アダルトな大人

田原摩耶

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土砂降り注ぐイイオトコ

まずは名前から※

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 地下にあるこの店はもちろん、事務室には外部からの光は入らない。
 ということはだ、電気を消したらまともに見える訳がなくて。

「ッ、ぁ、ちょっ、店長、待って下さい…ッ、待って下さいっ!」

 薄暗い事務室の中。
 服の中、入り込んできた手に直接体を弄られる。
 店長の手には違いないのだろうけど、如何せん相手の表情がわからなくて。
 それどころか、薄ぼんやりとでしか相手の居場所を感じることができないため、動きが予想できなくて。
 ああ、なるほど、と思った。

「いつまで俺を待たせれば気が済むんだ、お前は」

 店長の息を側で感じ、顔を上げた時、ぬるりとした熱い舌に耳朶を舐め上げられる。

「ぃ……っ、ぁ、ちょ……ッ」

 凹凸をなぞるその舌先の艶めかしい動きに、直接吹き掛かる吐息に、全神経が耳に集中する。
 明るい時以上に過敏になった神経にその熱は刺激が強すぎて、すぐ側から聞こえる湿った水音に顔が、全身が、熱くなる。

「っ、やっぱり、電気……ッ」

 視覚が効かなくなったというだけなのに、ここまで変わるとは思わなくて。
 見えないという不安感に加え、他の感覚の鋭利化で既に心臓は煩くなってて。
 このままでは心臓が保たない。そう判断した俺は恥を忍んで店長に頼もうとした。
 しかし、

「断る」

 断られた。

「自分から言い出したのだろう」
「だだだ、だって、だって、こんな…っ!」

 こんなに恥ずかしいとは思いもしなかったのだ。
 自業自得と言われればそこまでだが、でも、これは本当に辛い。

「ぃ、あ…ッ」

 矢先、首筋を擽られ、慌てて身を捩る。
 逃げようとしたその先で頬を撫でられ、反対側の耳に執拗に舌を這わされれば直接流れ込んでくる濡れた音に頭の中が真っ白になって。

「ま、待って、それ、やです、店長、店長…っ」

 ぞくぞくと背筋が震え、舐められた箇所が蕩けるように疼き始める。

「どうした。そんなに見えないことが不安か?」

 すぐ側から店長の声がして、喋る度に伝わってくる微かな振動にまで反応しそうになって。
 必死に堪えながらも、こくこくと数回頷き返せば店長が笑う。

「安心しろ。俺は夜目が効くからな」

 え、全く安心できないんですがそれは。

「ちょ…ちょっと、待って下さいっ」
「今度はなんだ。返答次第では服一枚ずつ脱がすからな」

 無茶苦茶な!

「そ、それって、ずるくないですかっ!店長だけ、その……見えるなんて……」

 自分で言って自分で照れてしまう始末だが、だってそうだろう。
 俺にはなんも見えないのに、店長は至って平常だなんて。
 と、そこまで考えて恥ずかしがって電気消すよう頼んだことを思い出す。

「そうだな。…………でも、まあ」
「っ、ぁあ?!」

 不意に、服の下を探っていたその手にTシャツをたくしあげられる。

「たまにはこういうのも悪くない」

 囁かれるその艶かしい声。
 濡れたそこに唇を寄せられ、吹き掛けられる熱い吐息が耳が熱くなって多分そのうち解ける。

「そん…な…っ、こと……っ」

 晒された胸元に這わされる手。
 その一本一本の指の動きにまで神経が向いてしまい、あっちこっち意識が飛びそうになってなんだかもう目が回りそうで。
 そんな中、親指で乳輪ごと摘まれ、全身が飛び上がりそうになった。

「あっ、や、やめ…ッ!」

 慌てて店長の手に重ね、離そうとするけどその指先に少し力を加えられるだけで力が抜けそうになって。

「っ、ぅ、ん、ぅう………ッ」

 店長に慣れるためだ、そう自分に言い聞かせようとしてもその感触を無視しようとしても余計店長の指の動きが鮮明に伝わってくるではないか。
 まだ少し触られただけだというのに、自分でも分かるくらい突起部分が張り詰めているのがわかって、余計恥ずかしさで泣きそうになった。いっそのこと穴があったら入りたい。

