十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲

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おまけ第3章 真珠に託した愛の祈り その3

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それから、理玖はことあるごとに工房に篭って何かを作っているようだった。
理玖曰く

「変なことを考えないために!」

とのこと。
理玖らしいな……と思いながら、私も毎日、ソファに腰掛けて、買ってきたばかりの赤ちゃん用の靴下やスタイの作り方の本を開いていた。
妊娠6ヶ月目に入り、お腹がはっきり目立ってきた。
それを目にする度に、この子のために母親として何かしてあげたいと言う欲が日に日に増していった。
だから、理玖が物を作っている間、私も手芸に挑戦することにしたのだ。

針と糸を使うのは、高校の家庭科以来。
でも、物を作るという根幹は変わらないので、時間を忘れて没頭していた。
今日は靴下の刺繍に挑戦していた。
小さくて可愛いお星様を散りばめる作業は、とても楽しかった。

「よし、完成……」

私が、満足げに自分が作った靴下を眺めている時だった。

「妬けるね」
「り、理玖!?」

理玖の手が背後から伸びて、私の指先をぱくりと口に含んでくる。

「やめ……んんっ……」

もう、繋がり合う行為は
本当は安定期になったタイミングで、条件付きで再開しても良いとは言われていたけれど、理玖が私の中に入るのを怖がった。

「俺のせいで、2人が傷つくのは耐えられない」

とのことだった。
その代わり、愛せるところを目一杯愛したいということで、理玖は昼夜問わず私の手に触れるようになった。
おかげで私の手はむくみ知らず。
定期検診に行く度に

「手が本当に綺麗ですね、どんな手入れをしているんですか?」

とプレママ仲間やお医者さんにもしきりに聞かれるほどだった。
さすがに真実は言えないので、理玖が使ってるハンドクリームのメーカーだけを教えるにとどめた。


一通り触れて、舐めて満足したのか、理玖は優しく私の指を離す。
それで終わりかと思ったら、再び私の手を取った。

「左の小指、出して」
「どうしたの?」
「やっとできたから」

何を、と聞く必要はなかった。
理玖は前から予告していたのだ。
妊娠した時に絶対贈りたいものがあると。

「可愛い……」

理玖が私の小指にはめたのは、ミルク色が艶めく、ベビーパールがついた、フリーサイズ仕様の指輪だった。

「これ、もしかしてマタニティーリング?」

それは、手がむくみやすい妊婦さんでも安心して身につけられる仕様の指輪。
フリーサイズのタイプのものが多い。
というのも、妊婦さんはちょっとしたことで手がすぐに浮腫んでしまうので、指輪をつけっぱなしにしていると寝ている間に抜けなくなってしまうというケースも多いからだ。
実際私も、理玖がくれた指輪は今はめることができないでいる。

「パールにしてくれたんだ……」

一般的にマタニティーリングは、ベビーパールが使われていることが多い。
パールの宝石言葉には、安産祈願に結びつくような「円満」「健康」といった言葉があるため、安産祈願にはぴったりの宝石とも言われている。
妊娠がわかってから、神社で安産祈願のお守りも買ったし、縁起が良いということを色々試してはいた。
けれど、大好きな理玖に、赤ちゃんのために大好きな指輪を作ってくれることほど嬉しいことは、私にはなかった。


「本当は、お前にデザインを依頼するべきかとも思ったんだけど……この指輪は俺の願いを込めたかったから」
「願い?」
「無事に生まれてきてほしいというのと……美空が無事でいてほしいという願い」

それは、妊娠出産が女性の命を奪う恐れがあることでもあると、知っているからなのだろう。

「俺にとって、赤ちゃんも大事だけどやっぱり美空が何より大事で……だから……俺1人の願いを形にしたかった」

そう言った彼が指輪に込めた願いの意味は、デザインからすぐに分かった。
シンプルで悪目立ちはしない。
けれど上品で、どんな服にも合わせやすい。
それはつまり……いつでも一緒にいたいということ……なのだろう。

「嬉しい……ありがとう……」

私はお礼のキスを理玖に捧げてから、またじっとリングを見た。
このリングは、できるならずっとつけていたい。
もし赤ちゃんにこの指輪のことを聞かれたら、こう言ってやりたい。


「パパが私たちを愛している証拠だよ」


って。
そんな近い将来のことを考えて、私は胸が熱くなった。

「どうした?」
「未来のことを、考えてた」
「どんな?」
「そのうち、教えてあげる」

理玖は「けち」と言いながらも、優しい笑顔を浮かべて私の横に座り、私をそっと抱き寄せてきた。

「早く生まれないかな」
「あと4ヶ月。待てるでしょう?」
「そうだな、10年よりは、短い」

そう言うと、今度は理玖からキスをしてきた。
2度と離さないから、という意志が……唇ごしに伝わってきた。
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