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第二部 高校生編
ちなみに秦の始皇帝が水銀を服用した資料は無い
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水銀を使った間接的殺し合いゲーム、『ウィッシュ・ア・イモータル』。
その第2ラウンド。
スコア自体は渡辺が後塵を拝す形だが、実情としては財前がリスクを負っている。
しかしここからのゲームはそのリスクが複利効果で一気に増大する。
最初のゲーム、渡辺が出した手は・・・『怪盗』?
オイオイ、ここでの『怪盗』は悪手じゃないか?
このゲームは『怪盗』と『近衛』をいかに相手より後に決めるか、そういうゲームだ。奪う水銀が割合である以上、最後までその本質は変わらない。であればその勝負カードである『怪盗』は温存しておいた方が良いだろう。
いや、それを見越しての事か?
第1ラウンド同様に三択まで追い詰められれば、当然『怪盗』は読まれやすい。
ならばいっそ『不死』が堅い第1ゲームに『怪盗』を放り込んで少量ながらもリターンを回収し、『近衛』を実質的に封殺してしまえ。
『怪盗』がなければ『近衛』が効力を発揮することは無い。『近衛』と『不死』がぶつかれば『不死』の七倍化だけが適用される。
しかし、島崎さんが思わず腕組みしてしまっている。
ならこれはどちらかというと悪手なのでは・・・。
自陣営の素振りまで含めても、手の良し悪しが分からない。
そもそもゲーム自体未だピンと来てないのだから、しょうがないのかもしれないが。
とはいえ、渡辺の『怪盗』速攻はどうやら今回に限っては悪手だったらしい。
結果論になってしまうが・・・財前は、『近衛』で渡辺の『怪盗』を叩き潰してしまったのだから。
「・・・ついてないね」
渡辺の思わず、言った風な呟きに財前が応える。
「ついてない? それは大きな間違いだ。これは単純な力量の差というものだよ。20も行かない様な餓鬼が、わしのような成功者に歯向かうからそうなる」
これで水銀は渡辺319ml、財前33295ml。
たったワンゲームで十倍の差が更に十倍。百倍にまで膨れ上がった。
第2、第3、第4ゲームでは双方が『不死』を出し続け、渡辺109417ml、財前1130185ml。
しかし第5ゲーム、財前はここで『盗賊』を切り出し、更に半分を奪う。渡辺の水銀が七倍されてから財前に半分を奪われ渡辺382959ml、財前1513144ml。
後は消化試合だ。
第2ラウンド終了時点で渡辺2680173ml。財前74144056ml。
「なるほどなるほど・・・君の戦略は読めた。最後の逆転、これ一本に絞っているのだろう? 最初からそのつもり、いやそれしか考えていない。だが次のラウンドで、わしは君が自爆するのをじっくり待っても良いし、さっさと『盗賊』を投げ捨ててしまってもいい。わしには余りにも多くの選択肢があるのに対し、君はわしの行動に逐一合わせなくてはならん。主導権をわしに寄こした時点で、君の敗北はほぼ確定的だ。逆転劇など、世の中には無いという事を次のゲームでじっくりと教え込んでやる」
「へえ? じっくりってことは、しばらく『盗賊』は出さないんだ?」
「うん? さっさと希望を断って欲しいのか? 希望だけを見て我が身が焼かれている事を無視するとは・・・若者の特権だが、焼いている炎を見極められねば早死にしかしないぞ?」
「ははは、頭が既得権益でぎっしりの老人には、足元が崩れている事すら分からない。どれほど崩れていても、それが確固たるものであると信仰する。結局のところ、人間は都合の良い様にしか世界を見れないんだ。自らが飛躍しているほどに、ね」
「・・・ほう? では、わしのこの圧倒的優位を崩せる、と?」
「勿論」
「ははは、これは滑稽だ」
嫌味と侮蔑の応酬。聞いてるこっちが滅入ってくるが、この二人は何故か延々とそれを続ける。
ドンドンエスカレートしていくそれらは、水銀が注ぎ終わったブザーが鳴るまで続いた。まじでいつまでやってんだ。
渡辺なんか途中で椅子から離れてストレッチしてる時までずっと言ってたじゃねーか。なんだその執念。
「じゃ、第3ラウンドだ」
そう言って渡辺が出した手に、俺は思わず声を上げた。
「は?」
なにせそれは・・・『近衛』。
『怪盗』を狩り、逆転を成す勝負の要。それを初手に。
ここで『怪盗』ならまだわかる。最初の一手だ、『不死』の可能性は高い。財前リードの現状、温存による自爆待ちというローリスクハイリターンな戦術を取れるのだから。もしそうなればとりあえず、半分は奪える。財前が『近衛』だったとしても、渡辺の『近衛』によるリターンを最大化できる。勝負カードだが、一枚目の『怪盗』は十分勝利のための一手だ。
だが『近衛』は無い。
『不死』の可能性が高い以上、ハズレという事になるし、仮に財前が『盗賊』だったとしてももう一度逆転される目を残す。
「・・・なにやっとるんだ、お前」
財前は案の定、『不死』。
そりゃあ『なにやってんだ』という気持ちも分かる。
何せこれで渡辺逆転の目は潰えた。しかもそれをほぼ自分から放棄したようなものではないか。
「いや、待てよ・・・なるほど、読めたぞお前の狙い」
財前はしたり顔で語る。
「さっきの挑発は全部ハッタリか。お前の狙いは一貫して『安全に負ける事』だな? このゲーム、中途半端に勝つと大量の水銀を被ることになる。ならいっそ最後の最後まで一切合切負けてしまえば、少なくとも死亡はしない。ひとまずそれで良しとしよう、そんなところか」
「ふふふ、さて、どうでしょう」
「図星を突かれたときの反応だぞ、それは」
正直な所、俺にも渡辺が図星を突かれたようにしか思えない。
まあしかし、これでよかったのかもしれないな。
自分が雇われてるところとは言え、そこまでの仲間意識があるわけでもなし。むしろ賭け金にされてる圭希がこいつらに接収されなかっただけマシだ。顔見知りが人身売買されてるところなど、あまり見たくない。
「まあ、わしも鬼ってわけじゃない。お前がその気なら・・・最後まで徹底的に勝たせてもらおうじゃないか」
結果として、最終ゲームまでお互い『不死』を出し続け、最終ゲームでは財前が『近衛』で渡辺が『盗賊』。
更に90%を奪い、財前が勝利した。
結果は渡辺4504566761ml、財前8763515145194ml。
二人の頭上の器に水銀が流し込まれる。
これだけの量だ。凄まじい勢いとはいえ流し込むだけでも時間が・・・。
その時、俺は目を見開く。
こいつ・・・こんな、こんなことを・・・。
なんだその、茶番は!
「ふん、終わったな。それではあの超人は貰うぞ。おい、元の場所に戻せ」
「?」
「何を首を傾げておる。もうゲームは終わったのだから」
「終わってないよ?」
「は?」
「ルール聞いてなかったの?」
「ルール・・・?」
何か異様な雰囲気を感じ取ったのか、財前の額に汗が浮かぶ。
「『1ラウンドの最後に所持している水銀が頭上の器に流し込まれ、3ラウンド終了時、水銀が少なかった方を負けとし、それまで増やした水銀が降り注ぐ』。わかるかな? 水銀を注ぎ終わるまで、が1ラウンドなんだよ」
「それが、なんだというんだ」
「今回、水銀は毎秒百万ml投下されるようになってるんだけど・・・さてここで算数の問題です。あなたが稼いだ水銀の量は8763515145194ml注ぎ終わるのにどれくらいかかるでしょうか?」
「あっ」
以前の一般人的主人公が声を上げる。
「君、わかるの?」
「は、はい・・・数字は得意なので」
「言ってみて?」
「お、およそ101日間、かと・・・」
正解、と軽やかに言って。
「その間、財前さん。あなたはその椅子から離れたら反則負けだ」
「・・・ふ、ふざけるなアホがあああぁぁぁぁぁぁあああ!!??」
思わず、と言った風に立ち上がりかけるが、それを寸での所で押し留めた。
「わ、わしは勝った! このゲームに圧倒的な大差を付けて勝ったんだ!」
「いや、まだ勝ってない。『ラウンド終了時に水銀が少なかった方』の負けなんだ。まだラウンドは終わってない。そして注ぎ終わるまでにあなたが死ねば・・・俺の勝ちだ」
「そ、そんなどんでん返しがまかり通るわけがない!」
「いいや、どんでん返しじゃないのさ。全てルールの時点で明言されていたことだ」
財前は俯き、ブツブツと何事かを呟く。
脳裏にルールを描き、回想しているのだ。