「てん、ちょ…っ…」

 店長の指の動きで頭がいっぱいになって、軽く摘むように引っ張られれば刺すような刺激に全身が飛び上がりそうになった。

「利人だ」
「……へ…?」
「二人きりの時は名前で呼べ」

「そうすれば、少しは恋人らしいだろう」と笑う店長。
 恋人。
 その単語に胸の奥がじんと熱くなって、真っ暗な視界の中、本当に店長と自分しかいないような錯覚に陥る。

「り、ひと、さん……」

 呂律の回らない口で、なぞるようにその名前を口にしたとき、胸元の店長の指が僅かに硬直した。
 きゅっと突起を摘まれ、胸が震える。
 それでも、なんでだろうか。そんな痛みも、悪くないと思える。
 これが恋人パワーか。なんて驚いた時。

「……そうだ、それでいい」

 満足したような店長の声。
 ちゅっと小さな音を立て、頬に軽く押し付けられる唇の感触がむず痒くて。

「佳那汰」

 耳たぶの側で、その艶やかな声に名前を呼ばれた瞬間、ぞくりと背筋に妙なものが走る。
 店長に初めて名前を呼ばれた。
 その事実に驚き、同時に妙な気分になった。それも束の間のことで。

「っ、りひとさ、ぁ…っ」

 もう片方の突起を擽られ、身を捩る。
 しかし背後の背もたれにぶつかってしまい、それ以上逃れることは出来なくて。

「っふ、ぁ……っ?」

 不意に、ぬるりとした舌の感触が乳首に触れ、瞬間頭の中になんか色々なものがだだ漏れになる。
 店長の指で神経が尖らせられていたそこは他の部位に比べ過敏になっているのは確実で、音を立てて唇で挟むようにして吸われた瞬間腰が大きく痙攣した。

「はっ、ぁ、あぁ…あ…ッ!」

 何も考えられなくなって、手探りで店長に縋り付く。
 体の中をぐるぐる巡っていた血液が下腹部に集中して、バクバクと馬鹿みたいに煩い鼓動が警報みたいに響き渡る。

「や、だ、てんちょ…ッ」
「名前を呼べと言ったはずだろう」
「んんぅッ!」

 瞬間、唇で挟めるように尖ったそこを柔らかく噛まれ、それだけでも頭がどうにかなりそうだというのに舌先で舐られればもどかしい快感に脳髄まで痺れそうになって。

「り、ひと、さん……っ」
「せっかくのごっこ遊びだ。ルールを決めるか、佳那汰」

 じんじんと熱に侵された思考の中、店長の低い声が頭の中に響く。
 あまり日常生活において聞き慣れないその単語に疑問符を浮かべたとき、円を描くようにもう片方の乳首を指で擽られ驚きのあまりなんか変な声が出そうになったが間一髪我慢した。よくやった俺。偉いぞ俺。

「その一、先ほども言った通り二人きりのときは名前を呼ぶこと」

 口を開けたらまた変な声出そうなので、代わりにこくこくと頷き返す。

「その二は俺の言う事を聞くことだ」

 なんとなくうっすらそんな気はしていたがまさかここまで俺の悪い予想に応えてくれる人間がいただろうか。
 恐らく暗闇の中の店長の表情はさぞかし輝いていることだろう。
 突っ込む気にすらなれない俺に、店長は「ああでも」と思い出したように付け足す。

「俺もお前に協力してやるから結果的にはプラマイ0だな」

「どうだ?嬉しいだろう?好きなこと頼んでもいいんだぞ?」そう続ける店長は恐らく俺の方がかなりマイナスになるということを気付いているのか、それとも本気で気付いていないのか。
 どちらにせよ、こんな状況でそんなルールを設けてくる店長が相変わらず食えないやつだといことは間違いないだろう。

