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第二部 高校生編

ちゃんと盛り上がらない

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 屋根の上から適当な路地裏へ、そしてそこから居酒屋へ。

「居酒屋、『幕の外』・・・どういうことなの」

 いやそもそも幕の内自体どういうことなのか知らないけどさ。

 ともかく入店して、店員さんに聞く。

「すいません、待ち合わせしてるんですが」
「どちら様のお相手でしょうか?」
「安心院です」
「少々お待ちください」

 そういうと店員さんは伝票に目を走らせて、こちらに向き直る。

「お待たせいたしました。安心院様でしたらこちらの席です」

 どうやらこの居酒屋は完全個室制度を採用してるらしく、入り口で見回しても他人が全く見えない。
 おまけに音の類もそう聞こえないというのだから徹底している。
 密談とかに使われるんだろうか。

 店内観察をしながら店員さんについていった先は4人席の個室らしい。

 姉さんと内海さん、そして男二人・・・合コンとしての帳尻は合うな。少し数が寂しいようにも思えるが、そもそも合コン事情に詳しくない。

 しゃっと軽やかにドアを開ける。

 そこで飛び込んできた光景は、ひとまず合コンではないようだ。

 まず机に突っ伏して眠る姉さん。
 その姉さんになんとか水を飲ませようとして、背中をさすっている見知らぬ女性。
 そして先週の日曜にストレッチを手伝ってもらった内海さんが二人を見ている。

「いた。姉さん、いい歳して高校生の弟に介抱されるまで飲むなよな」
「あっ君安心院さんの弟君!? いやあ良かった。安心院さん酔うと寝るし、全然起きないし、『弟~弟~』ってずっと呟いてるしで色々手に負えなくて」
「ああ、ウチの姉が本当にすいません」
「いえいえ! いつもは本当にしゃっきりした方なんですが・・・」
「弟~」

 なんらかの感覚で俺を認識した姉さんが纏わりついてくる。
 さっきまでのグデグデは一体何だったのか。

「みゅう、弟から女の匂いがする・・・」
「姉さんも女だからそれじゃない? 動けるんなら歩いてホラホラ」
「おかしい、お姉ちゃんの扱いが雑。弟はお姉ちゃんが大好きのはず・・・」
「大好き大好き。だから歩いてホラホラ」

 酔っ払いの戯言に耳を傾けて得はない。
 さっさと介抱するに限る。

 姉と言う贔屓目抜きに見ても姉さんは美人だ。
 長い黒髪に黄金比のスタイル。奇跡的なほどのシンメトリーに基づいた相貌。
 なじみの美はどうも性的と言うか、聖魔でいうと魔の美貌なのだが、姉さんの美しさは彫刻的な聖の美貌だ。

 そんな美貌も、酔っ払いになるとここまで霞むとは。

 赤ら顔で目もトロンとしているので色っぽくはあるのだが、生来の聖的(誤字にあらず)な美貌と喧嘩してしまっている。

「じゃあ皆さん、お手を煩わせてすいません。諸々は後日、姉に言ってください」
「じゃあね安心院君」
「バイバイ」

 内海さんが知り合い的に挨拶してきたのを無視して姉さんを搬送する。
 完全に米俵の担ぎ方だが、文句など言われまい。職質はされそう。

「ぬおー、お姉ちゃんに何たる不敬かー」
「愛の鞭だから」
「そうかー」

 いいのかそれで。



 幸いにも職質されず、姉さんの家であるマンションについた。
 警察の怠慢が危ぶまれるが、それはさておき。

 姉さんから鍵を分捕って部屋の中へ。

 スーツ姿の姉さんの風貌は疲れ切ったOLのそれだった。
 とりあえずベッドに放り込み、部屋に鍵をかけ、まあこれで大丈夫だろう。

「みゅー・・・弟ー・・・苦しいぞ弟ー」
「・・・はあ」

 姉さんが二日酔いで苦しむ未来が見えたので、冷蔵庫の中身を適当にあり合わせて味噌汁を作った。
 具はともかく、味噌の量は姉さんの好みに合わせているので大丈夫だろう。

