだけ頷き、そのまま俺の荷物を取ってくる。
「あ、悪い……」
「いいよ、俺が持つ」
「一番ケ瀬」
一軍の、それも生徒会のお前にそんなことさせれるか。そう慌てて一番ケ瀬から鞄を取り戻そうとするが、わざと俺の手に届かないようにひょいと持ち上げた一番ケ瀬。
「おい……お前のファンに恨まれる」
「俺にファンはいないよ」
「何言ってんだよ」
「俺がやりたいって言ってるんだ。……他の奴らのことなんて気にする必要ないだろ」
しかも、なんで少し怒ってるんだよ。
そう言って、空いた方の手で「帰るぞ」と一番ケ瀬は手を握ってくる。そしてそのまま歩き出すのだ。
俺の頭の中には八雲の忠告が響いていた。
もしかして、さっきの顧問に呼び出されていたのも俺のせいなのか?
そこまで考えて、やはりこのままでは駄目だと改めて決心する。
取り敢えず、一番ケ瀬と話をしよう。
周りの目があるところでは駄目だ、部屋に帰ってちゃんと向き合わなければ。
学生寮の一番ケ瀬の部屋へと戻る途中、俺はずっとそんなことを考えていた。
きっと、俺の表情からも一番ケ瀬はなにかを感じていたのかもしれない。あいつも、いつもの他愛ない会話をふっかけてくることをしなかった。
――学生寮・一番ケ瀬の部屋。
「ただいま」
「……ただいま」
お邪魔します、というには今更ではあった。
大きく玄関口の扉を開いた一番ケ瀬は、そのまま「入れよ」と俺を招く。
この玄関口を跨いだのも何度目だろうか。そんなことを考えながら、俺は一番ケ瀬に促されるがまま踏み込んだ。
そして後ろから着いてきた一番ケ瀬はそのまま扉を閉める。背後から聞こえてくるロック音を聞きながら、俺は取り敢えずリビングルームへと移動した。
最初は一番ケ瀬の私物しかなかった部屋だが、あった方がいいだろうという一番ケ瀬によって俺の分の机や棚も増えた。
本当に優しいやつだと思う。俺が断ると分かってるから毎回黙って設置していくという強引なやつでもあるが。
「十鳥」
着いてきた一番ケ瀬に名前を呼ばれ、立ち止まった。
「……一番ケ瀬」
「お前、教室に戻ってきてからずっと変だぞ。……あの人からなにか言われたのか?」
俺からしてみれば、もう今まで通りがどういうものだったのかの方がわからないのだが。
それはきっと一番ケ瀬もそうなのではないか。
「一番ケ瀬、お前に話がある」
今までなんとなくなあなあにして、ここまで流されてやってきたがこれ以上は許されない。
俺だけの問題ではなくなってしまった以上、線引きをしなければならないのだ。
「もう、俺のことを放っておいてほしい」
そして、恐らくこれが最小の被害で済むという俺の考えた中で最効率且つ最善の手だった。
そんなときだった。俺がやつと再会したのは。
丁度放課後になり、そろそろ帰ろうかと一番ケ瀬がやってきた矢先のこと、一番ケ瀬は生徒会の顧問に呼び出されたのだ。
流石に無視するわけにもいかないだろうと渋る一番ケ瀬を見送ったあと、俺は一番ケ瀬を教室で待っていた。
そんなときだ。二年の教室にあの男が現れた。
「やあ、十鳥君」
「……え」
生徒会書記であるあの二重人格性悪男が俺の教室にやってきたのだ。
幸い、他にも残っている生徒もいたので王子様面のままだが、それでも見たくはない顔であることには違いない。
「なんの用だよ」
「はは、先輩に向かってタメ口とはね」
「……っ、ですか」
「おお、ちゃんと訂正した。偉いね」
……なんなのだ、この男は。
周りの視線がチクチクと突き刺さるのを感じながら、俺は目の前の男を見上げる。
「一番ケ瀬ならさっき、生徒会の顧問の先生に呼び出されてどっか行きましたよ」
「ああ、知ってるよ。……そうじゃなきゃ、わざわざこんなところに来るわけないだろ?」
後半は俺にだけ聞こえる声量で囁かれ、咄嗟に後退った。が、遅かった。そのまま俺の腕を掴んだ八雲はにっこりと微笑むのだ。
「僕が用があったのは君だよ、十鳥君。……ちょっといいかな」
「…………」
良いわけなんてない。
もう少し待てば一番ケ瀬も戻ってくるかもしれない。
どう考えても、この男と二人きりになることは得策ではないと分かっていた。
「すみませんけど、俺には用はないんで」
「一番ケ瀬君のことだよ」
「……っ、え」
思わず俺は八雲を見上げる。
目が合えば、八雲はふわりと微笑むのだ。
「君は知っておいた方が良いんじゃないかなって思ってさ、……一番ケ瀬君が今どんな状況に置かれてるのか」
「君のせいで」その薄く整った唇が動いた。
吐き出されたその言葉に、心臓がどくんと跳ね上がる。
「君には僕の話を聞く権利はあると思うんだけど? まあ、君が一番ケ瀬君がこの先どうなろうが興味ないというのなら無理強いするつもりはないけどね」
本当にこの男は性格が悪いと思う。
罠だと、関わったところでろくな目に遭わないと分からせておきながらも、わざわざ退路を塞いで誘導するような真似をする八雲にムカついた。
「……話なら、ここじゃ駄目なんですか」
「駄目だね」
「どうして……」
「君と二人きりになりたいから」
そう顔を寄せてくる八雲に全身にサブイボが立つ。思わず後退ろうとした俺の腕を手綱のように引っ張った八雲は「なんて」と小さく笑った。
「――言うわけないだろ? まさか、またなにかされるんじゃないかって期待でもしてるの?」
「っ、違う」
「ふふ、じゃあなにも躊躇うことはないじゃないか。……行くよ、僕も暇じゃないんだ」
――この男、本当に。
今すぐにでもこの男の腐った部分を周りに言いふらしてやりたかったが、敵に回すには明らかに分が悪すぎる。
周りから向けられる目がそれをよく物語っていた。俺たちの会話の内容を知らない周りからしてみれば、ただ俺が八雲に誘われてるようにしか見えてないのだろう。現に、向けられるその視線には羨望の眼差しもあった。
……最悪だ。
そう思いながら、それでも一番ケ瀬の話が気になった俺は観念して八雲の後についていくことにした。
八雲に連れられてやってきたのは適当な空き教室だった。
ただでさえこんなやつと二人きりになりたくないのに、なんでこんな人気のない場所を選ぶのか。
なるべく俺は八雲と一定の距離を保ちながら、「それで、話ってなんすか」と目の前の男に単刀直入に尋ねた。
後ろ手に扉を閉めながら、八雲は笑う。先程までの柔らかな笑顔ではない、いつの日か俺を犯したときのあの嫌な笑顔を浮かべて。
「何ですか、だろ? お前、四軍のくせにまだ自分の立場分かってないのかよ」
「……っ、……」
やっぱり、こんなやつに従うのではなかった。
もういい、聞くだけ無駄だ。そう思ってそのまま教室を出ようとすれば「おっと」と八雲に二の腕を掴まれる。
「……っ離せ……!」
「なんだ、一番ケ瀬のやつのことが気になるんじゃなかったのか?」
「だったら、早く言えよ。わざわざ触れる必要なんかないだろ……っ!」
「それを決めるのはこっちだよ、四軍君」
言うや否や、八雲に強く腕を引っ張られ、思わずバランスを崩してしまう。そのまま八雲に抱留められ、まるで抱き寄せるような格好にぎょっとした。
「っ、は、なせ……っ、ん、う……っ!」
躊躇なく顎を掴んでくる八雲。覆いかぶさってくる影に視界が暗くなったと思った矢先、そのまま噛み付くようにキスをされる。
「っ、ぅ、ふ……っ!」
分かっていたはずだ。こいつがろくでもないクソ野郎だと。それなのにまた、この間と同じような真似をされている自分にショックを受ける。
