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第二部 高校生編

飲みにケーションより米ニケーションより会話しろよ

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 コップ10杯。
 俺と微が飲んだ牛乳の総量である。

 結局あの牛乳に施されたひと手間は分からなかったが、それを考察するあまり8杯も飲んでしまった。
 微が飲んでいたのは普通の牛乳だったので客人待遇ゆえのひと手間だったのだろうが、教えてもくれなかった。

 気になる点としては、飲むたびに微がうっすらと恍惚の表情を浮かべ、杯を重ねるごとにそれが濃くなっていった点だ。

 牛乳自体が美味しいは美味しいので良いのだが、何か妙なものを入れられていないか心配である。
 まあ微だ。そう悪いものを入れてはいまい。そういう信頼がある。

 ただ、あまりに沢山飲んだのでお腹が緩くならないか心配だ。
 ぶっちゃけこっちの方が重大である。

「しばらく乳製品はいいや」

 スーパーでパック詰めされた牛乳を流した。
 セール品だったが、安いとはいえ不要なものを買うわけにもいかない。
 依然、金欠であることに変わりないのだ。

「ほむ・・・バイト、か」

 以前も上がった案が再浮上してくる。
 なんだかんだで相談一つできていないが、決して愚案というわけでもないだろう。校則で禁止されているわけでもないし。

 できればなじみとの時間を確保しつつ、金欠にも効果的なものが良い。
 つまりは短い時間で高く稼げるものがいいわけだが、そんなものはバイトを探す全ての人間が求める条件だ。何の実績もない一高校生が入り込める案件などあるまい。

 肉体労働であれば可能だろう。
 今俺の肉体についている筋肉はぶっちゃけファッションの一環とはいえ筋肉は筋肉。
 比較的高いパフォーマンスを発揮できるとは思う。

 しかしいまいち気分が乗らない。
 金のためには気分なんぞ大したもんではないかもしれないが、長続きしないのはよくないだろう。

 待てよ。
 そもそも俺のバイト時間が短かったとして、それはなじみとの時間が増えることとイコールとは限らない。
 なじみとて俺とは無関係な時間を過ごしていることもあるだろう、今の漫画研究部がそれだ。

 将来的にはともかく、現状なじみは時間の許す限りできるだけ漫画研究部に時間を割いている。
 だとすれば、仮に時給1万円のバイトをしたとしても俺が家にいてなじみが部活しているという状況も生まれるわけだ。

 その状況での時間をつぶすためにもバイトをしようと思っていたのだから、これで残っていては効率が悪い。

 うむ、やはりなじみと相談する必要があるな。

 そう結論付けた俺は冷蔵庫の中身を思い出しながら、カゴに商品を放り込んでいくのだった。



「この調子なら黒字・・・か?」

 家計簿に本日の消費を書き込み、貯蓄から差し引いた結果を見て呟く。

 まだまだ月頭だが、このペースで消費していれば黒字に収まりはしそうだ。
 諸々入用だろうと姉さんが母さんに内緒で渡してくれた金の分も合わされば多少贅沢もできる。しないけど。

 ちなみにこの家計簿にはなじみへの仕送り分も合算されている。
 双方了承済みだ。もう同棲でいいんじゃないかな。

「光熱費も節約しないとなー・・・」

 冷蔵庫は密集させ過ぎない、電気はこまめに消す。
 そんなせせこましい節約を経てなんとか黒字っぽいというレベルだ。
 食事はまともなものを食べるようにしているが、これではストレスで筋肉が萎える。