「ふう、ふう・・・いやだがまだだ。この椅子の上で101日間動けないのはお前も同じ。どっちが先に椅子を離れるか、根競べと行こうじゃないか」
「それも違うなぁ」
「何がだ!」
「この水銀の注ぎ込みって、個別にカウントされるんだよ?」
「は?」
「第二ラウンド終了時。俺はストレッチの為に立ち上がった。その時反則負けにならなかっただろう? 『入れ終わったら、五分くらい休憩。その時は椅子から離れても反則じゃない』からね」
「いやだとしても! 五分経ったら椅子に戻らなければ・・・」
「五分じゃない、五分『くらい』だ。その気になれば、10年後だろうと五分くらいだよ」
暴論、だがこれは曖昧さを残した財前が悪い。
はっきりとした数字でない以上、どうとでも言えてしまう。
「いや、いやしかし何のことは無い! 話は単純だ! わしがこの椅子の上で101日間暮らせばよいだけの事! ここがどこだかは知らんが、ここからだって仕事はできる! 食事だって運ばせればよい! いつもの事だ! 何も、何も変わらん! 101日後にお前が吠え面かくのを楽しみに・・・」
「それもダメだね。『ルールを破ったら反則負けだ』」
「ルール? 何をバカな! この椅子で101日過ごすことのどこがルール違反だ! 言ってみろ!」
「どこって、101日過ごす事、だけど?」
「はっ! ゲームのルールにそんなものはなかっただろう!」
「ゲームのルールじゃない。会場のルールさ」
「会場の・・・?」
こくりと頷き。
「ここは『飲食禁止』だ」
そう、そこなのだ。
渡辺はゲームで勝つ気も、反則負けを取るつもりもなかった。
こいつの目的は。
「『勝利条件は相手より水銀が多いまま全ラウンドを終了すること、または相手が死ぬこと』。あなたの敗因、そして死因は、餓死だ」
ここまでのゲーム。
大量の水銀、巨大なステージ、頑丈な器、呼び寄せた護衛。
すべてがすべて、このための茶番。
財前は呆然と口を開いたまま、微動だにしない。
「・・・俺の水銀が終わるのは1時間ちょっとくらいか。で、どうする? 降参するんなら、肉体的には無傷で終われるんだけど?」
たっぷり10秒沈黙して。
「・・・降参する」
終わった。
その第2ラウンド。
スコア自体は渡辺が後塵を拝す形だが、実情としては財前がリスクを負っている。
しかしここからのゲームはそのリスクが複利効果で一気に増大する。
最初のゲーム、渡辺が出した手は・・・『怪盗』?
オイオイ、ここでの『怪盗』は悪手じゃないか?
このゲームは『怪盗』と『近衛』をいかに相手より後に決めるか、そういうゲームだ。奪う水銀が割合である以上、最後までその本質は変わらない。であればその勝負カードである『怪盗』は温存しておいた方が良いだろう。
いや、それを見越しての事か?
第1ラウンド同様に三択まで追い詰められれば、当然『怪盗』は読まれやすい。
ならばいっそ『不死』が堅い第1ゲームに『怪盗』を放り込んで少量ながらもリターンを回収し、『近衛』を実質的に封殺してしまえ。
『怪盗』がなければ『近衛』が効力を発揮することは無い。『近衛』と『不死』がぶつかれば『不死』の七倍化だけが適用される。
しかし、島崎さんが思わず腕組みしてしまっている。
ならこれはどちらかというと悪手なのでは・・・。
自陣営の素振りまで含めても、手の良し悪しが分からない。
そもそもゲーム自体未だピンと来てないのだから、しょうがないのかもしれないが。
とはいえ、渡辺の『怪盗』速攻はどうやら今回に限っては悪手だったらしい。
結果論になってしまうが・・・財前は、『近衛』で渡辺の『怪盗』を叩き潰してしまったのだから。
「・・・ついてないね」
渡辺の思わず、言った風な呟きに財前が応える。
「ついてない? それは大きな間違いだ。これは単純な力量の差というものだよ。20も行かない様な餓鬼が、わしのような成功者に歯向かうからそうなる」
これで水銀は渡辺319ml、財前33295ml。
たったワンゲームで十倍の差が更に十倍。百倍にまで膨れ上がった。
第2、第3、第4ゲームでは双方が『不死』を出し続け、渡辺109417ml、財前1130185ml。
