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第3章

いてもたってもいられなくなったのです

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「……私の幼なじみから預かったのです」
「幼なじみ……」
「彼は……私より少し年上の人なんですけど……この前の……三年前の魔術師選抜試験を受ける為、地元を出て行ったんです。その時に、彼が使っていたものを、私がお預かりしたんです。お守りとして……。でも、それきり音沙汰無しで……」

年上の男性。
父とも祖父とも違う、いつも私を見守ってくれた陽だまりの人。
見かける度に嬉しくなって、私がいつも飛びついてしまう人。

本来ならば縁がなく終わるはずだった魔術の事を、私に教えて世界を広げてくれた人。
叶うなら、ずっと一緒にいたかった人。

彼は幼い頃から、魔術師として、世界を救うという夢に恋焦がれているような人でした。
いつも私に、魔術とは何か、この国の歴史の事を語ってくれました。
魔術師として世の中の人の役に立ちたいと、毎日厳しい練習をしていました。

……指も一本もぎ取られそうになっているのを見たことがありました。
掌が、自分が出した炎によって火傷していたのも見ました。

そんな風に自らを傷つけながらも「誰かの為に生きたい」という彼の姿に私も憧れて、少しずつではありましたが、魔術を覚えるようになりました。
とは言いましても、専属魔術師を目指したいという想いに繋がることは、その時はありませんでしたが。

「彼のご両親は、地元を取り仕切る人達で、彼が専属魔術師になる事を、実はとても反対していたんです。王宮の専属になってしまえば、王宮と世界を往復するだけで、とても地元に戻って来られる立場ではなくなるから……と……」

それは、私も彼が旅立ってから聞かされた話でしたが。

「彼はあっという間に姿を消していました。貯めていた、ほんの少しのお金だけを持って、誰にも何も言わずに。……彼は、家よりも世界を選んだ。私がいる地元よりも、王宮を選んだ……ということだと。私、魔術師として活躍する彼のお嫁さんになるのが、夢だったんです……笑ってしまいますよね。…地元を捨てる、という決意を応援していたなんて、思いもしなかったのです……」

その人からの反応はありませんでした。
でも、私はそんな事を気にすることもできず、堰を切ったように話し続けてしまいました。

「今回の専属魔術師の応募を見た時、もしかすると、彼に会える気がしたんです……」

彼が音信不通なのは、専属魔術師として世界を飛び回っているから。
……私がもし試験を受ければ、もしかすると、試験官としているかもしれない……それが無理でも、王都に来れば、すれ違うことだけでも出来るかもしれないと……。
いてもたってもいられなくなったのです。
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