 喫緊って程切羽詰まってるわけじゃないが、早めに解決したい問題だ。

「愛は金で買えないとは言うが、金が無きゃあ愛の一つも囁けない」

 『兼ね合い金愛』が大切ってか。

「・・・今のは上手いな。今度なじみにもいってみよう」



 人生とはままならないものである。

 美少女幼馴染とエンドレスでイチャイチャできるという時点で勝ち組不可避の俺であるが、それを加味したってどうしようもないもんはどうしようもない。

「とぅぅぅうぇえぇぇえええええい! 皆目ん玉白黒してるかい!? 今日はてめーら全員地獄に突き落としてやろうか! にゃおおおおおおおおおお!!」

 マイクを持って絶叫する雄大を横目に、手元のリモコンに目を落とす。
 とそこに一人の女生徒が話しかけてきた。

「ねえねえ、安心院君は何の曲歌うの?」
「どうしよっかな。流行りの曲とか知らないんだよね。金村さんは何歌う?」
「えー私? 私も流行りとか詳しくないんだぁ。だからお気にの曲歌う。つーか安心院君私の名前覚えててくれたの?」
「そりゃ勿論、金村さんみたいな人は印象に残るよ」
「マジ?」
「マジマジ」

 嘘である。
 顔もスタイルもまあ良い方ではあるのだが、全部が全部なじみの遥か格下だ。
 胸はなじみより小さく、ウェストはなじみより太く、尻はなじみより垂れ、脚はなじみより太く短い。
 顔は・・・まあ、俺からすれば公開処刑みたいなもんだ。

 雰囲気もスクールカースト中層程度で自己紹介も普遍的。
 印象深いわけがない。平均よりは多少上、という個性が逆に無個性を煽っている。

 じゃあなんでわかったのかといえば、エロステータスによる情報看破だ。
 後は多少好意的な雰囲気を漂わせれば、邪神特製の甘いマスクと俺謹製の筋肉で人脈が増える。

 誰がどういう出世をするかわからないのだ。
 ここでの人脈作りは無作為なぐらいでちょうどいい。

 あちらから話しかけてきたあたり、この金村なにがしもコネづくりに邁進しているのだろう。

 何せ今は、鷹弓高校一年五組クラス懇親カラオケ大会の真っ最中なのだから。

 なんでも石阪? だかなんだかの提案らしく、なじみも含めクラスの大多数が参加している。
 家計簿をつけていたら雄大から電話が来て、いきなり参加決定というわけだ。
 なじみは俺から聞いた。参加した方がいいかとなじみに聞かれたので自由意思に任せたが、女の子の友達が欲しいとかで来たようだ。

 なじみの目論見は上手くいったようで、いまやなじみの周囲には女子の壁が生まれ、これまでの男子の求愛攻勢が見る影もない。これでなじみの理解者が一人でも増えてくれるといいのだが。

 俺は終わった後の財布の薄さを予感して、せめてもの抵抗にドリンクバーのコーラを煽って会話を続けるのだった。



 懇親会の成果としては上々といったところだろう。
 全体的な所を運営側でない俺に窺い知ることなどできないが、個人的には上々だ。

 男子8名、女子10名の計18名の連絡先を手に入れた。
 スクールカーストでは中の下~上の下ぐらいの連中ばかりだが、交流を続けて彼らのうちの一人でも出世してくれれば御の字だ。その出世すら、俺に関係があるのかどうかも不透明だし。
 まあノーリスクハイリターンの投資。やっといて損はなく、当たったらデカいのだからやらない手はあるまい。

 これでクラスの過半数と連絡先を交換したわけだ。
 残りはこういう集まりにすら来ないレベルか、自分の連絡先に希少価値があると思っているカースト最上位の連中。
 前者は望み薄だが、後者は有望なので多少の交流は持っておきたい所。

 まあ後一年ある。気長にいこう。



 二次会の誘いを華麗に躱して帰路に着く。
 途中の信号待ちをしているところに、今日貰った連絡先すべてに『今日は楽しかった。また○○の話聞かせてくれ』という感じの連絡を送った。
 ここでコピペを使うのは素人である。テンプレートを作って一人一人に違う内容のメールを送るのがコツだ。

 まあ正直ほとんど覚えていなかったので、エロステータスさんに頼ったが。
 アーカイブ機能ないのか? と思ったら出てきた。つくづく都合の良い能力だ。確実に本来の目的から離れた使い方だが。

