最弱魔術師が初恋相手を探すために城の採用試験を受けたら、致死率90%の殺戮ゲームに巻き込まれました

和泉杏咲

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第5章

私が最も苦手な魔術

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「あ……」
叫びが、声になりません。
ドラゴンの顔が、じわじわと私ににじり寄ります。
ここで逃げなければ、私は確実に牙に貫かれます。
ですが、足が、もう思うように動けないのです。
震えて、力がもう入りません。

その時
「ほっほっほっ」
と、笑う声が頭上から聞こえてきました。

「……陛下……?」
「何じゃ、その顔は、わしがいる事が、そんなに不思議か?」
「お部屋に、お戻りになったのでは……」
確かに、王は階段で地上に上がったはずです。
「それがのぉ……ちょっとこやつの事がとっても気になってな、餌だけあげにきたんじゃよ」
なぜ、そんな所にいるでしょう。
「餌?」
「そうじゃ」
王はドラゴンの肩の上に、確かに座っています。
そして、ドラゴンの耳を撫でながら、耳打ちをしています。
「ほーら、美味しそうな餌じゃろ」
「何を……」
「こやつの好物はな、魔術の力を持つ人間での、なかなか食べさせてやれないから、興奮しておる」
「そんな……。どうして、受験生にこんなことを……」
「専属魔術師なぞ、使える奴、たった一人いれば良い。……使える奴は、わしら王族の役に立ってくれればそれでいいし、使えない奴も、こうして使える奴に、なる」
「こうして?」
「この子はなぁ……世界平和のために必要なんじゃよ。この子の存在を他国にほんの少しだけチラつかせるだけで、他国はワシらに屈服し、何もかも差し出す。この子は、世界の戦争を防ぐのに、大いに役に立っている。長生きしてもらわなくては、困るからな。……魔力を持つ人間の味を覚えて、それ以外を拒否するようになってしまったしなぁ……。これくらいの多少の我儘は聞いてやらない、とな」
「まさか……私達はそのために……」
 陛下は何も答えません。
そして大きな声で笑います。
「さあ、こやつが最後だ。……それとも、魔術で対抗するか?」

(最後?私が?……まさか、私が知らない間に……あの人も……?)

「生き残って我が国に仕えるか?ドラゴンの力となるか?ははははは」

ドラゴンが一気に私に近づきます。
私は無我夢中で、手をかざします。
ドラゴンは、口を大きく開けます。
ヨダレが頭に降ってきます。
私は、口を開けます。
ドラゴンは私の頭を口で包みます。
私は、叫びます。

「炎よ、放て!」

よりにもよって、最も苦手な炎の魔術にしてしまったのか。
ひゅ~んと、悲しい音を立てて、無数の小さな火の粉がドラゴンに向かっています。
お灸程度の火の粉。
もう、別の魔法を使う時間のゆとりはありません。

(もうダメだ!)
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