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第二部 高校生編

実際作者の転寝の世界だからねしょうがないね

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 死ぬかと思った。

 マジで一発一発がシャレにならん威力な上、どういう理屈か弾丸に念力が籠っていたので普通に超能力者にも効くようだった。『対化け物用』の名は伊達じゃない。
 しかも明らかにリロードがその時の気分でしか行われておらず、百万発入りのコスモガンと言われても納得できるマガジン容量だったもんだから常に死線をくぐった。

 島崎さんの来訪を救いに感じる時が来るとは思わなんだ。

 というか折角超能力者なんてファンタジーな存在なのに近代火器で武装するとかどういう神経してるんだ。そしてその近代火器より強いっていうのもどうなんだ。

 後で渡辺に聞いたら、どうも夜狐はダンマニストというか、トリガーハッピーな性質らしい。
 ああやって銃火器を自分で作って自分でぶっ放すのが彼女の趣味の一つだそうだ。
 人様の趣味にケチを付ける程野暮になった覚えもないが、少なくともあんなにエロい雰囲気になる必要はないと思う。

 神の定めし安息日たる日曜日になぜああも疲弊するイベントを詰め込まれなければならないのか。
 よく考えたらここにいるの邪神ぐらいじゃねーか。そりゃ疲弊もさせてくるわな。

 図書館の書架を整理しつつ、はあ、と溜息を一つ。

 全く、俺は単になじみと一緒に生きていたいだけだ。
 だというのに、どうしてこう・・・ままならないというか。

 カウンターの方には相も変わらず微と、微目当ての雄大が並んで座っている。
 おかげで俺は何の気兼ねもなく、返却本の整理に勤しめるわけだ。

 超能力の云々で疲弊した精神だが、こうして日常を過ごすことで回復できる。
 なんだか連中が神話生物みたいな扱いだが、多分そんなに間違ってない。いあいあ。
 実際『この世界は邪神の夢見る転寝の世界』と言われても納得できてしまうしな。いあいあ。

 ていうか超能力とかぶち込んできたの邪神じゃねーか。
 全部の元凶アイツじゃん。マジかよ邪神最低だな。

「しっかし、この学校の図書館・・・奇書っつーか、妙な本が多いな」

 今返した本の隣にある本など。

「『モハエ・イア・トゥ・ロンゴロンゴ』? 何語かもわからん」

 ロンゴは、論語か?
 道教かなんかの教本、だったか。確か福沢諭吉とかが愛読していたはず。
 しかしでは前半部分が意味不明だ。大体、ロンゴ=論語だとしても二つ重なってる時点で意味不明。

 なんとなく気になってロンゴロンゴを手に取る。
 パラパラとめくってみた感じ、ロンゴロンゴと呼ばれている暗号についての解読覚書って所か。

 最後まで見たが、結局『モハエ・イア・トゥ』の部分については何も書かれていなかった。
 じゃあマジでなんなんだコイツ。

「イカンイカン。片付けの最中に気になった本を開いて読みふけって時間が潰れるなんざよくある事だが、仕事の最中にやることじゃない」

 かぶりを振って本を戻す。
 まだ未整理の書架はあるのだ。来客は少ない割になんでこんな仕事が多いんだか。大量の本でも一気に運べるのは超能力者になった恩恵の一つだが、割に合わないと思うのは俺だけだろうか。

「超能力者、か」

 夜狐は言っていた。
 『私はもう千年この仕事をやっている。超能力者は物理現象に囚われない。極一部だが、不死身になる程に』と。

 夜狐の超能力がどんなものであるかはまだ分からない。しかしあの言いぶりからするに、多分超能力の内容と不死性に相関関係は無い。

 なら、俺はどうだ?
 仮にも連中と同じ超能力者の俺は、渡辺が引っ張ってきた計器でも測定しきれない地力を持つ俺は、夜狐と同じ不死身なのか?

 もし不死身であるというのなら・・・俺は、なじみを看取るのだろうか?

 老いてしわくちゃになったなじみの枕元で、若く瑞々しいままの俺が。

 その後俺はどうするのだろう。
 その時に泣きはらすのはわかるが、その後は。

 無気力に腑抜けたまま、化石の様に過ごすのだろうか。それとも別の何か、例えば今読んだような本に没頭するのだろうか。それともその場で腹でも掻っ捌いて自害するのだろうか。
 夜狐の銃火器という趣味は、二つ目の選択肢を取った末なのだろうか。

 いっそなじみも超能力者なら。

「・・・いや、何を考えているんだ俺は」

 あんな奇妙奇怪危険奇天烈な世界に、なじみを巻き込めるわけが無いだろう。
 それが出来ないから、いやしたくないから、その辺りの事を言っていないのだ。

「はあ、駄目だな。まだSAN値が回復していないらしい」
「サンチって何だい?」
「まそっぷ!?」

 油断していたところにいきなり話しかけられてまるで漫画の誤植の様な声を出してしまった。
 振り返った先には、先には・・・。

「誰も、いない?」
「いるよッ! 君の視点が高すぎるだけだッ!」

 見下げてみれば、そこにはいつもの合法ロリが。

「なんだ部長ですか」
「なんだとはなんだ」

 我が軽音部部長、利根川 梅雨とねがわ つゆ先輩が居た。

「あまりに驚いたもので。ちなみにいつから?」
「本当にさっきだよ。サンチがどうこうって所」
「そうでしたか」

 超能力者云々が聞かれていたら・・・別にいいのか。
 俺が痛い奴と思われて終わりだ。決定的な所を見たわけでもないのに実在すると考えるやつはいないだろう。本を一気に運ぶのだって一応はバランスを取っている風を装っていたし、重量はこの筋肉が説得力を生んでくれる。

