80 / 99
結婚へのカウントダウン
5.心構えができた……つもりになっていた
しおりを挟む
それからのことは、よく覚えていない。
雨音が、僕を庇って何かを言ってくれたのはわかるが、何を言ったのかは聞こえなかった。
雨音の父親は、首を横に振っていた。
雨音もまた、首を横に振っていた。
雨音の母親は2人の間に入って、2人を止めようとしていた。
そして、そんな場面を見ながら、僕は一歩も動けない状態になっていた。
なんて自分は情けないんだ……。
そんな風に思った記憶だけが、最後に残った。
その後は雨音に促されて、そのまま外に出て、町をぶらついた。
共に帰るための電車が来るまで。
でも、僕は、雨音の横に立つのが申し訳なくて、少しだけ彼女の後ろを歩いた。
雨音は、そんな僕に気づいて、僕の手を取ってくれた。
「社長と、一緒に来られてよかったです」
そう言いながら、雨音は久々に笑顔を見せてくれた。
それは、僕がよく知る、彼女の優しさだと思った。
「僕も……来られてよかったよ」
それは、決して皮肉をこめて言ったわけではない。
本当に、それは思っている。
今の僕では、彼女を幸せにする資格がないと判断されていることがわかったから。
彼女のこの笑顔を増やすために、もっと僕が頑張らないといけないと、認識できたから。
「雨音」
「なんですか?」
「……僕、頑張るよ」
「え……?」
僕が絶対幸せにする。
この子の笑顔を守る。
より一層、僕は覚悟をする心構えができた……つもりになっていた。
でも、僕はやっぱりまだ分かっていなかったんだ。
雨音本人が、僕に何を本当に望んでいたのか。
雨音が、僕を庇って何かを言ってくれたのはわかるが、何を言ったのかは聞こえなかった。
雨音の父親は、首を横に振っていた。
雨音もまた、首を横に振っていた。
雨音の母親は2人の間に入って、2人を止めようとしていた。
そして、そんな場面を見ながら、僕は一歩も動けない状態になっていた。
なんて自分は情けないんだ……。
そんな風に思った記憶だけが、最後に残った。
その後は雨音に促されて、そのまま外に出て、町をぶらついた。
共に帰るための電車が来るまで。
でも、僕は、雨音の横に立つのが申し訳なくて、少しだけ彼女の後ろを歩いた。
雨音は、そんな僕に気づいて、僕の手を取ってくれた。
「社長と、一緒に来られてよかったです」
そう言いながら、雨音は久々に笑顔を見せてくれた。
それは、僕がよく知る、彼女の優しさだと思った。
「僕も……来られてよかったよ」
それは、決して皮肉をこめて言ったわけではない。
本当に、それは思っている。
今の僕では、彼女を幸せにする資格がないと判断されていることがわかったから。
彼女のこの笑顔を増やすために、もっと僕が頑張らないといけないと、認識できたから。
「雨音」
「なんですか?」
「……僕、頑張るよ」
「え……?」
僕が絶対幸せにする。
この子の笑顔を守る。
より一層、僕は覚悟をする心構えができた……つもりになっていた。
でも、僕はやっぱりまだ分かっていなかったんだ。
雨音本人が、僕に何を本当に望んでいたのか。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
秘密の恋
美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ)
笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書
高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長
一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。
瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。
思いが届かなくても一度だけ…。
これで、あなたを諦めるから……。
短編ショートストーリーです。
番外編で由幸のお話を追加予定です。


あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる