7 / 29
私、怨霊になりますので
1.私、あなた達を死ぬまで呪い続けてやるので
しおりを挟む
この時、アンジェリカはふと、思い出した。
かつて読んだ本には、こう書いてあったのを。
自分で死を選んだ人間は、神の国には行けずに怨霊として彷徨い続けると。
(素晴らしいじゃない……)
アンジェリカは、微かに微笑んでから再び叫んだ。
「この魂をかけて、あなた達を死ぬまで呪い続けてやるわ!!」
呪い。
この言葉で、空気が変わったのがアンジェリカには分かった。
やめろと、誰かが叫んだ。
でも、もう誰が叫んだのかなんか、アンジェリカには分からなかった。
すでにアンジェリカはこの時、自らの歯で舌を噛み切ったのだから。
でも、痛みは全くなかった。
生きている時よりずっと、アンジェリカはこの瞬間、確かに幸せだった。
それは、自分の意思で、自分の人生の最期を決めることができたから。
アンジェリカの視界も思考も、あっという間に黒く染まった。
アンジェリカが、ほんの少しでも振り向いて欲しいと思った、ルイの髪のような色が、人生の最期に見た色になったことだけは、アンジェリカは納得いかなかった。
そして次にアンジェリカの意識が戻った時、目の前に見たこともないような美しい扉があった。
それは、宙に浮いていた。
「扉が、浮いてる……?」
無意識にアンジェリカは声を出していた。
そしてまた1つ、アンジェリカは気づいた。
(口の中が痛くないし、血の味もしない。舌を思いっきり噛み切ったはずなのに……それどころか、妙に身体が軽いわ)
処刑場に連れて行かれる直前まで、腐った水を飲まされたり、国民たちに石をぶつけられていたので、アンジェリカの身体は立っていることすらやっとな状態だった。
(どういう事なのかしら……?)
疑問が、次々と浮かび上がってくる。
だが、それらを考えようとアンジェリカが顔を上げると、浮いている扉から漏れる光が目に入った。
(温かい……)
ふかふかの毛布に包まれているかのような、心地よい光が自分を呼んでいる気がすると、アンジェリカは感じた。
でも、その扉に近づく方法がアンジェリカには分からなかった。
(ジャンプすれば、届くかしら?)
目算して、2階建てのお屋敷程度の高さだとアンジェリカは考えた。
羽が生えたように身体が軽いので、今なら飛べるのではないかとアンジェリカは思ったので、右足を蹴ってジャンプしようとした。
その時だった。声がアンジェリカの真上から降ってきたのは。
「君はあの扉には近づけないよ」
見上げると、いつの間にか階段の形をした雲がそこにあった。
そして、降りてくる人影が見えた。
「…………誰?」
アンジェリカは警戒した。
階段の形をしていても、雲は雲。
肉と骨と水分の重さを持つ人間が、その上を歩けるはずはない。
つまり、声をかけてきたのは人間ではない可能性が高い……ということになるから。
「あなた、人間じゃないわね?」
再び、アンジェリカは尋ねた。
「どうして、そんなことを聞くのかな?」
「雲の上を歩ける人間なんて、いるはずないもの」
すると「あはははは」と笑う声が聞こえてきた。
「そうだね、ご名答。僕は人間ではないよ。君は、どうかな?」
「……え?」
「君の足元は、何?」
そう言われ、アンジェリカはすぐさま自分の足元を確認した。
「きゃっ!!!」
アンジェリカは、血の気が引きそうな思いをした。
アンジェリカの足元にも、雲が広がっていたから。
雲は、小さな水や氷の粒が集まってできているもので、土や石のような個体ではない。
(落ちる……!?)
