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第二部 高校生編

大切なのは理解であって平等ではない

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 確かにバストサイズに合わせただけでは凄まじく着ぶくれするだろうが、だからといってアンダーの部分を紐で締めると扇情的過ぎないだろうか。
 そりゃナンパに絡まれて殺人拳振るう羽目にもなるわ。撒き餌か。

 そんな感想を脳内で漏らしながらかすかの着ている服の構造に驚く事しばらく。

「はい、もう呼んでいいわよ」

 ちょっと信じられないような手際の良さで微は服を着た。
 そのスピード感からは日頃の慣れがうかがい知れる。やはり日常的に着ている構造の服らしい。

 肌が隠れた分、より胸が強調されているような気がするが、本人がこう言っているのだからと俺はなじみを招き入れる。
 そして生まれた光景は床に正座するなじみとベッドに腰かけてそれを見下ろす微。それを横から立って見ている俺。

 うーむ、改めて文面に起こしてみると、なかなかに謎な絵面だ。

 ん?
 ちょっと気付いたことがある。

「よし微」
「どうしたの?」
「帰っていいか?」
「はぁ!?」

 割と理由あってのことだからそんなに怒らないでほしい。

「俺は二人がどういう話題で話し始めるか正確に理解しているんだが、俺がいるとなんか圧迫してるみたいになるだろ? 話がどういう決着を迎えるにせよ、本人の意思を尊重したいからそういう意思を捻じ曲げる様な要素は極力排除したいんだ」
「ああ、そういうこと。私はいいけど・・・」

 微がちらりとなじみの方を見る。

「うん、私もいいよ。仁科さんの自由にしてほしいし」

 少々不安げだが、今回ばかりは助けてやれない。助けたとて彼女の為にならない。

「なに、ドアの前にいるから話が荒れたら仲裁ぐらいはするさ。安心して喧嘩してくれ」
「喧嘩するつもりはないのだけれど・・・」
「頼りがいがあるのが嫌だね・・・」

 完全なる善意で言っているのになぜこうも悪く言われるのか。



 ドアの外で待機する事しばらく。
 とりあえずは喧嘩が起きたような気配もない。

 まあ喧嘩云々についてはただの冗談で、そうするような二人でもないとはわかっているが・・・いや、前に微が拘束されてたな。喧嘩じみた小競り合いがあったようだし、割と発展しかねないか。

 どうしよう、そう考えるとなんか不安になってきたな。
 仲裁するとは言ったし、事実できるとは思うが、あまり乱暴に介入するようなことは気が引ける。
 二人の前ではできるだけ念力を使いたくないので、物理で止める必要があるのだ。

 なじみの方はともかく、微の方は例の殺人拳がどの程度俺に有効かわからないし・・・多分念力でガードできるとは思うが。

 大体10分ぐらいたったころだろうか。

 後ろからコツコツとドアをノックする音が聞こえて、それに従い入室する。
 二人の話し合いがどういう決着を付けたのかは、その時の二人の距離感と空気感で大体わかった。

 さておき、詳細な部分は流石にわからないので聞いた方が良いだろう。

「で、どうなった?」
「スキンシップ可、性的な奴は不可。抵抗感があったら拒否して、その時は絶対離れる」
「まあ、そんなところか」

 手をつないで座っていたので、もう少し厳しめの沙汰が下ったぐらいかと思ったが、なかなかどうして許容されてるようじゃないか。

「そんなところも何も、至極普通の条件だけでしょう?」
「まあ、そうなんだけどさ。今更普通なんて持ち出されても・・・なぁ?」
「私はそんなに積極的なつもりなかったんだけどなー・・・」
「なじみちゃん、貴女やっぱり距離感バグってない? 心配なんだけど」
「大好きな人にしかしないよー」

