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私、怨霊になりますので
2.君が自殺してくれたおかげで
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王族の義務の1つに、街にあるルナ教聖堂での慈善活動があった。
そこは、今日食べるものがない人々が救済を求めて日々集まっていた。
アンジェリカは王族を代表して、王室の貯蔵庫に眠っていた穀物で作られたお粥を配った。
城で調理され、聖堂まで運ばれるまでに冷めたお粥は、1度でも貴族の食事を口にしたことがあったならばとても食べられたものではないだろう。
まして、調理された穀物は、城では食べきれず袋に入ったまま眠り続けていたもので、とても王族に出せる代物ではないと判断されたものだ。
その穀物は、ソレイユ国で農業を営む人たちによって税として納められているもの。貯蔵庫にどれだけ余っていたとしても、納める仕組みを変えることはなかった。
お粥の配布時、アンジェリカは聖堂院長と名乗る老人からこう説明された。
人数が多いからと、スプーン5口分程しか木で作られたスープ用の皿にお粥を入れないでください、と。
目の前には、明らかに顔色が青く、痩せ細った人々が手を震わせながらスープ皿を私に差し出している。
後は、無我夢中だった。
言われた通り、スプーン5口分を溢さないようにお皿に入れることだけに全神経を注いだ。
受け取った人たちからは
「ありがとうございます、王妃様」
「神に感謝をします」
と、声をかけ続けられた。
アンジェリカは、俯いたまま顔をあげることをしなかった。
この人たちと言葉を交わすことそのものが、悪いことのように思えたから。
(城に帰れば、無理やり食べたくない肉を食べさせられる。それがずっと嫌だと思っているのに)
新鮮な食事を毛嫌いする私と、古い穀物すら泣きながら求める貧民達。
どちらも同じ神に祈るのだ。
アンジェリカは食事を拒否したいと望み、彼らは食事を求めたいという望み。
でも結局、神は私たちの望みを叶えることなどできない。
神という単語を口にすれば、心に希望の炎を灯せるというまやかしだけを残酷に与え続ける。
この、聖堂でのお粥配布がきっかけで、アンジェリカは「神とは所詮、そんなものなのだ」と思うようになっていた。
だから、目の前の美人がそのルナ教の神だと聞かされて、アンジェリカはつい反射的にこう言ってしまった。
「あの役立たずか」
「や、役立たず!?」
アンジェリカの言葉が、自称神にとっては余程ショックだったらしい。
「そうよ、あなた何にも仕事してないじゃない」
「してるよ!? そもそも僕の仕事を何だと思ってるの!?」
さっきまでの偉そうな口調が一変し、駄々をこねる子供のような話し方になった。
「人々の願いを叶えるんでしょう? それなのに、あなたちっとも叶えようとしないじゃない」
「確かに、君たち人間は何でもかんでも僕にお願いしてくるけど、全部の願いなんか叶えられるわけないでしょう!?」
「それは、あなたに能力がないから?」
「どうしてそうなるの! わかりやすい例え話してあげるから、それで納得して」
そう言うと、自称神はわざとらしく咳払いをした。
「例えば、街中にものすごくかっこいい男の人がいるでしょう。その人を二人の女性が好きになった」
アンジェリカは、たったそれだけ聞いただけで、この話の続きを聞くのが嫌だと思った。
けれど自称神は、わかりやすく、嫌悪の表情になっているであろうアンジェリカの顔など一切見ないまま、話を続けた。
「二人の女性が、男の人と結婚したいと言っても、結局一人しか選べないでしょう。つまりどちらかの望みは切り捨てないといけないんだ。分かる?」
そこまで自称神が自信満々に話し終わったところで、アンジェリカは自称神の胸ぐらを思いっきり掴んでいた。
「ほんっと…………神って無能ね」
「え?」
「男が二人と結婚したいと思わせることも、二人の女性が男を諦めるように仕向けることも、どちらかにより相応しい男を差し出すとか、方法はいくらでもあるでしょう? そんなこともしないで、ただ望みを切り捨てる? 職務怠慢にも程があるわ!」
「ちょっ……く、苦しい…………」
(いけないわ、つい熱くなってしまった)
アンジェリカがぱっと手を離すと、自称神は酸素を必死に取り込もうと、深呼吸をしばらく繰り返した。
「君は…………神という存在のことが嫌いみたいだね」
「……は?」
「神だけじゃない。この世の全てを君は恨んでいる。そうだろう?」
「確認しないと分からない程、無能ってわけね」
仮にも、この自称神が本当の神だと言うのなら、アンジェリカがさっきまで何をされていたのか知っていても良いだろうに。
「僕が分かるのは、起きた事実だけさ。君が妹の策略に引っかかって処刑されそうになったこととか、ね。ソレイユ国第1王子の正妃殿」
「私のことを、からかっていらっしゃるの?」
「勝手にそう解釈しているのは、君の方だ。僕のことを敵と認定して。僕はちっとも、君に害を与えるつもりはなかったのに、勝手に君が暴走したんだよ。むしろそうだな……僕の方がちょっと迷惑してる」
「…………迷惑?」
「そう。僕はね、君という人間のことはとても気に入っていたんだよ」
「どういうこと?」
「本当の性根を隠して、国民の為、愛する男の為に尽くす姿こそ、次の神候補に相応しい」
(次の、神候補……?)
