十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲

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おまけ第2章 星を刻んだ結婚指輪に愛を誓う その1

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私と理玖の入籍日は、父の葬式から四十九日経ってすぐ。

「10年待ったんだから、1年も待てるわけがない」

という理玖の意向によるもの。
さすがの理玖も、忌中の間は待ってくれてはいたが、それが明けてからは

「いつ入籍する?」

と仕切りに聞いてくるようになった。
ちなみにこの時、すでに私は理玖の部屋で生活する時間が多くなっていた。
父親が入院してからほとんど一人暮らし状態が続いてはいたが、それでも一人ぼっちは寂しいというのも理由だったが、なかなか理玖がベッドから私を離してくれなかった……というのもあるには、ある。

入籍までにスピードについては……私の場合はすでに父母は亡くなってしまっているので、反対する親戚もいなかった。
むしろ

「これで美空ちゃん、寂しくないわね」

と言ってくれる人もいたくらいだ。
どちらかと言えば私が気にしたのは、理玖の両親だ。

10年前の経緯は知っているだろうか。
知らなかったら、急に連れてきた女とすぐ結婚したいという息子にどんな気持ちになるだろう。
知っていたとしたら、失恋させた女と元さやに戻ってすぐに結婚する息子のことを、咎めたりはしないだろうか。

理玖は

「結婚なんてお互いが良ければいいじゃん」

と言ったが、流石に挨拶なしで入籍はあり得ないと主張させてもらった。

「うちの両親のことなんか気にしなくてもいい」

きっぱり言う理玖。
でも私は、やはり気になってしまう。

「ダメだよ。やっぱりちゃんと挨拶をしないと……」

もし10年前のことを知っていたら、きちんと謝罪をしないといけない……という自分の思いも含めて理玖にぶつけると

「うーん……」

と一瞬悩んでから、私を抱き寄せてからぽんぽんと頭を軽く叩く。
まるで私を落ち着かせるように。

「まあ……見てもらえば、分かるか」
「え?」
「気にしなくてもいいって言った理由」

まるでいたずらっこのような笑みを浮かべた理玖は、そのまま私の手を繋いだままスマホをいじった。

「ああ、もしもし母さん。久しぶり」

なんと、この場で理玖が電話をかけたのは、理玖のお母さんへだったらしい。

「うん……そう。彼女連れて行くから。待ってて」

え、今から!?
そんなことを考えたのが、理玖にはお見通しだったらしく

「善は急げっていうからな。それに」

理玖は、私の手を握っている手に力を込めて

「また逃げられないようにしなきゃ」

と真顔で言ってから、奪うようなキスを唇にした。

「ところで、挨拶終わったら、美空も満足だろう?」
「え?」
「役所行ってすぐに手続きするから。ハンコだけ持って。なければ途中で買うから」

そうして出かけた先は、浅草橋。
職人が多いと言われる町に、理玖の実家があった。
ご両親はというと、理玖のお父さんは伝統工芸の職人、お母さんは私でも知っている有名なイラストレーターさんだった。
名刺で名前を見た時に泡を吹きそうになった。

「あらー可愛いお嬢さんね。今度のイラストのモデルになってもらいたいけど、いいかしら」
「やめて、有料だから」
「お、彼女か。男の子が生まれたら俺の後継にしてもいいか?」
「勝手に決めんなバカ親父」

などと、それぞれから普通にフランクに話しかけられ、理玖がそれに対していちいち突っ込んでるのが、とても可愛かった。

「だから、会わせたくなかったんだ」

理玖の両親の家を後にし、入籍を済ませた帰り道。
一緒に理玖の家に戻る道中に、理玖がぼやく。

「でも、安心したな……」
「何に?」

私の呟きに、理玖が不思議そうに聞く。

「私を、家族だって受け入れてくれて」

もうすでに、父も母もいない。
家族と呼べる人もほとんど残っていない。
この世界で、私と血がつながっている人を感じられないだけで、こんなに不安な気持ちになるなんて知らなかった。
でも、そんな中で理玖が側にいてくれて、家族になりたいと言ってくれたこと。
理玖を大事にしている家族が、私を家族だと受け入れてくれること。
そのことが、私に絶対的な安心感を与えてくれていた。

理玖は、私の言葉にいたずらっ子のような笑みを浮かべてから耳元でこう囁く。

「新しい家族も、早く作らないとな」

その言葉の意味は、これから熱い夜を過ごすということ。
まだ外だというのに、そんなことを隠さずストレートに言う理玖に戸惑いはするが、それが嫌ではない自分もまたいる。

きっとそれは私も同じ気持ちだから。

「優しくしてくれる?」

私が、わざと上目遣いでいうと、理玖は私の唇を塞ぐように軽くキスをしてから

「優しくしたいけど、激しくなったらごめん」

と予告をしてきた。
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