十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲

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おまけ第4章 生まれた君に、感謝の指輪を その2

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それからすぐに、病院に連絡し出産まで入院することになり、2日後に私は女の子を産んだ。
理玖に似た、ギリシャ彫刻の要素を持った、とても可愛い顔をしていた。


退院までの1週間、私は病院の手厚い看護を受けながら、これからの赤ちゃんのお世話のことを色々教えてもらった。
授乳ケアだけでなく、沐浴指導や体のケア方法を教えてくれる講座も受けられた。
しかも、ご飯もレストランのフルコースかと聞きたくなるくらい、美味しかった。
この病院を見つけてくれたのも、理玖だった。
仕事柄著名人との繋がりも深い理玖は、出産経験がある人ほぼ全員例外なく

「どこが1番、妻を安心して預けられるか」

と質問しまくったらしい……。

その結果、1番人気だったこの病院にお世話になることに決まったというわけだ。
本当に……理玖の調査力は侮れないな……と思った。
そんな理玖は、出産当日こそ立ち会いをしてくれたが、退院間近になっても病室には現れない。

「旦那さん、どうしたんでしょうかね?」

そう心配してくれる看護師さんもいたが、私は薄々その理由に気づいていた。

「さあ、どうしたんでしょうねー」

私は、そう聞かれる度に含み笑いで返事をしていた。
それから、一緒の部屋で眠る生まれたてほやほやの娘に

「パパは今、頑張ってるみたいよー」

と、ふわふわのほっぺに触れながら話しかけた。
その度に、理玖と私の遺伝子を掛け合わせた愛しい我が子がふにゃんと笑ってくれるので、体の痛みがその瞬間だけは消えてなくなるほど幸せな気持ちになった。

「でも……早くパパに会いたいねぇ……」

私は、出産直後に唯一理玖がこの娘に会えた時に触れた、左の薬指を触りながら理玖を思っていた。
そんな時に病室の扉が開いた。

「美空……!」

「理玖!どうしたの!?」
「美空……!できた……できたよ……!」

理玖はそう言いながら、大きな音を立てて私に近づこうとしたので

「しっ、静かに」

と、娘がいることを教えてあげた。

「あっ……ごめん……」

理玖が口元を手で押さえながら謝る。

「大丈夫だから、静かにね」

私の言葉に、理玖はこくりと頷き、今度はそろりそろりと、忍び足で入ってきた。
それがまた、可愛くて私は笑ってしまった。
理玖は、私の横に座り、私を抱き寄せながら

「なかなか来られなくてごめん」

と謝ってきた。
私は首を横に振ってから

「大丈夫。赤ちゃんも一緒だったし……それに、私分かってるから。あなたがしてたこと」
「え?」

私は、理玖の前に左手を差し出す。
理玖は

「さすが俺の愛する妻だよ」

と言うと、私の手を取り、薬指にキスをしてきた。

「ちょっとマッサージしても良い?」

と理玖が聞き、私は良いよと答える。
理玖が、甘い香りのハンドクリームで、私の手を丁寧に揉んだり撫でたりしている内に、浮腫みがすうっと消えていく。

「これで大丈夫かな」

理玖はそう言うと、今度こそポケットに忍ばせていたリングケースを私の前に見せた。
私がその蓋を開けると、3つの指輪が納められている。
私はその3つの指輪の中に、明らかに小さい指輪を見つけ、やっぱりねと思った。
理玖は娘の指のサイズを覚えようと、何度も触れていたから。

「ベビーリング、作ってくれたんだね」

ベビーリングは、赤ちゃんが生まれた記念に作る指輪。
赤ちゃんが生まれた感謝の気持ちを表したり、これから健康に育ちますようにという願いを込めて贈ることが多い。
リングの中心には、小さな宝石がついている。
その宝石は……。

「誕生石、入れてくれたんだ」
「当然だろ」

その誕生石は、娘の指輪だけではなく、他の2つの指輪にもしっかり嵌められていた。
内側を見ると、全部の指輪の娘の誕生日と時間が記載されている。

「もしかしてこれ……」

私が尋ねようとすると、理玖はこくりと頷いてから自分の左手を私の前に差し出した。

「俺と美空、赤ちゃん……3人のおそろいの指輪を作りたかったんだ。俺の指輪は、美空に今はめてもらいたい……いいか?」
「もちろん」

私は、もう慣れた手つきで理玖のサイズぴったりに作られた指輪を手に取った。
普通男性用の指輪は宝石をつけることは稀だけど、この指輪にはちゃんと誕生石が埋め込まれているのだ。
きっとこれは、理玖なりの娘への愛情なのかもしれない。
理玖は、自分の指に指輪がはまったことを嬉しそうに眺めると

「美空の指も出して」

と私を少し急かした。
しょうがないな……と笑いながら

「優しくしてね」

とおねだりした。

「今、それ言うのやめて……」
「どうして?」
「…………お前を抱きたくなるから」

と、恥ずかしいことを言ってきたので、どつきたくなった。

こうして、私と理玖の指に指輪がはめられた。
最後に残ったのは娘の指。

「ねえ理玖。理玖が指輪つけてあげて」
「え、いいの?」
「つけてあげて、パパ」

私がそう言うと、理玖は本当に嬉しそうに頷くと、恐る恐る娘の小さな指に、出来立てほやほやの指輪をそっとはめた。

「こっ……壊しそうで怖かった……」
「何言ってるの。とても優しかったよ。ねえ、赤ちゃん」

私がそう話しかけると、ふにゃりと笑顔を見せてくれた。
幸せすぎて涙が溢れた私を、理玖がしっかり抱きしめてくれた。


「俺の赤ちゃんを産んでくれてありがとう」
「私こそ……あなたの赤ちゃんをくれてありがとう」


退院当日は3人でしっかりおそろいの指輪を身につけた姿で、病院前での記念撮影をした。
これから3人で生きていくという決意を、指輪と神様に誓いながら。


「あ、そうだ美空」
「何?」
「赤ちゃんの名前なんだけど……ちょっと考えてみたんだ」
「え、何?」

理玖は私の耳元でその名前を言った。
私たちらしい、名前だと思ったので

「いいね。それにしよう」

私は大きく頷いた。


Fin
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