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Fight3 思い出さなくてもいい。でも、もう忘れさせない
7.内緒ですよ
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「先ほどはありがとうございました」
僕は、話しかけた。
念のため、怪しまれないように空になった「たこやきラムネ」の瓶を見せながら。
すると
「え……?」
「え……」
と、しばしの無言の後
「あっ……ああ!」
彼女はようやく僕の事を思い出してくれたのか、さっと僕の手から瓶を奪いながら
「体調良くなったんですね」
と、小声で言った。
僕は忘れられてたという寂しさを押し隠しながら
「ええ、本当にありがとうございました」
とお礼を言った。
「いえいえいえ!そんなそんな!」
彼女はその空き瓶を、持っていたトートバックに突っ込みながら言う。
そしてまた、無言になる。
彼女と一緒にエレベーターに乗ってきた女性は、スマホをずっと見ている。
彼女はぼーっと天井を見ている。
もうあと数秒もすれば、ここにいるメンバーの目的地、1階にエレベーターが到着してしまう。
その間に、僕は、どうしても彼女にお礼をしたかった。
(いきなり食事でも……と言うと変だろうか……)
僕は今まで、人から誘われる事はあったが、人を誘うと言う経験はほとんどなかった。
特に女性は。
どう話を切り出して良いか迷っていると、スマホを眺めていた女性が唐突に
「ねー高井ー。そういえばさ、何で買わなかったん?あれ」
と口を開いた。
「あれって何でしたっけ」
と、彼女が言う。
「たこ焼き味のラムネ!部長が買ってこいって言ってたのに忘れて……。普通あんな特殊なもん忘れないんじゃないの?」
「部長にも言われましたけど、売り切れてたんですよね」
「ふーん。まあそのせいで部長が機嫌損ねちゃったんだけど」
俺ははっと気づき、彼女を見る。
彼女もまた、僕をちらりと見ていた。
彼女と僕は、目が合ってしまった。
すると、彼女は人差し指を唇に当てて、
「内緒ですよ」
と、口パクで言った。
ウインク付きで。
僕が彼女の仕草と表情に見惚れている間に、ぽーんっという音がした。
かと思えば、エレベーターの扉が開き、あっという間にレモンの香りが遠くなった。
(しまった……!)
考えた時にはもう遅かった。
彼女はもう1人の女性とあっという間にエントランスに向かって走り去ってしまった。
話の流れから、彼女は上司用の飲み物を僕にくれたということ、そのせいで、嫌な思いを彼女にもさせてしまった可能性があるということを察することができた。
(やっぱり、お礼として食事に誘わないと……)
僕は、先ほど彼女から貰った名刺を取り出す。
メールアドレスがしっかり記載されていることを確認する。
(後で改めてお礼のメッセージと……食事の誘いを送るか……)
会社に戻る電車の中で文面を考えよう。
できるなら、店も決めておこう。
そんな事を考えながら会社に戻ったものの、結局全く良いアイディアが1つも思い浮かばないまま
「加藤、ちょうど良かった。これについてなんだが……」
と上司に面倒な仕事を押し付けられてしまった。
結果、彼女にメッセージを送る……という、本来なら30秒もかからないはずの業務が全くできずに、1日が終わってしまった。
僕は、話しかけた。
念のため、怪しまれないように空になった「たこやきラムネ」の瓶を見せながら。
すると
「え……?」
「え……」
と、しばしの無言の後
「あっ……ああ!」
彼女はようやく僕の事を思い出してくれたのか、さっと僕の手から瓶を奪いながら
「体調良くなったんですね」
と、小声で言った。
僕は忘れられてたという寂しさを押し隠しながら
「ええ、本当にありがとうございました」
とお礼を言った。
「いえいえいえ!そんなそんな!」
彼女はその空き瓶を、持っていたトートバックに突っ込みながら言う。
そしてまた、無言になる。
彼女と一緒にエレベーターに乗ってきた女性は、スマホをずっと見ている。
彼女はぼーっと天井を見ている。
もうあと数秒もすれば、ここにいるメンバーの目的地、1階にエレベーターが到着してしまう。
その間に、僕は、どうしても彼女にお礼をしたかった。
(いきなり食事でも……と言うと変だろうか……)
僕は今まで、人から誘われる事はあったが、人を誘うと言う経験はほとんどなかった。
特に女性は。
どう話を切り出して良いか迷っていると、スマホを眺めていた女性が唐突に
「ねー高井ー。そういえばさ、何で買わなかったん?あれ」
と口を開いた。
「あれって何でしたっけ」
と、彼女が言う。
「たこ焼き味のラムネ!部長が買ってこいって言ってたのに忘れて……。普通あんな特殊なもん忘れないんじゃないの?」
「部長にも言われましたけど、売り切れてたんですよね」
「ふーん。まあそのせいで部長が機嫌損ねちゃったんだけど」
俺ははっと気づき、彼女を見る。
彼女もまた、僕をちらりと見ていた。
彼女と僕は、目が合ってしまった。
すると、彼女は人差し指を唇に当てて、
「内緒ですよ」
と、口パクで言った。
ウインク付きで。
僕が彼女の仕草と表情に見惚れている間に、ぽーんっという音がした。
かと思えば、エレベーターの扉が開き、あっという間にレモンの香りが遠くなった。
(しまった……!)
考えた時にはもう遅かった。
彼女はもう1人の女性とあっという間にエントランスに向かって走り去ってしまった。
話の流れから、彼女は上司用の飲み物を僕にくれたということ、そのせいで、嫌な思いを彼女にもさせてしまった可能性があるということを察することができた。
(やっぱり、お礼として食事に誘わないと……)
僕は、先ほど彼女から貰った名刺を取り出す。
メールアドレスがしっかり記載されていることを確認する。
(後で改めてお礼のメッセージと……食事の誘いを送るか……)
会社に戻る電車の中で文面を考えよう。
できるなら、店も決めておこう。
そんな事を考えながら会社に戻ったものの、結局全く良いアイディアが1つも思い浮かばないまま
「加藤、ちょうど良かった。これについてなんだが……」
と上司に面倒な仕事を押し付けられてしまった。
結果、彼女にメッセージを送る……という、本来なら30秒もかからないはずの業務が全くできずに、1日が終わってしまった。
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