 薄くなった財布に肩を落とし、俺は帰路をのろのろ歩いた。



「け、え、く~~~ん!」
「うわっ!?」

 玄関の扉を開けると同時に飛び込んできた人影を抱き留めると、それはなじみだった。

「はあああ・・・ケーくんの匂い・・・」

 抱き着いてそのままグリグリと頭を擦り付け匂いを嗅ぐなじみ。
 放してくれそうにないので、なじみを抱き留めたまま部屋に入る。

 適当な所に鞄を放り投げて、なじみを本格的に抱き締めなおしてテーブルへ。
 テーブルの前に座った俺の体に座り、なじみは未だ俺にべったりと抱き着いている。匂いを嗅ぐのはやめて、自分の匂いを付ける方にシフトしたようだ。四肢で絡みつき、胸を擦り付け、時々露出部を舐めてくる。

 まあ一連の所業は気持ちいいので放置するとして。

「なじみは二次会行ったんじゃないのか?」
「んーん。行こうって言われたけど門限って言って帰っちゃった。一人暮らしなのにね」
「嘘ついたの? なじみは悪い子だな」

 なじみの髪をぐしゃぐしゃとかき回す。

「嘘じゃないもーん。本当にこの時間が門限だもん。実家の」

 いたずらっぽく笑うなじみに、思わずキスをする。

「んっ・・・はあ・・・一日ぶりのちゅー、きもちー・・・」

 笑みが消え、情欲が覗く。

「ね、ケーくん」
「ん?」

 なじみはポケットからケータイを取り出して、こちらに見せてきた。

「ねえ、私のケータイ見て。ほら・・・連絡先、一個も増えてないでしょ?」

 なじみに見せつけられたケータイには、確かに俺と家族の連絡先だけで、後は友達一人いなかった。
 しかしこれがなんなのか図りかねて、なじみの顔を見る。

「えーと、懇親会なのに連絡先交換とかしなかったのか?」
「うん。提案はされたけど、全部断っちゃった」
「せっかく仲良くなってくれそうだったのに、良いのか?」
「良いの良いの。あの子たちみーんな私にマウント取りたかっただけみたいだし。今頃二次会会場で私の陰口でも言ってるんじゃないかな?」

 何それ怖い。
 あんなに仲良さげだったのに、その腹の中は真っ黒とは。国交とは両腕で握手して顔面で微笑んで片足で踏んづけるものだが、女子ならそれは個人レベルでも適用されるのか。

「ま、あんなのに何言われたって私にはケーくんが居るからいいんだけどね」

 またそういう股間に来ること言うなあこいつ。

「私のケータイね、ケーくんのことしか知らないんだよ? このケータイ、全部ケーくんの為にあるの。私も、私の端末も、全部、ケーくんのものなんだよ?」

 顔を赤らめ、体温を上げ、あからさまに発情した様子でなじみは言い募る。
 それを見て、俺は。

「ふう~~~~ふうっ・・・活!!」

 耐えた。
 完璧に野獣の眼光でなじみを睨んでいて、それになじみも呼応するかのようにどんどん発情していたが、耐えた。
 後一秒『活』と叫ぶのが遅ければ代わりに『OK、襲うわ』といってなじみに襲い掛かったことだろうが、耐えた。
 一回『OK、襲うわ』と書いてから全部消して耐えるルートに入りなおしたが、耐えた。

「なんで? 私のおねだり足りなかった?」
「いや、なじみの今のおねだりは最上級の奴だよ。ハーバードまで飛び級出来る代物だった」

 自分でも何言ってるかわからないが、まあいい。

「しかしなじみ、とりあえず俺とお前の生活サイクルのすり合わせをしよう」
「ああ・・・ズレてると一緒にいないのに手すきの時間が増えるからね」
「頭の回転が速い彼女をモテて、俺は幸せだ」
「えへへ」

 今イチャつく時間は減るが、将来的な所まで見れば増える。
 なじみはそれを知って、性欲を抑えてくれたのだ。
 表面上はケロッとしているが、抑え込まれた熱は未だ彼女の中でマグマの様に煮えたぎっていることだろう。

 だから俺がするべきなのは。

「ああなじみ」
「どーしたの?」
「今週の土曜日、一日中しようか」
「!?」

 より一層焦らすことである。
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