咄嗟に付き飛ばそうと八雲の胸を押し返すが、見た目よりもがっしりとした上半身は俺の力では歯が立たない。
唇を舐められ、そのまま唇をこじ開けられそうになるのを必死に唇を結んで耐えた。そんな俺に、やつは一笑する。
「は、……強情だな。この間はあんなに可愛かったのに」
「だ、まれ……っ! 俺は、こんなことするために来たんじゃない……っ!」
「彼氏のことがそんなに好きか?」
「か、れしじゃない……っ、あいつは、そんなんじゃ……」
「“そんなん”呼ばわりとはなあ。……可哀想に」
うるさい、黙れ。お前が一番ケ瀬のことを語るな。
そう言ってやりたかったのに、べろりと頬を舐められ息が詰まりそうになった。耳を引っ張られ、そのまま耳朶を唇で啄まれる。
「っ、や、めろ……っ、なに……」
「俺に抱かれたことも、まだあいつに言ってないんだろ? 馬鹿だな、本気で嫌なら泣きつけばよかっただろ。あいつならきっと、お前の味方してくれただろうに」
「それとも、またこうされるのを期待してたのか?」唾液で濡れた舌に耳の凹凸を舐められ、ふうっと息を吹きかけられた瞬間背筋がぞくぞくと震えた。ふざけるな、と体を離そうとするが、腰を抱き寄せられれば逃れることはできなかった。
「だ、れが……っ」
「けど、そうしなかったってことは分かってるんだろ? 俺との関係があいつにバレたらどうなるかって。……だから、この間も食堂で健気に我慢してたもんな?」
「さ、わるな……」
「一番ケ瀬のことが気になるんだろ? じゃあ――取り敢えずしゃぶれよ」
俺の手を取ったまま、八雲はそう言って自分の下半身を握らせてくるのだ。耳を疑った。
咄嗟に手を離そうとするが、やつはそれを許さない。それどころか、掌を重ねるように指を絡めては、更に自分の股間を握らせてくるのだ。既に硬くなり、膨らんでるその感触がただただ不愉快で、全身から血の気が引いていく。
「……っ、あんた、おかしいんじゃないのか……っ?!」
「うるっせえな、ほら、さっさとしろ」
「誰が……」
「じゃあ、お前を庇うためにあいつが夜な夜なパーティー開いたり、その濡れ衣を七搦に着せたってこと、九重会長に報告してもいいんだ?」
「……っ!」
やるか、と言いかけた矢先だった。八雲の口から出てきた言葉に呼吸が止まる。
なんで知ってるのだ。――まさか、七搦のやつか。
「あ、あんただって……似たようなことしてるだろ!」
「僕のは慈善活動だよ。お互い合意の上だし、皆得してる」
「でもあいつがしてたのは輪姦パーティーだよ、その違いがわかるかな?」人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる八雲にカッと顔が熱くなる。
なにが慈善活動だ、あんな悪趣味な集まりのどこがだ。
それに、と喉まで言葉が出かける。思い出したくもない記憶が頭に過り、視界が狭くなっていく。
「……っ、それ言うなら、あんたらだって――」
「ああ。あと、何か勘違いしてるみたいだけどさ」
そう目の前の男を睨もうとしたときだった。
片手でジッパーを下ろした八雲はそのまま性器を取り出した。生々しい肉の感触とその熱に気を取られ、思わず視線を下げたときだった。いきなり後頭部を押さえつけられ、八雲の足元へと屈ませられる。
そして、
「――お前をレイプするのは合意なんだわ」
「んぶ……っ!」
人の言葉を聞く前に、そのまま強引に唇にねじ込まれる性器にぎょっとした。拒む暇もなく俺の顎を無理矢理こじ開けたそれは喉の奥まで挿入される。
「んぐ、う゛……ッ!」
「……は、ちゃんと彼氏に練習させてもらってないのか? 相変わらずドへたくそだな……っ!」
喉の奥まで塞ぎ、みっちりと詰まる舌の上のそれにただ吐き気を覚える。あまりにもいきなりなもので、呼吸の方法が一瞬わからなかった。