「ほら、さっさと言え。俺に何をして欲しい?」

「あるんだろう、頼みたいことが」言いながら、胸板、浮かぶ筋を指でなぞられ全身が熱くなる。
 徐々に降りるその指に先程よりも明らかに騒がしくなる鼓動に、息が浅くなって。

「……っ」

 こんな質の悪い誘導、誰が乗るものか。そう、普段の俺なら突っ撥ねるだろう。
 なのに、相手の顔が見えないからか。どれだけ恥体晒そうが今なら許されそうな気がしてしまうのは相手が店長だからか、それとも、狭まった視野のせいか。
 固唾を飲み込んだ俺は、ゆっくりと口を開いた。

「っは、ぁ…ッあぁ……ッ!」

 濡れた、絡みつくような感触とともに体の中、入り込んでくる異物感に身の毛がよだつ。
 それでも、不快感以上に内部を抉じ開けるように挿入される性器の熱に全身が蕩けそうになって。
 なんでも言う事を聞く。
 そう言う店長にせめて豆電球だけでもとせがんだ結果、ある程度ものを捉えることのできるくらいの明るさを取り戻した視界だが、俺にとって難易度が高いことには変わりなくて。

「おい、力抜け」
「そ、んなこと…言われても…ッ」

 目の前、一人用のソファーに腰を店長の膝の上に跨った俺は店長にしがみついたまま動けなくて。
 下腹部、宛がわれた性器の尖端が入り込んでくるのを感じてしまえばそれ以上腰を下ろすことが出来なくて。
 中途半端に腰を浮かせたまま硬直する俺を、店長は笑いながらその腰を撫でてきた。

「別に、怖いならゆっくりとでもいいぞ」
「と…っ途中でいきなり腰掴んで一気に、とか、しませんか……?」
「それもそれで悪くはないが、俺はお前が自分で動くのを見てみたい」

 言いながら、首筋や鎖骨、胸に唇を寄せる店長。
 それもそれでなかなかの問題発言だが、そう言ってもらえると酷く安心して体の力が抜けそうになる。

「というかちょっと待て、なんだその経験談のような具体例は。誰だ、そんな真似をし輩は」
「え、あ、司が…」
「あいつか…ッ!」

 つい答えてしまったが、ここは黙って墓場まで持っていくべきだったかもしれない。
 唸る店長に、もしかして怒られるのだろうかと少し不安になった時、腰に回された手に抱き締められる、
 瞬間、上半身同士が密着し、流れ込んでくる店長の体温に驚いた。

「…っとにかく、これからは仮にとは言え俺の恋人になるんだからな。……あまり、他のやつらと仲良くするなよ」

 別に仲良くしているつもりはないが、取り敢えず頷いておく。
 そういうことなら寧ろ店長の方が注意すべきではないかと思ったが、言い返そうとした矢先、臀部へと伸びてきた手に徐ろに尻たぶを左右に割られ、出かけた文句を飲み込んだ。

「ん、っ、ぅ…」

 ゆっくりと、腰を落とされる。
 絡みつくようなその音に、深く、内壁を摩擦するようにして入り込んでくるその熱に、背筋がピンと伸びる。

「…息を吐け、窒息するぞ」

 耳元、囁きかけられるその声にぞわりと甘いものが駆け抜けいく。
 言われた通り、声を殺そうとしていた口を開き深く呼吸を繰り返せば、それに合わせるように店長は俺の腰をゆっくり下げてきて。

「ふっ、ぅ、あッ、あぁ…」

 全く息苦しさがないというわけではない。それでも、いつも以上に優しい挿入に体の負担が少ないのも事実で。
 心の奥底、いつも怯えていた挿入がここまで今はただ心地よくて。
 流れ込んでくる店長の熱に一抹の安心感すら感じ始めている自分に、自分でも驚いた。
 しかし、それ以上に。

「…よく頑張ったな、上出来だ」

 薄く微笑む店長はそう言って、目の縁にキスをしてくれた。
 まるで俺の知っている店長と同じ顔をした他人のような気がしてならないくらいのその豹変ぷりに、本当に自分が店長と付き合っているような、愛されているようなそんな錯覚に陥りそうになるのだから恐ろしい。
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