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土砂降り注ぐイイオトコ
おや?笹山の様子が…
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――ふう、危なかった。
勢いで店の中まで逃げ込んでくれば、カウンターにいた笹山が「原田さん」と手を振ってくる。
「さ、笹山……」
「どうでしたか? さっき向坂さんが向かわれてたみたいでしたが……」
「ああ、まあ……なんとかなったっていうか、あとは向こうに任せるというか……」
「そうでしたか。それはよかった……のでしょうか」
そこ疑問系になるよな、わかる。
うーん、と顎に手を当て考え込む笹山に「少なくとも、再犯はなくなるんじゃないか?」とフォローしておくことにした。
しまった、フォローになってんのか?これ。
「まあ、確かにそう考えればいいんですね」
「そうだな、ああ、そうだ」
「はは……」
「へへ……」
「……」
「……」
……なんだこの空気は?!
笹山と面と面向かい合って話してる内に、脳汁ドバ状態の勢いのまま笹山としたあらゆる行為が蘇り、俺はなんだか急激に恥ずかしくなった。
そしてどうやらそれは笹山にも伝播してしまったらしい。じわ、と頬を赤くした笹山はばつが悪そうに俺から目を逸し、そして小さく咳払いをする。
「そ、そういえば……この場合は店長と時川さんの『あの件』はどうなるんでしょうか」
笹山なりに話題を変えようとしてくれたのだろうが、思いの外ド直球できて少し言葉に詰まった。
「あ、あー……えーと、なんかよくわかんねえけど、多分なかったことになるんじゃね?」
「……原田さん、自分自身のことなんですよ。そんなあやふやな」
笹山の正論がグサグサ刺さる。現に店長から逃げ出してきた俺にとってはあまりにも尖すぎるのだ。
それに、一応表向き平和な感じで終わってるのだが、このあと司に呼び出されていることを思い出すとただ気が重くなってきた。
「う、うぅ~……笹山ぁ……」
「原田さん? どうしましたか……?」
癖で思わず笹山に抱きつきそうになったところで、伸びてきた手に優しく背中を撫でられてハッとする。
……そうだ、俺、笹山とセックスしたのだった。
笹山の触れ方がなんだかいつもと違うことに気付いてしまった俺は、ばっと慌てて笹山から離れた。
「原田さん……」
「自立って、こういうことを言うんだな」
「多分違うと思いますが……どうしたんですか?」
「いや、なんつーか……笹山も男なんだなと思ったら、なんか……こう……」
「原田さん、男ですよ俺は。……寧ろ今までなんだと思ってたんですか」
「ふわふわした癒やしマスコット」
「……そんな可愛がって下さってたんですね」
こほん、と少し照れたように笹山は咳払いをする。そして、複雑そうに眉尻を下げる笹山。
「原田さん。……正直なことをいうと、俺は原田さんに嫌われたくないです」
先程までとはまた違う、真面目なトーンで話し出す笹山に、つい「笹山?」と顔をあげる。
しょんぼりとした笹山とばちりと目が合ってしまう。
「原田さんが気まずいというのなら、俺もあのときのことはなかったことにするので……その、気にせず今まで通りに接していただきたいというか……」