しかし第5ゲーム、財前はここで『盗賊』を切り出し、更に半分を奪う。渡辺の水銀が七倍されてから財前に半分を奪われ渡辺382959ml、財前1513144ml。
後は消化試合だ。
第2ラウンド終了時点で渡辺2680173ml。財前74144056ml。
「なるほどなるほど・・・君の戦略は読めた。最後の逆転、これ一本に絞っているのだろう? 最初からそのつもり、いやそれしか考えていない。だが次のラウンドで、わしは君が自爆するのをじっくり待っても良いし、さっさと『盗賊』を投げ捨ててしまってもいい。わしには余りにも多くの選択肢があるのに対し、君はわしの行動に逐一合わせなくてはならん。主導権をわしに寄こした時点で、君の敗北はほぼ確定的だ。逆転劇など、世の中には無いという事を次のゲームでじっくりと教え込んでやる」
「へえ? じっくりってことは、しばらく『盗賊』は出さないんだ?」
「うん? さっさと希望を断って欲しいのか? 希望だけを見て我が身が焼かれている事を無視するとは・・・若者の特権だが、焼いている炎を見極められねば早死にしかしないぞ?」
「ははは、頭が既得権益でぎっしりの老人には、足元が崩れている事すら分からない。どれほど崩れていても、それが確固たるものであると信仰する。結局のところ、人間は都合の良い様にしか世界を見れないんだ。自らが飛躍しているほどに、ね」
「・・・ほう? では、わしのこの圧倒的優位を崩せる、と?」
「勿論」
「ははは、これは滑稽だ」
嫌味と侮蔑の応酬。聞いてるこっちが滅入ってくるが、この二人は何故か延々とそれを続ける。
ドンドンエスカレートしていくそれらは、水銀が注ぎ終わったブザーが鳴るまで続いた。まじでいつまでやってんだ。
渡辺なんか途中で椅子から離れてストレッチしてる時までずっと言ってたじゃねーか。なんだその執念。
「じゃ、第3ラウンドだ」
そう言って渡辺が出した手に、俺は思わず声を上げた。
「は?」
なにせそれは・・・『近衛』。
『怪盗』を狩り、逆転を成す勝負の要。それを初手に。
ここで『怪盗』ならまだわかる。最初の一手だ、『不死』の可能性は高い。財前リードの現状、温存による自爆待ちというローリスクハイリターンな戦術を取れるのだから。もしそうなればとりあえず、半分は奪える。財前が『近衛』だったとしても、渡辺の『近衛』によるリターンを最大化できる。勝負カードだが、一枚目の『怪盗』は十分勝利のための一手だ。
だが『近衛』は無い。
『不死』の可能性が高い以上、ハズレという事になるし、仮に財前が『盗賊』だったとしてももう一度逆転される目を残す。
「・・・なにやっとるんだ、お前」
財前は案の定、『不死』。
そりゃあ『なにやってんだ』という気持ちも分かる。
何せこれで渡辺逆転の目は潰えた。しかもそれをほぼ自分から放棄したようなものではないか。
「いや、待てよ・・・なるほど、読めたぞお前の狙い」
財前はしたり顔で語る。
「さっきの挑発は全部ハッタリか。お前の狙いは一貫して『安全に負ける事』だな? このゲーム、中途半端に勝つと大量の水銀を被ることになる。ならいっそ最後の最後まで一切合切負けてしまえば、少なくとも死亡はしない。ひとまずそれで良しとしよう、そんなところか」
「ふふふ、さて、どうでしょう」
「図星を突かれたときの反応だぞ、それは」
正直な所、俺にも渡辺が図星を突かれたようにしか思えない。
まあしかし、これでよかったのかもしれないな。
自分が雇われてるところとは言え、そこまでの仲間意識があるわけでもなし。むしろ賭け金にされてる圭希がこいつらに接収されなかっただけマシだ。顔見知りが人身売買されてるところなど、あまり見たくない。
「まあ、わしも鬼ってわけじゃない。お前がその気なら・・・最後まで徹底的に勝たせてもらおうじゃないか」
結果として、最終ゲームまでお互い『不死』を出し続け、最終ゲームでは財前が『近衛』で渡辺が『盗賊』。
更に90%を奪い、財前が勝利した。
結果は渡辺4504566761ml、財前8763515145194ml。
二人の頭上の器に水銀が流し込まれる。
これだけの量だ。凄まじい勢いとはいえ流し込むだけでも時間が・・・。
その時、俺は目を見開く。
こいつ・・・こんな、こんなことを・・・。
なんだその、茶番は!