咄嗟にアンジェリカはジャンプをしてしまった
さっきは2階建てのお屋敷の屋根程度の高さまでは跳べるのではないかと思ったが、実際はアンジェリカがバレエのレッスンで跳べる最高の高さまでが限界だった。
でも不思議なことに、アンジェリカの足が、雲を突き破って下に落ちることはなかった。
それどころか、普通なら「とんっ」と着地の足音や感覚があるはずなのに、一切それがない。
「ど、どういうこと?」
「君の今の状態が、幽霊だからだよ」
気がつけば、白いワンピースのようなものとズボンを履いた、白銀の髪を持つ美人がアンジェリカを見下ろしていた。
少し低いテノールの声でなければ、アンジェリカは確実に女性と間違えていたかもしれない。
「あなた……本当に誰なの……?」
「君たちがルナ教の神って呼んでる存在……って言った方が、通じるかな」
「ルナ教の神? あなたが?」
「そう」
ルナ教。それはソレイユ国民のほとんどが信じている宗教の名前。
アンジェリカたちの世界を作った神は月の化身であり、神が送る月の光によってアンジェリカたちの心身は操られていると言われている。
アンジェリカも、王妃教育の一環で宗教学も学んだ。
だが、アンジェリカにはその概念がイマイチ理解できず、ただ知識として「そういうものだ」と捉えるので精一杯だった。
家庭教師に「もう少し具体的に教えて欲しい」と聞いたこともあったが、「そういうものとして考えてください」の一点張りだった。
それに、神という存在にアンジェリカはどうにも懐疑的だった。
かつて読んだ本には、こう書いてあったのを。
自分で死を選んだ人間は、神の国には行けずに怨霊として彷徨い続けると。
(素晴らしいじゃない……)
アンジェリカは、微かに微笑んでから再び叫んだ。
「この魂をかけて、あなた達を死ぬまで呪い続けてやるわ!!」
呪い。
この言葉で、空気が変わったのがアンジェリカには分かった。
やめろと、誰かが叫んだ。
でも、もう誰が叫んだのかなんか、アンジェリカには分からなかった。
すでにアンジェリカはこの時、自らの歯で舌を噛み切ったのだから。
でも、痛みは全くなかった。
生きている時よりずっと、アンジェリカはこの瞬間、確かに幸せだった。
それは、自分の意思で、自分の人生の最期を決めることができたから。
アンジェリカの視界も思考も、あっという間に黒く染まった。
アンジェリカが、ほんの少しでも振り向いて欲しいと思った、ルイの髪のような色が、人生の最期に見た色になったことだけは、アンジェリカは納得いかなかった。
そして次にアンジェリカの意識が戻った時、目の前に見たこともないような美しい扉があった。
それは、宙に浮いていた。
「扉が、浮いてる……?」
無意識にアンジェリカは声を出していた。
そしてまた1つ、アンジェリカは気づいた。
(口の中が痛くないし、血の味もしない。舌を思いっきり噛み切ったはずなのに……それどころか、妙に身体が軽いわ)
処刑場に連れて行かれる直前まで、腐った水を飲まされたり、国民たちに石をぶつけられていたので、アンジェリカの身体は立っていることすらやっとな状態だった。
(どういう事なのかしら……?)
疑問が、次々と浮かび上がってくる。
だが、それらを考えようとアンジェリカが顔を上げると、浮いている扉から漏れる光が目に入った。
(温かい……)
ふかふかの毛布に包まれているかのような、心地よい光が自分を呼んでいる気がすると、アンジェリカは感じた。
でも、その扉に近づく方法がアンジェリカには分からなかった。
(ジャンプすれば、届くかしら?)
目算して、2階建てのお屋敷程度の高さだとアンジェリカは考えた。
羽が生えたように身体が軽いので、今なら飛べるのではないかとアンジェリカは思ったので、右足を蹴ってジャンプしようとした。
その時だった。声がアンジェリカの真上から降ってきたのは。
「君はあの扉には近づけないよ」
見上げると、いつの間にか階段の形をした雲がそこにあった。
そして、降りてくる人影が見えた。
「…………誰?」
アンジェリカは警戒した。
階段の形をしていても、雲は雲。
肉と骨と水分の重さを持つ人間が、その上を歩けるはずはない。
つまり、声をかけてきたのは人間ではない可能性が高い……ということになるから。
「あなた、人間じゃないわね?」
再び、アンジェリカは尋ねた。
「どうして、そんなことを聞くのかな?」
「雲の上を歩ける人間なんて、いるはずないもの」
すると「あはははは」と笑う声が聞こえてきた。
「そうだね、ご名答。僕は人間ではないよ。君は、どうかな?」
「……え?」
「君の足元は、何?」
そう言われ、アンジェリカはすぐさま自分の足元を確認した。
「きゃっ!!!」
アンジェリカは、血の気が引きそうな思いをした。
アンジェリカの足元にも、雲が広がっていたから。
雲は、小さな水や氷の粒が集まってできているもので、土や石のような個体ではない。
(落ちる……!?)
咄嗟にアンジェリカはジャンプをしてしまった
さっきは2階建てのお屋敷の屋根程度の高さまでは跳べるのではないかと思ったが、実際はアンジェリカがバレエのレッスンで跳べる最高の高さまでが限界だった。
でも不思議なことに、アンジェリカの足が、雲を突き破って下に落ちることはなかった。
それどころか、普通なら「とんっ」と着地の足音や感覚があるはずなのに、一切それがない。
「ど、どういうこと?」
「君の今の状態が、幽霊だからだよ」
気がつけば、白いワンピースのようなものとズボンを履いた、白銀の髪を持つ美人がアンジェリカを見下ろしていた。
少し低いテノールの声でなければ、アンジェリカは確実に女性と間違えていたかもしれない。
「あなた……本当に誰なの……?」
「君たちがルナ教の神って呼んでる存在……って言った方が、通じるかな」
「ルナ教の神? あなたが?」
「そう」
ルナ教。それはソレイユ国民のほとんどが信じている宗教の名前。
アンジェリカたちの世界を作った神は月の化身であり、神が送る月の光によってアンジェリカたちの心身は操られていると言われている。
アンジェリカも、王妃教育の一環で宗教学も学んだ。
だが、アンジェリカにはその概念がイマイチ理解できず、ただ知識として「そういうものだ」と捉えるので精一杯だった。
家庭教師に「もう少し具体的に教えて欲しい」と聞いたこともあったが、「そういうものとして考えてください」の一点張りだった。
それに、神という存在にアンジェリカはどうにも懐疑的だった。
13
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる