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第2章

それは、地獄絵図でした

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信じられますか?
ほんの十五分前まで、互いの肉体、体力自慢をするような屈強な人々が、彼ら自身ですら、全く予想もしていなかった方法……美しく咲き誇る薔薇によって、瞬きすることすら許されずに命を刈り取られているという事実を。

それは地獄絵図でした。
いえ……それよりも、もっと酷いのかもしれません。
人だった何かが無残に引き裂かれていたり、原型を留めていないものもありました。ドス黒い血が、より薔薇の美しさを際立たせていました。

足元を見ますと、目を見開いたまま、その輝きを奪われた少年の首が転がっていました。

薔薇の蔓が絡まった自らの武器によって、磔にされた野蛮な二人組の腕と足だけが残っていました。他にも、かろうじて人の形は保っているものの、顔が判別できないほどの傷をつけられた者もおりました。

そして今、この場に残っているのは、私を含めて、僅か数名程までに減っておりました。

 険しい顔をしている者は
「全く……忌々しい」
 と吐き捨てるように言いました。表情が全く変わらない者は
「で、これで終わりなの?」
と、つまらなそうに言いました。

私はと言いますと、血の匂いが、頭を強く揺すぶってくるので、こみ上げてくる吐き気を抑えるので精一杯です。

匂いの流れが、変わったのが分かりました。
背後から、避けられないスピードで何かが私に近づいて来るのが分かります。

あ、私もああなるのか、と本能で分かりました。
私は無我夢中で手を上げていました。

「風よ!助けよ!」
すると、突風が吹き、背後の……人の太腿ほどはある薔薇の刺を弾き飛ばしました。地面の血も舞い上がり、私達の衣服に染みを作りました。
ぱからっぱからっ。馬の蹄の音が遠くからやってきました。

「やあやあ、愛する僕の国民達。いかがだったかな?」
殿下が、颯爽と現れました。先ほどと違うのは、もう、殿下が登場しても、誰一人として感嘆の声を漏らすことがなかったこと。
殿下はあえて、肉片が散らばった血の海に馬を止め、華麗に飛び降りました。肉が潰れる音がしました。
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