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土砂降り注ぐイイオトコ
強烈な追撃
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男を連行する向坂さんを見送ったあと、店長はそのままこちらへと向き直るのだ。
「ようやく終わったか。……後片付けは残ってるが、これで暫くは落ち着くだろう」
一件落着というやつだなと冷ややかに笑う店長。
その後片付け部分が大きすぎる気がしないでもないが、そうか。あのストーカーがいなくなったとなると、笹山とのことも気にしなくてもいいのか。
……なんだかやけに遠回りした気もするが、もう店長と恋人ごっこなどという面倒なこともしなくても済むのだ。司のことも、それさえなくなれば落ち着くわけだし。
なんてそこまで考えて、少しだけ胸の奥がすっとした感覚に襲われる。
そんな俺をじっと見下ろしていた店長は、そのまま俺の頭を撫でるのだ。
「わ……っ! な、なんすか、ちょっと」
「撫でてほしそうな顔をしているな、と思っただけだ」
「別に、そんなわけじゃ……」
「原田お前、俺と恋人のフリする必要なくなって感傷的にでもなってるんだろ? 俺には分かるぞ」
「んなわけ……っ! 寧ろ清々してます!」
わっとつい脊髄反射で口にしたあと、少しだけしまったと後悔した。
店長は相変わらずニヤニヤと笑いながら、「ほう」と顎の下を撫でる。
「清々するのか、随分と寂しいことを言うではないか。あんなにかわいがってやったというのに」
「……っ、それは、少し、言い過ぎましたけども……でも店長だって……その……」
「俺は楽しかったぞ」
「――え」
「特定の相手を作るのも悪くはない、と思った」
「お前はどうだ?佳那汰」と顔を寄せてくる店長に息を飲む。
なんだ、なんなのだこの睫毛野郎は。普段だったらこんなこと、こんな風に優しく問いかけてこないくせに。
あ、う、と言葉に詰まってる間にあっという間にコンクリの壁の際際にまで追いやられていた。目の前には店長。
「っ、て、店長……」
「別に俺は、お前が相手なら『フリ』じゃなくてもいいんだけどな」
「……告白にしては、わりと最低なこと言ってませんか」
「む、そうか? 誠実な男が好みか」
「大半の人間はそうだと思います……っ!」
ふは、と小さく吹き出し、店長は俺から顔を離した。
誂われているのが分かったからこそついむっとしたとき、視界が陰る。ほんの少し息を飲んだときだった。ちゅ、と軽く唇が触れ、俺は目を丸くしたまま顔を上げた。
ギラギラのネオンの看板が唯一照明代わりになった薄暗い路地裏、大通りの方から聞こえてくる酔っ払いの陽気な歌声が遠退く。
「原田、お前は知らんだろうが案外俺は誠実だぞ」
逆光で店長の表情が暗くなり、その表情まではよく見えなかった。それでもあまりにも優しい声で囁くものだから、俺は「どこがだ」とツッコむことを忘れてただ固まっていた。
断じて見惚れていたわけではない。ミリもきゅん、なんてしていない。そんなわけではないのに、俺はそれ以上店長の顔を見ることができなかった。
そして、
「誠実な大人は面接でセクハラなんてしねえよ!!」
そう叫びながら俺は脱兎のごとく逃げ出したのだ。
「ようやく終わったか。……後片付けは残ってるが、これで暫くは落ち着くだろう」
一件落着というやつだなと冷ややかに笑う店長。
その後片付け部分が大きすぎる気がしないでもないが、そうか。あのストーカーがいなくなったとなると、笹山とのことも気にしなくてもいいのか。
……なんだかやけに遠回りした気もするが、もう店長と恋人ごっこなどという面倒なこともしなくても済むのだ。司のことも、それさえなくなれば落ち着くわけだし。
なんてそこまで考えて、少しだけ胸の奥がすっとした感覚に襲われる。
そんな俺をじっと見下ろしていた店長は、そのまま俺の頭を撫でるのだ。
「わ……っ! な、なんすか、ちょっと」
「撫でてほしそうな顔をしているな、と思っただけだ」
「別に、そんなわけじゃ……」
「原田お前、俺と恋人のフリする必要なくなって感傷的にでもなってるんだろ? 俺には分かるぞ」
「んなわけ……っ! 寧ろ清々してます!」
わっとつい脊髄反射で口にしたあと、少しだけしまったと後悔した。
店長は相変わらずニヤニヤと笑いながら、「ほう」と顎の下を撫でる。
「清々するのか、随分と寂しいことを言うではないか。あんなにかわいがってやったというのに」
「……っ、それは、少し、言い過ぎましたけども……でも店長だって……その……」
「俺は楽しかったぞ」
「――え」
「特定の相手を作るのも悪くはない、と思った」
「お前はどうだ?佳那汰」と顔を寄せてくる店長に息を飲む。
なんだ、なんなのだこの睫毛野郎は。普段だったらこんなこと、こんな風に優しく問いかけてこないくせに。
あ、う、と言葉に詰まってる間にあっという間にコンクリの壁の際際にまで追いやられていた。目の前には店長。
「っ、て、店長……」
「別に俺は、お前が相手なら『フリ』じゃなくてもいいんだけどな」
「……告白にしては、わりと最低なこと言ってませんか」
「む、そうか? 誠実な男が好みか」
「大半の人間はそうだと思います……っ!」
ふは、と小さく吹き出し、店長は俺から顔を離した。
誂われているのが分かったからこそついむっとしたとき、視界が陰る。ほんの少し息を飲んだときだった。ちゅ、と軽く唇が触れ、俺は目を丸くしたまま顔を上げた。
ギラギラのネオンの看板が唯一照明代わりになった薄暗い路地裏、大通りの方から聞こえてくる酔っ払いの陽気な歌声が遠退く。
「原田、お前は知らんだろうが案外俺は誠実だぞ」
逆光で店長の表情が暗くなり、その表情まではよく見えなかった。それでもあまりにも優しい声で囁くものだから、俺は「どこがだ」とツッコむことを忘れてただ固まっていた。
断じて見惚れていたわけではない。ミリもきゅん、なんてしていない。そんなわけではないのに、俺はそれ以上店長の顔を見ることができなかった。
そして、
「誠実な大人は面接でセクハラなんてしねえよ!!」
そう叫びながら俺は脱兎のごとく逃げ出したのだ。
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