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モンスターファミリー
おいでませ原田家 *???side
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どれくらい時間が経っただろうか。
久し振りにやってきたその家の門の前、停車した車の中で俺は小さく体を起こす。
「ああ、ようやくついたのか。…疲れたな」
「店長横で爆睡してませんでしたっけ」
「寝疲れたんだよ」
「なら今度眠っていたら叩き起こしましょうか」
「そ、それは嫌だ…」
もしかしてこいつ俺だけが爆睡していたことを根にもっているのだろうか。恐ろしい奴め。
そんな他愛ない会話を交わしながら車を降りた俺は、目の前にどんと佇む日本家屋を見上げた。
地元でも有名なその屋敷には、ミナトさんとの付き合いで何度か訪れたことはある。
とは言っても、門の前までだが。
「しかし、相変わらずでかい屋敷だな」
「…なんか、やけに騒がしいですね」
「そうだな。それに、やけに警備が手薄だ」
以前ここに来たときは門の前には門番らしき男がいたりとやけに物騒なところだという印象があったが、今は見張りも用心棒も門番も誰もいない。
気になったが、それならそれで好都合だ。
「取り敢えず正々堂々といくか」
時川は同調するように無言で頷く。
というわけで、門の前にやってきた俺は閉め切られた扉に取り付けられたインターホンなるものを押した。
しかし、反応はない。
「……」
いやそんなはずがない、と俺はぴぴぴぴぴんぽーんとインターホンを連打する。
それでもやはり誰も出てこない。
「…可笑しいな」
「店長、こっちから入れそうですよ」
そう声を掛けてくる時川の前、俺の身長の何倍にもある大きな扉には、一人の人間が通れそうなくらいの普通サイズの扉が取り付けられているようで。
どうやら隠し扉のようだ。
よくそんなものを見付けたなという驚きとともに、そんな大切そうなところが施錠してないってどうなんだと不安になる。
「まあ、扉には変わりないしな。取り敢えず入るか」
そうさっそく気分を切り替えた俺たちは、原田家敷地内へと足を踏み込んだ。
◇ ◇ ◇
(原田波瑠香視点)
「ったく、あいつらどこを探してんのよ…ちょっと時間かかり過ぎじゃないの…?」
カナ兄を探し出せと命令したのが数時間。
どんだけ時間が掛かってるのよ。あんなにとろいカナ兄見つけるくらい簡単でしょ?
また一から教え込まないといけないわね。
そうぶつぶつと呟きながら裏庭の花に水をやっていると、それを見守っていた爺やが困ったように笑う。
「お嬢様、寂しかったのはわかりますがあまり佳那汰様方を虐めてあげないで下さい」
「爺やに言われなくてもわかってます。…それに、別に寂しくなんてありませんから」
「またそのような意地を…昔のように一緒に遊びたいのならあのような言い方はよくないですよ」
あくまでやんわりとした口調で咎めてくる爺や。
この人があたしが産まれてきたときから面倒見てくれていた使用人だからだろう、咎められたことに不快感は感じない。
だけど、
「爺やはわかってないです。普通に誘ったってカナ兄が相手してくれるわけないじゃないですか」
むっと顔をしかめて反論すれば、爺やは「そんなこと…」となにかを言い掛ける。そのときだ。
「あの、すみません。ここの家の方でしょうか」
ふいに、声を掛けられる。落ち着いた艶のあるその声に、一瞬、胸の鼓動が跳ね上がる。
手にしていたジョウロを落としそうになり、つられて振り返った。
そこにはスーツを着た男の人と、大学生くらいの男の人がいた。
そのスーツの男の人を見た瞬間、今度こそジョウロを落としてしまう。
中に入った水をぶち撒けるあたしに、「お嬢様」と驚いたような顔をした爺や。
慌ててそれを拾おうとしたとき、スーツの男の人は緩やかな動作でジョウロを拾い上げ、そして、固まるあたしにゆっくりと微笑みかけた。
「……よかった、その可愛い服には掛かっていないみたいだな」
「え…あ…っ」
長い睫毛。作り物のように整った端正な顔立ちの男の人に見詰められ、言葉が詰まる。
顔が熱くなって、動けない。
「ありがとうございます。…えっと、その、どちら様でしょうか?」
「ああ、自分は佳那汰さんの職場の者で…」
爺やに向き直るスーツの男の人の口からカナ兄の名前が出たような気がしないでもなかったけど、今、あたしの脳の処理機能はあまりのショックで正しく機能しておらず、あらゆる全てがただ通り抜けていくばかりで。
それでもただ、目の前のスーツの男の人だけは認識することができて。それ以外は、なにも入って来ない。
「……す……」