 そのことをメモに残して、ベランダからさっさとお暇することにする。

 しかし困った。
 このままではベランダの鍵は開きっぱなしではないか。
 姉さんの家の鍵は持っていないので、しょうがなくはあるのだが不用心であることに変わりはない。
 特に姉さんは美人ではあるのだし。

「ふむ・・・大分単純な造りだな」

 ベランダの鍵を検分して、もしかしたらいけるのではと思い、やってみる。

 まずベランダに出ます。
 次に超能力を使います。
 なんかこう良い感じになる様に念じます。

 ベランダで30分ほどうにうにしていると、手応えっぽいものを感じた。
 見ると、僅か数ミリとはいえ鍵が動いているではないか。

 その手ごたえを忘れぬようにさらに30分もぞもぞして、ようやく外側から鍵をかけることに成功した。

 凄いな超能力・・・完全な密室の完成だ。
 いや一時間ベランダで蠢いてこの効果なんだから、採算が取れてるかはよくわからんが。

 ともかく、さっさと帰ることにする。

 屋根上の土地勘は、やはり俺にはなかった。



 普段ならもうノンレム睡眠に入っているぐらいの時間帯。
 こんな時間まで起きているとは、大人って生き物は不健康だ。健康に気を遣わないといけないくせに。

 部屋の鍵を開け、中に入る。

 小柄な影が俺に飛び掛かり、抱き締める。

「おかえり」
「ただいま、なじみ」

 影は案の定なじみであった。

「ほら、顔こっち向けて」
「ん」

 俺の指示通りになじみは顔を上げて、目を閉じる。
 その唇に、そっとキスを落とした。

 唇だけの、今更とすら感じるキス。

 だがあの告白を経て愛情を再確認した俺達には、それで十分だった。

 今思うと最近は少々倒錯した嗜好の交わりが多かった。
 あのままエスカレートしていれば戻ってこれなくなっただろうし、なじみと俺の関係も些か歪んでいたかもしれない。

 まあ、元々歪んでいたという話はさておき。

「ごめんな、姉からのヘルプとはいえ、なじみを置いて出ていって」
「いい。ケーくんが私を優先してくれるのは嬉しいけど、それで私以外を切り捨てないで」
「ありがとう。やっぱりなじみは良い奴だ」
「良い女、じゃなくて?」
「なんかその言い方が好きになれなくてな」

 玄関から連れ立ってリビングへ。

 なじみに手伝ってもらいながら服を着替える。

「これ来てるってことは走ったんだよね?」
「うん」
「その割には全然汗かいてないけど・・・?」
「スタミナついたからじゃないのか?」
「・・・そっか」

 実際には超能力を使っていたので汗をかくほどの消耗が生まれなかったのだが、人間であるなじみに超能力云々を語れるわけもなく。

 なじみが運動に疎いのを利用して適当に丸め込むのだった。



「・・・よし」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 なじみと同じ布団をかぶり、その中で絡まり合い、寝心地の良い体勢で眠りに入る。

 俺が腕枕をして、なじみの両足を挟んでいる程度なのが現状である。
 距離は近い。お互いの吐息を感じられるぐらいには。

 適当なタイミングを見計らって目を開け、なじみの顔を見ると・・・なじみもこちらを覗き込んでいた。

 そのまま数秒見つめ合って、どちらからともなく噴き出す。

「ふふっ」
「ククッ」

 お互いがお互いを盗み見ようとしているのが、なんだか可笑しくてしょうがなかった。

「顔ぐらい堂々と見ればいいのに。それ以外の所も一杯見てるんだから」
「お前もな」

 そりゃそうだ。
 お互い全裸になって、フェラもクンニも経験済み。
 見るどころか味わいすらしているというのに、何をいまさら。

「ねえ、もう少しそっち行っていい?」
「良いよ。おいで」

 ずりずりと体をずらしてなじみがこっちに近づく。
 額がくっつくかと思ったが、胸がくっつく方が先だった。

「ひゃん。エッチ」
「嘘だろ承太郎」
「誰?」

 そっちから近づいてきたというのに俺が謗りを受けるこの流れ。
 しかしこの類の言い争いで男に勝機はない、諦める。

「・・・じゃあ、こんどこそ」
「ああ、お休み」
「おやすみなさい」
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