「俺が言えた立場ではありませんが」と顔を赤くした笹山はばつが悪そうに目を反らすのだ。
怒られた犬みたいにしゅんとしてる。存在しないはずのしっぽが丸まってるのがわかった。けれど、笹山の言葉は純粋に嬉しい。
「俺も、笹山と今まで通りがいい……つーか、じゃねえと俺、どう話したらいいのかまでわかんなくなるし……」
毎回笹山には助けられてるし、これで変に気まずくなるのも嫌だし。つーか、そんなこと言ったら他の奴らはなんなんだって話なんだけど、多分笹山は真面目だからこんな風に気にしてくれるんだろう。
そう考えたら他のやつらまじでなんも変わんねえし一言も侘び入れてこないのなんだまじ。
なんて矛先がここにはいないやつらに向きかけた矢先、
「原田さん……っ」
目をキラキラさせた笹山に、ひし、と抱き締められた。潰れる。
「さ、笹山……っ」
「あ、ご、ごめんなさい……っ! 嬉しくてつい」
「いや、ついならいいんだけど……その……いきなりはドキドキするってか」
「すみません、俺……どうしてもスキンシップ多いみたいで……。原田さんはこうして触れられるのとかやっぱ嫌ですよね」
「え、え……や、嫌ってわけじゃ……ないってか……笹山なら良いってか……」
「――……本当ですか?」
ほんの一瞬、耳元で吐き出された笹山の声が低くなる。瞬間、先程バックヤードでのあれやこれが全身に蘇り、どくんと心臓が大きく跳ねた。体温が急上昇していく。
「さ、笹山……っ?」
「俺だったらいいんですか?」
「ぁ、う……そ、そう、だけど……っ」
なんだ、なんとなく笹山の雰囲気が変わった気がする。俺の知ってるふわふわした笹山とは違う、先程バックヤードで見た笹山と同じ雰囲気に思わず後ずさりしそうになったところで笹山はぱっと俺から手を離した。
「……原田さんにそう言ってもらえて良かったです、俺」
……あれ?気のせいか?
瞬きをすれば先程と変わらないいつもの優しい笑顔を浮かべた笹山がいた。
「じゃあまた、これからよろしくお願いしますね。……原田さん」
ドクドクと鼓動の間隔が短くなっていく。差し出された手を恐る恐る手に取れば、ゴツゴツとした節の凹凸や、長く骨っぽい指の感触がどうしても行為のことを思い出して下腹部がじんわりと熱くなってしまう。
やべえ、どうしたんだ俺。
実家の兄の顔を思い出し必死に落ち着かせながら、「あ、ああ……よろしく」と頷いた。
兄の存在は偉大だ、すぐに熱は引いていった。
勢いで店の中まで逃げ込んでくれば、カウンターにいた笹山が「原田さん」と手を振ってくる。
「さ、笹山……」
「どうでしたか? さっき向坂さんが向かわれてたみたいでしたが……」
「ああ、まあ……なんとかなったっていうか、あとは向こうに任せるというか……」
「そうでしたか。それはよかった……のでしょうか」
そこ疑問系になるよな、わかる。
うーん、と顎に手を当て考え込む笹山に「少なくとも、再犯はなくなるんじゃないか?」とフォローしておくことにした。
しまった、フォローになってんのか?これ。
「まあ、確かにそう考えればいいんですね」
「そうだな、ああ、そうだ」
「はは……」
「へへ……」
「……」
「……」
……なんだこの空気は?!