「え?」
「素敵…………」
そう呟いた瞬間、確かに目の前の世界の色が変わった。
ああ、これが、きっとこれが、噂の。
恋というやつですね、お兄様。
久し振りにやってきたその家の門の前、停車した車の中で俺は小さく体を起こす。
「ああ、ようやくついたのか。…疲れたな」
「店長横で爆睡してませんでしたっけ」
「寝疲れたんだよ」
「なら今度眠っていたら叩き起こしましょうか」
「そ、それは嫌だ…」
もしかしてこいつ俺だけが爆睡していたことを根にもっているのだろうか。恐ろしい奴め。
そんな他愛ない会話を交わしながら車を降りた俺は、目の前にどんと佇む日本家屋を見上げた。
地元でも有名なその屋敷には、ミナトさんとの付き合いで何度か訪れたことはある。
とは言っても、門の前までだが。
「しかし、相変わらずでかい屋敷だな」
「…なんか、やけに騒がしいですね」
「そうだな。それに、やけに警備が手薄だ」
以前ここに来たときは門の前には門番らしき男がいたりとやけに物騒なところだという印象があったが、今は見張りも用心棒も門番も誰もいない。
気になったが、それならそれで好都合だ。
「取り敢えず正々堂々といくか」
時川は同調するように無言で頷く。
というわけで、門の前にやってきた俺は閉め切られた扉に取り付けられたインターホンなるものを押した。
しかし、反応はない。
「……」
いやそんなはずがない、と俺はぴぴぴぴぴんぽーんとインターホンを連打する。
それでもやはり誰も出てこない。
「…可笑しいな」
「店長、こっちから入れそうですよ」
そう声を掛けてくる時川の前、俺の身長の何倍にもある大きな扉には、一人の人間が通れそうなくらいの普通サイズの扉が取り付けられているようで。
どうやら隠し扉のようだ。
よくそんなものを見付けたなという驚きとともに、そんな大切そうなところが施錠してないってどうなんだと不安になる。
「まあ、扉には変わりないしな。取り敢えず入るか」
そうさっそく気分を切り替えた俺たちは、原田家敷地内へと足を踏み込んだ。
◇ ◇ ◇
(原田波瑠香視点)
「ったく、あいつらどこを探してんのよ…ちょっと時間かかり過ぎじゃないの…?」
カナ兄を探し出せと命令したのが数時間。
どんだけ時間が掛かってるのよ。あんなにとろいカナ兄見つけるくらい簡単でしょ?
また一から教え込まないといけないわね。
そうぶつぶつと呟きながら裏庭の花に水をやっていると、それを見守っていた爺やが困ったように笑う。
「お嬢様、寂しかったのはわかりますがあまり佳那汰様方を虐めてあげないで下さい」
「爺やに言われなくてもわかってます。…それに、別に寂しくなんてありませんから」
「またそのような意地を…昔のように一緒に遊びたいのならあのような言い方はよくないですよ」
あくまでやんわりとした口調で咎めてくる爺や。
この人があたしが産まれてきたときから面倒見てくれていた使用人だからだろう、咎められたことに不快感は感じない。
だけど、
「爺やはわかってないです。普通に誘ったってカナ兄が相手してくれるわけないじゃないですか」
むっと顔をしかめて反論すれば、爺やは「そんなこと…」となにかを言い掛ける。そのときだ。
「あの、すみません。ここの家の方でしょうか」
ふいに、声を掛けられる。落ち着いた艶のあるその声に、一瞬、胸の鼓動が跳ね上がる。
手にしていたジョウロを落としそうになり、つられて振り返った。
そこにはスーツを着た男の人と、大学生くらいの男の人がいた。
そのスーツの男の人を見た瞬間、今度こそジョウロを落としてしまう。
中に入った水をぶち撒けるあたしに、「お嬢様」と驚いたような顔をした爺や。
慌ててそれを拾おうとしたとき、スーツの男の人は緩やかな動作でジョウロを拾い上げ、そして、固まるあたしにゆっくりと微笑みかけた。
「……よかった、その可愛い服には掛かっていないみたいだな」
「え…あ…っ」
長い睫毛。作り物のように整った端正な顔立ちの男の人に見詰められ、言葉が詰まる。
顔が熱くなって、動けない。
「ありがとうございます。…えっと、その、どちら様でしょうか?」
「ああ、自分は佳那汰さんの職場の者で…」
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それでもただ、目の前のスーツの男の人だけは認識することができて。それ以外は、なにも入って来ない。
「……す……」
「え?」
「素敵…………」
そう呟いた瞬間、確かに目の前の世界の色が変わった。
ああ、これが、きっとこれが、噂の。
恋というやつですね、お兄様。
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