助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲

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Fight2 まさか僕以外の奴となんか、食事に行かないよね?

3.ねえ、間抜けな顔はここまでにしてよね

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目的地は、銀座の一等地にあるオフィスビル。
緊急アポ先でもある「ぽんぽこ幸せ株式会社」もこのビルの中にある。

「めっちゃキレー………」
オフィスビルの中に入った感想として「キレイ」の言葉をチョイスしてしまう程。
自分が先ほどまでいた、少々くたびれた印象を与えるビルとは、比べ物にならない。
ついでに言えば、前職は工場勤務だったので、言わずもがな。
ここにいれば、自分が女性誌とかに出てくるようなスゴい女子OLにでもなったような気がする。

「おい、間抜けヅラ」
…………横にこの男がいなければ、もっと気分が良かったに違いない。
とはいえ……この訪問は私のミスが引き起こしたハプニング。
そしてこの男は、それに付き合ってくれた恩人……と言うことにしておく。その方が精神衛生上、正しいはずだ。きっと。

そして、会社のフロアがある階までエレベーターで行ってすぐに
「アポイント取ってないけど大丈夫でしょうか」
と不安になったが
「新規開拓の営業部隊として飛び込みをするよりは楽」
とクソ上司が言う。
1度だけ、研修としてやらされたことがあるが……あれは自分には合わない。
だけど今回は、どちらかと言えば……。

「1度拒否されたのにアタックって……むしろどんどん嫌われるんじゃ……」

まだ、お互い第1印象がまっさらな方が、この後良い印象を植え付けやすいけど、すでに悪い印象に染まっているのに、別の印象を植え付けると言うのが難易度が高いと聞く。

……あれ、こう言う話……どこかで聞き覚えが……?

まあそれは置いておくとしても、だ。
少なくとも、相手はこちらに負の印象が強いのだ。
そう簡単に、受け入れてもらえるのだろうか……?

「鉄は熱いうちに打て……ということわざ、知ってるか?」
クソ上司が聞いてくる。
「いきなり、なんですか?それ」
「ああ、バカにもわかるように説明してあげた方がいいか」
「意味は知ってます!何か物事を、熱意がある時に進めろ……って話ですよね。前の会社でよく使ってましたし」
腐っても、元自動車メーカーの社員だ。腐った覚えもないけれど!
「ふーん。じゃあ、わかってるってことじゃん」
「何が……ですか?」
「この訪問も、そう言うこと」
そう言うこと……?
「あの、すみません、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
「………後で」
そういうと、クソ上司が足を止めた。
私も、続けて止まる。

この後の戦いの場の入口に、たぬきのゆるキャラが置いてあり、ほんの少しだけ気が抜けた。

「たっ……たぬき……」
「ぽんぽこ幸せ株式会社の名誉社員、ぽんぽんくんだ」
「……詳しいですね」
ゆるキャラが好きなのか?可愛いところもあるな……。
「アポ先のことを調べるのは常識中の常識でしょう」
「……ですよね~あはは……はは……」
「……まさか……こんな事も調べてきてないんじゃ……」
「はははは」

………そういえば、この場所に来る電車の中で、ずーっとスマホで何かを見てたな……。覗き見フィルターがしっかり貼られてあったので、中身はわからなかったが。てっきりソシャゲでもしてるのかと思ったが、この企業について調べていたと言うことか?

「……加藤さん。聞きたいことが」
「くだらない事なら後にして」
「……この会社の会社理念は!」
「お客様の願いをぽんぽこ叶えよう」
「やっぱり!電車の中で調べてたんだ!」
「バカ、そこに書いてあるから」
「え」
クソ上司が指さした先に、デカデカと大きな文字で書いてあった。
「……第2問!」
「もう時間。行くよ」
「……はい」

そしてクソ上司は、その会社理念が貼ってある壁の真下に置かれた電話に手をかける。
受付へつながる番号を押す。

その横顔を見ていた私は、なんだか少しだけ、このクソ上司を見てキャーキャー騒いでいる女子達の気持ちが、少しだけ、わかる気がする。

きっと、緊張しているからだろう。
ジェットコースターに乗る前のドキドキと、似たような感覚だ。

決して……ほんの少しかっこいいかも……と思ったわけでは、ない。


「ねえ、間抜けな顔はここまでにしてよね」
そう言うと、クソ上司は私の額にデコピンしてきた。
私は、その痛みのおかげで、体の強張りがほんの少しゆるくなった気がした。
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