「ふん、終わったな。それではあの超人は貰うぞ。おい、元の場所に戻せ」
「?」
「何を首を傾げておる。もうゲームは終わったのだから」
「終わってないよ?」
「は?」
「ルール聞いてなかったの?」
「ルール・・・?」
何か異様な雰囲気を感じ取ったのか、財前の額に汗が浮かぶ。
「『1ラウンドの最後に所持している水銀が頭上の器に流し込まれ、3ラウンド終了時、水銀が少なかった方を負けとし、それまで増やした水銀が降り注ぐ』。わかるかな? 水銀を注ぎ終わるまで、が1ラウンドなんだよ」
「それが、なんだというんだ」
「今回、水銀は毎秒百万ml投下されるようになってるんだけど・・・さてここで算数の問題です。あなたが稼いだ水銀の量は8763515145194ml注ぎ終わるのにどれくらいかかるでしょうか?」
「あっ」
以前の一般人的主人公が声を上げる。
「君、わかるの?」
「は、はい・・・数字は得意なので」
「言ってみて?」
「お、およそ101日間、かと・・・」
正解、と軽やかに言って。
「その間、財前さん。あなたはその椅子から離れたら反則負けだ」
「・・・ふ、ふざけるなアホがあああぁぁぁぁぁぁあああ!!??」
思わず、と言った風に立ち上がりかけるが、それを寸での所で押し留めた。
「わ、わしは勝った! このゲームに圧倒的な大差を付けて勝ったんだ!」
「いや、まだ勝ってない。『ラウンド終了時に水銀が少なかった方』の負けなんだ。まだラウンドは終わってない。そして注ぎ終わるまでにあなたが死ねば・・・俺の勝ちだ」
「そ、そんなどんでん返しがまかり通るわけがない!」
「いいや、どんでん返しじゃないのさ。全てルールの時点で明言されていたことだ」
財前は俯き、ブツブツと何事かを呟く。
脳裏にルールを描き、回想しているのだ。
「ふう、ふう・・・いやだがまだだ。この椅子の上で101日間動けないのはお前も同じ。どっちが先に椅子を離れるか、根競べと行こうじゃないか」
「それも違うなぁ」
「何がだ!」
「この水銀の注ぎ込みって、個別にカウントされるんだよ?」
「は?」
「第二ラウンド終了時。俺はストレッチの為に立ち上がった。その時反則負けにならなかっただろう? 『入れ終わったら、五分くらい休憩。その時は椅子から離れても反則じゃない』からね」
「いやだとしても! 五分経ったら椅子に戻らなければ・・・」
「五分じゃない、五分『くらい』だ。その気になれば、10年後だろうと五分くらいだよ」
暴論、だがこれは曖昧さを残した財前が悪い。
はっきりとした数字でない以上、どうとでも言えてしまう。
「いや、いやしかし何のことは無い! 話は単純だ! わしがこの椅子の上で101日間暮らせばよいだけの事! ここがどこだかは知らんが、ここからだって仕事はできる! 食事だって運ばせればよい! いつもの事だ! 何も、何も変わらん! 101日後にお前が吠え面かくのを楽しみに・・・」
「それもダメだね。『ルールを破ったら反則負けだ』」
「ルール? 何をバカな! この椅子で101日過ごすことのどこがルール違反だ! 言ってみろ!」
「どこって、101日過ごす事、だけど?」
「はっ! ゲームのルールにそんなものはなかっただろう!」
「ゲームのルールじゃない。会場のルールさ」
「会場の・・・?」
こくりと頷き。
「ここは『飲食禁止』だ」
そう、そこなのだ。
渡辺はゲームで勝つ気も、反則負けを取るつもりもなかった。
こいつの目的は。
「『勝利条件は相手より水銀が多いまま全ラウンドを終了すること、または相手が死ぬこと』。あなたの敗因、そして死因は、餓死だ」
ここまでのゲーム。
大量の水銀、巨大なステージ、頑丈な器、呼び寄せた護衛。
すべてがすべて、このための茶番。
財前は呆然と口を開いたまま、微動だにしない。
「・・・俺の水銀が終わるのは1時間ちょっとくらいか。で、どうする? 降参するんなら、肉体的には無傷で終われるんだけど?」
たっぷり10秒沈黙して。
「・・・降参する」
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