笹山と面と面向かい合って話してる内に、脳汁ドバ状態の勢いのまま笹山としたあらゆる行為が蘇り、俺はなんだか急激に恥ずかしくなった。
そしてどうやらそれは笹山にも伝播してしまったらしい。じわ、と頬を赤くした笹山はばつが悪そうに俺から目を逸し、そして小さく咳払いをする。
「そ、そういえば……この場合は店長と時川さんの『あの件』はどうなるんでしょうか」
笹山なりに話題を変えようとしてくれたのだろうが、思いの外ド直球できて少し言葉に詰まった。
「あ、あー……えーと、なんかよくわかんねえけど、多分なかったことになるんじゃね?」
「……原田さん、自分自身のことなんですよ。そんなあやふやな」
笹山の正論がグサグサ刺さる。現に店長から逃げ出してきた俺にとってはあまりにも尖すぎるのだ。
それに、一応表向き平和な感じで終わってるのだが、このあと司に呼び出されていることを思い出すとただ気が重くなってきた。
「う、うぅ~……笹山ぁ……」
「原田さん? どうしましたか……?」
癖で思わず笹山に抱きつきそうになったところで、伸びてきた手に優しく背中を撫でられてハッとする。
……そうだ、俺、笹山とセックスしたのだった。
笹山の触れ方がなんだかいつもと違うことに気付いてしまった俺は、ばっと慌てて笹山から離れた。
「原田さん……」
「自立って、こういうことを言うんだな」
「多分違うと思いますが……どうしたんですか?」
「いや、なんつーか……笹山も男なんだなと思ったら、なんか……こう……」
「原田さん、男ですよ俺は。……寧ろ今までなんだと思ってたんですか」
「ふわふわした癒やしマスコット」
「……そんな可愛がって下さってたんですね」
こほん、と少し照れたように笹山は咳払いをする。そして、複雑そうに眉尻を下げる笹山。
「原田さん。……正直なことをいうと、俺は原田さんに嫌われたくないです」
先程までとはまた違う、真面目なトーンで話し出す笹山に、つい「笹山?」と顔をあげる。
しょんぼりとした笹山とばちりと目が合ってしまう。
「原田さんが気まずいというのなら、俺もあのときのことはなかったことにするので……その、気にせず今まで通りに接していただきたいというか……」
「俺が言えた立場ではありませんが」と顔を赤くした笹山はばつが悪そうに目を反らすのだ。
怒られた犬みたいにしゅんとしてる。存在しないはずのしっぽが丸まってるのがわかった。けれど、笹山の言葉は純粋に嬉しい。
「俺も、笹山と今まで通りがいい……つーか、じゃねえと俺、どう話したらいいのかまでわかんなくなるし……」
毎回笹山には助けられてるし、これで変に気まずくなるのも嫌だし。つーか、そんなこと言ったら他の奴らはなんなんだって話なんだけど、多分笹山は真面目だからこんな風に気にしてくれるんだろう。
そう考えたら他のやつらまじでなんも変わんねえし一言も侘び入れてこないのなんだまじ。
なんて矛先がここにはいないやつらに向きかけた矢先、
「原田さん……っ」
目をキラキラさせた笹山に、ひし、と抱き締められた。潰れる。
「さ、笹山……っ」
「あ、ご、ごめんなさい……っ! 嬉しくてつい」
「いや、ついならいいんだけど……その……いきなりはドキドキするってか」
「すみません、俺……どうしてもスキンシップ多いみたいで……。原田さんはこうして触れられるのとかやっぱ嫌ですよね」
「え、え……や、嫌ってわけじゃ……ないってか……笹山なら良いってか……」
「――……本当ですか?」
ほんの一瞬、耳元で吐き出された笹山の声が低くなる。瞬間、先程バックヤードでのあれやこれが全身に蘇り、どくんと心臓が大きく跳ねた。体温が急上昇していく。
「さ、笹山……っ?」
「俺だったらいいんですか?」
「ぁ、う……そ、そう、だけど……っ」
なんだ、なんとなく笹山の雰囲気が変わった気がする。俺の知ってるふわふわした笹山とは違う、先程バックヤードで見た笹山と同じ雰囲気に思わず後ずさりしそうになったところで笹山はぱっと俺から手を離した。
「……原田さんにそう言ってもらえて良かったです、俺」
……あれ?気のせいか?
瞬きをすれば先程と変わらないいつもの優しい笑顔を浮かべた笹山がいた。
「じゃあまた、これからよろしくお願いしますね。……原田さん」
ドクドクと鼓動の間隔が短くなっていく。差し出された手を恐る恐る手に取れば、ゴツゴツとした節の凹凸や、長く骨っぽい指の感触がどうしても行為のことを思い出して下腹部がじんわりと熱くなってしまう。
やべえ、どうしたんだ俺。
実家の兄の顔を思い出し必死に落ち着かせながら、「あ、ああ……よろしく」と頷いた。
兄の存在は偉大だ、すぐに熱は引いていった。
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