「あのまま、ちゃんと処刑されてくれていたら、君のことはあの世で大切に保護して、神様教育してあげるつもりだったのに、自殺なんかしちゃって……」
「ちょ、ちょっと待って……」
(神様教育? 何それ……)
「君が自殺してくれたおかげで、僕は君をあの世に連れていけなくなったんだよ。ねえ……どうしてくれるの?」
そこは、今日食べるものがない人々が救済を求めて日々集まっていた。
アンジェリカは王族を代表して、王室の貯蔵庫に眠っていた穀物で作られたお粥を配った。
城で調理され、聖堂まで運ばれるまでに冷めたお粥は、1度でも貴族の食事を口にしたことがあったならばとても食べられたものではないだろう。
まして、調理された穀物は、城では食べきれず袋に入ったまま眠り続けていたもので、とても王族に出せる代物ではないと判断されたものだ。
その穀物は、ソレイユ国で農業を営む人たちによって税として納められているもの。貯蔵庫にどれだけ余っていたとしても、納める仕組みを変えることはなかった。
お粥の配布時、アンジェリカは聖堂院長と名乗る老人からこう説明された。
人数が多いからと、スプーン5口分程しか木で作られたスープ用の皿にお粥を入れないでください、と。
目の前には、明らかに顔色が青く、痩せ細った人々が手を震わせながらスープ皿を私に差し出している。
後は、無我夢中だった。
言われた通り、スプーン5口分を溢さないようにお皿に入れることだけに全神経を注いだ。
受け取った人たちからは
「ありがとうございます、王妃様」
「神に感謝をします」
と、声をかけ続けられた。
アンジェリカは、俯いたまま顔をあげることをしなかった。
この人たちと言葉を交わすことそのものが、悪いことのように思えたから。
(城に帰れば、無理やり食べたくない肉を食べさせられる。それがずっと嫌だと思っているのに)
新鮮な食事を毛嫌いする私と、古い穀物すら泣きながら求める貧民達。
どちらも同じ神に祈るのだ。
アンジェリカは食事を拒否したいと望み、彼らは食事を求めたいという望み。
でも結局、神は私たちの望みを叶えることなどできない。
神という単語を口にすれば、心に希望の炎を灯せるというまやかしだけを残酷に与え続ける。
この、聖堂でのお粥配布がきっかけで、アンジェリカは「神とは所詮、そんなものなのだ」と思うようになっていた。
だから、目の前の美人がそのルナ教の神だと聞かされて、アンジェリカはつい反射的にこう言ってしまった。
「あの役立たずか」
「や、役立たず!?」
アンジェリカの言葉が、自称神にとっては余程ショックだったらしい。
「そうよ、あなた何にも仕事してないじゃない」
「してるよ!? そもそも僕の仕事を何だと思ってるの!?」
さっきまでの偉そうな口調が一変し、駄々をこねる子供のような話し方になった。
「人々の願いを叶えるんでしょう? それなのに、あなたちっとも叶えようとしないじゃない」
「確かに、君たち人間は何でもかんでも僕にお願いしてくるけど、全部の願いなんか叶えられるわけないでしょう!?」
「それは、あなたに能力がないから?」
「どうしてそうなるの! わかりやすい例え話してあげるから、それで納得して」
そう言うと、自称神はわざとらしく咳払いをした。
「例えば、街中にものすごくかっこいい男の人がいるでしょう。その人を二人の女性が好きになった」
アンジェリカは、たったそれだけ聞いただけで、この話の続きを聞くのが嫌だと思った。
けれど自称神は、わかりやすく、嫌悪の表情になっているであろうアンジェリカの顔など一切見ないまま、話を続けた。
「二人の女性が、男の人と結婚したいと言っても、結局一人しか選べないでしょう。つまりどちらかの望みは切り捨てないといけないんだ。分かる?」
そこまで自称神が自信満々に話し終わったところで、アンジェリカは自称神の胸ぐらを思いっきり掴んでいた。
「ほんっと…………神って無能ね」
「え?」
「男が二人と結婚したいと思わせることも、二人の女性が男を諦めるように仕向けることも、どちらかにより相応しい男を差し出すとか、方法はいくらでもあるでしょう? そんなこともしないで、ただ望みを切り捨てる? 職務怠慢にも程があるわ!」
「ちょっ……く、苦しい…………」
(いけないわ、つい熱くなってしまった)
アンジェリカがぱっと手を離すと、自称神は酸素を必死に取り込もうと、深呼吸をしばらく繰り返した。
「君は…………神という存在のことが嫌いみたいだね」
「……は?」
「神だけじゃない。この世の全てを君は恨んでいる。そうだろう?」
「確認しないと分からない程、無能ってわけね」
仮にも、この自称神が本当の神だと言うのなら、アンジェリカがさっきまで何をされていたのか知っていても良いだろうに。
「僕が分かるのは、起きた事実だけさ。君が妹の策略に引っかかって処刑されそうになったこととか、ね。ソレイユ国第1王子の正妃殿」
「私のことを、からかっていらっしゃるの?」
「勝手にそう解釈しているのは、君の方だ。僕のことを敵と認定して。僕はちっとも、君に害を与えるつもりはなかったのに、勝手に君が暴走したんだよ。むしろそうだな……僕の方がちょっと迷惑してる」
「…………迷惑?」
「そう。僕はね、君という人間のことはとても気に入っていたんだよ」
「どういうこと?」
「本当の性根を隠して、国民の為、愛する男の為に尽くす姿こそ、次の神候補に相応しい」
(次の、神候補……?)
「あのまま、ちゃんと処刑されてくれていたら、君のことはあの世で大切に保護して、神様教育してあげるつもりだったのに、自殺なんかしちゃって……」
「ちょ、ちょっと待って……」
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