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毒漬け砂糖のお味はいかが?
店長のお戯れ *笹山side
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原田さんはいい人だ。俺にも優しくしてくれるし、表情も豊かだし、たまにテンパってミスすることもあるけどそれでも一生懸命な姿を見てると元気をもらえる。
……原田さんには辞めてほしくないけどなぁ。
けれど、と元同級生の問題児の顔を浮かべる。
先程出勤していたが、大丈夫だろうかとなんだか落ち着かない気分になる。
阿奈、原田さんのこと気に入ってるようだし、いじめっ子基質というか人当たりが強い上傲慢な阿奈のせいで何人もの新人スタッフが辞めていったのを見てきた身としては正直、長く続かないだろうなぁと思わずにはいられなかった。
それに、いい人ほど辞めていくのだ。スタッフがスタッフなので仕方ないのだろうけど。
はあ、と無意識の内に溜息が漏れたが、うわははは!という阿奈の笑い声で掻き消された。
そんなとき休憩室の扉が開いて店長がやってきた。
「笹山、まだいたのか」
「はい、あと五分でフロア戻りますね」
「それは構わないんだが……ところで紀平を見なかったか?」
「紀平さんですか?」
「ああ、先程から探してるんだが逃げられてな」
「さぁ? こっちの方には来てませんけど」
「そうか。まあいい、見かけたら俺のところに事務室を出すようにと伝えておいてくれ」
そう、言いながらキッチンを離れようとしていた店長だったが、ふと何かを思い出したようにキッチンに置いてあったあの見馴れない容器の砂糖を手に取る。
「あ…それ」
「おお、大分減ってるな」
「まさか店長が置いたんですか? その砂糖」
「ああ、可愛いだろう」
「か、可愛い…?」
「料理に混入しやすいよう開発した調味料にも使える新型媚薬だ。因みにこれは砂糖だな」
「今商品化されているシリーズには塩や醤油もあるぞ」なんて得意気に続ける店長に「ああ、媚薬ですか」と納得したように頷きかけ、そのさらっと出た問題発言に思考停止する。
「……え?」
「なかなか誰も使いたがらなくてな、ここに置いてたら誰かが勝手に使ってくれると思ってはいたが……くく、まさかこうも上手くいくとはな」
「な、何……言ってるんですか。本当に……あの、媚薬って、効力は…」
「強力だな。……と言いたいところだが調味料として使うことに特化した薬品だから然程強くはないだろう。そうだな…多少判断力が低下するくらいか」
「本当はそのデータを採集するため紀平から聞き出そうと思ったがな、この様だ」
そう全く悪びれる様子もない睫毛もとい店長にどろりとした怒りが込み上げ腸が煮えくり返りそうになったが、落ち着け、と息を吐く。
つまり、これはこういうことだろうか。俺は砂糖の代わりになんかよくわからない新型媚薬を投与していた、と。
――うん、すげー美味かった!まじで。店開けるレベルだって。
――いやいやまじで、俺、毎日通うし。
脳裏に蘇るのは原田さんの屈託のない笑顔だった。
やってしまった、と、冷静になったあと店長への怒りへの次にやってきたのは焦りだった。
「……店長、ちょっと店の方様子見てきます」
「ああ、わかった。紀平を見つけたら頼んだぞ」
「……ええ、わかりました」
この睫毛の対処は後だ。
とにかく、今は先に原田さんを探そう。そして、事情を説明しなければ。
休憩室を出、俺は原田さんを探しにフロアへと出た。
……原田さんには辞めてほしくないけどなぁ。
けれど、と元同級生の問題児の顔を浮かべる。
先程出勤していたが、大丈夫だろうかとなんだか落ち着かない気分になる。
阿奈、原田さんのこと気に入ってるようだし、いじめっ子基質というか人当たりが強い上傲慢な阿奈のせいで何人もの新人スタッフが辞めていったのを見てきた身としては正直、長く続かないだろうなぁと思わずにはいられなかった。
それに、いい人ほど辞めていくのだ。スタッフがスタッフなので仕方ないのだろうけど。
はあ、と無意識の内に溜息が漏れたが、うわははは!という阿奈の笑い声で掻き消された。
そんなとき休憩室の扉が開いて店長がやってきた。
「笹山、まだいたのか」
「はい、あと五分でフロア戻りますね」
「それは構わないんだが……ところで紀平を見なかったか?」
「紀平さんですか?」
「ああ、先程から探してるんだが逃げられてな」
「さぁ? こっちの方には来てませんけど」
「そうか。まあいい、見かけたら俺のところに事務室を出すようにと伝えておいてくれ」
そう、言いながらキッチンを離れようとしていた店長だったが、ふと何かを思い出したようにキッチンに置いてあったあの見馴れない容器の砂糖を手に取る。
「あ…それ」
「おお、大分減ってるな」
「まさか店長が置いたんですか? その砂糖」
「ああ、可愛いだろう」
「か、可愛い…?」
「料理に混入しやすいよう開発した調味料にも使える新型媚薬だ。因みにこれは砂糖だな」
「今商品化されているシリーズには塩や醤油もあるぞ」なんて得意気に続ける店長に「ああ、媚薬ですか」と納得したように頷きかけ、そのさらっと出た問題発言に思考停止する。
「……え?」
「なかなか誰も使いたがらなくてな、ここに置いてたら誰かが勝手に使ってくれると思ってはいたが……くく、まさかこうも上手くいくとはな」
「な、何……言ってるんですか。本当に……あの、媚薬って、効力は…」
「強力だな。……と言いたいところだが調味料として使うことに特化した薬品だから然程強くはないだろう。そうだな…多少判断力が低下するくらいか」
「本当はそのデータを採集するため紀平から聞き出そうと思ったがな、この様だ」
そう全く悪びれる様子もない睫毛もとい店長にどろりとした怒りが込み上げ腸が煮えくり返りそうになったが、落ち着け、と息を吐く。
つまり、これはこういうことだろうか。俺は砂糖の代わりになんかよくわからない新型媚薬を投与していた、と。
――うん、すげー美味かった!まじで。店開けるレベルだって。
――いやいやまじで、俺、毎日通うし。
脳裏に蘇るのは原田さんの屈託のない笑顔だった。
やってしまった、と、冷静になったあと店長への怒りへの次にやってきたのは焦りだった。
「……店長、ちょっと店の方様子見てきます」
「ああ、わかった。紀平を見つけたら頼んだぞ」
「……ええ、わかりました」
この睫毛の対処は後だ。
とにかく、今は先に原田さんを探そう。そして、事情を説明しなければ。
休憩室を出、俺は原田さんを探しにフロアへと出た。
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