 えへへ、なんて声が聞こえてきそうな笑顔だった。

「ああ・・・あなた達、似た者同士だったのね」
「今のを聞いての感想がそれか?」
「二人ともそんなこっぱずかしいセリフをよくもまあ堂々と・・・」

 一体恥じる要素がどこにあったというのか。
 首をかしげたままなじみに目をやってみると、彼女もやはりピンと来ていないようでキョトンとしていた。

 そして全くピンと来ていない我々を察したのか、微が注釈を入れる。

「あのね、一般的日本人はそうやってホイホイ大好きとか言わないのよ」
「じゃあどうやって恋愛するの?」
「だからこう、ここぞって時に温存するの。普段から使ってるとなんか軽く聞こえるでしょ?」
「軽く聞こえる?」
「そこのトーンを聞き間違えるような奴はそもそも恋人関係に向いてない相手だと思うぞ」

 声色とか表情とか目線とか瞳とか本気度ぐらいわかるだろう。
 ちなみにさっきなじみの言った『大好きな人』というのはそこそこガチの奴である。

「みんなあなた達みたいに以心伝心じゃないからね」
「だったらなおさら言った方が良いでしょ」
「何が嫌いかより、何か好きかで自分を語れとジョージ・バークリーも言っていたんだ。俺は詳しいんだ」
「それ本当?」
「10割嘘だけど」
「ちゃんと名言なのが質悪いわね」
「私はケーくんが大好きです」
「俺も大好きだぞー」
「私も安心院君のことは、まあ・・・好きだけど」

 その言葉を聞いてなじみは微との距離を少し詰め、それに伴ってつないでいる手の絡みが強くなった。
 今の感じは俺がアクションを起こすシーンではないのだろうか。

 ここで俺は一つ大切なことを思い出した。

「不味い! 俺はさっさと退散せねば!」
「いきなりどうしたのよ!? びっくりするでしょ!?」
「百合の間に挟まると極刑が科されるのは知っているな?」
「知らないけど」
「そもそも私と微さんって百合なの?」

 あ、呼び名変わってる。名字呼びだと流石に他人行儀だからだろうか。
 しかし彼女らが親密になればなるほど俺の罪科は重くなる。

「馬鹿野郎! 昨今の百合厨を舐めるな! あいつら『男女間の恋愛なんてまやかしだ』とか平気で言うんだぞ!」
「友情なら聞いたことあるけど、恋愛は初めて聞いたわ」
「もう反出生主義とかそんなんじゃん」
「あら? その理屈でいうと安心院君も男性と恋愛することになるけど・・・」
「ケー君! 同性愛は非生産的だからやめた方が良いよ!」
「お前が言うのか」
「私はレズなんじゃなくて綺麗なものが好きなの!」
「ちょ、綺麗って・・・」
「ほう、なじみは俺のこと綺麗だと思っていたのか」
「えう、うん・・・」
 
 不意を打たれて失速するなじみ。
 わかるよ、自分で用意してないところを突かれるとうろたえるよな。

 そこでなじみの接近に気付いたらしい微が同程度の距離を取る。
 やっぱり俺がアクションするところのはずなんだが。

 とりあえず、二人と一緒にちゃぶ台を囲んで座る。
 俺から見て百合には映るものの、本質的には友情の方が強そうだ。

 なじみは単純にスキンシップが激しく、またそれが性的がどうかの区別が薄いだけと見た。
 この際極刑云々はどうでもいい。というかこの親密度で処刑されてたら男が根絶される。

「まあ、何はともあれご近所トラブルも解決ということで」
「これご近所トラブルの範疇なの? 私の性癖が大分捻じ曲ったんだけど?」
「お互いこんなに美人なんだから、何もなくとも愛でたい欲求ぐらいは芽生えたと思うし、別にいいじゃないか。欲情するかはまた別の話だが」
「微さん、何があったらそんな性癖になるの・・・」
「貴女にだけは言われたくないわ」
「そうだぞ。流石の俺も必要以上に同性に触れたいとは思わん」
「性癖捻じ曲げてる率で言えば貴方も大概だと思うけどね?」

 それは・・・まあ、うん。
 今目の前にドMになった実例がいるので否定はできない。歩く18禁とか言われたし。
 でもなじみについては生来の気質もあったと思うんだよなぁ。

「ところで微」
「なに?」
「続き、どうする?」
「・・・日を改めて、本当に二人っきりで、よ」
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