十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲

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第2章 約束の店 その17

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中野さんとカフェの前で別れてから、私は1人でもう1度、表参道の裏道を歩きながら考えていた。

指輪選びは終わった。
あとは1ヶ月後の約束の日を迎えるだけ。
そうすれば、少し前まで抱えていた悩みは解決する。
それからは、6月のデッドラインの日までは穏やかに暮らすだけ。
その後は、スッキリした気持ちになれると思っていた。

それなのに、再び出会ってしまった。
かつて本気で愛しすぎた人と。
愛しすぎたからこそ、憎んでしまった人と。
感傷に浸る資格が私にはないことは、分かっている。
けれど、たった数分の再会によって、10年間封じ込めていたはずの気持ちが蘇ってしまった。
決して彼に許されないような形で、無理やりな別れを選んだのにも関わらず。
そんな、自分の愚かさを呪いながら歩いているうちに、私は辿り着いてしまった。

春の空色の壁。
カフェモカ色の扉。
そして、「Bella stella」と書かれた看板。
彼が思い描いた、私と出すはずだった、約束の店。
私が……一方的に破ってしまった約束を具現化されたもの。

「本当に、今更……」

まだ、明かりはついている。
この扉を開ければ、きっとまた理玖と会ってしまう。
今の私の立場と、過去に彼にした罪を考えれば、大人しく立ち去るのが正しい。
それは分かっているのに、私の体が動いてくれない。

どうしよう。
どうすればいい。
早く、立ち去らなくてはいけないのに。

そう思っている時だった。

「美空……?」

背後から、声をかけられた。
振り返らなくても分かる。
理玖が、そこにいると。
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