 まこと、筋肉はすべての解決策である。

「それで、サンチってのはどういう意味だい?」
「え? ああ・・・SAN値っていうのはちょっとしたゲームの用語でして。正気度、とでも言えばいいんですかね」
「・・・すまない、よくわからないから、色々教えてくれ」
「あー、どこから説明すればいいやら・・・」

 そもそも俺もそこまで詳しいわけでもないし。



「つまり、だ。TRPGというゲームの専門用語で、プレイヤーステータスの一つ。何らかのイベントでランダムに上下し、下がりすぎるとキャラは発狂しゲームオーバー。こんなところかい?」
「多分そうです」

 半端な知識と語彙ではこの程度の要約が限界でした。

「現実に例えると・・・『意中の男性が他の女性と談笑しているところに遭遇しました。SAN値チェックです』って感じかな?」
「嫉妬に狂って刺しに来そうな順当さが良いですが、生々しいですね」
「パッと思いつくのがこれくらいでね」

 そんな修羅場をパッと思いつかないで欲しい。

「なんか流しちゃいましたけど、部長はなぜ図書館に? 何か借りたい本でもあったので?」
「ん、ああ・・・」
「ちなみにレシピ本なら四つ隣です」
「んえ!?」
「なんですその声」

 実家が洋食屋だから何か新メニューの開発をするにあたっての参考資料でも探しに来たのかと思ったが、そうでもないらしい。

「い、いや、何・・・つかぬことを聞くが、女性というのはやはり料理が出来た方が良いと思うかい?」
「そりゃまあ、料理に限らず出来る出来ないなら出来る方が良いでしょう。女性男性も区別ない話です」
「ああ、うん、そりゃそうだ。君がそういう男だという事を忘れていた」

 今何かを侮辱された様な気がする。

「で、来た理由は何なんです?」

 相手が部長でなければ『質問を質問で返すなァー!』とキレても良かったが、部長が相手なので個々は穏便に済ませようじゃないか。
 やはり悪ふざけに大切なのはTPOだからな。

「そりゃまあ、君に会いにね」
「・・・で、今度はどんな事情が飛び出してくるので?」
「やっぱわかっちゃうかー」
「裏事情もなくほっぽる様な人じゃないんですから、後はナンプレですよ」

 そもそも部長は部活を含めた学校活動が終了したら家に帰り、実家の洋食屋の手伝いをするというのが日課である。
 では学校活動が終わった時点で校内にいるというのはその日課から外れた行為。習慣とは怖いもので、一度慣れてしまうとわざわざ意識しない限りその行動をとってしまう。わざわざ意識して図書館に来たと言うなら、その時点で日課から逸脱する『何か』の存在が示唆される。
 さて、この場合一番大切なのは日常を奪ったその何かであるわけだが、まず部長に原因は無いだろう。五体満足でこの場にいる時点で確定だ。次に考えるべき候補は部長以外の部分。

 つまりは。

「父がね、盛大に腰をやってしまった。今日一日は安静に、という事らしいから店は緊急閉店。お手伝いさんの僕もこうして暇になった。そこで、君が水曜日は図書委員をしているという話を思い出したのさ」

 こんなところである。

「他に友達いないんですか」
「いるともさ。だが僕の狭い交友関係ではNOがダダ被りすることはままある。今日がちょうどその日だったというわけだ。全く、薄情者め」
「女の友情、ハムより薄い」
「ローストビーフぐらいの厚さはあって欲しいもんだが、これではその厚さを疑ってしまうよ」
「で、委員として仕事をしていて、まず捕まるだろう俺のところに来たと」
「そう言う事。顧問の先生帰っちゃったから部室の鍵も開けられないし、どこぞで雲を眺めて時間を潰すよりは有意義だろう?」
「そりゃ過分な評価を頂けたようで何よりですな」
「実際、ほんの僅か有意義だった。SAN値とかいう新しい概念も獲得できたしね」
「おおよそ人生で役立つ機会はないであろうって代物ですが」
「そうでもないさ。おかげで君と楽しくお喋りできた。それだけで十分、僕の役に立ったよ」

 書架の整理をしながら歩いていたので本棚の森を抜けエントランス。
 カウンターのちょうど目の前に出た。

「ほうら部長、出口はあちらですよ」
「君はそんなに私に帰って欲しいのかい?」
「そうでもないですけど、流石に一人娘さんをいつまでも借りてるわけにはいかないでしょう。看病の一つでもしたらどうですか?」
「・・・ふむ、君の言にも一理あるか。わかったよ、じゃあ今日は帰るとしよう」

 部長は玄関に向かって数歩歩き、何かに気付いて足を止め、踵を返して俺の方へ戻ってきた。

「ほら安心院君、ちょっとかがんで」
「はあ」

 言われた通りにかがむ。
 耳元で部長が一言囁いた。

「またね」
「そうですね」

 だから一言返した。

「じゃあ今度こそ帰るよ。バイバイ」
「また明日とか~」

 そうして挨拶を終えた俺には微の冷え込む視線が突き刺さっていた。
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