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夜の訪れは薔薇と共に…?
8.台所で歯を磨く生活があるのだという事を知らないのだろう
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「実は今朝から体調が悪くて……」
これは本当。
朝目覚まし時計を止めた後、急に吐き気と頭痛がして、動けなくなってしまった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないから寝てたんですけど」
機嫌悪く答えてみる。
これも本当。
実際、朝倒れて色々あった後、あの電話がかかってくるまで、一瞬の内にタイムスリップしたように記憶が無いのだから。
「そっか……そうだよね、ごめん。てっきり僕とその……付き合うのが嫌になってドタキャンしたんじゃないかと思って」
嫌になる事はしょっちゅうだ。
薔薇の鉢植えなんぞを置かれたせいで、フローラルな香りを充満させている今も、正直嫌だ。
確かに覚悟はあった。
奴のものに、本当の意味でなることは。
最初で最後の清水の舞台からのバンジージャンプを決めるくらいの覚悟だったのだが、どうにも神様が私にそれを許さなかった。
…再び眩暈がした。
今度は立っていることすらできない。
「どうしたの?雪穂ちゃん?」
「くすり……」
飲もうとしていた薬を探すが、どこに置いたのかすっかり忘れていた。
「大丈夫!?雪穂ちゃん!?」
「くす……くすり……」
「薬だね!?」
私が頷くのも見ず、彼はローファーのまま部屋に入って、ダイニングの上に置いてあった、風邪薬とは思えない大きさと量の薬を掴んだ。
「そうだ、水がいるよな」
奴はそういうと、近くにあった歯ブラシ用のコップに水を入れようと蛇口を捻った。
先ほど私が強く捻ったせいで固いらしく
苦戦をしているみたいだった。
過去の「企業秘密」の正体である山田氏も、薔薇をどうコーディネートするかに夢中になり、主人の小さなピンチにまだ気づいていない様子だった。
奴が水を入れようとしていたのは、私が歯磨きに使うコップだ。せめて食器棚の中から取って欲しかったなと言いたくても、襲い掛かる頭痛のせいで上手く言葉がでない。
目の前にいるこの男は、台所で歯を磨く生活があるのだという事を知らないだろうから、歯ブラシ用のコップだと疑いを持つことができないんだろうなと考えた。
その時、強く捻りすぎたのか水が勢いよく飛び出し、奴は上半身がびしょびしょになっていた。
人を驚かした罰なんだよと、声にもならない声を出した気がしたが、その後の意識はもう消えていた。
これは本当。
朝目覚まし時計を止めた後、急に吐き気と頭痛がして、動けなくなってしまった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないから寝てたんですけど」
機嫌悪く答えてみる。
これも本当。
実際、朝倒れて色々あった後、あの電話がかかってくるまで、一瞬の内にタイムスリップしたように記憶が無いのだから。
「そっか……そうだよね、ごめん。てっきり僕とその……付き合うのが嫌になってドタキャンしたんじゃないかと思って」
嫌になる事はしょっちゅうだ。
薔薇の鉢植えなんぞを置かれたせいで、フローラルな香りを充満させている今も、正直嫌だ。
確かに覚悟はあった。
奴のものに、本当の意味でなることは。
最初で最後の清水の舞台からのバンジージャンプを決めるくらいの覚悟だったのだが、どうにも神様が私にそれを許さなかった。
…再び眩暈がした。
今度は立っていることすらできない。
「どうしたの?雪穂ちゃん?」
「くすり……」
飲もうとしていた薬を探すが、どこに置いたのかすっかり忘れていた。
「大丈夫!?雪穂ちゃん!?」
「くす……くすり……」
「薬だね!?」
私が頷くのも見ず、彼はローファーのまま部屋に入って、ダイニングの上に置いてあった、風邪薬とは思えない大きさと量の薬を掴んだ。
「そうだ、水がいるよな」
奴はそういうと、近くにあった歯ブラシ用のコップに水を入れようと蛇口を捻った。
先ほど私が強く捻ったせいで固いらしく
苦戦をしているみたいだった。
過去の「企業秘密」の正体である山田氏も、薔薇をどうコーディネートするかに夢中になり、主人の小さなピンチにまだ気づいていない様子だった。
奴が水を入れようとしていたのは、私が歯磨きに使うコップだ。せめて食器棚の中から取って欲しかったなと言いたくても、襲い掛かる頭痛のせいで上手く言葉がでない。
目の前にいるこの男は、台所で歯を磨く生活があるのだという事を知らないだろうから、歯ブラシ用のコップだと疑いを持つことができないんだろうなと考えた。
その時、強く捻りすぎたのか水が勢いよく飛び出し、奴は上半身がびしょびしょになっていた。
人を驚かした罰なんだよと、声にもならない声を出した気がしたが、その後の意識はもう消えていた。
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