逃げようとする俺の後頭部を押さえつけたまま、八雲は躊躇なくひとの喉をオナホかなにかのようにして性器を突っ込んでくる。
「っ、ぉ゛、ん゛ッ、う゛」
「汚え声、色気もねえな。一番ケ瀬はそれで喜ぶのか?」
「う゛ッ、む゛」
あいつの名前を出すな。そう言いたいのに睨むことすらできない。目の前にはやつの下半身しか見えなくて、こちらのペースなんてお構いなしに自分勝手に腰を動かしてくる。吐き気が止まらない。いっそのこと口の中の物に歯を立てればと思うが、無駄に太さがあるそれを噛むほどの顎の力すらも入らなかった。
もがく俺を見下ろしたまま、それでも苦しむたびに収縮する喉の感触を楽しんでるらしい。舌の上でびくびくと脈打つ性器から滲む先走りを咥内の粘膜、頬の裏側から上顎まで塗り込むように今度はねっとりと犯され、堪らず嗚咽が漏れる。
「はあ……っ、及第点だな、変に演技臭いのよりはリアル感あっていいな、その反応」
「っ、う゛、ん゛お゛ぇ゛……ッ」
「吐くなよ、ほら、頑張って舌と喉動かせよ。彼氏のこと、気になるんだろ?」
「ッ、ふー……ッぅ゛……ッ」
「は、……っ、一番ケ瀬の名前出す度に締まるのな、お前の喉マン」
――本当に、最低だ。
辱められ、馬鹿にされ、何故こんなことをさせられなきゃならないのか。
悔しくて腹が立つが、八雲相手に逆らおうとするだけ無駄だと分かっていた。それはもう、前回嫌というほどに。
さっさと終わらせる。頭の上から投げかけられる罵詈雑言を聞き流しながら、俺はもうただ八雲の好きにさせることにした。泣きそうなほど悔しいが、それが一番自分のためであると分かったからだ。
なにより、これ以上にこいつを楽しませたくなかった。
勝手に人の喉を使って性器を愛撫させる。ぐぷ、ぬぷ、と咥内でカウパーと唾液が混ざり、泡立つ。それを必死に耐えつつ、文句言われない程度に適当に舌を絡めれば、「下手くそ」と更に八雲に喉奥まで性器を突き立てられるのだ。
「ッぅ゛、んぉ゛ッ、ぐぷッ」
「……はぁ゛―~~ッ、これこれこれ! 下手くそなフェラよりすげえいい、四軍君にしかできないよな、こんなの……ッ!」
「っぶ、ぅ゛むッ!」
「っ……あー出そ、イクからな、全部ちゃーんと飲めよ。一滴でも漏らしたらこのまま最後までヤるから」
「……ッ」
冗談だろ、と青ざめた矢先。ごぷ、と喉の奥、吐き出される精液に驚いて狭くなった喉。粘膜に絡みつき、噎せたあまり逆流してきそうになるそれに慌てて八雲のものから口を抜いた俺は自分の口を塞いだ。が、遅かった。咳き込んだ次の瞬間、ごぷ、と指と指の隙間から、鼻の穴から、飲み込みきれなかった精液が溢れ、顔面を汚した。
しまった、と青ざめる俺を見下ろしたまま、八雲は唇を歪めて笑った。
「ほんっと、欲しがりだよな。……お前」
そして、髪を引っ張られ、そのまま壁に体を押し付けられた。胸に壁の硬く冷たい感触が押し付けられぎょっとするのも束の間、突き出すような形で掴まれた下半身に這わされる大きな手に背筋が震えた。
「まっ、べ、ま゛っへ、も゛ッ、いっがい」
「なんて言ってんのかわかんねえよ……っ、ほら、逃げんなって……ッ」
「っ、ぁ゛ッ、いやだ、やめ……んん……っ!」
「無理矢理されてるみてーな声出してんじゃねえよ……ッ、もっと可愛い声で鳴く練習しとけ? なあ、ほら、十鳥ちゃん」
「っふ、ぅ゛……ッ!」
精液で汚れた口元をそのまま八雲の手に塞がれたと思えば、今度は下半身に押し付けられる性器の感触にぞっと震えた。先程出したばかりだというのに、既に大きくなったそれは制服越し、丁度割れ目の上に乗せるように置かれるのだ。
何故、何故俺がこんな目に遭わなければならないのか。
何度も自問を繰り返してきた問を、今もまた問い掛ける。
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ろくな準備もされていない。初めてではないにしてもだ、勝手に濡れるわけではないそこに挿入されてみろ。最早それは拷問に等しい。
恐らく背後の男は分かっててそうやってるのだ。お前なんかこれで十分だろと、いつも側にいる見目麗しいセフレにはこんな真似など絶対しないのだ。
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「……っ、……ん、ぅ゛……」
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「そんなに気になるのかよ、あいつのこと。よっぽど可愛がられてんのか?」
「っ……」
黙れ、いいからさっさと言え。
そう頭の中で言い返しながら、裏筋の凹凸に舌を這わせれば、八雲は小さく息を漏らす。そしてそのまま俺の髪に指を絡めるのだ。
「――……最近、あいつが全部投げ出してお前に付きっきりになってんの、気付いてるか?」
八雲の言葉に、思わず目を開ける。
そのままやつを見上げれば、こちらを見下ろしていた八雲と視線がぶつかった。
「あれ、すぐやめさせねーと……リコールされるぞ」
「……っ、り、こーるって」
思わず性器から口を外し、声を上げれば「そのまましゃぶってろ」と言わんばかりにすぐ唇に亀頭を押し付けられる。渋々俺はそのまま亀頭に舌を這わせた。ちろりと尿道口の窄みに尖らせた舌を這わせれば、八雲は呼吸を乱す。しかしそれも一瞬のことだ。
「……会長が許すわけねえだろって話。あいつの立場が悪くなってもいいんなら、このまま恋人ごっこしてろ。……その代わり、あいつも四軍落ちになるかもな」
「七搦のやつが今頑張って一番ケ瀬に探り入れてっから、気をつけろよ」それとも、仲間が増えた方がお前の仕事が減って楽か?と八雲は下卑た笑いを浮かべる。
正直、話が頭に入ってこなかった。意味は分かった。けれど、それを理解することを脳が拒否している。
――一番ケ瀬がリコール。
それだけならまだしも、四軍落ちになるなんて。
血の気が引く。あまりの衝撃に手を止めれば、舌打ちした八雲に「止めるな」とシャツ越しに乳首を抓られ、背筋が震えた。
「どうにかしたいんだったら、あいつをお前から離させるようにするしかねえな。……せめて、生徒会室に顔出して、会長の機嫌取りさせるように言えよ」
「それか、お前が直接会長に頼み込むか?」自慢の体でな、なんて抓られたばかりでジンジンと痺れるそこを今度は柔らかく揉まれ、びく、と大きく胸元が震えた。
考えたくない。それでも、一番ケ瀬をこのままにしておくわけにはいかない。
そのこと自体は俺も違和感を抱いていたことだ。
乳輪ごと乳首を捏ねられながら、俺はなるべく意識しないように八雲の性器に残っていた精液を犬のように舐めとる。
「……っ、ふ、そうやって忠犬ぶってりゃ、あの堅物でも気に入るかもな」
そんな八雲の言葉を聞き流しながら、俺はただ目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
「まあつまりそういうことだ。彼のことが本当に心配だと言うのならちゃんと君のその可愛い口から忠告してみるといい」
「僕とは会ってすらくれなかったけど、君の話なら一番ケ瀬君もちゃんと耳を傾けてくれるかもしれないからね」そうベルトを閉め直した八雲は普段と変わりない柔らかい口調で続けるのだ。
散々人を好き勝手犯してスッキリしたのか知らないが、あまりにも先程までとは別人のような八雲には毎度呆れさせられる。
「そりゃどうも」とだけ返しておく。
それから人を残して八雲はさっさと教室を出た。
あの男、本当に忠告しにきたつもりだったのか。
……取り敢えず、口を洗いたい。
◆ ◆ ◆
八雲と別れたあと、その他諸々の後片付けをした俺は疲れ切ったまま教室へと戻った。
流石に一番ケ瀬も教室に戻ってきてるかもしれない、と思いながら扉を開けば、案の定そこには一番ケ瀬がいた。
俺の顔を見るなり、あいつは「十鳥!」と駆け寄ってくる。
「……遅かったな。八雲先輩に呼ばれたって聞いてずっと待ってたんだぞ」
「あ、ああ……悪い」
「なにかあったのか?」
「いや、大したことじゃない」
だから、そんなに心配しなくてもいい。
そう一番ケ瀬を落ち着かせ、いち早く部屋に帰りたかった俺は「取り敢えず、帰るか」と一番ケ瀬に声を掛ける。
一番ケ瀬は何か言いたげな顔をしていたが異論はないようだ。「ああ」とだけ頷き、そのまま俺の荷物を取ってくる。
「あ、悪い……」
「いいよ、俺が持つ」
「一番ケ瀬」
一軍の、それも生徒会のお前にそんなことさせれるか。そう慌てて一番ケ瀬から鞄を取り戻そうとするが、わざと俺の手に届かないようにひょいと持ち上げた一番ケ瀬。
「おい……お前のファンに恨まれる」
「俺にファンはいないよ」
「何言ってんだよ」
「俺がやりたいって言ってるんだ。……他の奴らのことなんて気にする必要ないだろ」
しかも、なんで少し怒ってるんだよ。
そう言って、空いた方の手で「帰るぞ」と一番ケ瀬は手を握ってくる。そしてそのまま歩き出すのだ。
俺の頭の中には八雲の忠告が響いていた。
もしかして、さっきの顧問に呼び出されていたのも俺のせいなのか?
そこまで考えて、やはりこのままでは駄目だと改めて決心する。
取り敢えず、一番ケ瀬と話をしよう。
周りの目があるところでは駄目だ、部屋に帰ってちゃんと向き合わなければ。
学生寮の一番ケ瀬の部屋へと戻る途中、俺はずっとそんなことを考えていた。
きっと、俺の表情からも一番ケ瀬はなにかを感じていたのかもしれない。あいつも、いつもの他愛ない会話をふっかけてくることをしなかった。
――学生寮・一番ケ瀬の部屋。
「ただいま」
「……ただいま」
お邪魔します、というには今更ではあった。
大きく玄関口の扉を開いた一番ケ瀬は、そのまま「入れよ」と俺を招く。
この玄関口を跨いだのも何度目だろうか。そんなことを考えながら、俺は一番ケ瀬に促されるがまま踏み込んだ。
そして後ろから着いてきた一番ケ瀬はそのまま扉を閉める。背後から聞こえてくるロック音を聞きながら、俺は取り敢えずリビングルームへと移動した。
最初は一番ケ瀬の私物しかなかった部屋だが、あった方がいいだろうという一番ケ瀬によって俺の分の机や棚も増えた。
本当に優しいやつだと思う。俺が断ると分かってるから毎回黙って設置していくという強引なやつでもあるが。
「十鳥」
着いてきた一番ケ瀬に名前を呼ばれ、立ち止まった。
「……一番ケ瀬」
「お前、教室に戻ってきてからずっと変だぞ。……あの人からなにか言われたのか?」
俺からしてみれば、もう今まで通りがどういうものだったのかの方がわからないのだが。
それはきっと一番ケ瀬もそうなのではないか。
「一番ケ瀬、お前に話がある」
今までなんとなくなあなあにして、ここまで流されてやってきたがこれ以上は許されない。
俺だけの問題ではなくなってしまった以上、線引きをしなければならないのだ。
「もう、俺のことを放っておいてほしい」
そして、恐らくこれが最小の被害で済むという俺の考えた中で最効率且つ最善の手だった。
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